日本生態学会誌
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58 巻, 3 号
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宮地賞受賞者総説
特集 中部山岳地域の高山植生と地球温暖化
  • 増沢 武弘
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 3 号 p. 173-174
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2016/09/17
    ジャーナル フリー
  • 鈴木 啓助
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 3 号 p. 175-182
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2016/09/17
    ジャーナル フリー
    我が国の日本海側地域のような多雪地域では、降雨にもまして降雪によってもたらされる多量の降水が水資源として極めて重要になる。また、雪は冬期間流域内に堆積することにより天然のダムとしての役割も果たしている。山岳地域では低地よりも多くの降雪があることは定性的には推定されているが、量的に議論することは様々な困難を伴う。さらに、風の強い山岳地域では、降雪粒子の捕捉率が低下するため正確な降水量の測定もできない。山岳地域の降雪を含めた降水量を定量的に把握し水収支を明らかにすることは、水資源の観点からも重要である。また、我が国における降雪量が、地球温暖化とともに減少するとの予測結果も報告されている。しかしながら、これらは標高の低い地点のデータを用いて行った研究であり、標高の高い山岳域でも同様なことが言えるかどうかは疑問である。標高の高い山岳地域では、降雪量が増加するとも考えられるのである。なぜなら、気温の上昇によって大気中の飽和水蒸気圧も増加するから、可降水量は増加し、気温は氷点下のため降雪粒子が融けて雨になることもないからである。
  • 名取 俊樹
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 3 号 p. 183-189
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2016/09/17
    ジャーナル フリー
    氷河期からの遺存種であるキタダケソウ(Callianthemum hondoense Nakai et Hara)は、北岳(南アルプス北部、山梨県)の南東斜面のみに生育する固有種であり、将来、地球温暖化の影響などにより、その存続が危惧されている。そこで、公表されている気象資料やキタダケソウに関する資料の整理、キタダケソウの満開日や生育場所の土壌pH、消雪時期の野外調査を行った.そして、富士山頂での年平均気温が20世紀後半から上昇していること、また、キタダケソウの満開日の経年変化や、キタダケソウの生育場所の土壌pHと消雪時期の特性を明らかにした。それらの結果をもとに、キタダケソウに及ぼす地球温暖化の影響について考えた。
  • 増沢 武弘, 冨田 美紀, 長谷川 裕彦
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 3 号 p. 191-198
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2016/09/17
    ジャーナル フリー
    南アルプス中央部に位置する荒川三山周辺には多くの氷河地形が存在している。これらは、典型的な氷河地形の形態を残しているものとしては日本列島のほぼ南限にあたる。また、荒川三山には周北極要素の植物群が残存していて、それらの分布も日本列島において南限となっている。現在までに北海道の高山帯や北アルプスの高山帯における氷河地形と高山植物群落の関係についてはいくつかの報告があるが、南アルプスにおいては極めて少ない。そのため、本研究では氷河地形の分布の南限にあたる荒川岳南東面のカールにおいて、地形学的な観点から植物群落の分布についての調査を行い、立地としての氷河地形とそれに対応した植物群落のタイプについて分布図を作成し比較検討を試みた。調査は赤石山脈(南アルプス)の中央部にある荒川三山のカールのうち、ほぼ完全な形で残存している前岳南東カールで行った。カール内には多くの植物群落タイプが見られ、それぞれのタイプについて方形区を設置し、群落を構成している種の被度、群度、高さの測定を行った。結果としてカール内には8種の地形単位(地形学的区分)が認められ、タイプ分けされた植物群落と地形学的区分には、ほぼ対応した関係が見られた。近年の地球温暖化の影響により低地植物の高山帯への侵入が予測される。これにより高山植物の分布域の減少が考えられるが、低地からの植物が比較的侵入しにくい岩塊地やカール地形は高山植物のレフュージア(避難地)としての重要な役割を果すのではないかと予測した。
  • 波多野 肇, 増沢 武弘
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 3 号 p. 199-204
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2016/09/17
    ジャーナル フリー
    蛇紋岩の分布する地域には、蛇紋岩植物と呼ばれる特異な植物からなる群落が成立する。本研究は北アルプス、白馬岳の高山帯の蛇紋岩地において、蛇紋岩地の特異な植生の成立要因を明らかにすることを目的とし、植物の分布調査及び土壌環境調査を行った.分布調査の結果、白馬岳の蛇紋岩地においても一般的に知られているミヤマムラサキやウメハタザオといった蛇紋岩地特有の種の生育が確認された。土壌環境調査の結果、蛇紋岩地の土壌は高いニッケルイオン、マグネシウムイオン含有率を有することが明らかになった。本調査より、蛇紋岩土壌の高いニッケルイオン、マグネシウムイオン含有率が、白馬岳の蛇紋岩地の特異な植生の成立要因となっている可能性が示された。
  • 和田 直也
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 3 号 p. 205-212
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2016/09/17
    ジャーナル フリー
    北緯35°から北緯80°までの広い範囲に分布しているチョウノスケソウ(Dryas octopetala sensu lato)について、中緯度高山の立山個体群と極地ツンドラのニーオルスン個体群を比較しながら、生育環境、葉形質と花特性の変異や環境の変化に対する応答、集団内の遺伝的多様性について紹介し、諸変異の要因について論じた。夏季の積算温度は、立山の方がニーオルスンに比べ3.1倍高かったが、日射量はほぼ同じであった。但し、ニーオルスンにおける日射量は初夏に高く、夏至以降急激に減少していた。このような生育環境の違いに対応して葉形質に違いがみられ、立山を含む中緯度高山帯におけるチョウノスケソウの葉は、ニーオルスンを含む寒帯や亜寒帯の集団に比べてLMA (leaf mass per area)が小さく窒素濃度が高かった.また、雌蕊への投資比(雌蕊重量/雄蕊と雌蕊の重量)は花重量との間に正の相関を示したが、その変化率は立山個体群の方が低く、ニーオルスン個体群に比べて集団内における性表現の変異幅が小さい傾向にあった。さらに、立山個体群における遺伝的多様性は、これまで報告されている北極圏の個体群と比較して低かった。最後に、気候変動に対する本種の応答反応を予測する上で、いくつかの課題を指摘した。
  • 畑中 康郎, 野上 達也, 木下 栄一郎
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 3 号 p. 213-218
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2016/09/17
    ジャーナル フリー
    白山の標高2,450mのMizuyajiri調査地に永久方形区が設置され、クロユリの調査が1992年より実施された。その結果、次の事が明らかになった。1、クロユリは多くの種子をつける。2、実生はまれに出現するが、通常、実生の数は非常に少ない。3、多くの鱗茎葉により栄養繁殖が行われる。よって、白山のクロユリ集団では、集団の維持は主に栄養繁殖によって行われている。しかし、この結果は集団維持に対する実生の貢献の可能性を完全に否定するものではない。調査期間中、比較的まとまった数の実生の出現が1回起きたということは、条件が整えばクロユリ種子が発芽して集団の維持に貢献すること、の可能性を示唆する。いずれにしても、10年、20年という時間間隔のなかで一度起こる事象を検証するためには、10年程度の調査期間はあまりに短すぎる。また、12年間にわたる調査期間中に有茎個体の個体数、集団構造は大きく変動したことは、白山のクロユリ集団が現在も刻々変化していることを示している。温暖化などによる地球環境の変化が高山帯の植物や植生にどのような影響を与えるかは今のところ定かではないし、その変化を予想することは難しい。したがって、白山のクロユリ集団の変化と気温等の変化の関係を明らかにすることは極めて重要であり、定点での継続観察が必要である。
学術情報
連載1 野外研究サイトから(10)
  • 工藤 栄, 田邊 優貴子
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 3 号 p. 231-236
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2016/09/17
    ジャーナル フリー
    国際地球観測年(IGY:1957/58)を契機に開始されたわが国の南極地域観測事業は、現在半世紀を超え、南極域での各種自然科学に関する研究・観測が展開されている。その活動拠点としての「南極昭和基地」の名称は、広く国民に知れ渡っていることと思う。ここで研究・観測活動に携わるためには、「日本南極地域観測隊員」として国家事業を担うべく職務を委嘱され、砕氷船に乗り、現地へ向い、ひと夏(11月〜3月)、あるいは1年4ヶ月間活動をするのが一般的なスタイルであった。近年になって傭船での南極海観測、航空機を用いた南極への研究者の輸送、大学院学生の野外研究実施のための同行者参加など、「南極観測」は時代に合わせて多様化してきている。これらを受け、来年、新たな砕氷船が就航されるのを機に、国立極地研究所はこの先の南極観測を(1)開かれた南極観測、(2)先進的な南極観測、(3)安全で効率的な南極観測、(4)国際連携する南極観測、(5)情報発信とアウトリーチ、という5つのキーワードを掲げ、南極観測新時代のグランドデザインを描きなおそうと取り組んでいる。本稿ではここ10年ほど、ほぼ毎年のようにこの南極昭和基地での観測活動に携わってきた研究者(工藤)と、大学院生として南極での野外研究を実施してきた学生(田邊)という二つの視点から生態学的野外研究サイトとしての「南極」を紹介してみたい。
連載2 博物館と生態学(8)
連載3 始めよう!エコゲノミクス(1)
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