暑熱環境下の温度と湿度が人体に及ぼす暑熱ストレスを明らかにするため,気温28℃,31℃,34℃,湿度30%,60%,90%を組み合わせた計9条件の人工気候室内に,ブラジャーとショーツのみ着用の成人女子6名を60分間滞在させ,人体の体温調節反応に関する生理・心理反応,心拍変動による自律神経反応及び唾液アミラーゼ活性を測定した.主たる結果は以下の通りである.①体温調節反応の平均皮膚温,背部発汗量,皮膚水分量はいずれも温湿度上昇とともに有意に上昇した.直腸温については温湿度条件による有意な変化が認められなかった.②温冷感,湿潤感,快適感は環境温湿度の上昇とともに有意に不快側に変化した.③心拍数については温湿度の上昇に伴い有意に増加した.④滞在30分時の交感神経活動は温湿度上昇とともに有意に上昇し,副交感神経活動は減少する傾向を示した.⑤滞在30分時の唾液アミラーゼ活性は,湿度の上昇に伴い有意に上昇した.⑥皮膚水分量は不快感,湿潤感,唾液アミラーゼ活性,交感神経活動とそれぞれ0.888,0.982,0.958,0.910の高い相関を示し,暑熱湿潤ストレスの有効な指標であることが示された.また,ストレスマーカーである唾液アミラーゼ活性,交感神経活動も暑熱ストレスの指標として有効であることが示唆された.
羊毛繊維内のヘマテインの染着状態を提案するため,ヘマテインと錯体を形成する金属種の同定についてICP分析方法とヘマテイン染色布のK/S-波長(λ)曲線の分析から検討した.羊毛繊維,ギ酸処理した羊毛および絹繊維中に含有する3 種の金属イオン(銅,亜鉛,鉄)の含有量をICP 分析により決定した.この分析結果は,羊毛繊維中の亜鉛の量が絹繊維のそれよりも顕著に含まれることを,さらにギ酸抽出処理により亜鉛量が大幅に減少することを示した.次に,硫酸銅と硫酸亜鉛溶液で媒染したヘマテイン染色絹布のK/S-波長(λ)曲線は,ヘマテイン染色羊毛布の曲線と同様になった.しかし,媒染絹布とヘマテイン染色羊毛布の両者は,pH4 のバッファーで処理すると亜鉛媒染絹布とヘマテイン染色羊毛布におけるヘマテインと金属イオンの組み合わせから生じるK/S ピークは消滅した.それにも関わらず銅媒染絹布のピークはまだ存在していた.これらの知見を元に,我々は繊維内部pH4 と7 における羊毛繊維の細胞膜複合体(CMC)中のキューティクル層におけるヘマテインと亜鉛イオンの結合モデルを提案した.