雪氷
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64 巻, 1 号
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  • 遠藤 八十一, 小南 裕志, 山野井 克己, 庭野 昭二
    2002 年 64 巻 1 号 p. 3-13
    発行日: 2002/01/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    雪崩の危険度評価や道路除雪には,リアルタイムに時間降雪深を知る必要がある.小南らは,自動計測可能な積雪深と降水量のデータを用いて,粘性圧縮モデルより降雪深を計算する方法を導いた.この論文は,この方法を用いて時間降雪深とその間に積もった雪の密度を計算し,実測値と比較したものである.その結果,時間降雪深は,粘性係数η(Pa・s)と密度ρ(kg・m-3)の関係式としてη=0.392ρ4.1を用いて計算した場合に最も誤差が少なく,3冬期間315測定に対する標準偏差は0.88cm,最大誤差は-4.3cmであった.これらの誤差は,モデルそのものによるのではなく,時々起こる積雪深の計測誤差に主に起因することが分かった.これに比べ,降雪深を積雪深の増加量で代用した場合の標準偏差は1.6倍,密度を仮定し降水量から降雪深を求めた場合の偏差は1.3倍,それぞれ粘性圧縮モデルより大きな値を示した.また,1時間に積もった新雪の密度の標準偏差は,計算降雪深≧2cm以上の雪に対して16kg・m-3であった.
  • 水津 重雄
    2002 年 64 巻 1 号 p. 15-24
    発行日: 2002/01/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    乾雪表層雪崩は積雪層内の弱層や激しい降雪が原因で発生する.積雪の安定度(=せん断強度/せん断応力)は表層雪崩発生の基準となる.積雪の粘性圧縮理論により,降雪量と雪温を用いて,新雪からしまり雪への変態過程での積雪の安定度の計算が可能である.アメダスの気温,レーダー・アメダス解析雨量,地形の数値標高データを用い,降雪量と気温分布を推定し,広域での積雪の安定度を計算するモデルを開発した.モデルは雪崩発生事例とのよい一致を見た.このモデルは,激しい降雪による乾雪表層雪崩発生の危険度や斜面の雪崩発生可能性の評価に有用である.公開されているデータだけによって構築可能なきわめて実用的なモデルでもある.
  • 低密度雪塊の衝撃波形予測
    阿部 修, 小林 俊一, 佐藤 篤司, 中村 秀臣, 中村 勉
    2002 年 64 巻 1 号 p. 25-31
    発行日: 2002/01/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    これまで雪崩実験シュートを用いて測定された,雪塊の壁,杭および小円板に対する衝撃波形は,いずれも衝突直後に最大値が出現して,その後しだいに減衰するというものであった.本報告では,初期密度380kg/m3までの低密度の雪塊の衝撃現象に塑性圧縮理論を適用させ,かつ破砕された雪粒子がその後に及ぼされた衝撃力積により圧密されるという新しい観点を導入することにより,初期密度および衝突速度から衝撃波形を簡便に予測する手法を提案した.またこの際,実測された衝突速度,初期密度および最大衝撃圧から塑性波前面での破砕雪の密度を推定したところ,それは初期密度の1.45倍という直線関係で表されることが判明した.
  • 池田 慎二
    2002 年 64 巻 1 号 p. 33-37
    発行日: 2002/01/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    2000年2月19日,長野県白馬村のガラガラ沢において3名のバックカントリースノーボーダーを犠牲者とする雪崩事故が発生した.事故当時,周辺で滑走していたスキーヤー・スノーボーダーへの聞き取り調査,雪崩破断面での積雪断面観測結果から,こしもざらめ雪およびざらめ雪からなる不安定な層の上に形成されたウインドクラストの層が,事故者の滑走による刺激のため割れてしまったことにより雪崩が発生したと考える.一方,事故当日,事故グループ以外にも同じ沢で滑走していたスキーヤー・スノーボーダーが20人前後いたが,彼らは雪崩を誘発しなかった.事故グループは,現場周辺でも特に積雪が不安定な場所を滑走ルートとして選んだことにより雪崩を誘発したと考える.また,事故前後に行った周辺での積雪断面観測の結果から,事故につながった積雪状態の形成には,雪崩発生域が地形的に風による吹き払いを受けやすく,積雪深が浅い場所であったということが大きく影響していたと考える.
  • 和泉 薫, 小林 俊一, 永崎 智晴, 遠藤 八十一, 山野井 克己, 阿部 修, 小杉 健二, 山田 穣, 河島 克久, 遠藤 徹
    2002 年 64 巻 1 号 p. 39-47
    発行日: 2002/01/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    新潟県北魚沼郡入広瀬村の浅草岳において,2000年6月18日,山菜取り遭難者の遺体搬出作業中の捜索・救助隊がブロック雪崩に襲われて4名が死亡した.ブロック雪崩発生前後の映像解析や現地調査から,発生量は32m3(重量21 ton)と算定され,記録上最大規模のブロック雪崩であることがわかった.この地域の山岳地は近年にない多雪で融雪が約1ヶ月遅れ,気温が上昇した5,6月に多量の残雪が急速に融解した.この災害は,急斜面の残雪が融雪末期のいつ崩落してもおかしくない不安定な状態の時に,その直下で多人数が作業を行っていたため発生したものである.
    運動シミュレーションから,雪渓末端の被災地点における速度は12~35m/s,到達時間は10~33秒と計算された.雪崩に気付くのが遅れたとするとこの到達時間では逃げ切れない.また,雪ブロックの衝撃力は,直径50cmの球形で速度が12 m/sの時でも約3tonfと計算されたので,直撃を受ければ人は死傷を免れないことがわかった.
    また,これまでほとんど研究がされていないブロック雪崩についてその定義を明確にし,過去の災害事例を調べて発生傾向についても明らかにした.
  • 本山 玲美, 柳澤 文孝, 赤田 尚史, 鈴木 祐一郎, 金井 豊, 小島 武, 川端 明子, 上田 晃
    2002 年 64 巻 1 号 p. 49-58
    発行日: 2002/01/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    大気降下物の起源を明らかにするため,東アジア地域の石炭に含まれる硫黄の同位体比を測定し,山形県酒田市で採取した湿性降下物に含まれる非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比と比較検討した.また,日本に到達する空気塊の経路を知るために,酒田市を出発点とした流跡線解析を行い,以下のことが明らかになった.
    (1) 東アジア地域の石炭に含まれる硫黄の同位体比は-27.3~+28.9‰の範囲に分布し,平均値は+4.2±9.6‰であった.
    (2) 北緯30度以南のものは-15~0‰と負の値を取る試料が多く,平均値は+3.8±6.3‰であった.一方,北緯30度以北の試料は0~+15‰の範囲に分布する試料が多く,平均値は+7.4±8.8‰であった.また,北緯39度~42度の大同や北京付近の試料は+15~+30‰と特に高い値を示すものもあり,平均値は+9.6±10.8‰であった.
    (3) 冬季に酒田市に到達する空気塊は極東ロシア,中国東北部,渤海周辺域,北京周辺域を経由したものである.
    (4) 酒田市の冬季降水には極東ロシア,中国東北部,渤海周辺域,北京周辺域を通過した際に取り込んだ化石燃料起源の硫黄酸化物が含まれていると推定される.
  • 粉川 牧, 伊藤 修, 渡辺 大
    2002 年 64 巻 1 号 p. 59-68
    発行日: 2002/01/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    氷を構造材料とする薄肉の曲面板構造“アイスシェル”を冬期間の建築構造物として使用するというこれまでにない新しい試みが1997年以来,北海道はトマムで展開されている.同じ敷地内の一角で,ここ2年間,スパン20mアイスドーム(規模:底面直径約17m,高さ約6.5m)について構造工学的側面からフィールド実験が実施されてきた.この実験は,大規模アイスシェルの建築構造物への適用可能性を探るべく,その実証的研究として行われているもので,本報告は,これらのうちの一つ,2000年2月から4月初めにかけて実施された建設実験及び完成後のクリープ実験をまとめたものである.結果として,型枠空気膜に散雪散水する本工法は5~6日間で建設施工を可能にし,さらに完成したドームの構造性能は,平均鉛直変位速度が3~4mm/dayと小さく,又,崩壊性状は「延性的」であったことから,この規模のアイスドームが建築構造物として適用可能であることを示している.
  • 梶川 正弘, 成田 栄子, 一関 景子, 工藤 貞子, 佐々木 るみ子
    2002 年 64 巻 1 号 p. 69-76
    発行日: 2002/01/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    雪片の構成因子(構成雪結晶の数,形,粒径など)を明らかにするため,雪片を個々の結晶にほぐす方法(分離法)による観測を行い,以下の結果を得た.
    構成結晶数が同じ場合,雪片の粒径は結晶の平均粒径が大きいほど大きくなること,樹枝状結晶は放射状結晶よりも平均粒径が大きいため,大きい雪片を形成することが確認された.
    雪片の粒径は構成結晶の平均粒径をパラメータとして結晶数のべき関数で表され,この関係は構成結晶数10個未満とそれ以上とで異なった.雪片の形状を仮定した簡単なモデルによる考察から,前者の関係は外形が平板状に近い付着の仕方を反映していること,後者は球状雪片に対応していることが示唆された.
  • 松沢 勝, 竹内 政夫
    2002 年 64 巻 1 号 p. 77-85
    発行日: 2002/01/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    吹雪による視程障害の発生状況に関する情報は,ドライバーが安全かつ適切な経路選択を行う上で有効である.道路における視程障害の監視には,視程計が用いられているが,設置個所は一部の箇所に限られており,広域的な吹雪の発生状況を把握するには不十分である.そこで,比較的容易に得られる風速や降雪強度から,視程障害の程度を推定する手法を検討した.最初に,飛雪流量(Mf)と視程(Vis)に関する竹内・福沢(1976)の研究より,視程が3000 m以下のデータから両者にはlog(Vi)=-0.773・log(Mf)+2.845なる関係式が成り立つことを示した.飛雪流量は飛雪濃度と風速の積であることから,次に,飛雪濃度を求める方法を検討した.ここでは,高さ10mでの風速が8.5m/s以上でかつ気温が-2℃未満の条件と,高さ10mでの風速が8.5m/s未満または気温が-2℃以上の降雪時という条件に分けて,風速と降雪強度から飛雪濃度を推定する方法を示した.これらの式を用いた視程の推定結果と実測例とを比較したところ,1000 m以下の視程において,両者は比較的良く一致した.このことは,この視程推定手法が,道路における視程障害の広域監視に十分有効であることを示すものである.
  • 佐藤 威, 阿部 修, 小杉 健二, 納口 恭明
    2002 年 64 巻 1 号 p. 87-95
    発行日: 2002/01/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    携帯式荷重測定器に円板のアタッチメントを取り付け積雪中に貫入させて,貫入中の最大反抗力を測定し,それをアタッチメントの面積で割ることにより,積雪硬度を迅速に求めることができる.積雪硬度の値は,アタッチメントの貫入方向(水平・垂直)や貫入速度(積雪面に貫入する直前の遠度が数cm/s~1m/sの範囲で)にほとんど依存しない.標準アタッチメント(直径15 mm)を使った時の積雪硬度(PR15)と木下式硬度計による積雪硬度(KR)の関係はKR=0.1PR151.5で与えられる.ただし,KR と PR15の単位はkPaで,この式の適用範囲は2≦PR15≦400 kPaである.直径がdmmのアタッチメントを使った場合には,得られた積雪硬度PRからPR15=PR/(0.5+8/d)によってPR15が求められる.ここで, PRとPR15の単位はkPaである.これらの関係式より,携帯式荷重測定器によって測定された積雪硬度を,従来から測定されている木下式硬度計による積雪硬度に換算することができる.なお,本研究で得られた結果は,使用した荷重測定器の応答速度とアタッチメントの貫入深に依存する可能性があることに注意する必要がある.
  • 吹雪災害の要因と構造
    竹内 政夫
    2002 年 64 巻 1 号 p. 97-105
    発行日: 2002/01/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    吹雪は道路を中心に大きな被害をもたらしている.道路における吹雪災害は,人,車,道路が一体となって構成される道路交通の特殊性から,様々な要因が影響し合う複雑な構造を持っている.吹雪災害の防止・軽減対策を組織的,効果的に行うためには,これらの要因と構造を把握する必要がある.
    吹雪災害は,視程障害と吹きだまりが誘因となって,被害対象である人,車,道路・交通に働き災害を発生させている.被害対象にはそれぞれ誘因に対する強弱の素質である素因がある.誘因や素因に働いて被害を大きくする要因もあって拡大要因と呼ばれる.誘因に働く拡大要因は,道路に達する吹雪量を大きくするものがそうで,例えば吹走距離の長い沿道環境がある.素因に働くものは,ドライバーや車の性能を低下させるもので,視覚情報を阻害する道路標識の着雪,車の制動停止距離を短くする雪氷路面などもそうである.これらの要因がどのように関係し合っているかを示すものが吹雪災害の構造である.各種要因を整理し構造を図に示した.
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