日本生態学会誌
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65 巻, 2 号
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原著
  • 加藤 元海, 見並 由梨, 井上 光也
    原稿種別: 本文
    2015 年 65 巻 2 号 p. 77-85
    発行日: 2015/07/30
    公開日: 2017/05/23
    ジャーナル フリー
    地球上における急激な人口増加に伴う食料問題の対策の1つとして、栄養価や生産コストの面から昆虫を利用することが有益であるとの報告書を2013年に国連食糧農業機関がまとめた。現在食べられているのはほとんどが陸生昆虫で、水生昆虫は少ない。しかし、水生昆虫の一部はザザムシや孫太郎虫として日本では食用とされてきた。本研究では、比較的大型で採集しやすい水生昆虫であるヘビトンボ、ヒゲナガカワトビケラ、大型カワゲラを対象に食用昆虫としての可能性を探るため、水生昆虫の生物量や収穫のしやすさを河川において現地調査し、加えて水生昆虫食に対する意識調査を行なった。底生動物の生物量は0.1から7.5g/m2の範囲で、うち食用昆虫の割合は平均で63%だった。また、生物量と捕獲努力量との間には正の相関がみられた。大型の水生昆虫を効率的に採集するには、降水や水生昆虫の生活史を考慮すると冬から初春に行なうのが適切であろう。昆虫食に対する意識では、見た目への抵抗感に関する記述が多くみられた。しかし、水生昆虫を食べる前より実際に食べた後の方が肯定的な意見が増えた。水生昆虫食の普及には、見た目の工夫を施し、抵抗感を打ち消す広報や教育によって、今後、水生昆虫が食材として受け入れられる可能性はあると結論付けた。
総説
  • 塩寺 さとみ, 北山 兼弘
    原稿種別: 本文
    2015 年 65 巻 2 号 p. 87-108
    発行日: 2015/07/30
    公開日: 2017/05/23
    ジャーナル フリー
    栄養塩と水が不足する環境では、これらの資源をどのように利用するかということが植物の成長や繁殖に影響を与え、ひいては植物の生死を左右する要因となる。光合成における栄養塩や水の利用は経済学になぞらえられ、栄養塩利用効率(NUE:nutrient-use efficiency)、水利用効率(WUE:water-use efficiency)(本稿ではこれらを合わせて資源利用効率と呼ぶ)としてこれまで盛んに研究が行われてきた。高いNUEとWUEをともに実現することは、限られた資源を用いて効率的に光合成を行うため、ひいては生産した同化産物による成長や繁殖を行うために、植物にとって非常に重要である。これらの資源利用効率は、植物の生育環境によって影響を受けるとともに、植物の葉や材などの生態学的、生理学的な特性とも密接に関連している。植物は通常の生活においても環境ストレスに晒されている。土壌栄養塩や降水量、標高といった植物の生育環境による外的要因、樹高による水ストレスの違いといった内的要因など、自然界には様々なストレス勾配が存在する。これらのストレスに対し、植物はその環境に適した形態学的、解剖学的、生理学的特性を維持しつつ、同時に資源利用効率を高める成長戦略をとっている。このため、資源利用効率は、ストレス下で生育している植物におけるその環境への適応の指標であるといえる。本稿では、植物の資源利用効率を鍵として、水、栄養塩(主に窒素とリン)といった資源の欠乏が植物にどのような影響を及ぼすのか、また、限られた資源を効率的に利用するために植物がどのような生態学的、生理学的機構を発達させ、資源利用効率を高めているのかについて考察する。
特集1 生態系サービスの総合的な指標化
  • 伊藤 昭彦, 山形 与志樹
    原稿種別: 本文
    2015 年 65 巻 2 号 p. 109-113
    発行日: 2015/07/30
    公開日: 2017/05/23
    ジャーナル フリー
  • 三枝 信子, 林 真智
    原稿種別: 本文
    2015 年 65 巻 2 号 p. 115-124
    発行日: 2015/07/30
    公開日: 2017/05/23
    ジャーナル フリー
    近年、陸域生態系と大気の間の熱・水・温室効果ガス交換量の長期観測ネットワーク(FLUXNET)、国際長期生態学研究ネットワーク(ILTER: International Long Term Ecological Research)、生物多様性観測ネットワーク(GEO-BON: Group on Earth Observations-Biodiversity Observation Network)などが、生態系レベルでの構造や機能、生物多様性に関わる世界規模の地上観測点のネットワークを構築し、データの共有と統合解析研究を進展させている。また、こうした地上観測ネットワークと生態系のリモートセンシングを専門とする研究者らが協力し、長期観測を実施している地上観測点やその周辺の地域において、異なる空間スケール(個体レベル・生態系レベルなど)での分光反射率の測定、画像データや分光特性に基づく生物季節(フェノロジー)のモニタリング、地上観測に加えて光学・レーザー・レーダーなどの機器を使った樹高やバイオマスの広域評価などを行い、衛星観測の高度な利用方法を開発している。こうした複数分野の地上観測ネットワークやリモートセンシングに基づく研究を連携して推進し、知見や経験、ならびにデータを共有することで、生態系が人間に与える多種多様な恩恵(生態系サービス)を定量化し、将来の気候の下での生態系サービスの変化を予測するための研究を加速することができると考えられる。
  • 鈴木 力英
    原稿種別: 本文
    2015 年 65 巻 2 号 p. 125-134
    発行日: 2015/07/30
    公開日: 2017/05/23
    ジャーナル フリー
    リモートセンシングは、生態系機能や生態系サービスの評価に必要な生態系の地理的広がりやその時間的変動について知ることのできる有効な観測技術である。リモートセンシングは一般にセンサーとそれを搭載して飛翔するプラットフォームの二つから成る。センサーとしては分光放射計のほか、マイクロ波合成開口レーダーやレーザースキャナが、プラットフォームとしては人工衛星と航空機が利用され、研究目的によってセンサーとプラットフォームの組み合わせが決まる。生態系機能や生態系サービスのリモートセンシングを三つに分類すると、生物の個体や群集を識別し地図化する手法、生態系の分布を推定し地図化する手法、生態系機能や生態系サービスの代理指標を用いて地図化する方法がある。個体を識別するリモートセンシングでは、それを見分けるだけの高解像度が要求されるので、プラットフォームとしては多くの場合衛星ではなく航空機が用いられる。最近では、非常に詳細な分光情報を得ることのできるハイパースペクトル放射計とレーザースキャナを航空機に搭載し、熱帯林などの植物の構造や葉の化学的な組成に踏み込んだリモートセンシングが行われている。生態系の分布を推定するリモートセンシングでは、衛星の分光放射計の観測データを基に熱帯林のオイルパームへの転換について地図化する研究が進んでいる。また、全球規模でも衛星データから土地被覆としての生態系が分類され、その分布地図が作成されている。代理指標を得る方法では、分光放射計のデータから光合成ポテンシャルを代表する葉面積指数を推定したり、マイクロ波合成開口レーダーのデータから森林の地上部バイオマスを推定する研究が発展している。
  • 安立 美奈子, 伊藤 昭彦
    原稿種別: 本文
    2015 年 65 巻 2 号 p. 135-143
    発行日: 2015/07/30
    公開日: 2017/05/23
    ジャーナル フリー
    人類は生態系サービスから多くの恩恵を受けているが、その活動により多くの生態系サービスは劣化したと報告されている。森林や湿地などの自然生態系の減少・劣化の傾向は進み、多くの種が絶滅の危機に瀕し、自然災害の増加や枯渇した資源を巡る争いが世界各地で起きている。陸域生態系の中でも熱帯林の炭素保持機能は他の地域に比べて非常に高く、さらに多種多様な生物の生息域としての役割も担っている。熱帯域では1万km2あたりに5,000種以上が生息すると言われ、生物多様性のホットスポットの多くは熱帯林に存在している。このように生物多様性と生態系サービスの経済的評価において、どちらの視点においても熱帯林は非常に価値が高いことが、多くの文献によって示唆されている。このように熱帯林は人々に多くの生態系サービスを提供しているにもかかわらず、伐採と土地利用転換が急速に進んでいる。例えば東南アジアではインドネシアとマレーシアを中心にパーム油を生産するためのアブラヤシプランテーションが拡大しており、熱帯林面積は急速に減少している。このような熱帯林の土地利用や土地被覆の変化は、生態系サービスを大幅に劣化させる危険性がある。また、あるサービスに偏った生態系管理の結果、他のサービスを低下させるといったトレードオフ(例えば、炭素固定能を高めるために植林地帯を拡大させれば、生物多様性や食料生産が損なわれる)が起こり得るが、その影響は生態系サービスが悪化した場所から遠く離れた地域で起きる可能性もある。従って、開発と保全のバランスを考慮した管理オプションを検討するには、生態系サービスへの影響を総合的に考慮する必要がある。本稿では、熱帯林から農地へ転換した際に起こる生態系サービスの変化に着目してレビューをおこなった。また、東南アジアの熱帯林や熱帯泥炭林における伐採やプランテーション転換よる生態系サービスへの影響について、地上部バイオマスや炭素フラックスの変化に着目したまとめを行った。
  • 庄山 紀久子, 山形 与志樹
    原稿種別: 本文
    2015 年 65 巻 2 号 p. 145-153
    発行日: 2015/07/30
    公開日: 2017/05/23
    ジャーナル フリー
    生態系サービスを評価する方法には生態系から供給される量と人間社会がサービスとして認識する量を評価する二つのアプローチがある。環境財の経済評価は環境経済学の分野で開発されてきたが、土地被覆を始めとする生物物理指標に基づいて空間的に経済評価まで行う手法が注目されるようになってきた。特に将来の土地利用オプションに基づき生態系サービスの変化予測を示すことは、サービス間トレードオフを考慮した意思決定を可能にする。本稿では北海道釧路川流域を評価対象として、生物物理指標による供給量の評価は経済評価とどのように関連するのか、土地利用シナリオに基づく分析事例や表明選好法における生態系情報の扱いについて既往研究のレビューとともに議論する。さらに生態系の価値は地域社会のなかでどのような要因と関連付いて分布するのか、地域住民の価値認識を空間的に評価した事例を紹介する。
特集2 生態学におけるモデル選択
  • 箱山 洋
    原稿種別: 本文
    2015 年 65 巻 2 号 p. 155-156
    発行日: 2015/07/30
    公開日: 2017/05/23
    ジャーナル フリー
  • 箱山 洋
    原稿種別: 本文
    2015 年 65 巻 2 号 p. 157-167
    発行日: 2015/07/30
    公開日: 2017/05/23
    ジャーナル フリー
    データにモデルを当てはめるとは、観察した自然現象を確率変数で表現し、その確率分布を推定することである。頻度論的な立場からは、自然、もしくは、そのメカニズムを確率モデルとして正しく表現した「真のモデル」が、データを発生させたと考える。未知の真のモデルの確率分布をデータと近似モデルから精度よく推定できれば、結果としてよい予測につながる。本質的に、近似モデルのパラメータ数とデータに含まれる情報量が、確率分布の推定精度を決定する。また、一般に利用できるデータの量は限られている。したがって、与えられたデータに対してパラメータ数の異なる複数のモデルを用意し、最善のモデルを選択すること、すなわち、モデル選択が一つの統計学的な問題となる。ここでは、このようなモデル選択と予測に関する基本的な考え方を、ヒストグラム・モデル、線形回帰モデルを例としながら説明する。
  • 巌佐 庸
    原稿種別: 本文
    2015 年 65 巻 2 号 p. 169-177
    発行日: 2015/07/30
    公開日: 2017/05/23
    ジャーナル フリー
    生態学における数理モデルには、多数の変数を含み多様なプロセスを表現する現実的なモデルと、本質を捉えようとして少数の変数だけを追跡する単純なモデルとがある。モデルの対象となっているシステムでは、個体の間に、種だけでなく年齢、性、場所、社会的地位、体調などさまざまな違いがあり、詳細なモデルといっても、それらのいくつかを表現し、他の違いを無視して束ねることではじめて数理モデルとして成り立つ。本稿では、多数の変数を持つ複雑モデルと、少数の変数しか持たない単純モデルがあるときに、それらの間に矛盾が無いための条件について説明した。単純モデルの少数の変数は、複雑モデルの多数の変数から計算できるとした。単純モデルの変数の将来の変化について、複雑モデルにより計算した値から計算する正しい値と単純モデルを用いて計算した値とが、すべての状況で一致する場合には、完全アグリゲーションが成立するという。両者が力学系(非線形の微分方程式システム)で与えられる場合について、必要十分条件を導いた。例として、(1)複数の競争種を束ねた場合、(2)複数の生息地をまとめた場合、(3)齢構成を単純化した場合、(4)コホートの個体数と個体重を束ねる場合、(5)捕食者被食者系で両者の比率のみに注目する場合、などを例にとり説明した。完全アグリゲーション条件は厳しすぎて多くの場合に成り立たないが、どのような状況でモデルの単純化が誤差をもたらすかについての洞察が得られた。次に、単純モデルによる予測の誤差を最小にする最良アグリゲーションを議論した。モデルを短期的予測に使う場合と長期予測に使う場合で最良の単純モデルが異なることがわかった。
  • 粕谷 英一
    原稿種別: 本文
    2015 年 65 巻 2 号 p. 179-185
    発行日: 2015/07/30
    公開日: 2017/05/23
    ジャーナル フリー
    生態学におけるモデル選択の方法として広く使われている赤池情報量規準(AIC)について、真のモデルを特定するために使うことは本来の目的から離れていることを指摘し、サンプルサイズが大きくてもAIC最小という基準で真のモデルが選ばれない確率が無視し得ないほど大きいことを単純な数値例で示した。また、AICの値に閾値を設けて、AICの値が他のモデルより小さくしかも差の絶対値が閾値を越えているときのみにモデルを選ぶとしても、真のモデルが選ばれない確率が高いという問題点は解決されないことを示した。
  • 岸野 洋久
    原稿種別: 本文
    2015 年 65 巻 2 号 p. 187-196
    発行日: 2015/07/30
    公開日: 2017/05/23
    ジャーナル フリー
    集団や群集の構造を調べるとき、まずは平均的な特徴や平均的な関係に光が投げかけられる。そこからのかい離は誤差項で、推定の際には最小化すべき厄介な存在として位置づけられる。ここでは集団や群集を構成する個体の間の多様性に等量の光を投げかけ、関係式のモデリングと誤差のモデリングを不可分のものとして位置づける。最尤法はデータの生成メカニズムを尤度の形でモデリングするため、自然に2つのモデリングを融合させることができる。尤度の対数をとった対数尤度は、統計モデルの真の生成メカニズムへの近さの度合いを、相対量の形で表現している。ただし、統計モデルをデータに当てはめて得られた最大対数尤度は、近さの度合いを過大評価している。これを補正して得られた不偏推定量である情報量規準AICは、種々の異質な統計モデルを比較することを可能にする。本論文は、殺虫剤の効用試験、苗木の成長試験の2つの古典的データを見つめなおし、実例を通して最尤法とAICによる統計的モデル分析の有効性を示すことを目的とする。前者はタバコスズメガ幼虫(Phlegethontius quinquemaculata)のカウントデータであるが、各処理でポアソン分布から期待される分散を超える過分散があること、さらにこの過分散がブロック間の不均質性で説明され、ブロック内は環境を均質に保たれていたことを見る。後者はベイトウヒ(Sitka spruce, Picea sitchensis)のサイズを継時的に測定したデータで、オゾンへの曝露の影響を調べたものである。初夏から秋にかけてのある年の成長をロジスティックモデル、およびパラメータに分布を導入した変量ロジスティックモデルで記述する。モデルを通して、成長開始前のサイズとその年の成長幅には大きな個体差があること、6月末が成長の最盛期であること、成長期間にはほとんど個体差はなく、2か月半であることを見る。モデル選択を通して分析対象とデータの持つ情報の量と質に関して理解を深めさせることが、AICのもたらす最大の効用であることを、これらの解析は示している。
  • 箱山 洋
    原稿種別: 本文
    2015 年 65 巻 2 号 p. 197-202
    発行日: 2015/07/30
    公開日: 2017/05/23
    ジャーナル フリー
    特集:生態学におけるモデル選択の総括として、3つの論点を議論した。第一に、予測において問題とする自然現象(確率変数)を明確にすることの重要性について論じた。第二に、自然の構造の科学的証拠を得るためのモデル選択の規準を論じた。サンプルサイズが小さい場合、AICは真のモデルの構造から遠いモデルを選ぶ傾向があり、科学的証拠としては弱点がある。近似による不一致は、サンプルサイズによらない真の分布と近似分布の乖離であることから、その推定量を科学的証拠のための規準として提案した。第三に、豊かなモデル構築の方法論と適切なモデル選択の規準が、データから有益な情報を引き出すことを、まとめとして論じた。
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