日本生態学会誌
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58 巻, 1 号
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総説
  • 佐藤 永
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 1 号 p. 11-21
    発行日: 2008/03/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    地球温暖化などといった長期間の気候変動を的確に予測するためには、大気と植生との相互作用を再現する生物地球化学モデルが必要とされる。本総説では、そのような生物地球化学モデル研究が現在どのような展開を遂げているのかレビューし、この研究分野における今後の見通しと、その中で生態学者が果たしうる役割について議論した。ここでは、生物地球化学モデルを、植生分布の与え方に基づいて静的モデルと動的モデルの2者に分け、それぞれ概説した。いずれのタイプのモデルも、炭素や水などの循環を通じて植物と物理環境とが相互作用する過程を扱っている。静的モデルでは、植物の定着・競争・死亡といった植物個体群の動態を考慮していないため、潜在植生の変化と実際に植生分布が変化するまでの間のタイムラグを予測できない。他方、動的モデルは、そのような個体群動態を扱うことによって、このタイムラグを予測する。動的モデルにおける個体群動態の扱い方は発展途上であり様々な試みが行われているが、最近では森林の空間構造を明示的に扱うことによって、光を巡る木本個体間の競争などを詳細に表現するモデルも開発されている。生物地球化学モデルの検証のために標準化された方法はまだ開発されておらず、多くの場合、現在の炭素・水フラックスや自然植生分布の再現性に基づいて検証している。今後、生物地球化学モデルの信頼性を高めていくためには、そこに含まれる諸過程の更なる改良が必要とされ、それには生態学者のますますの寄与が強く望まれている。
  • 横山 寿
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 1 号 p. 23-36
    発行日: 2008/03/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    生元素安定同位体比を用いて動物の食物源と栄養段階を推定する手法が開発された1980年前後以降、感潮域および沿岸域の栄養構造に関する情報が飛躍的に増えた。本総説では本手法を用いた温帯の感潮域および沿岸域の研究例より動物の食物源となる一次生産者・有機物の値(δ13C、δ15N、δ34S)をまとめた。さらに、生息環境を塩性湿地、感潮河川と潟湖、干潟、岩礁、海草藻のモ場、内湾と浅海域、陸棚、および人為的有機物影響下水域に8区分し、各生息環境における水生動物の食物源を整理した。生息環境に応じた栄養構造の違いはあるが、総じて研究例の多くは維管束植物由来のデトリタスより自生的微細藻類の水生動物食物源への貢献を強調している。また、人為的有機物が生態系の中に組み込まれていく過程が明らかにされつつある。他方、一次生産者や有機物の同位体比値が時空間的に変化する例や濃縮係数が種・組織依存で試料の前処理により変化する例が報告され、本手法を画一的に適用することに疑問が生じている。また、一次生産者・有機物の種類が多い場合やそれらの同位体比値が重なる場合には本手法の適用が困難となる。これらの課題と対策についても述べた。
  • 根岸 淳二郎, 萱場 祐一, 塚原 幸治, 三輪 芳明
    原稿種別: 本文
    2008 年 58 巻 1 号 p. 37-50
    発行日: 2008/03/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    軟体動物門に属するイシガイ類二枚貝(イシガイ目:Unionoida)は世界各地の河川や湖沼に広く生息し国内では18種が報告されている。特に流水生の種は土地利用の変化や河川改修の影響で国内外種ともにその生息範囲の縮小および種多様性の低下が懸念されている。これまで国内でイシガイ類に関する様々な優れた知見が蓄積されているが、その多くが基礎生態の観点から行われたものである。特に北米地域では高いイシガイ類の種多様性(約280種)を背景にして、基礎から応用にいたる様々な有用な研究事例が報告されており、イシガイ類の分布に影響を与える環境条件として、洪水時における生息場所の水理条件や、宿主魚類の分布が重要であることが明らかにされつつある。また、その生態的機能も評価され、底生動物群集や水質に大きな影響を持つ可能性も指摘されている。既往のイシガイ類二枚貝に関する生態学的研究の整理から、国内では、稚貝の生態や餌資源等に関する基礎的研究、さらに好適生息場所環境条件や生態的機能等に関する応用的側面からの研究が不十分であることが明らかになった。イシガイ類を介して成立する陸水生態系全体の保全のためこれらの分野における研究の進展が必要であることを示した。
連載:まとめ
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