世界規模で起こる生物多様性の喪失は、地球に生きる私たちひとりひとりにとって重要な課題である。課題を解決するための国際的な枠組みとして生物多様性条約(生物の多様性に関する条約)があるが、ここでの政策形成は政治家や専門家など限られた人間のみが参加し、ごくふつうの“市民”が関わることは難しい。「世界市民会議World Wide Views?生物多様性を考える」は、国際的な政策形成と市民とをつなごうとする試みである。2012年、世界25の国と地域から約3000人の市民が参加して開催され、会議結果は、生物多様性条約第11回締約国会議(CBD-COP11)に届けられた。著者らは、この取り組みに日本大会の主催者(ナショナルパートナー)として参加した。決議書内での取り組みへの言及など、一定の成果を残した一方で、会議結果は本当に市民の「声」を反映したものだったのかなど、多くの課題がある。著者らは、独自の追加セッションの実施やファシリテーション方針の設定、会議で行われた議論の分析を通して、会議において設問や情報提供の偏りによらない本質的な議論を促すとともに、会議設計の妥当性を検証し、本当の“市民の声”を見出そうとした。また、他国において会議がどのように開催運営されていたのかの検討も行なった。その結果、情報提供、設問設定の両方が、かなり限定された文脈の中で行われており、議論を通じて生まれた参加者の多様な意見を反映できていなかったことなどが明らかとなったほか、他国においても、それぞれの国の事情を鑑みて独自の工夫が行われていたことがわかった。World Wide Viewsは、会議設計や締約国会議との連携方法に多くの課題がありながらも、グローバルな科学コミュニケーション手段として大きな可能性を秘めている。そして、会議設計の改善のためには、各国の“科学コミュニケーター”とも言えるナショナルパートナーの役割が重要となるだろう。
抄録全体を表示