山岳地域である中央アルプス駒ヶ岳東西尾根において,冬季降水中の化学成分の空間分布を把握するとともに,ひとつの山体を越えてエアロゾルが輸送される過程を,降水中の化学成分の変化を通して明らかにすることを目的として研究を行った.積雪中のnss-SO
42-(非海塩性のSO
42-)濃度とnss-Ca
2+(非海塩性のCa
2+)濃度は,山体西側より東側の方が低い傾向であった.一方, NO
3-濃度は,東西方向による差異は認められなかった.積雪中のNO
3-/nss-SO
42-比は,西尾根より東尾根の方で大きい値を示していた.このことは,東尾根における積雪には,日本列島由来のエアロゾルをより多く含む空気塊によって化学成分が供給されていることを示唆している.山体西側や主稜線付近では偏西風の影響により,西よりの風が卓越しているのに対し,東側では上昇気流により,東よりの風が支配的であった.この上昇気流により,東側低空域から日本列島由来のエアロゾルが,山体東側上部まで輸送・沈着されているものと推測される.
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