雪氷
Online ISSN : 1883-6267
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68 巻, 6 号
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  • 杉浦 幸之助
    2006 年 68 巻 6 号 p. 549-562
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    大気最下層の吹雪層におけるエネルギー交換を調べるため,吹雪層を多層に分割し,差分化して計算する吹雪モデルを構築し,その概要を述べると共に妥当性を調べた.吹雪層の厚さを10mとし,積雪面近傍の0.1mまで,0.01mごとに吹雪層を調べた.摩擦速度が0.5m/sと0.75m/sの場合を考慮した.吹雪層のエネルギー交換を特徴づける基本的要素の出力応答は以下の通りとなった.1)下向き長波放射と比べ下向き短波放射に対する吹雪の影響は小さいものの,積雪面に近づくにつれて下向き短波放射は減少するが,上向き短波放射は増加する.いずれも,積雪面近傍での変化が大きい.2)吹雪粒子は吹雪層の射出率を高めるため下向き長波放射が増加する一方,積雪も黒体放射に近いため,上向き長波放射の変化は小さい.3)吹雪が発生すると風速は大きく弱まる.さらに4)粒子数の増加に伴い,気温及び比湿は吹雪下層で大きく変化する.これらの計算結果はこれまでの観測及び風洞実験結果を再現しており,吹雪層のエネルギー交換を特徴づける基本的要素がモデルによって示された.本研究では,エネルギー交換を伴う吹雪層について,吹雪現象における重要な物理過程を取り込みつつ,かつできるだけシンプルにモデル化した.このモデルを用いて,厚さが10mの吹雪層の鉛直構造を積雪面近傍の0.1mまで4次のルンゲ・クッタ法で計算し,0.5m/s及び0.75m/sの2つの摩擦速度の条件で吹雪層の鉛直プロファイルを調べた.出力応答は,1)下向き長波放射に比べ下向き短波放射に対しては吹雪の影響は小さいものの,積雪面に近づくにつれて下向き短波放射は減少し,上向き短波放射は増加する.いずれも,積雪面近傍での変化が大きい,2)吹雪粒子は吹雪層の射出率を高めるために下向き長波放射が増加する一方,積雪も黒体放射に近いため,上向き長波放射の変化は小さい.3)吹雪が発生すると風速が大きく弱まる.4)粒子数の増加に伴い,気温及び比湿は吹雪下層で大きく変化する.これらの計算結果はこれまでの観測及び風洞実験結果を再現しており,吹雪層のエネルギー交換を特徴づける基本的要素がモデルによって示された.
  • 遠藤 伸彦, 増田 耕一
    2006 年 68 巻 6 号 p. 563-572
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    いくつかの地球観測衛星にもとづくグローバル・スケールな積雪データセットをとりあげ,データセットの作成手法,これまでに指摘されている問題点,データの入手先を記述した.NOAA weekly snow mapsは1966年以来継続的に作成されてきたが,1999年以降はIMS snow coverに代替された.しかし,両者をシームレスに接続することで,長期的な北半球規模の積雪面積のモニタリング・大気雪氷相互作用の研究に利用できる.
    また,新しい地球観測衛星に搭載されたセンサー(MODIS・AMSR-E)から作成された新しい積雪データも取り上げた.AMSR-Eから求められたユーラシア大陸における積雪面積をIMS snow coverと比較をおこなった.西シベリアでは厳冬期に両データの差は小さいが,秋の積雪面積増加時期と春の融雪期にAMSR-Eの積雪面積はIMS snow coverよりも少ない.一方で,チベット高原では,ごく一部の時期を除いて,AMSR-Eは積雪面積を過剰評価している.
  • 固体降水
    杉浦 幸之助, 横山 宏太郎
    2006 年 68 巻 6 号 p. 573-580
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    固体降水は基本的な気象要素の一つであり,各国で古くから固体降水量が測定されてきた.その測定方法には,直接的に降水量計を用いて求める方法と間接的に求める方法がある.鈴木(1996)によると,日本の気象官署ではトタン製円筒を用いた固体降水量観測が1886年から始められていたようだ.しかし降水量計を用いた測定値には誤差が含まれることが広く知られている.そこで日本における測器の開発・改良と,捕捉特性の評価の取り組みについて振り返り,現在までの状況について簡単にまとめた.今後は得られた降水量計の捕捉特性を活用しつつ,さらなる測器の開発・改良が期待される.このことは地点降水量が基本となる広域での降水量把握に関しても役立っが,真の降水量を求めるためにはさらに取り組むべき課題は未だ多い.
  • 最近の季節積雪の衰退傾向
    力石 國男
    2006 年 68 巻 6 号 p. 581-587
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    雪氷圏の衛星観測および関連研究の動向をレビューし,北半球の季節積雪の衰退傾向や山岳積雪の早期融雪についての研究結果を紹介した.ヒマラヤ・チベット地域の早期融雪は東アジアの水資源問題,砂漠化の進行,季節進行の異常といった地球環境問題に直結する.この総説では,北半球の早期融雪の地域的な特徴を踏まえて,早期融雪の原因と人間活動との関係について考察した.
  • 鈴木 和良, 山崎 剛, 太田 岳史
    2006 年 68 巻 6 号 p. 589-598
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    地球の陸地表面の約3分の1は森林によって覆われており,それらの森林の中でも最も面積が大きな森林帯は熱帯林と北方林である.北方林は季節積雪域に存在することから,雪氷圏と森林帯は相互に強く影響を与えあっており,冬季の北方林は北半球の気温形成に影響を与えている.本総説では,雪氷圏に位置する森林帯の陸面過程,特に積雪の堆積・消失過程に焦点を当て,日本国内の研究を中心にまとめた.
  • 石井 吉之
    2006 年 68 巻 6 号 p. 599-606
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    北半球高緯度の積雪凍土地域における河川流出に関し,1980年代半ばから今日までの研究動向を解説した.斜面および小流域スケールを対象とした研究では,極域ツンドラ帯における活動層の水貯留が小さいために生じる流出の特徴や,北方樹林(タイガ)帯における流出過程の明瞭な斜面方位依存性が示された.また,レナ川のような大河川を対象とした研究では,近年,有意な年流量増加傾向が報告されているが,それらは永久凍土層減退などの雪氷圏変動に伴って引き起こされたのではなく,グローバルな大気循環パターンの年々変化に応じた降水量変動にもとづいた変動であると結論された.
  • 山崎 剛, 杉浦 幸之助
    2006 年 68 巻 6 号 p. 607-612
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    吹雪モデルを含む積雪モデルの現状と課題について概観した.積雪モデルは大きく分けて,少ない入力から積雪を評価する簡便なモデルと,可能な限り複雑な物理過程を考慮して積雪の層構造をも再現する多層モデルに分類される.また,吹雪モデルは個々の雪粒子の運動力学に基づくモデル,吹雪を空間濃度で表現し乱流拡散理論に基づくモデルが構築されている.それぞれに関して日本で開発されたモデルを中心に,代表的なモデルを紹介した.また,積雪モデルの国際相互比較Snow MIPについても紹介した.今後の課題として,雪の移動・再配分を含めた積雪分布モデル,森林地帯の扱い,気候予測に使える凍土を含めた長期積分可能なモデル,組織的な取り組みの必要性を指摘した.
  • 斉藤 和之, 立花 義裕
    2006 年 68 巻 6 号 p. 613-623
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    大陸規模の積雪被覆の分布と,その季節間から長期における変動を1970年代以降を対象とし可視光衛星観測値に基づいて概括する.また,大陸内規模から半球規模の広域における積雪と大気場との相互作用に関して,現在までに行われた研究を振り返り,我々が得た知見を概説する.
  • 藤田 耕史
    2006 年 68 巻 6 号 p. 625-637
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    地球温暖化のもっとも象徴的な話題ともいえる,氷河縮小と海水準変動について,関連する研究をインベントリー,観測,モデルなどのアプローチ別に紹介し,それぞれの研究の位置づけと問題点,今後の課題を提示する.
  • 現状と展望
    石川 守, 斉藤 和之
    2006 年 68 巻 6 号 p. 639-656
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    北半球全陸地の約6割に分布する凍土は,地球上最大規模の雪氷現象であり,様々な時空間規模での気候・水循環過程に関与していることは想像に難くない.しかしこれまで水文・気象学分野では凍土過程はブラックボックスとして取り扱われることが多かった.地球温暖化問題の顕在化を受け,これからは凍土過程に焦点を当てるとともに,凍土と水文・気象・気候学的現象との関わりを解明していくような研究を推進する必要がある.このような学際的な研究分野を創出するのに必要な知見として,本稿では凍土の構造や定義,活動層変動,活動層の水熱循環特性,活動層―大気間相互作用,流域規模から全球規模までのモデルを用いた凍土分布,などの研究成果をレビューする.将来的には,観測とモデルが有機的に結びつくような研究体制の構築が強く望まれる.これには,モデルを意識した広域的な観測体制を確立することや,観測で解明されつつあるプロセスを最適にモデル化することなどが含まれる.
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