大気降下物の起源を明らかにするため湿性降下物とエアロゾルに含まれている非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比 (δ
34Snss) を検討した.湿性降下物は山形県の酒田市と山形市で1991年から1999年まで, また, エアロゾルは山形県の鶴岡市と山形市で1993年から1999年まで採取した.
(1) 湿性降下物
酒田における非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比は冬季に+12~+14‰と高く, 夏季に+1~+6‰と低くなった.冬季に非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比が高くなるのは, アジア大陸北部で使用されている石炭が燃焼される際に発生する人為起源のイオウ酸化物 (SO
X) が, 北西季節風によって日本まで輸送されてきているためと考えられる.一方, 山形における非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比は冬季に+6~+10‰, と高く, 夏季に+0~+2‰と低くなった.山形では非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比の季節変動が明瞭な年と不明瞭な年が存在する.これは, 大陸起源の汚染物質の流入の影響が大きい年と小さい年があることを示すものであろう.
(2) エアロゾル
鶴岡におけるエアロゾルに含まれる非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比は秋季から春季に+5~+14‰と高く, 夏季に+1~+6‰と低くなった.非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比が秋季から春季に高くなるのは, アジア大陸内陸の砂漠起源の硫酸塩を含んだ粒子が日本に長距離輸送されてきているためと考えられる.一方, 山形における非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比は+1~+8‰の範囲で変動しているが, 明瞭な季節変化を示していない.このことは, 内陸である山形では, アジア大陸からもたらされる粒子状物質の影響が小さいことを意味すると考えられる.
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