濃黒色且つ高耐光性の植物染料五倍子による染色を実現するために,発色補助剤(先媒染剤)としてバナジウムを用いた染色条件について,ウール素材による検討を行った.その結果,先媒染は5mM,100℃で行い,濃度50% owf による五倍子染色が望ましいことがわかった.処理後のバナジウムはウール表皮に分布し,ウールに対する染着性の高くない五倍子成分を,黒色バナジウム錯体として染着させる効果があると考えられた.また,実用化を踏まえ,未吸着バナジウムを含む染色排水中のヒメダカへの毒性として,硫酸バナジルと硫酸銅を比較した.その結果,硫酸バナジルは硫酸銅よりも毒性が低く,染色排水中のバナジウム濃度は自然界と同等である試算が得られた.
衣服材料の透湿性が衣服内気候に及ぼす影響を定量的に把握することを目的として,直径0 ㎜,3 ㎜,6 ㎜,7.5 ㎜の孔を4cm2当たり1個あけたフィルムで構成されたブラウスを作製し,これを34℃,50%の人工気候室における着用実験に供した.被験者は若年女子7名,実験中に衣服内温度,湿度,発汗量を測定し,湿潤感,快適感などの主観評価を調査した.主なる結果は以下の通りである.①試料の気孔率増加に伴い,通気度,透湿率は増加し,保温率が減少した.②着用実験中の生理・心理反応についてはフィルム衣服の孔径(A)及び実験段階(B)を要因する二元配置分散分析を行った結果,衣服内温度,湿度については要因A・Bともに,発汗量については要因Aが危険率1%で有意であった.③スキンモデルにより求められたRd,Reともに,空気層有では孔径の増加とともに低下した.④Reは衣服内湿度,発汗量と高い相関を示し,Reがそれらの支配要因であることが明らかとなった.⑤穿孔フィルム衣服の透湿性と一般繊維試料のそれとの関係が考察された.