雪氷
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62 巻, 3 号
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  • 鈴木 啓助
    2000 年 62 巻 3 号 p. 185-196
    発行日: 2000/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    雪氷学会で最も新しい分科会である雪氷化学分科会の設立の経緯についてまとめるとともに, わが国の研究者による雪氷化学研究について紹介する.しかし, 氷コアの化学と南極における雪氷化学の研究例については言及していない.雪氷化学は地球環境科学として今後ともその研究の重要性が増大すると考えられる.そこで, 本稿では降雪-積雪-融雪-河川水の水循環の流れに沿って雪氷化学研究を概説し, 今後の課題についても提起する.
  • 河野 美香
    2000 年 62 巻 3 号 p. 197-213
    発行日: 2000/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    氷床コアには, 火山噴火に伴うテフラや硫黄が連続的に保存されている.このような火山起源物質を含む層は, コア対比や年代推定のための示準層として用いられる.さらに, 過去の火山噴火活動の復元や, 噴火に伴う硫黄の放出量の推定にも有効である.また, 氷床を構成する降雪の酸素同位体組成の気温依存性に基づいて, 過去の気温を復元することができる.このような性質をもとにして, 過去の火山噴火に伴う硫酸エアロゾルによる短期的な気候への影響や, 氷期-間氷期サイクルという長期的な気候変動と火山活動の関係が明らかにされつつある.本稿では, 氷床コアに保存された火山起源物質に関するこれまでの研究を概説する.
  • 本山 玲美, 柳澤 文孝, 小谷 卓, 川端 明子, 上田 晃
    2000 年 62 巻 3 号 p. 215-224
    発行日: 2000/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    大気降下物の起源を明らかにするため湿性降下物とエアロゾルに含まれている非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比 (δ34Snss) を検討した.湿性降下物は山形県の酒田市と山形市で1991年から1999年まで, また, エアロゾルは山形県の鶴岡市と山形市で1993年から1999年まで採取した.
    (1) 湿性降下物
    酒田における非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比は冬季に+12~+14‰と高く, 夏季に+1~+6‰と低くなった.冬季に非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比が高くなるのは, アジア大陸北部で使用されている石炭が燃焼される際に発生する人為起源のイオウ酸化物 (SOX) が, 北西季節風によって日本まで輸送されてきているためと考えられる.一方, 山形における非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比は冬季に+6~+10‰, と高く, 夏季に+0~+2‰と低くなった.山形では非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比の季節変動が明瞭な年と不明瞭な年が存在する.これは, 大陸起源の汚染物質の流入の影響が大きい年と小さい年があることを示すものであろう.
    (2) エアロゾル
    鶴岡におけるエアロゾルに含まれる非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比は秋季から春季に+5~+14‰と高く, 夏季に+1~+6‰と低くなった.非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比が秋季から春季に高くなるのは, アジア大陸内陸の砂漠起源の硫酸塩を含んだ粒子が日本に長距離輸送されてきているためと考えられる.一方, 山形における非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比は+1~+8‰の範囲で変動しているが, 明瞭な季節変化を示していない.このことは, 内陸である山形では, アジア大陸からもたらされる粒子状物質の影響が小さいことを意味すると考えられる.
  • 河村 公隆, 今井 美江, 門間 兼成, 鈴木 啓助
    2000 年 62 巻 3 号 p. 225-233
    発行日: 2000/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    東京, 田島, 札幌で採取した降雪試料から低分子ジカルボン酸など水溶性有機物を分離しキャピラリーガスクロマトグラフにて測定した.また, 一部の試料について全有機態炭素 (TOC), 溶存有機態炭素 (DOC), および, 主要な陽イオン・陰イオンについても測定した。雪試料中に炭素数が2からllの低分子ジカルボン酸 (27~222μg/kg) を検出した.また, ケトカルボン酸 (C2-C6, 9.4~103μg/kg), ジカルボニル (C2-C3, 5~68μg/kg) についても比較的高い濃度で検出した.すべての試料において炭素数の最も少ないジカルボン酸であるシュウ酸が最も高い濃度を示すことがわかった.更に, 分子の末端にアルデヒド基を持つオメガオキソカルボン酸の場合も炭素数の最も少ないグリオギザール酸が優位を示すことが明らかとなった.これら低分子化合物は非海塩性硫酸と強い正の相関を示すが, カルシウムとは負の相関を示すことが示された.一方, TOCは1.1~12.1mgC/kg, DOCは1, 0~10.7mgC/kgの濃度範囲で検出された.DOCはTOCの52~94%を占め, 降雪中の有機物の大部分が水溶性であることが明らかとなった.
  • 鈴木 啓助, 渡辺 泰徳
    2000 年 62 巻 3 号 p. 235-244
    発行日: 2000/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    林冠環境の異なる3地点 (コナラ林, アカマツ林, 林外) において, 積雪中の化学的特性および生物量の変化を調べた.積雪中の主要陰イオン濃度および粒子状有機炭素・有機窒素濃度は, アカマツ林内でコナラ林内, 林外よりも高くなっている.各地点とも積雪中の主要陰イオン濃度および電導度は, 積雪期間中次第に低下する.しかしながら, 積雪中のPO43-濃度および粒子状有機炭素・有機窒素濃度は, いずれの地点でも融雪期に増加する.また, 積雪中のpHおよび酸素同位体比は融雪によって増加する.積雪中のクロロフィルaとフェオフィチンaの濃度は, アカマツ林内においてコナラ林, 林外よりも高い.また, アカマツ林内のクロロフィルa濃度は融雪期に増加し, 雪氷藻類の活動が融雪期に活発になることを示している.積雪融解試料に緑藻と栄養塩類を添加した培養実験の結果, いずれの地点の試料でもNO3-, SO42-とPO43-濃度は減少し, 藻類によって消費されている.アカマツ林内の試料による培養実験では, 他の地点の試料に比べてクロロフィルa濃度の増加が大きくなる.また, 本実験の結果によると, 窒素が藻類成長量の制限要因になっている可能性がある.
  • 飯塚 芳徳, 五十嵐 誠, 渡辺 幸一, 神山 孝吉, 渡辺 興亜
    2000 年 62 巻 3 号 p. 245-254
    発行日: 2000/05/15
    公開日: 2010/01/22
    ジャーナル フリー
    1998年3~4月, スバールバル諸島アウストフォンナ氷帽頂上において, 多点積雪断面観測による積雪試料の採取を行なった.試料は化学分析に用いられた.
    各積雪断面は, 深さ0.50~0.79mを境に, 雪質の違いから上部と下部に分けられる.上部はしもざらめ雪としまり雪, 下部は氷板とざらめ雪が層を成している.下部はδ18O値や電気伝導度の変動が保持されていない.これらの結果は, 下部の積雪が融解を経験していることを示す.融解による化学主成分の減少過程は各イオン種ごとで異なる.Na+, Cl-に比べてMg2+, SO42-は流出しやすい.K+, Ca2+は融雪後も他のイオン種と相関のない鋭いピークを残している.
    融解を経験していない積雪のMg2+/Na+比が0.11±0.02であり海塩比 (0.12) とほぼ一致するのに対し, 融解を経験した積雪のMg2+/Na+比は0.03±0.02の値をとる.Mg2+/Na+比は氷コア中のフィルンの融解の有無を明らかにする指標になると考えられる.
  • 塚原 初男, 飯田 俊彰, 上木 勝司, 山谷 睦, 福島 純, 武田 能拓, 猪飼 啓文, 安国 起世, 下井田 領子, 祢津 陽
    2000 年 62 巻 3 号 p. 255-264
    発行日: 2000/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    1990~1999年の10年間に, 新潟県, 山形県, 宮城県の多雪・豪雪地における88箇所から降雪が採集され, pH, 電気伝導度, および各種イオン濃度が分析され, イオン沈着量が推計された.降雪のpHは42~5.2の範囲内にあった.しかし, pHが4.3~4.5の一部の降雪には, 初期融雪水のpHを4.0以下に低下させるものがあった.降雪中の酸性イオン濃度は, 採雪場所による変動が大きかった.その中で冬季の主風に晒され易い地形, および居住区の背後などは降雪による酸性イオン沈着量の局地的集中をもたらす可能性のあることが推測された.降雪による酸性イオン沈着量の局地的集中は, 櫛引町, 朝日村, 西川町にまたがる範囲に多かった.このうち, 櫛引町と朝日村は, ミズナラ虫害林の発生地域と重複した.降雪中の中和イオンの局地的集中は, 庄内地方の海岸部から内陸部の全域にまたがり, 場所を移しながら点在した.
  • 八久保 晶弘, 橋本 重将, 中尾 正義, 本山 秀明, 鈴木 啓助, 西村 浩一
    2000 年 62 巻 3 号 p. 265-277
    発行日: 2000/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    1996年3月, 北海道内にて積雪表層のサンプリングを行ない, 放射冷却時の酸素同位体比 (δ18O) とイオン濃度の変化を測定した.観測結果からは, 夜間は表面霜としもざらめ雪が発達して積雪表層のδ18Oが減少し, これに対して昇華蒸発の卓越する日中はδ18Oが増加する傾向がみられた.観測期間中のある晩のイオン濃度と昇華量の測定データから積雪表層での質量収支を計算した結果, 表面霜のδ18Oは積雪表層のそれより相対的に6‰ほど小さかったのに対し, しもざらめ雪のδ18Oは誤差の範囲で周囲とほとんど変わらなかった.
    一方, 積雪試料に約90℃m-1の温度勾配を11日間かけてしもざらめ雪を実験的に作り, その安定同位体比 (δDとδ18O) の変化量を求めた.その結果, 試料の高温側ではδ値が増加, 低温側では減少した.δD-δ18Oダイヤグラムの傾きは2.4から3.1と小さい値をとり, 氷の昇華現象においても動的同位体効果に支配されていることを示した.
  • 渡辺 興亜
    2000 年 62 巻 3 号 p. 279-285
    発行日: 2000/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    南極氷床内陸部および日本列島の積雪域における広域雪氷観測を通じて, いかにして雪氷化学観測の方法が確立していったかを筆者の個人的経験を回想しつつ述べた.
  • 福澤 義文, 加治屋 安彦, 小林 利章, 苫米地 司
    2000 年 62 巻 3 号 p. 291-300
    発行日: 2000/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    冬期道路の視程障害や吹きだまり対策施設の適正規模を検討する場合, その地域の吹きだまり量が考慮される.しかし, 北海道を網羅するような吹きだまり分布に関する研究は行われていない.そこで北海道全域の30年確率1kmメッシュ吹きだまり量の推定手法の開発と, その分布図を作成した.まず, 北海道の冬期間に注目して, 主成分分析により日本海側地域, 道南・日高山系以西, オホーツク海側・道東地方の3ブロックに分割し, 各ブロック毎に風速と気温, 累計降雪深, それに吹きだまり量との関係で重回帰式を作成した.さらに気象要素は周辺地形の影響を強く受けることから, 国土地理情報の標準メッシュデータから作成した地形因子を説明変数とする重回帰分析を行い任意の未観測地点の気象要素を推定し, 北海道全域の30年確率吹きだまり量の1kmメッシュ値を算出した.過去に得られた観測データと推定吹きだまり量を検証した結果, 実用レベルの精度を有していることが示された.
  • 渡辺 聖司, 石原 健二, 藤田 賢寿, 梅村 晃由
    2000 年 62 巻 3 号 p. 301-307
    発行日: 2000/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    大量の雪を泡で覆って保存するために, 携帯型の泡製造機の開発を行った.開発した泡製造機は, ゼラチンを主成分とする原液と空気を多孔板上に送って発泡させ, 回転する櫛型羽根で切断して微細な泡にするもので, 製作された機械は口径120mm, 重さ8kgであった.実験の結果, この機械では, 空気流量50l/minと原液流量4l/minで空気と原液が共に100%泡になることが分かり, 54l/minをこの機械の泡製造能力とした.また羽根列数と泡直径との関係式を導き, 回転羽根8列で十分な微細化が行われることを示した.そして, 現地試験において操作のし易さと上記の能力がおおむね確認された.
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