雪氷
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68 巻, 5 号
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  • 木村 茂雄, 佐藤 威, 坪井 一洋, 森川 浩司
    2006 年 68 巻 5 号 p. 393-407
    発行日: 2006/09/25
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    経済効率的な風力エネルギの利用という観点から,良好な風況を求めて山岳地域での風力タービンの建設がなされている.寒冷期の山岳地域では過冷却化した霧,雲中の水滴の風力タービンブレードへの衝突により着氷が発生することがある.ブレード上の着氷は安定した風力タービンの稼動や効率的な運用へ悪影響を与える.このため,着氷環境が予想される地域における風力タービンの設置に際しては,予め着氷の影響や程度を把握しておくことが肝要となる.また,対策を講じる場合の最適化やその効果の評価においても着氷現象の再現化が必要となる.このような要求に基づき,風力タービンブレード上の着氷現象解析コードを開発した.解析コードはこうした工学的見地に基づき,計算負荷を低減させることをも主眼において設計された.三次元回転翼である風力タービンブレードをStrip理論に基づき局所的に二次元的に扱い,二次元翼用に開発された着氷解析コードを,ブレード翼素に適用して計算がなされる.結果は,着氷風洞試験および実地観測記録との比較によって検証され,その妥当性が示された.
  • 尾関 俊浩, 松下 拓樹, 西尾 文彦
    2006 年 68 巻 5 号 p. 409-420
    発行日: 2006/09/25
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    2004年2月22日夜から23日朝にかけて北海道空知,日高および根室地方で着氷性の雨が降り,雨氷が発達した.気温の鉛直分布から,札幌では2月22日21時に,根室では23日9時には上空で気温がプラス,地上付近で気温が再び氷点下となる温度逆転層が存在し,着氷性の雨が降る条件であった.
    2月24日に空知の広域観察を行った結果,岩見沢から砂川にかけて雨氷を確認することができた.また,後日の調査で日高,根室において雨氷が成長したことが分かった.激しい着氷雪は気象測器に可動不良を起こすことから,アメダスおよび国道の気象テレメータの風向風速データの欠測期間から着氷発生期間の推定を試みた.
    雨氷の発生域をさらに把握するために,メソ客観解析データおよび数値地図標高データを用いて,降雪粒子の融解条件と雨滴の凍結条件を雨氷発生モデルにより検討し,北海道全域における着氷性の雨の発生域の推定を行なった.その結果,空知中・南部,日高の標高の低い地域および根室で広範囲に雨氷が発生したことが明らかになった.
    地上観察と測器の動作異常から推定した雨氷の発生域と,メソ客観解析データを用いた本研究の解析手法による結果を比較したところ,良い一致が見られた.
  • 松下 拓樹, 西尾 文彦
    2006 年 68 巻 5 号 p. 421-432
    発行日: 2006/09/25
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    気象庁の地上気象観測資料を基に,着雪現象に寄与する降水発生の気候学的特徴を明らかにすることを目的とした.本論文では,気温0℃以上で着雪現象を生じうる降水を湿降雪と定義して,地上気温と相対湿度を指標とした湿降雪の発生条件を示した.この発生条件は,電線着雪の重大事故時の状況とも対応した.
    湿降雪の発生条件に基づき,13冬季(1991年10月~2004年5月)における湿降雪の気候学的な発生実態を調べた.その結果,本州の日本海側地域や東北地方南部の内陸地域で,湿降雪日数が多く湿降雪日率(降水が湿降雪になる割合)が高いが,風が弱く地物に対する衝突降水強度が小さい.一方,関東地方の太平洋沿岸地域と北海道東部では湿降雪日数は少ないが,風や衝突降水強度が強い.この湿降雪の地域性は,従来の電線着雪の北陸型(弱風型)着雪と北海道型(強風型)着雪を気候的な地域分布として示した.特に,関東地方や北海道東部では湿降雪の発生頻度は少ないが,一度の発生によって着雪が顕著に発達する可能性があると考えられる.
  • 化学繊維織物および高機能プラスチックフィルムについて
    山本 頼門, 尾関 俊浩
    2006 年 68 巻 5 号 p. 433-440
    発行日: 2006/09/25
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    高分子膜材を活用することにより,着氷体表面の性質とその変形による着氷の自然剥落をはかるという複合的な除氷効果が期待される.本研究は,高分子膜材を用いた着氷防除において,適当な膜材の選定指針を得ることを目的として,低温室内における高分子膜材の着氷力測定試験を行った.本研究では,難着氷性や可動性などの観点から膜材を選択し,試験試料とした.純水を用いた実験では,撥水性素材の着氷力が最も小さく,超親水性フィルムは比較試料の値よりも大きいという結果が得られた.また,-5℃から-25℃までの実験結果から,ほとんどの試料で温度が低下するにつれ着氷力は大きくなる傾向が見られたが,超親水性フィルムは-10℃で着氷力がピークを示した.塩水を用いた場合,着氷力は純水の氷に比べ大幅に小さかった.これは着氷界面に溜まったブラインの影響が大きいと考えられ,このことは超親水性フィルムにおいて特に顕著であった.
  • 菊地 勝弘, 神田 健三, 山崎 敏晴
    2006 年 68 巻 5 号 p. 441-448
    発行日: 2006/09/25
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    第2次世界大戦末期の昭和18~20年の冬期に,北海道ニセコアンヌプリ山頂の着氷観測所で実験機として使用されたと思われる,「零式艦上戦闘機(通称:ゼロ戦)」の右主翼が1990年8月初旬山頂東側の沢で発見され,その後2004年に回収されて,2005年12月22日から北海道倶知安町の風土館に常設展示されて話題を集めている.それは,60年前のゼロ戦の翼という野次馬的な見方の他に,もはや着氷観測所などといった言葉さえ知らない世代が増えた昨今,そもそも着氷観測所はどんな観測所で,どんな実験をしていて,その結果はどうなったのであろうかという興味とは別に,関連する資料の展示,解説,当時の写真や新聞記事に見られる実験機が,ゼロ戦とは違う「九六式艦上戦闘機(通称:九六式)」のものが多かったからである.どうしてこのようなことになったのか?マスコミ関係や専門家の間で注目されてきたが,幸い「中谷宇吉郎雪の科学館」が所蔵している,当時北海道大学助手で,直接この実験の担当者だった黒岩大助(元北海道大学低温科学研究所長)が撮影していた写真のアルバムから,中谷宇吉郎門下生の一人だった樋口敬二(名古屋大学名誉教授)の考察によって,昭和18~19年の冬が九六式,19~20年の冬がゼロ戦であったという結論が得られた.この報告では,ゼロ戦主翼の発見を契機として着氷観測所ではどのような実験が行われたのか,その実験の主目的であった飛行機の着氷について,使用された実験機の機種とそれに関連するいくつかの疑問について整理したものである.
  • 前野 紀一
    2006 年 68 巻 5 号 p. 449-455
    発行日: 2006/09/25
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    氷・ステンレススチールのせん断付着強度は,温度の低下とともに増加するが,約-13℃でほぼ一定値となる.破壊の様子は,約-13℃を境に高温側では付着破壊,低温側では凝集破壊となる.しかし,引張りの場合はすべて凝集破壊となる.
    氷・ポリスチレンの場合,せん断でも引張りでも破壊は付着破壊となり,付着強度は,氷・金属の付着強度に比べて桁違いに小さい.この違いは氷の付着メカニズムの違いで説明される.
    氷の滑り摩擦メカニズムは,滑り速度が約1cm/s(時速36m)以上では「摩擦熱による水潤滑」,速度1cm/s以下では「氷の凝着せん断変形」である.前者を説明する定量的理論は組立てられているが,後者を説明するこれまでの凝着理論は金属分野で組立てられたものであった.これを氷の摩擦に適用するには,焼結の効果を加えた新しい理論が必要である.
  • 菊池 武彦, 田中 一成, 齊藤 寿幸
    2006 年 68 巻 5 号 p. 457-466
    発行日: 2006/09/25
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    東京電力(株)が過去40年以上にわたって実施してきた送電設備に関する着氷雪対策技術の状況についてまとめた.本報告書では着氷雪現象のうち特に樹氷型着氷と湿型着雪を対象とした.現象の把握や送電設備への機械的影響,その影響を軽減するための対策技術について述べる.観測データは,現地での有人による直接的な調査や実規模試験線などを用いた調査結果である.着氷雪現象の物理的理論や数値解析,対策技術(偏心重量錐と回転自在型スペーサ,ルーズスペーサなど)の基本的考え方は,各検討段階において学識者やメーカ各社と協働で蓄積した.それらの技術が現実的に有効であるか否かについて,現地で自然発生する着氷雪や強風に曝される実規模試験線(高石山試験線,最上試験線)を用いて観測した.観測の結果,送電線への着氷雪に伴う荷重の増加量や振動抑止装置の効果を再現性あるデータで示すことができた.これらの成果は,現在運用されている送電設備に適用され,安定運用に貢献している.
  • 倉元 隆之, 鈴木 啓助
    2006 年 68 巻 5 号 p. 467-480
    発行日: 2006/09/25
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    積雪中の化学物質の動態と融雪期の河川水質の変化の特徴を明らかにすることを目的として,北アルプスの東側に位置する,信濃川水系高瀬川の源流域において,積雪の化学的特性と河川水質に関する調査を行った.調査期間は2004年12月から2005年4月である.積雪調査の結果,積雪中のpHは低く,多くの試料で酸性降水の基準となるpH5.62を下回った.積雪中の化学物質は,降雪時の気圧配置によって,層ごとにイオン含有量が異なっていた.積雪中に含まれる化学物質の多くは,融雪期まで保存されており,融雪とともに積雪から流出していた.河川水質は,融雪期に大きく変化した.河川水のpHと電気伝導度は,流出高の増加に伴って低下した.融雪期前半の流出高の増加時には,河川水中のCl-濃度とNO3-濃度が高くなった.融雪期後半には,融雪にともなう流出高の日変動が観測され,河川水質も日変動を示した.河川水中の陰イオン組成では,流出高が増加する前はHCO3-が約50%を占めていた.しかし,陰イオン組成に占めるHCO3-の割合は,流出高の増加前後で約23%減少した.一方,流出高が増加する前と比べて,流出高増加時には陰イオン組成に占めるCl-+NO3-とSO42-の割合は,それぞれ約12%増加していた.
  • 河野 仁, 井上 亮, 江口 加奈子
    2006 年 68 巻 5 号 p. 481-488
    発行日: 2006/09/25
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    冬季山岳において樹氷と雪を採取し,その溶解成分濃度を測定した.対象とした山岳は奈良県大峰山系(標高1700m),同大台ケ原山系(標高1600m),滋賀県伊吹山(標高1377m),同比良山(標高1200m),長野県北アルプスの霞沢岳(標高2646m),同八ヶ岳(標高2998m),同御嶽山・田の原(標高2400m),同中央アルプス宝剣岳(標高2650m),鳥取県大山(標高1700m)である.測定データから次のような結果が得られた.標高が1000m-1800mの低い山岳では標高が2400m-3000mの高い山岳と比べると,樹氷に関して人為的発生源に起因するイオン成分の濃度及び海塩粒子に起因するイオン成分濃度が高い,雪に関しては,標高による差は樹氷より小さい. 樹氷のイオン成分濃度間の相関は, NO3-濃度とSO42-濃度の相関が高い. これは大気汚染濃度に対応していると思われる. 海塩粒子に起源を持つNa+濃度, Cl-濃度の相関が極めて高い. 人為発生源をもつNH4+, Ca2+, Mg2+についても相関は比較的高い. 上記の結果が, 一般的に成立するかについては, 更に多くのデータで追試が必要である. 樹氷中のイオン成分濃度は雪と比べると数倍から10倍の値を示す.
  • 林床地表面温度からの推定
    石田 仁
    2006 年 68 巻 5 号 p. 489-496
    発行日: 2006/09/25
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    積雪時の地表面温度の特性を明らかにする目的で,超音波積雪深計によって観測された積雪の有無と地表面温度(1時間インターバル)との関連について検討した.その結果,積雪時の地表面温度は,0.5±1.0℃(平均±標準偏差,最小-0.4℃,最大3.2℃)であった.地表面温度3.2℃以下,前後5時間の標準偏差が±0.22℃以下の条件を積雪下とみなした場合の積雪の有無の判定的中率は95%であった.この判別条件を用い,2003年10月上旬から2004年6月下旬までの一冬季間,富山県下の暖帯から高山帯に至る主要森林タイプ19地点で林床の地表面温度の計測を行い積雪日数の推定を行った.その結果,各地点の積雪日数は,暖温帯常緑―落葉広葉樹林:22.5日/年,暖温帯落葉広葉樹林:58.4~104.5日/年,温帯落葉広葉樹林:113.3~158.6日/年,温帯針広混交林:150.3~158.7日/年,温帯―亜高山移行帯林:167.0日/年,亜高山帯林:214.5日/年,高山帯林:200.4~207.1日/年と推定された.暖帯から亜高山帯の森林では,標高と積雪日数の間に高い相関関係が認められた.
  • 赤田 尚史, 柳澤 文孝, 本山 玲美, 奥村 信貴, 松本 寿子, 鈴木 伸一朗, 中村 友紀, 松木 兼一郎, 李 暁東, 賈 疎源
    2006 年 68 巻 5 号 p. 497-504
    発行日: 2006/09/25
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    大気汚染の深刻な地域である中国四川省峨眉山において,登山ルートに沿って異なる高度で大気降下物を採取し,酸性度の高度分布とその季節変動について調査を行った.酸性度の指標であるpHと入力酸性度(pAi)は,冬低夏高の季節変動傾向を示した.これは,冬季に四川盆地内で濃度が増加するSO2とNOxに起因するSO42-とNO3-の影響を強く受けたためと考えられる.また,年間を通して採取高度が低くなるにつれ酸性化が進展する傾向が認められた.しかし山麓付近では中和成分の影響を受け,pHとpAiの差が大きくなる傾向にあった.この傾向は,鉛直方向に拡散されにくい粗大粒子として大気中に存在する土壌粒子や道路堆積物等のアルカリ成分を多く含む粒子の影響を山麓付近では受けやすいためであった.
    峨眉山地域の大気降下物の酸性度は,rainout過程(雲中での取り込み)よりwashout過程(雲下での取り込み)や乾性沈着の影響に支配されていると推定された.
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