米の生産調整対策,いわゆる「減反政策」の結果,現在わが国の休耕田面積は65 .9万haに達し,水田作付け面積の実に30%を占めている。この広大な地域を適切に管理し,有効利用するためには,そこでの物質動態を把握することが重要である。本研究では石川県金沢市において休耕田を湛水状態で管理し,年間(無雪期,5月~12月)の炭素・窒素収支を2年間にわたり調査した。調査地における水生植物による純生産量は400~580gC/m
2/yrで,土壌への炭素蓄積量は170~210gC/m
2/yrであった。表面流出水および浸透水を通して,10~60gC/m
2/yrの溶存有機炭素が調査地から周辺の水域に流出した。有機物の分解にともない放出される炭素量は220gC/m
2/yrと推定された。窒素に関しては,水生植物による窒素の吸収量が15~18gN/m2/yr,土壌への蓄積量が4~22gN/m
2/yr,脱窒量は8gN/m
2/yrであり,調査地を通過する間に9~20gN/m
2/yrの硝酸態窒素=水中から消失した。 本研究の結果,湛水した休耕田は少なくとも湛水開始後数年間は,土壌への有機炭素の蓄積が認められ,炭素のシンクとして機能していること,また同時に周辺水域への溶存有機炭素の供給源となっていることが示された。窒素に関しては,休耕田は,流入水の硝酸態窒素=かなり低濃度でも,土壌への蓄積,脱窒により,水中からの窒素除去機能を保持していることが認められた。
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