衣類に付着する油汚れの主成分である皮脂の成分を中心に油性物質をポリエステルフィルムに付着させ, 温度, 時間を変化させて処理し, ポリエステルフィルムの動的粘弾性を測定し, ポリエステルフィルム中への油性物質の拡散について検討した.結果は次の通りである.
1) 150℃30minの処理条件で, 脂肪酸 (オレイン酸, ステアリン酸) , アルコール (ステアリルアルコール, コレステロール, モノステアリン, グリセリン) では, ポリエステルの非晶領域内の主鎖のミクロブラウン運動に基づくα分散のピーク温度 (Tα) の低下 (8~13°) が観測され, ポリエステル中に拡散していることが認められた.脂肪酸エステル (トリオレイン, トリステアリン, オレイン酸コレステロール) , 炭化水素 (スクアレン, スクアラン, 流動パラフィン) では動的粘弾性に変化はなく, ほとんど拡散していないと考えられる.
2) グリセリンは, 脂肪酸, アルコール類と共用した場合, Tαをさらに低下させる.
3) 皮脂を模して配合した人工皮脂は130℃以上, グリセリンが共存すると115℃以上の加熱処理でポリエステルのTαを低下させる.また, 150℃では0.5minでもTα低下効果があり, 日常のアイロン掛け程度の条件で, 油性物質がポリエステル中に拡散することが確認された.
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