日本生態学会誌
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早期公開論文
早期公開論文の12件中1~12を表示しています
  • 鈴木 正嗣
    論文ID: 2327
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/06/18
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    ワンヘルスに関する普及啓発や論考では、近年における感染症拡大の主要な要因として「自然環境の破壊にともない、人が森林などの自然環境の奥地に分け入るようになり、そこで病原体に接触する可能性が増えたこと」が挙げられることが少なくない。しかし、人口減少などによる人間活動の縮小・撤退が進む日本では、この要因を一般論として語ることは必ずしも適切ではない。現在の日本では、人間活動の縮小・撤退により、種々の野生動物が急増するとともに人の生活圏へと侵入し、それらの動物を通じ病原体が人間社会へと運び込まれるリスクが高まっているためである。加えて、野生動物に起因する人身事故など、感染症以外の要因による人の健康被害も増加した。さらには、ニホンジカの増加による生物多様性へのダメージも顕在化している。したがって、今後の日本におけるワンヘルス・アプローチにおいては、進行する人間活動の縮小・撤退を基盤に、それに起因する人と動物の健康被害ならびに生態系の健全性に関わるリスクとを包括的に捉え、より広い視野と多角的な視点を備えた行動計画の策定・実行が期待される。

  • 亘 悠哉
    論文ID: 2207
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/06/05
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    人獣共通感染症の発生は増加しており、公衆衛生や社会経済、生物多様性の重大なリスクとなっている。人獣共通感染症の発生を促進する主な要因のひとつが外来種の侵入である。そのプロセスはおもに2つあり、ひとつは外来種の侵入に伴う病原体や病原体媒介生物(ベクター)の随伴移入により、新たな感染症リスクが生じるプロセス、もうひとつはもともと地域に潜在する病原体やベクターを増加・拡散させるプロセスである。しかしながら、これまで人獣共通感染症に主に対応してきた動物衛生や公衆衛生の分野においては、必ずしも外来種問題の関心が高くはなく、人獣共通感染症対策において外来種対策や生態学的な概念が取り入れられることはほとんどなかった。こうした知識ギャップを埋めるため、本総説では、これまで散発的に報告されてきた人獣共通感染症と外来種をキーワードとする研究事例を整理し、以下の3つの事例について紹介し、それぞれ外来種が感染サイクルの中で果たす役割やとりうる対策の方向性に整理した。1)イエネコへの餌やりで深刻化するトキソプラズマ症リスク、2)自然環境と人間生活圏をまたいだ重症熱性血小板減少症候群(SFTS)感染サイクルと外来哺乳類の役割、3)国内外来ニホンジカの移入がもたらす人のマダニ刺咬リスク。これらの事例を受けて、人獣共通感染症対策の新たな選択肢として外来種対策を追加する提言を行った。

  • 藤岡 春菜, 水元 惟暁, キャス ジェイミイ
    論文ID: 2402
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/06/04
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    電子付録

    国際化が求められる一方、科学の共通言語である英語でのコミュニケーションの機会は、日本国内では今もなお限られている。そこで、生態学・進化学分野における外国人留学生と日本人との交流の活性化を図るため、コロナ禍の2021年から日本生態進化英語セミナー(Japan Eco-Evo English Seminar [JEEES])をオンラインで行い、2023年12月には対面でのワークショップを東北大学において開催した。本稿では、国際交流の場を提供する意義を伝え、企画の詳細と成果を報告する。本ワークショップでは、日本で研究する外国人と日本人の若手研究者や学生をターゲットに全日程を英語で進めた。国内の研究機関に所属し、海外経験がある多様なメンターを9名招聘した。通常のシンポジウムや学会で行われる長い研究発表をせず、自己紹介を目的とした3分間のライトニングトークと、参加者間の研究に関する議論や交流を目的とした少人数でのグループディスカッションを実施した。また、若手研究者の交流促進とキャリア相談の機会を提供するため、パネルディスカッションやピアメンタリング(同じ立場や似た経験を持つ人の間での助言やサポート)を設けた。JEEESは、国内における研究者の新たな国際的ネットワークやコミュニティの下地を提供し、今回得た経験をもとに、今後も日本の生態学・進化学における次世代の育成に貢献する活動を続けていく予定である。

  • 永光 輝義
    論文ID: 2501
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/06/04
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  • 五箇 公一, 大沼 学, 坂本 佳子
    論文ID: 2302
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/05/20
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    国立環境研究所では感染症対策という観点からの生物多様性保全研究を推進しており、近年、注目を集めるワンヘルス・アプローチの強化を目指している。これまでに「野生動物検疫施設」において、野生鳥類における鳥インフルエンザ感染調査や野生獣類における豚熱感染調査など、行政的にも重要な課題に対応するとともに、野生動物の新型コロナウイルス感染状況の調査およびダニ媒介性新興感染症SFTSの予防対策にかかる研究など新規なテーマにも取り組んでいる。また、これら家畜伝染病・人獣共通感染症以外にも、爬虫両生類特有の感染症や、昆虫類における感染症問題についても環境科学・生態学的側面からの研究を展開している。これらの研究成果に基づき、ワンヘルス・アプローチの重要性に関する普及啓発にも注力し、環境省を始め、行政機関にも具体な政策を提言している。

  • 佐藤 喜和
    論文ID: 2304
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/05/20
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    近年北海道では、ヒグマUrsus arctosが都市の市街地内部にまで侵入する事例が増加している。いわゆるアーバンベア問題である。その背景には、個体数増加、分布拡大、人や人の生活圏を避けない個体の増加といったヒグマの変化が関係しているが、このような変化は人間社会の人口減少や高齢化、生活スタイルの変化に応答した結果とも捉えられる。またそれらに加えて、生物多様性保全と地域づくりのための生態系ネットワークの保全や構築が、本来の生息地から離れた市街地の内部にまでヒグマを移動可能にしていると考えられる。街づくりの計画の中でヒグマが年間を通じて生息する森林と都市緑地とを、また河川管理の計画の中で河川の上流域の生息地と中下流域の都市とを、ネットワークとして結びつけているためである。ヒグマがいったん市街地内部に侵入すると、地域住民の安全を確保しながら対応するのは困難であり、現状の体制では追い払いも駆除もできずに見守るしか取り得る選択肢がない場合もある。ヒグマの市街地侵入は、発生頻度は稀でも一度発生すると対処困難かつ重大被害をもたらす可能性があるという点で自然災害に近い。社会は地域防災の観点から、発生時の緊急対応体制を備えると同時に、その発生を抑制する対策を併せて行うべきである。生態系ネットワークの構築においては、ヒグマの市街地侵入を未然に防ぐための予防策を確実に行うことが不可欠である。

  • 尾原 あまね, 加藤 元海
    論文ID: 2404
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/05/20
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    宮崎肺吸虫は宿主を巻貝(第1中間宿主)からサワガニ(第2中間宿主)、そして哺乳類(終宿主)へと変えながら生活する寄生生物であり、肺吸虫症という人獣共通感染症を引き起こす。本研究では、高知県を流れる仁淀川水系の上八川川と鏡川水系の吉原川でサワガニを採集し、サワガニの個体の特徴、個体密度、調査地点の周辺環境、および季節と宮崎肺吸虫寄生率の関係を明らかにすることを目的とした。吉原川の最上流域において肺吸虫寄生率が特に高い支流が存在し、下流に行くほど寄生率が低くなる傾向がみられた。河川規模が小さくサワガニの個体密度が高いほど寄生率は高くなった。サワガニの個体の特徴については、体色と甲幅が肺吸虫寄生率に有意な影響を与えていた。サワガニは3つの体色型(青系統BL型、暗色系統DA型、赤系統RE型)に分かれるが、体内にアスタキサンチンをもつRE型個体における肺吸虫寄生率がアスタキサンチンをもたないBL型個体と比べて低かった。体色が変異する理由はこれまでのところ明らかになっていないが、宿主であるサワガニが抗酸化作用のあるアスタキサンチンをもつことで、寄生生物が感染する際に負の影響を与えている可能性が示唆された。

  • 水野 晴菜, 寺山 佳奈, 加藤 元海
    論文ID: 2405
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/05/20
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    ニホンオオカミは1905年に奈良県東吉野村で捕獲された個体を最後に、現在では絶滅種とされている。主な餌動物はシカであったと考えられているが、その他の詳しい生態は分かっていない。本研究では、ニホンオオカミと食性が近いポーランドのオオカミ(主にシカ類とイノシシを捕食)に関する捕食や代謝のパラメータ値を参考に、ニホンオオカミが1年間に捕食する餌動物(ニホンジカとイノシシ)の個体数とそのために必要な面積を推定するための枠組的なモデルを構築した。オオカミには性的二型があることから、メスとオスの体重をそれぞれ15と20 kgと設定した。このモデルを奈良県における餌動物の生息密度(ニホンジカ8.8、イノシシ6.1;単位:個体 km−2)に応用したところ、1年間に必要なエネルギー量のうちニホンジカから75%、イノシシから25%摂取していると推定された。これらのエネルギーを摂取するために捕食する餌動物は、ニホンオオカミのメス1個体当たり、ニホンジカを18個体(オスでは23個体)とイノシシを6.4個体(オスでは8.1個体)に相当した。ニホンオオカミ1個体がこれらの餌動物を捕食するために必要な面積は17–22.2 km2と推定された。モデルをニホンジカの生息密度(埼玉県:5.2、兵庫県:18.6)の異なる他地域にも応用したところ、必要な面積は10.1–42.2 km2となり、ポーランドに生息するオオカミ1個体当たりの行動圏(14.1–54.2 km2)に近い面積であった。

  • 東 若菜, 上原 歩, 香川 聡, 河合 清定, 才木 真太朗, Jiao Linjie, 南光 一樹
    論文ID: 2406
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/05/20
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    降雨や霧の発生頻度が高い場所は日本列島をはじめ地球上に数多く存在しており、広い地域で年間100日以上も植物表面が濡れていることが報告されている。一方で、光合成や物資分配、成長といった植物のふるまいは、晴天時の「理想的な」条件で調べられることが多い。固着性である植物がさらされる変動環境でのふるまいを理解するためには、晴天時だけでなく降雨時とその後植物体が乾いていく期間にも着目する必要がある。本総説では、複雑な立体構造を持つ樹木と森林を対象に、降雨開始から降雨直後にかけて森林内で起こる、物理的および生理的な現象を明らかにするための先進的な試みによってわかってきた知見を概説する。樹冠の濡れ具合は、樹冠通過雨における雨滴のサイズ分布から推定することが可能である。葉が濡れた後、雨水の一部は葉から吸収され有機物に固定されるが、降雨中および降雨直後に形成された葉バイオマスの多くは、葉から吸収した水に由来することが重水ラベリング法によって明らかになった。また、降雨中および降雨直後の森林では個葉の光合成速度が低下することが示唆されているが、エンクローズドパス型分析計を用いた解析により、森林全体のガス交換フラックスが降雨中でも大きくは低下しないことが明らかになってきた。以上のような先進的な技術の活用と分野横断的な情報交換によって、雨の日に森林で起きている様々な生態学的現象の理解が進むと期待できる。

  • 小野田 雄介, 小林 秀樹, 中路 達郎, 加藤 顕, 木田 新一郎, 桑江 朝比呂, 沖 一雄, 佐藤 拓哉, 倭 千晶
    論文ID: 2409
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/05/20
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    近年急速に普及しているドローンなどのUAV(unmanned aerial vehicle,無人航空機)は生態学においても様々な場面で利用されており、その利用は今後益々拡大するだろう。本報告では、UAVの利便性を概説し、動物生態学、海洋生態学、植物生態学など様々な分野の研究者による8つの具体的な研究例をもとに、UAVの利用価値と今後の発展性について議論する。本報告は2024年3月に開催された日本生態学会大会において開催したシンポジウム「UAVによって拡がる生態学」で発表した演者が文章を寄せ合ったものである。

  • 入江 貴博
    論文ID: 2410
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/05/20
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    進化生態学を含む生態学の諸分野においては、表現型の種内変異を無視して現象を正しく理解することができないという状況が頻繁に生じる。2018年に執筆した総説「自然史と進化生態学をつなぐ海産腹足類の研究(1)—貝殻種内変異と形態分類—」では、Monetaria属のタカラガイを例に挙げ、海産腹足類における表現型種内変異の研究史を簡単に紹介した。本稿では、Monetaria属の種内分類に混乱を招く一因となった、体サイズの温度に対する表現型可塑性に焦点をあてる。外温動物では、成長時の温度が高い個体ほど小さなサイズで成熟するという経験則があり、これは温度–サイズ則(TSR)と呼ばれている。筆者は2010年にTSRの適応的意義に関する総説を執筆したが、この分野ではその後も重要な論文の出版が続いている。そこで本稿の前半では、1990年代から現在に至るTSRの研究史を俯瞰した上で、TSRの適応的意義に関する研究を理解する上で有用な情報を補強する。また、気候変動(温暖化)に伴う水生生物の小型化にまつわる問題に着目して、Gill-Oxygen Limitation Theory(GOLT)やこの理論に対する批判といった最新の話題を取り上げる。本稿の後半では、温度に対する可塑性が野外で観られる腹足類の体サイズ種内変異に与える影響について、1980年代から現在までに出版された論文を詳しく解説する。

  • 岡部 貴美子, 亘 悠哉, 飯島 勇人, 五箇 公一
    論文ID: 2305
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/05/14
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    新興感染症の75%以上を占めるとされる野生動物に由来する人獣共通感染症は、生態系の攪乱や劣化、土地利用変化、気候変動などが、野生動物種間や動物-ヒト間における病原体の感染拡大の主な駆動要因と認識されており、環境問題の一つとして理解されている。人流や物流で世界が一体化する今日、感染症パンデミックのリスクは極めて大きい。このことからヒト–動物–環境(生態系)に包括的に取り組むワンヘルス・アプローチによって、新たな感染症の異種間伝播(スピルオーバー)を抑制することが期待されている。これまでに病原体の宿主動物の探索、病原体スピルオーバーのプロセス予測、感染症ホットスポット予測などの研究が進められ、大きな成果が得られている。一方でヒトへのスピルオーバーリスク低減に不可欠な環境問題の解決にかかる研究、特に生態学的研究アプローチは遅れをとっているといわざるを得ない。本特集は第69回生態学会大会シンポジウムに基づき、野生動物管理へのワンヘルスの視点の追加、外来哺乳類と感染症、野生動物とヒトとの軋轢による健康被害、それらにかかる政策・制度のあり方について、関連する研究を紹介しながら、今後の議論を深めることを目的とする。

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