湿度計の性能としては, (1) 周囲の状態を乱さずに測定できること (2) 履歴現象がないこと (3) 応答が速いこと (4) 遠隔測定および自記記録が容易であること, などが要請されるが, これらの条件をすべて具備することは, 温度計の場合のようには容易でない.とくに, 低温になるほど水蒸気量の欠乏ならびに水分の拡散速度の減少によって, より困難な問題になる.エース鋭感湿度計は, その感湿素子が超小型 (6.0×3.0mm
2×0.2mm程度) なので, 湿度分布とくに拡散層の測定および遠隔記録に好適とされ, 実用上狭い空間で, プラスの温度において上記の諸条件をおよそ充足する優秀な性能をもっていることが知られている.しかし, 0℃以下の低温における特性については, 必ずしも明らかにされていないので, それについて試験したところ, 下記のような結果を得, 低温においても十分有用であることを知った.
1) 供試素子の履歴効果については, 温度-15℃で実験の結果, 見出しえなかった.実験は4個の異なる湿度の恒湿槽を用い, 急激な湿度変化を与えて行なわれ, その最終湿度は65%R.H.であった.この湿度のあたりでは, もし履歴効果が存在するならば, 最も顕著であろうと考えられるものである.
2) 時間遅れについて
i) 風速の効果 (風速0, 0.5, 6m/s, 温度-20℃, 約20%の急激な湿度変化の下で) 時定数は風速0, 0.5, 6m/sに対してそれぞれ吸湿過程390,200,135秒および脱湿過程540,310,220秒である.
ii) 温度の効果 (温度20, 0, -10, -20℃, 風速3m/s, 約20%の急激な湿度変化の下で) 時定数は温度20, 0, -10, -20℃に対してそれぞれ吸湿過程6, 20, 50,140秒および脱湿過程25, 70, 130, 230秒である.
iii) エース湿度計の時間遅れは, Honeywell湿度計に比べて7倍だけよいこと (時定数が1/7であること) がわかった.このHoneywell湿度計は, 実用されている電気抵抗式湿度計のうちでは最も安定性のよいものである.
3) 異なった寸法の感湿素子の比較試験によると, その寸法, とくに厚さを薄くすることにより, 性能をさらに向上させることが可能であると考えられる.
4) 低温実験室において, エース湿度計を用いて得られた氷面上の湿度分布 (水蒸気圧傾斜) と, “ダイヤルゲージ法” による氷面からの蒸発速度のデータから拡散係数を算出した.その値は-17℃においておよそ0.2cm
2/sで, 拡散層は氷面上約0.5cmであることが知られた.
抄録全体を表示