現地水田におけるプレチラクロールとベンチオカーブの収支動態を総合的に解明し,考察するための研究を行った。広島県内で稲作を行っている営農形態の異なる3軒の稲作農家(第一種兼業A,第二種兼業B,無農薬専業C)において1996年4月から10月の間,水田,用水,排水の農薬分析,水質測定(用水源,及び排水排出河川も含む)及び調査票による農薬・肥料の使用量,作業時間,収穫量,経済収支調査等を行った。 除草剤に含まれるプレチラクロールとベンチオカーブを農薬成分として選び,その消長をガスクロマトグラフを用いて調べた。田面水中のプレチラクロールが最高濃度を示したのは,農家Aで散布後1-2日目に104-218μg/l,農家Bで1日目に110-465μg/lであった。ベンチオカーブが最高濃度を示したのは,農家Bで散布後5-8日目に5.02-75 .4μg/1であった。検出された期間はプレチラクロールが農家Aで散布直後から22-28日まで,農家Bで11-24日まで,ベンチオカーブでは農家Bで31日までであった。排水によるプレチラクロールの流出量,流出率はそれぞれ農家Aの二つの田で1190mg,1.17%,及び,1120mg,0.82%であった。農家Cの無農薬水田から農薬のベンチオカーブと思われるものが検出され,周辺の慣行栽培水田からの影響(汚染)が認められた。 農家A,Bとも基準量に対する農薬の使用量は,除草剤,殺虫殺菌剤ともほぼ適正であり,肥料の標準的な使用量に対する実際の使用量では元肥より追肥が多かった。農家A,Bの単位面積当りの作業時間では,施肥を除くほとんどの項目で農家Aの方が大きかった。農家Cの作業時間は農家A,Bと比べかなり大きかった。各農家の経費の特徴は,農家Aは肥料,特に土壌改良材の占める割合が大きく,農家Bは農薬の占める割合が大きく,農家Cはほとんどがアイガモの費用であった。各農家の収入/支出の比は,農家A:8.6,農家B:9.5,農家C:31となり,農家Cの作業時間の大きい分は収入によって補償されていた。
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