雪氷
Online ISSN : 1883-6267
Print ISSN : 0373-1006
64 巻, 4 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
  • 渡辺 興亜
    2002 年 64 巻 4 号 p. 329-339
    発行日: 2002/07/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    東南極大陸,東ドローニング・モードランド,みずほ高原におけるわが国の氷床雪氷観測の歴史について,これまでの40年間に3回にわたって行われた長期・広域雪氷観測計画を中心に,雪氷観測の計画推移とそれぞれの計画における研究成果の概要を示した.またこれらの調査,観測の経験および観測成果から,今後のわが国の極域雪氷観測,研究の方向について検討した.
  • 藤井 理行, 渡邉 興亜, 神山 孝吉, 本山 秀明, 河野 美香
    2002 年 64 巻 4 号 p. 341-349
    発行日: 2002/07/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    南極ドームふじで得られた2503m深の氷床深層コアは,3回の氷期-間氷期サイクルを含む過去32万年の気候および環境の変化を記録している.酸素同位体組成が示す気温変化は,各氷期サイクルで類似した変動を示すが,変動パターンや変動の振幅には,各氷期サイクルで異なる変化も見られた.陸海域起源であるダストや海塩は,氷期,特に氷期の寒冷期に高濃度になり,この時期における大気の南北循環が強かったことを示唆するが,ダスト濃度の変動は海面低下の伴う大陸棚の露出にも依存して変化した.海洋微生物起源の硫化ジメチル(DMS)の酸化により形成されるメタンスルホン酸(MSA)は,氷期に全般に高濃度を示すとともに,そのピークは,栄養塩を補給するダスト濃度のピークに必ずしも同期していない.また,観察された25層のテフラの多くは氷期の寒冷期に見られるとともに,南極あるいはその周辺の火山噴火によることが明らかとなった.
  • 本堂 武夫
    2002 年 64 巻 4 号 p. 351-363
    発行日: 2002/07/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    氷床コアの物理解析研究における最近の成果を,特にクラスレート・ハイドレートの生成過程と氷結晶組織の発達過程に重点を置いて解説する.また,氷床内部における様々な物理過程が,氷床コアから抽出される過去の気候・環境情報にいかなる影響を及ぼすのか,物理過程そのものが新たな情報源となり得るのか,という視点で氷床コア研究における物理解析研究の課題を議論する.
  • 青木 周司, 川村 賢二, 中澤 高清
    2002 年 64 巻 4 号 p. 365-374
    発行日: 2002/07/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    フィルン中では空気成分が重力分離するため,氷床コア中の気泡の空気組成は自由大気のものと微妙に異なる.氷床コアから空気を抽出することにより過去の大気組成の変動を正しく再現するためにはその効果を補正する必要があるが,窒素同位体を用いた補正法について紹介した.また,氷床コア中の気泡とそれを取り巻く氷の年代に大きな差があるため,氷に記録された気候変動に関する情報と気泡から求めた大気組成変動を比較するには,その年代差を正確に決定する必要がある.氷の酸素同位体比から過去の気温変動が推定できるため,気温と積雪涵養量および気温とフィルン層厚の関係から年代差を推定する方法についても説明した.次に,氷床コアから空気を抽出する際に用いる融解法と低温切削法および空気の分析法を紹介した.さらに,南極およびグリーンランドで掘削された氷床コアに上記の方法を適用することにより明らかにされた過去の二酸化炭素やメタン濃度の変動と気候変動の関係について考察した.
  • 高橋 修平
    2002 年 64 巻 4 号 p. 375-388
    発行日: 2002/07/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    南極・東クイーンモードランド地域において,1960年代から続けられてきた表面質量収支観測によると,年間表面質量収支は沿岸部でおよそ250 mm/a(水当量)以上,標高3000 m以上の内陸部では30 mm/a以下の値を示し,白瀬氷河の表面質量収支平均値は約90 mm/aであった.この表面質量収支分布と氷床表面地形図および基盤地形図を用いて,氷床流動の平衡速度を求めたところ,その計算結果は表面流速観測結果とよく一致した.白瀬氷河流域全体の質量収支については,涵養量は15~19Gton/a,氷河末端での流出量の見積もりはおよそ14 Gton/aと見積もられ,収支は正となる.これは,白瀬氷河中流部の表面が低下しているという観測結果と矛盾するが,双方の見積もり誤差のほかに,底面での融解流出,氷床流動の不規則変化等がその違いの要因として考えられる.最近の西南極氷床の研究によると,氷床流動の不規則変動は底面すべりと氷の流動特性の組み合わせで説明され,長い周期変化の場合,ロス棚氷の流出とともに西南極氷床が消失することも説明されている.
  • 東 信彦, 東 久美子, 樋口 敬二
    2002 年 64 巻 4 号 p. 389-395
    発行日: 2002/07/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    1996年に米国により打ち上げられた火星探査機によって火星両極冠の表面地形が詳細に明らかになった.これにより火星極地雪氷に関する研究が急速に進展しだした.これまでドライアイスと考えられていた火星南極氷床もH2O氷でできた氷床である可能性が強いことや,氷床の涵養消耗機構に関する新しい観測結果が続々と発表されている.これらの最新の研究を紹介するとともに問題点や今後の研究の方向性などについて述べる.
  • 目的および最近の成果
    亀田 貴雄, 本山 秀明, 西尾 文彦
    2002 年 64 巻 4 号 p. 397-404
    発行日: 2002/07/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    1997年から2002年にかけて,日本南極地域観測隊は東ドゥローニングモードランドの4地点(H72・MD364・DFS・YM85)において,浅層雪氷コア(50~100m深)を採取した.本稿では,これらのコアの採取目的,掘削地点の特徴,最近の浅層コア解析の成果を紹介する.紹介した成果は,1)H72コアの年代決定法およびその誤差,2)過去164年間におけるH72地点における表面質量収支の経年変動,3)化学主成分から明らかになったH72における堆積環境の変遷,などである.また,今後の浅層コア解析の展望について述べた.
  • 榎本 浩之, 東 久美子, 亀田 貴雄, 藤田 秀二, 本山 秀明
    2002 年 64 巻 4 号 p. 405-414
    発行日: 2002/07/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    日本雪氷学会の極地雪氷分科会の将来計画に関するワーキンググループにおいて,次期の南極観測計画について検討を行った.観測計画は2002年よりの観測開始にむけて準備が進んでいる.研究課題の概要について報告する.
    地球規模の環境変動の研究という視点から南極観測を見直し,優先して推進すべき研究課題の調査を行なった.その中から雪氷研究プロジェクトとして推進するのが望ましい課題の抽出,より良い観測体制などについて検討した.優先すべき研究課題として i)過去70~80万年間の気候変動及び氷床形成史に関する研究,ii)堆積環境,氷床変動に関する研究・過去数百年の環境変動の研究,iii)氷床への物質の堆積及び蓄積機構の研究,iv)氷床内部構造の研究,を推薦し,「氷床―気候系の変動機構の研究観測」として極地研究グループに提言した.
  • 藤田 秀二, 上田 豊, 東 久美子, 榎本 浩之, 亀田 貴雄, 高橋 修平, 古川 晶雄, 松岡 健一
    2002 年 64 巻 4 号 p. 415-425
    発行日: 2002/07/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    近年のデータ通信環境の進歩に伴い,南極雪氷観測データの取り扱いに関しても,その保存・公開方法の見直しが急務となっている.南極研究プロジェクトの努力の結晶であるデータが,将来にわたり価値を保ちつつ研究に活用され,散逸の危険なく安全な保存がなされ,且つ,アクセス権・版権・公開方針が一定のルールのもとで取り扱われる必要がある.こうしたマネジメントの善し悪しが,研究コミュニティーの将来の知的生産性に決定的に影響するため,問題提起と要点の整理を目的として本稿を提出する.各国の事例を参考に,マネジメントに求められる諸機能を分析した.重要な点は,長期に安全に維持運営される必要があること,国家事業として実施されてきた南極観測を対象としたマネジメントであること,それに,研究コミュニティーがこれを実質的に構築し且つ利用者となることである.このため,(1)南極研究機構のなかでデータマネジメント機構を作る体制が望ましい.(2)情報管理の専門性と手間を考慮した場合,専門情報技術者を配置した維持管理が不可欠である.さらに,(3)仕組みが機能するには,研究コミュニティーからのサポートが不可欠である.
  • 大野 浩, Vladimir Ya. Lipenkov
    2002 年 64 巻 4 号 p. 427-431
    発行日: 2002/07/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    これまでの氷床コア研究で,気泡やクラスレート・ハイドレートの分布が気候変動を反映していることが指摘されている.本稿では,空気含有物の分布はどのように気候を反映するか,分布は気候変動の指標としてどんな可能性を持っているか,といった問題を解説する.また,気泡の分布はどのように,どの程度クラスレート・ハイドレートに引き継がれるか,という視点で気泡からクラスレート・ハイドレートへの遷移過程について最近得た結果を紹介する.
  • 山野井 克己, 遠藤 八十一
    2002 年 64 巻 4 号 p. 443-451
    発行日: 2002/07/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    積雪のせん断強度を簡便なせん断試験器を用いて現地測定した.これらの測定値はせん断試験器のフレームサイズ,構造(台形型と円筒型),引っ張り速度,せん断面への垂直荷重の影響を受けることが指摘されている.しかし,本研究で用いたサイズ(0.010~0.025m2)と構造の異なるせん断試験器による測定値に違いは認められなかった.せん断面に垂直荷重が加わっても,粘着性の弱い一部の雪質を除いて,ほとんどの雪質でせん断強度への影響は小さかった.乾いた新雪,こしまり雪,およびしまり雪のせん断強度は,密度のべき乗の関数で示された.乾きざらめ雪のせん断強度も密度のべき乗の関数で示すことができるが,乾いた他の雪質に比べるとせん断強度が小さくなった.乾き密度が等しい雪のせん断強度を比較すると,濡れ雪のせん断強度は乾き雪より小さくなった.含水率が大きくなるほどせん断強度は小さくなり,乾き雪に対する濡れ雪のせん断強度の減少率は体積含水率の指数関数で表すことができた.
  • 広地 武郎, 山田 修一, 白樫 正高
    2002 年 64 巻 4 号 p. 453-460
    発行日: 2002/07/15
    公開日: 2010/02/05
    ジャーナル フリー
    パイプラインにおける氷水混相流の閉塞現象は地域冷房システムにおける冷熱輸送に氷水を利用しようとするとき解決しておかなければならない重要な問題である.
    本研究においては,管路中のオリフィスでの氷粒子の閉塞の機構を探求し,閉塞に関する一つの基準を提案した.また,氷粒子の付着性が“圧密型閉塞”の原因であり,粒子塊の圧縮降伏応力が氷粒子の付着強度の指標であることを示した.
  • 和泉 薫, 錦 仁
    2002 年 64 巻 4 号 p. 461-467
    発行日: 2002/07/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    雪崩を表す言葉が,日本で最初に記載されたのは,1076年に詠われた連歌中でかな文字の「なだれ」であった.日本ではこの平安時代後期頃“なだれ”現象が認識され始めたと推定した.その後室町時代には漢字の「雪頽」が辞書に現れた.これらはいずれも全層雪崩を意味していたと考える.江戸時代中期からは,「アワ」等と呼ばれる表層雪崩が「雪頽」,「ナデ」などの全層雪崩と区別して認識され文書に記載されるようになった.現在一般的に使われている「雪崩」は“なだれ”現象全体を表す言葉であるが,それは明治初頭に国の官林調査で「ナデ」も「アワ」も統一して「頽雪」と書くよう規定したことに由来する.この「頽雪」から現在の「雪崩」までの漢字や書体の変遷には,国が定める当用漢字の変化が大きく関係していることがわかった.
  • 粉川 牧
    2002 年 64 巻 4 号 p. 469-476
    発行日: 2002/07/15
    公開日: 2009/08/07
    ジャーナル フリー
    北海道のトマムにおいて,2001年2月上旬から4月上旬の間,底面直径約25m,高さ約9mのアイスドームの建設実験とクリープ測定を行った.型枠として用いた円形2重平面膜の直径が30mであることから,以後,スパン30mアイスドームと称する.建設施工に要した日数は正味6日間(雪氷基礎リングの施工に2日間,型枠空気膜の建ち上げ及び散雪散水作業で4日間)と極めて短期間でドームを完成し,巨大アイスシェルに対する本工法の施工合理性を実証した.完成後のクリープ実験において,ドーム中央部分の平均クリープ変位の推定値6.5mm/dayは,過去に実験した20 mドームの測定値から予測される値と定量的によい対応を示した.一方,崩壊は外気温が頻繁に0℃を越え,さらにその日平均がプラスとなる日が3日続いた後の4月10日に生じたことから,本ドームは充分な耐久性を有していることが示された.今回の実験から,スパン30m巨大アイスドームの建築的構造物への適用可能性が実証された.
feedback
Top