日本生態学会誌
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62 巻, 3 号
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特集1 種間相互作用の島嶼生物地理
  • 杉浦 真治
    原稿種別: 本文
    2012 年 62 巻 3 号 p. 313-316
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    島嶼生物地理学は、島に分布する種や生物相の起源、分散、絶滅を再構築しようとする視点(歴史生物地理学)と、生物と島嶼環境との相互作用に注目し、現在生息する種の多様性や分布の地理的な変異を説明しようとする視点(生態生物地理学)から研究されてきた。本特集では、相利共生関係や、捕食-被食関係といった生物間相互作用を考慮し、歴史的、生態的な視点から島嶼生物地理学を論じる。従来は、種間の相互作用をあまり考慮せず、個々の種の系統地理や、特定グループの種数-面積関係などが研究されてきた。しかし、他種との相互作用なしに生息する種は存在しない。相互作用する複数種を同時に扱うことで切り拓かれる島嶼生物地理学の新たな展開を紹介する。
  • 川北 篤
    原稿種別: 本文
    2012 年 62 巻 3 号 p. 321-327
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    イチジクとイチジクコバチの間に見られ絶対送粉共生や、アリとアリ植物の共生のように、植物と昆虫の間には、互いの存在なしには存続し得ないほど強く依存し合った共生系が多く存在する。これらの生物の地理的分布は、共生相手の存在に強く依存すると考えられ、実際、共生相手の移動分散能力が限られるために共生系自体の分布が制限されていると考えられる例がいくつも存在する。しかし、イチジクとイチジクコバチ、ならびにコミカンソウ科とハナホソガ属の絶対送粉共生は、島嶼域を含む世界各地の熱帯域に幅広い分布をもつ。さまざまな共生系の間で分布に大きな違いが生まれた背景には、共生系の成立年代や、それぞれの共生者の移動分散能力が関わっていると考えられるが、これらの要因がどのように共生系ごとの分布の違いを生み出したのかについてはほとんど研究されていない。コミカンソウ科植物(以下、コミカンソウ)は世界中に約1200種が存在し、そのうち約600種がそれぞれに特異的なホソガ科ハナホソガ属のガ(以下、ハナホソガ)によって送粉されている。ハナホソガは受粉済みの雌花に産卵し、孵化した幼虫が種子を食べて成熟するため、両者にとって互いの存在は不可欠である。分岐年代推定の結果から、絶対送粉共生は約2500万年前に起源したと考えられるが、この年代は白亜紀後期のゴンドワナ大陸の分裂や、熱帯林が極地方まで存在した暁新世〜始新世の温暖期から大幅に遅れており、陸伝いの分散で現在の世界的分布を説明することは困難である。また、マダガスカル、ニューカレドニア、太平洋諸島など、世界各地の島嶼域にもコミカンソウとハナホソガの共生が見られることから、両者が繰り返し海を渡ったことは確実である。分子系統解析の結果、コミカンソウとハナホソガは、それぞれ独立に海を渡り、到達した先で新たに共生関係を結んだ場合がほとんどであることが分かった。コミカンソウ、ハナホソガそれぞれが単独で海を渡ることができることは、共生を獲得していないコミカンソウ科植物やホソガ科ガ類が、世界各地の海洋島に到達していることからも分かる。コミカンソウとハナホソガの共生が現在のような分布を成し遂げた背景には、両者が1000kmを超える長距離を分散でき、かつ本来の共生相手ではない種とも新たに共生関係を築くことができたことが重要であったと考えられる。生物地理学に「共生系」という視点を取り入れることで、島の生物の由来を新しい視点で捉えられるかもしれない。
  • 栗山 武夫
    原稿種別: 本文
    2012 年 62 巻 3 号 p. 329-338
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    伊豆諸島はフィリピン海プレート上に形成された南北に連なる海洋島である。本土から数100kmほどしか離れていないため、種の供給地となったであろう日本本土の生物相との比較も行いやすい。本研究で紹介するのは、伊豆諸島と伊豆半島に生息する被食者(オカダトカゲPlestiodon latiscutatus)の形質が地域によって異なること、その淘汰圧として異なる捕食者相(イタチ:哺乳類、シマヘビ:ヘビ類、アカコッコ:鳥類)にさらされていること、さらにその被食者-捕食者系がどのような進化史をたどってきたのかを分子系統地理学により解明する試みの3 点である。今回は特に、捕食者の注意を引き付け、胴体や頭部への攻撃をそらす機能をもつ尾の色に注目する。オカダトカゲは、異なる色覚をもつ捕食者(イタチ、シマヘビ、鳥類)に対応した尾の色を進化させていることが、至近要因(色素細胞の構造)の解明と究極要因(捕食者の色覚との関係、捕食-被食関係の成立)の考察により示唆された。至近要因の解明により、体色は皮膚にある3種類の色素細胞(黄色素胞・虹色素胞・黒色素胞)の組合せで作られ、尾部の茶色・緑色・青色の割合は反射小板の厚さの異なる虹色素胞と黄色素胞の出現位置が体軸にそって前後に移動することで尾の色の地理的な変異を引き起こしていることが示唆された。また究極要因として考えられる捕食者の色覚と尾の色を比較すると、同所的に生息する捕食者の色覚の違いによってヘビ・イタチには目立つ青色を、色覚が最も発達した鳥類には目立たない茶色に適応してきた結果であることが考えられた。また、各島でのオカダトカゲと捕食者の侵入年代のずれによって、トカゲの尾部の色彩は侵入してきた捕食者に応じて複数回にわたり変化した可能性が高いことが予想された。
  • 細 将貴
    原稿種別: 本文
    2012 年 62 巻 3 号 p. 339-345
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    島の生物地理学の理論によって導かれる予測のひとつは、共存できる種数が面積によって強く制限されるこどてある。そのため面積の異なる島間では群集組成に違いが生じやすい。この群集組成の違いは生物間相互作用の構造と強さに影響を及ぼすと予想される。そのため面積の異なる島間での比較は、拡散共進化の動態を知る上で有力な手がかりを提供するだろう。そこで本稿ではまず、関連する事例研究を簡単にレビューする。そのうえで著者らによる、カタツムリと陸産貝類専食性ヘビ類の共進化研究について紹介し、最後に今後の研究の方向性について議論する。
  • 杉浦 真治
    原稿種別: 本文
    2012 年 62 巻 3 号 p. 347-359
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    一般に、島の面積が広くなればそこに生息する動植物の種数は増加する。このような島の種数-面積関係を生み出すメカニズムに関する研究には、Robert MacArthurとEdward Wilsonによる島嶼生物地理学の理論の提唱以来40年の蓄積がある。彼らの理論は、島だけでなく断片化した森林パッチなどの種数-面積関係にも適用されてきた。また、種数-面積関係はさまざまな視点から拡張されてきた。例えば、島の種数-面積関係に種間相互作用を考慮するという試みがある。種間相互作用は、古くは食物網、最近では動物と植物の相利共生系ネットワークとして注目されている。一般に、種数が増加すると種間の相互作用数も多くなる。このため、種間相互作用数は島面積とともに増加すると予測される。また、種間相互作用ネットワークの構造は構成種数に強く影響されるため、ネットワークの構造は島面積に関連することが予測される。これらの予測は、小笠原諸島における植物とアリとの種間相互作用ネットワークで確かめられた。こうした種間相互作用ネットワークと面積の関係は、島の種数-面積関係と同様に、大陸における植生パッチなどにも適用できる。実際、南米大陸における植物-訪花昆虫のネットワークや植物-潜葉性昆虫-捕食寄生性昆虫の食物網で確認された。さらに、北米大陸における植物-訪花昆虫とのネットワークの解析によって、特定の空間スケールにおいて種間相互作用数やネットワークの構造が森林面積と強く関係することが示唆された。このように、種間相互作用数およびネットワーク構造は、島面積や植生パッチ面積といった生息地の大きさに深く関連している。
特集2 ユネスコMAB(人間と生物圏)計画―日本発ユネスコエコパーク制度の構築に向けて
  • 松田 裕之, 酒井 暁子, 若松 伸彦
    原稿種別: 本文
    2012 年 62 巻 3 号 p. 361-363
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
  • 比嘉 基紀, 若松 伸彦, 池田 史枝
    原稿種別: 本文
    2012 年 62 巻 3 号 p. 365-373
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    生物圏保存地域(Biosphere Reserve、日本国内での通称:ユネスコエコパーク)は、MAB(人間と生物圏)計画の最重要事業の一つで、3つの機能的活動(保全・持続的開発・学術的支援)により、豊かな人間生活と自然環境の保全の両立を目指す国際的な自然保護区である。発足以降世界的に登録地は増え続け、2012年4月時点で114ヵ国580地点が登録されている。日本では、1980年代に志賀高原、白山、大台ケ原・大峰、屋久島が登録された。しかし、国内での生物圏保存地域の認知度は低い。今後、国内での生物圏保存地域の活用および登録を推進するために、ドイツ、ブラジル、モロッコ、メキシコの活用事例を紹介する。ドイツのRhonでは、伝統的農業の重要性について見直しをすすめ、生物圏保存地域内で生産された農作物に付加価値(ブランド価値)をつけることに成功していた。さらに、子ども向けの教育プログラムも実施している。ブラジルのサンパウロ市Greenbeltでは、貧困層の若者向けに「エコジョブトレーニング」プログラムを実施している。プログラムの内容は持続可能な環境、農業、廃棄物管理など多岐にわたり、受講者の自立の手助けとなっている。モロッコのArganeraieでは、アルガンツリーの保全と持続的な利用を促進する取り組みを進めている。メキシコのSierra Gordaでは、行政組織・研究機関・地域住民が連携した統合なアプローチによって、自然環境の保全と豊かな人間生活の両立の実現に取り組んでいる。それぞれの地域の自然環境および文化や政治・経済的背景は一様ではないが、いくつかの事例は国内の生物圏保存地域でも実施可能であり、自然環境の保全とそれを生かした地域経済の発展に対して、有用性の高いプログラムである。
  • 岡野 隆宏
    原稿種別: 本文
    2012 年 62 巻 3 号 p. 375-385
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    生物圏保存地域は、ユネスコのMAB計画(人間と生物圏:Man and the Biosphere)に基づいて登録される保護地域で、1976年に開始され、世界的なネットワークを構築している。我が国でも1980年に屋久島、大台ケ原・大峰山、白山、志賀高原の4カ所が登録されている。生物圏保存地域は、「生物多様性の保全」、「経済と社会の発展」、「学術的支援」の3つの相補的な機能を有し、この機能を発揮するために、核心地域(core area)、緩衝地帯(buffer zone)、移行地域(transition area)の3つの地域区分が設けられている。保護地域でありながら、機能の一つとして「発展」を位置づけ、持続可能な開発の具体的事例を示そうという点に特徴がある。残念ながら、我が国においては生物圏保存地域の知名度は低く、登録された地域においても活用に向けた議論や、持続可能な開発に向けた取組はほとんど行われていない。また、登録以降、生物圏保存地域の見直しが一度も行われていないため、我が国を代表する生態系が網羅されていない、4地域とも移行地域を備えていないなどの課題がある。これらの課題に対して、早急な対応が国際的に求められているが、これを機会と捉え、生物圏保存地域を我が国の生物多様性保全にどのように活用していくのかについて十分に議論し、将来像を広く共有することが望まれる。生物圏保存地域などの国際的な保護地域は、地域の保全意識の向上、分野横断的取組の促進、知名度の向上による社会経済的仕組みの推進力となることが期待される。本稿では、生物圏保存地域の活用の試案として、2010年に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で議論された「自然と共生する世界」の地域モデルとすることを提案する。具体的には、我が国の生態系を代表する地域において、保護地域制度と生物多様性保全の取組を統合的に実施することで、「生物多様性国家戦略2010」で述べられた3つの危機に適切に対応することである。あわせて、国際的な保護地域である生物圏保存地域とMABのブランドを国内においても確立することで、農林水産物の高付加価値化、観光地としての誘客などにつなげ、生物多様性の保全と農山村の地域活性化の実現を目指すものである。
  • 増沢 武弘
    原稿種別: 本文
    2012 年 62 巻 3 号 p. 387-391
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    南アルプスはユネスコエコパークになりうるか、というテーマに対し、解説を試みた。ユネスコエコパークは自然保護と持続可能な利用とを考慮し、自然と人間との相互関係の構築を目指した地域であり、核心地域・緩衝地帯・移行地域に区分されて、各々が相互に関係し合って、核心地域を保全しようとするものである。本稿では、これらの区分の各々の特性を挙げ、ユネスコで定められた規準に適合するかを検証した。その結果、核心地域と緩衝地帯については、両区分を構成している素材の価値が十分あるものと思われた。移行地域に関しては、関係者に対して十分な説明と時間をかけての話し合いが必要であると判断された。
  • 田中 俊徳
    原稿種別: 本文
    2012 年 62 巻 3 号 p. 393-399
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
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