日本生態学会誌
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66 巻, 3 号
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総説
  • 森田 理仁
    2016 年 66 巻 3 号 p. 549-560
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
    本論文は生態学の分野の中でも、ヒトの行動の進化に関する研究の事例に注目して、科学と社会の関係を考察したものである。科学コミュニケーションの課題が顕著に表れるヒトを対象とした事例をおもに取り上げるが、背景に存在する科学の性質や問題意識は、程度に違いはあるものの他の生物における研究とも広く共通している。ヒトの行動について生物学的な説明を与えることに対しては、これまでに多くの批判がなされてきた。その最も顕著な例が、社会生物学論争である。E・O・ウィルソンは1975年に『社会生物学』を出版し、ヒトの行動を生物学の理論をもとに説明することを試みた。これに対して、R・C・ルウォンティンやS・J・グールドらは、ウィルソンの試みは社会にとってのさまざまな危険をはらむと痛烈に批判し、その批判は大規模な論争に発展した。ここでルウォンティンらは、社会生物学を生物学的決定論や適応主義などの点から批判し、研究がもつ「社会的・倫理的リスク」を危惧した。彼らの批判において指摘された重要な問題は、社会生物学は現代社会の価値観や先入観が反映されたものであり、それがさらに社会の現状の正当化や変更不可能であるといった考え方をもたらすという「二重の過程」と、研究者の意図に関わらず成果が誤解されてしまうという「意図せずに起こる誤解」の二つである。J・オルコックは2001年に『社会生物学の勝利』を出版し、社会生物学に対する批判を退けたかのように見えるが、実際にはオルコックと批判者たちの主張にはかみ合っていない部分も存在する。本論文では、社会生物学論争の要点をまとめ、その現代的意義を明らかにする。そして論争に関連して、進化生物学の研究成果が社会的・政治的に誤解・誤用された近年の事例、および、著者自身の少子化についての研究例を踏まえた上で、現代におけるヒトの行動に関する進化生物学的研究をどのように進めていけばよいか、そして、研究成果をどのように発信していけばよいかについて考察する。具体的には、(1)仮説を検証するために十分な証拠を集めること、(2)主張の誤用ができる限り起こらないように注意して発表すること、(3)誤用が起きた場合にはそれを公に指摘すること、という三点(Alcock 2001, pp. 194-195, 邦訳pp. 298-300)の重要性を改めて指摘するとともに、学会が担う社会的役割にも言及する。
  • 松林 圭, 藤山 直之
    2016 年 66 巻 3 号 p. 561-580
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
    適応と多様化との関係を問う“生態的種分化”は、古典的な仮説でありながらも現代進化生態学において大きな進展を見せている。“異なる環境への適応によって隔離障壁が進化する”というこの仮説は、いわば伝統的な自然選択説の現代版であり、生態学の各分野で蓄積された膨大なデータを、進化生物学分野で培われてきた適応と種分化に関するアイディアによって俯瞰する形で成り立っている。生態的種分化は、進化学や生態学、遺伝学といった複数の分野を横断する仮説であるが、近年のこれらの分野における概念的統合およびゲノミクスとの融合に伴い、理論的に洗練された検証可能な作業仮説として、いまや多様性創出機構の議論に欠かすことのできないものとなってきた。日本の生物多様性の豊かさを考えたとき、潜在的に多くの生態的種分化の事例が潜んでいるものと思われるが、残念ながら日本の生物を対象とした実証研究は、今のところあまり多くない。このような状況を踏まえ、本総説では特に生態学者を対象として、生態的種分化のもっとも基礎的な理論的背景に関して、その定義、要因、地理的条件、特徴的な隔離障壁、分類群による相違を解説し、また、その対立仮説である非生態的種分化との違いを説明する。さらに、現在の生態的種分化研究の理論的枠組みにおける弱点や証拠の薄い部分を指摘し、今後の発展の方向性を議論する。
特集1 環境DNA 分析を利用した水中生物のモニタリング
  • 内井 喜美子, 源 利文, 土居 秀幸, 高原 輝彦, 山中 裕樹, 片野 泉
    2016 年 66 巻 3 号 p. 581-582
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
  • 高原 輝彦, 山中 裕樹, 源 利文, 土居 秀幸, 内井 喜美子
    2016 年 66 巻 3 号 p. 583-599
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
    湖沼や河川、海洋沿岸域で採取した水試料に浮遊・存在するDNA(環境DNA)の分析により、水棲動物の生息状況(在・不在やバイオマスなど)を推定する生物モニタリング手法は、“環境DNA分析”と呼ばれる。これまでに、淡水域から海水域までの様々な環境において、環境DNA分析を用いた生物モニタリングが実施されており、目視や採捕などによる従来の調査法と比べて、低コスト・高パフォーマンスであることが報告されている。現在まで、環境DNAの分析に必要となる水試料の採取量や保存の仕方、水試料に含まれるDNAの回収・濃縮方法、DNAの抽出・精製方法、およびDNA情報の解析方法については、研究者ごとに様々な方法が採用されており、統一的なプロトコルはない。いくつかの研究では、水試料に含まれるDNAの濃縮方法やDNA抽出方法の違いが、得られるDNA濃度や検出率に及ぼす影響を比較・検討しており、その結果、野外環境条件や対象生物種によって、効果的なプロトコルに相違があることがわかってきた。そこで本稿では、著者らのこれまでの研究を含めた既報の論文における実験手法を概説し、環境DNA分析を用いた効率的な生物モニタリング手法の確立に向けて議論を展開する。本稿によって、環境DNA分析が広く認知されるとともに、本稿がこれから環境DNAの研究分野に参画する研究者の技術マニュアルとして活用されることを願う。さらに、環境DNA分析が、様々な局面での環境調査において、採捕や目視といった既存の手法と同様に、一般的に利用される生物モニタリング手法となることを期待している。
  • 山中 裕樹, 源 利文, 高原 輝彦, 内井 喜美子, 土居 秀幸
    2016 年 66 巻 3 号 p. 601-611
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
    大型水棲動物を対象とした環境DNA分析は、野外調査時には水を汲むだけで済むという簡便性から、広域的かつ長期的な生態学的調査や生物相調査への適用が期待されている。環境DNA分析は種の分布や生物量、そして種組成の解析にまで利用され始めているが、大型水棲生物を対象とした研究が行われるようになってからまだ日が浅く、野外調査などへの適用に当たっては当然知っておくべき基礎情報の中にも、環境DNAの水中での分解や拡散の過程など、未だ明らかとなっていないブラックボックスが残されているのが現状である。本稿ではこれまでの多くの野外適用例をレビューして、環境DNA分析の野外調査への適用の場面で想定される様々な疑問や課題について解説し、今後の展望を述べる。環境DNA分析から得られる結果は採捕や目視といった既存の調査で得られた知見との比較検討の上で適切に解釈する必要があり、この新たな手法が今後各方面からの評価と改善を繰り返して、一般的な調査手法として大きく発展することを期待したい。
  • 福岡 有紗, 高原 輝彦, 松本 宗弘, 兵庫県立農業高校生物部 , 丑丸 敦史, 源 利文
    2016 年 66 巻 3 号 p. 613-620
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
    生物多様性は近年著しく減少しており、特に淡水域では深刻である。希少種の保全においては、対象種が低密度で棲息していたとしても分布を把握する必要がある。従来、分布域の調査法として直接捕獲や目視確認などが行われてきたが、いずれも相当な時間や労力、専門性を必要とする。そこで近年、従来の手法を補完する方法として、生体外に放出されたDNAである環境DNAを用いた手法が開発されている。本研究では、カワバタモロコ(Hemigrammocypris rasborella)を対象とし、環境DNA分析を用いた手法によってその検出系を設計し、野外に適用した。はじめに、カワバタモロコの在・不在が既知のため池11箇所で検出系の確認を行ったところ、既知の分布情報と完全に一致する結果が得られた。次に、カワバタモロコの在・不在が未知のため池81箇所でこの検出系を適用し、6箇所でカワバタモロコの環境DNAを検出した。環境DNAが検出された6箇所において、もんどりを用いた捕獲調査を行った結果、5箇所でカワバタモロコの棲息が確認された。これらの結果から、環境DNA分析は、従来の調査手法では困難であった希少種の生息確認に有用な生物モニタリング法であることが実証された。
  • 源 利文, 内井 喜美子, 山中 裕樹, 高原 輝彦, 片野 泉, 土居 秀幸
    2016 年 66 巻 3 号 p. 621-623
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
特集2 生態学教育のネットワークを築く
  • 畑田 彩
    2016 年 66 巻 3 号 p. 625-627
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
  • 水澤 玲子
    2016 年 66 巻 3 号 p. 629-938
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
    持続可能な社会の構築とそのような社会を担う人材育成が求められるなか、高校の教育現場でも生態学教育の重要性が増している。観察・実験といった体験型の学習は、学習者の学習意欲を喚起する上で効果的だが、市街地の学校では生きた教材を入手したり、野外観察を実施するフィールドを見つけたりすることが難しい。高校で生物を教える教員が、教材やフィールドに関する情報をどのようにして入手しているのかを知るために、現職教員19名にアンケート調査を実施した。その結果、都市部の高校であっても、生態学教育に熱心な教員が少数在職していれば、教員同士の情報共有によって学校単位で充実した野外観察が行えることが示唆された。勤務校の枠を超えた教員同士の情報共有は、地域の教員コミュニティーにおいて活発に実施されているが、校務多忙で参加できない教員も少なくない。野外観察を取り入れた教員免許更新講習会は、多忙な教員にとって、生態分野の研修を受ける良い機会かもしれない。地域の教員コミュニティー、博物館及び教員免許更新講習会などで開催されている研修会には、様々な校種の教員が参加する。このような教員向け研修会は、勤務校の枠だけではなく、校種の枠を超えた教材共有の場としても期待される。
  • 澤田 佳宏
    2016 年 66 巻 3 号 p. 639-648
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
    筆者は、環境・造園系専門職大学院と造園・園芸に関する専門学校に勤務し、大学院生および生涯学習課程受講生に生態学教育をおこなっている。造園分野の高度専門職業人を目指す大学院生に対する生態学教育の手法や内容には、「緑」で何か良いことをしたいと考える生涯学習受講生にも通用するものがある。実際、筆者は「半自然草原の再生の実践」や「外来種問題の啓発のためのデモガーデン制作」など、専門職大学院生と生涯学習受講生の両方に通用するメニューを持っている。また筆者は、大学院生の研究テーマと小学校の環境教育のテーマをリンクさせることにより、双方に利のある関係を築いている。これまで、専門職大学院と生涯学習や小学校でテーマや手法を共有したことによって、教育や研究の新たな展開が生じるというメリットがあった。今後、日本生態学会の「生態教育支援データベース」などを利用して、生態学教育の手法や教材を多くの人と共有した場合にも、様々なメリットが生まれることを期待する。たとえば、手法や教材を提供する側にとっては、その内容のピアレビューが受けられることは大きな利点だろう。
  • 石田 惣, 釋 知恵子
    2016 年 66 巻 3 号 p. 649-658
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
    大阪市立自然史博物館が行う学校教育支援として、「貸出教材キット」、「特別展展示見学ワークシート」、「教員のための博物館の日」の3事例について紹介し、課題をまとめたうえで、支援のあり方を提案する。「貸出教材キット」については小学校での利用が多く、授業に即した活用がなされているが、中学・高校での活用は少ない。特に高校では学習単元に即していないことが理由として考えられるが、授業例などの補助資料の充実によって活用の機会が広がる可能性もある。「特別展展示見学ワークシート」は中学・高校生向けに特別展を教材化する試みとして作成しているものだが、多くの学校での課題採用のおかげもあり、中高生の来場者増につながるとともに、展示をじっくり見学してもらう効果が生まれている。一方で、利用者からワークシートの内容面に関する意見を集め、次に反映させることができていないという課題がある。「教員のための博物館の日」は、教員による博物館利用を促進する全国的な取り組みであるが、博物館のリソースを活用した学習指導について情報を得たいと考える小学校から高校までの教員のニーズに応える機会となっている。学校教育支援のあり方をまとめると、博物館側では、まず学習指導要領に即した支援内容を考える必要がある。さらに、中学から高校となるに従い、教員のニーズがより専門的になるため、貸出教材キットのような定型的な支援では対応が難しくなることがわかる。例えば、博物館は多くの生物多様性情報を蓄積しており、教材となる生物種の分布情報は高校教員に役立つケースがある。このような情報提供を行う博物館の「シンクタンク」機能は、特に高校教育の支援形態の一つとして有用ではないかと考えられる。
  • 西脇 亜也, 平山 大輔, 畑田 彩
    2016 年 66 巻 3 号 p. 659-666
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
    「生態学教育専門委員会」「博物館の生態学」「アウェイの生態学」の3つのグループが連携して実施した第61回日本生態学会大会における「生態学教育のネットワークを築く」と題したフォーラムにおけるパネルディスカッションと参加者アンケートのまとめによって、生態学教育のネットワークへの期待と解決すべき課題について述べた。
  • (「生態学教育のネットワークを築く」に参加して)
    飯島 明子
    2016 年 66 巻 3 号 p. 667-668
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
  • 嶋田 正和
    2016 年 66 巻 3 号 p. 669-670
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
  • 佐久間 大輔
    2016 年 66 巻 3 号 p. 671-672
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
  • 須賀 丈
    2016 年 66 巻 3 号 p. 673-675
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
  • ―教材共有の先に見えた課題―
    畑田 彩, 西脇 亜也
    2016 年 66 巻 3 号 p. 677-679
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
学術情報特集 大規模開発・大規模災害と自然保護の課題
  • 加藤 真
    2016 年 66 巻 3 号 p. 681-682
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
    日本列島の自然は大規模開発の影響を強く受けて大きく変貌してきた。その様相は変化しつつも、依然として大規模開発計画は自然の大きな脅威となっている。さらに近年には、大規模な自然災害が自然に与える影響も注目されるようになってきた。特に、日本列島の自然の中でも水辺環境は、水収支の微妙なバランスの上に成立しているがゆえに脆弱であり、水を重層的に利用する人間活動の影響を受けやすい。本特集では、現在の日本列島で進行しつつある大規模開発と、これから起こりうる大規模災害に焦点をあて、自然を保護するためにどのような道があるのかを考察したものである。最初の2篇は、アユモドキの生息する京都府亀岡市の氾濫原湿地と、ハナノキが生育する岐阜県中津川市の湧水湿地に持ち上がっている大規模開発計画とその問題点を論じる。この二つの開発計画に関しては、それぞれの大規模開発の見直しを求める要望書が、本学会決議および本学会の自然保護専門委員会決議を経て、関係諸機関に提出されている。第3篇では、九州における破局的カルデラ噴火の歴史を分析することによって、これから起こりうる大規模災害とその影響について考察する。
  • ―予防原則と開発圧のはざまで
    渡辺 勝敏
    2016 年 66 巻 3 号 p. 683-693
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
    現在、近畿地方に最後に残された絶滅危惧種アユモドキ(淡水魚)の生息地において、京都府と亀岡市によりサッカースタジアムを含む大規模な都市公園建設が計画されており、生物多様性および湿地生態系保全の観点から大きな問題となっている。アユモドキは国の天然記念物に指定され、種の保存法の指定種であるが、この計画は専門家や環境・文化財行政との協議を経ることなく、府・市の行政により決定されたものである。建設の決定後(2012年末)、府・市は環境保全対策のための専門家会議を立ち上げ、自然環境の基礎調査から始めたが、開始から2年半を経た2015年11月現在、環境影響評価の実施には至っていない。そのような中、計画発足からわずか4年後(現在6年後以降に延長;2018年以降)の完成を目指して、都市計画決定、用地買収、道路整備、一帯の営農放棄などが進行し、周辺の環境変化が大きく進んでいる。アユモドキは雨季の氾濫原を繁殖・初期生育に利用する東アジアモンスーン気候に典型的に適応した魚種であり、同様な湿地性動植物とともに、従来の水田営農とどうにか共存してきた。府・市は「共生ゾーン」とよぶ縮小された代替地の整備により保全に務めるとしているが、その実現性は日本生態学会をはじめ、多くの学術団体、自然保護団体等から疑問をもたれている。さらに治水、水道水源の問題、交通問題等、地域住民への悪影響に対する懸念もあり、建設場所の変更を含む計画の再検討が求められている。しかし、府知事や市長をはじめとする行政によるこの貴重な湿地生態系保全に対する認識は十分でなく、強い開発圧の中、環境保全において重要であるべき予防原則はないがしろにされてきた。その結果、たとえ開発計画が見直されても、自然環境およびそれを取り巻く社会状況は、すでに水田営農と共生した湿地生態系の保全を困難とする状況に陥っている。早急に周辺地域環境の保全等を含めた、包括的で永続的な保全方策を模索・構築しなければならない。
  • 菊地 賢
    2016 年 66 巻 3 号 p. 695-705
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
    岐阜県中津川市千旦林地区に位置する「岩屋堂ハナノキ自生地」は、絶滅危惧種ハナノキの日本最大の自生地として知られ、湧水湿地を中心に種々の絶滅危惧種の生育が確認されている、生物多様性の保全上重要な自生地である。現在、この湧水湿地の近傍を通過する自動車専用道路(リニア接続道路)の建設が予定されており、湿地環境の影響が懸念されることから、日本生態学会自然保護委員会を含む複数団体が、ルート再考の要望書を提出している。文献や聞き取りによってハナノキ自生地周辺の歴史や伝統的土地利用形態を調べたところ、ハナノキ自生地付近が大規模な湧水湿地を水源に古来から営まれてきた千旦林村の枝村「岩屋堂」であったこと、そこには屋敷・田畑を森林が囲む伝統的里山景観が成立していたこと、湧水湿地と森林の伝統的里山管理を背景に、日本最大のハナノキ自生地が形成されたことが示唆された。リニア接続道路はこの岩屋堂集落の中心を通過し、分断する。そのためリニア接続道路の建設は景観の破壊や集落機能の低下を通じて里山管理を衰退させ、ハナノキ自生地の保全にも悪影響を及ぼすことが懸念される。本稿では、歴史生態学的見地から岩屋堂集落の伝統的土地利用およびハナノキ自生地の成立について考察するとともに、今後のハナノキ保全研究の課題についても考察したい。
  • 井村 隆介
    2016 年 66 巻 3 号 p. 707-714
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
    With 110 active volcanoes distributed over its narrow landmass, Japan is an unusual country. In particular, there are five major caldera volcanoes in southern Kyushu: Kakuto, Kobayashi, Aira, Ata, and Kikai, from north to south. A caldera is a volcanic depression formed by a large amount of magma erupting at the Earth’s surface. Caldera eruptions are extremely rare but catastrophic, with significant societal and environmental impacts. These types of volcanoes are also found around Tohoku and Hokkaido. Catastrophic eruptions have occurred approximately once every 10,000 years throughout Japan; the last eruption of this scale was the Kikai caldera eruption 7,300 years ago. The Japanese archipelago landscape, specifically in southern Kyushu, has likely been formed from the cycle of disturbance and regeneration caused by these eruptions.
学術情報
野外研究サイトから(33)
博物館と生態学(27)
国外で研究職に就くには(2)
  • エヴァン P. エコノモ
    2016 年 66 巻 3 号 p. 735-742
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
    ジャーナル オープンアクセス
    海外滞在は科学者としての人生とキャリアを成長・発展させる重要な期間となり得る。ある意味において科学者は世界中を自由に移動し活動できる存在でなくてはならない。なぜなら科学は境界を超える万国共通の探求活動だからである。しかし、アカデミアは文化と伝統に左右される人間活動で、それが移動を難しくすることがある。本論で私は、西洋アカデミアへの就職に興味があり、その座を勝ち取りたい日本人科学者に幾つかアドバイスしたい。国際的なトップジャーナルに論文掲載される素晴らしい研究を行うことは、もちろん科学者のキャリア向上のための最重要要素である。だが、対策が必要な二番目に重要な要素もある。すなわち日本の研究者にはたぶんあまり知られていない、西洋アカデミアの“暗黙の規則”である。これが日本研究者の潜在能力への足かせになっているかもしれない。ここではポジションの見つけ方、見込みのあるスーパーバイザーへのコンタクトの取り方、そして西洋アカデミア流の良い推薦状の書き方について論じる。
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