前報に続いて,墨の成分であるニカワの作用を低下させ,墨汚染布の洗浄率を向上させる方法を検討した.ニカワのモデルとしてゼラチンを用い,これをタンパク質分解酵素Trypsin,Papain,Uguis で分解し,生成されるアミノ酸量を導電率計で測定した.その結果,酵素量が多いほど分解が速く,分解量が多かった.固形墨液にこれらの酵素を添加すると,Trypsin とPapain で透過率の上昇が見られた.これらの酵素を使って洗浄試験を行い,洗浄率と酵素ならびに繊維の種類による洗浄率の差を検定した(ANOVA,p<0.05).Blank より高い洗浄率が得られたものは,繊維別に,PET はUguis とTrypsin,Cotton はUguis,PC はUguis とTrypsin であった.洗浄後汚染布のタンパク質残留量を調べた結果,洗浄率の低い汚染布の残留量は多かった.一方,洗浄率の高い汚染布の残留量は少なく,洗浄によりニカワが除去されていることが分かった.
仰臥位安静時,下肢への部位別圧迫が腓腹筋血流動態及び皮膚血流量,皮膚温に与える影響を明らかにし,圧力を利用した衣服設計の基礎とすることを目的として検討を行った.被験者は健康な成人女性5 名,気温29±0.5℃,湿度50±5%RH の人工気候室で,測定開始5 分後に,カフなし,または大腿最大囲,大腿中央囲,膝上囲,膝囲,下腿最大囲のいずれかを血圧計用カフを用いて10,15,20mmHg 各強度で15 分間圧迫を加えた.測定項目は,腓腹筋血流動態(組織酸素化血液量:OXY Hb, 組織脱酸素化血液量:deOXY Hb, 組織全血液量:TOTAL Hb, 組織酸素飽和度:StO2),下腿部・右足母指の皮膚血流量及び皮膚温,圧迫感,むくみ感である.その結果,下肢の部位別圧迫で,deOXY Hb,TOTAL Hb は増加,StO2は減少し,20mmHg 強度で有意差が認められた.deOXY Hb は,膝囲及び大腿最大囲圧迫時に最も増加し,最も影響が少なかったのは膝上囲圧迫時であった.また,膝囲及び大腿最大囲を15,20mmHg で圧迫するとdeOXY Hb は有意に増加した.下腿部皮膚血流量は,15,20mmHg 強度圧迫で有意に減少し,下腿部皮膚温は上昇が抑制された.膝囲圧迫時にむくみを最も強く感じ,大腿最大囲圧迫時に最も感じにくいことが示された.膝囲及び大腿最大囲は,圧力を利用した衣服設計時に十分考慮すべき部位であることが示唆された.
歴史的に重要な衣服の効率的な複製制作をテーマとし,多量のいせこみを施したケープカラー部分のシルエットと,いせこみ分量および布の力学的特性との関係を検討した.シルエットは,三次元計測装置により採取し,体積Vを特徴量として解析した.
その結果,いせこみ分量が多いほど,布の種類によりVが大きく異なることがわかった.また,Vの要因を検討したところ,布のみかけ密度の影響が大きいこと,測定長が長くなるほど,せん断特性および曲げ特性との相関が大きくなることがわかった.そこで,オリジナルドレスを効率よく複製するために,Vを目的変数とし,みかけ密度,せん断剛性に加え,測定長およびいせこみ率を説明変数として,重回帰分析を行った.導出された重回帰式から,オリジナルドレスと同様のシルエットを創出するために必要ないせこみ率を精度よく推測し得ることがわかった.