環境科学会誌
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14 巻, 1 号
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  • 藤田 正憲, 森本 和花, 河野 宏樹, Silvana PERDOMO, 森 一博, 池 道彦, 山口 克人, 惣田 訓
    2001 年 14 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2001/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     水域の富栄養化問題の一対策として,植物の栄養塩類の取り込みによる水質浄化が注目されている。本研究では,これまでに行われてきた植物による水質浄化に関する多数の研究成果を総合的な情報とし,これを利用しようとする者に円滑に提供することを目的として,150以上に及ぶ参考文献と日本国内20ヶ所の水質浄化施設のデータを調査し,46種類に及ぶ植物の栄養塩類の除去速度や余剰植物体の利用方法など,25項目の情報を含む水質浄化植物データベースを構築した。このデータベースは,1998年5月から,インターネット上で公開され(http://5host 03.env.eng.osaka-u.ac.jp),20ヶ月の間に11,000人以上にアクセスされた。現段階では,データベースの情報のみから各種植物による水質浄化の効率を定量的に予測するまではできないが,施設設計のための植物選定の助けとなるばかりでなく,環境教育・啓蒙の道具としても利用できるものと考えられる。
  • 牧野 光琢, 坂本 亘
    2001 年 14 巻 1 号 p. 15-25
    発行日: 2001/01/31
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,京都府沖合海域において定着しつつある,ズワイガニ資源管理型漁業の実証分析を試みた。ズワイガニ底曳網漁業の生産関数分析より,出漁日数当り漁獲金額を増加させるためには,資源管理施策(操業自主規制と保護区設置)の強化が大きな効果を持つことが明らかになった。特に,ズワイガニ禁漁期間中に他魚種を漁獲する際の混獲を防ぐため,漁場の一定割合を底曳網操業禁止にする操業自主規制が,保護区設置の約2倍の効果をもつことが明らかになった。次に,自主規制実施のインセンティブである,各漁業者にとっての漁業利潤の経年変化を算出した。その結果,高い自主規制率と保護区設置策により漁業利潤は大きく改善されたこと,現在の自主規制(規制率97%)は飽和状態にあることなどが推定された。また,操業自主規制に伴う他対象魚種(ハタハタ・アカガレイ)の漁獲減はなかったことも明らかとなった。こうした資源管理施策実施のためには,インセンティブ主導で行われる自主協定団体の働きと,実施を側面的に支持する上での行政・研究機関の役割が重要である。自主協定団体による資源管理型漁業の推進については「海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法)」に対応する国内法である,「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律(TAC法)」においても,その可能性が期待されており,本事例はそのモデルケースとなろう。
  • 浦野 紘平, 高梨 ルミ, 小林 剛
    2001 年 14 巻 1 号 p. 27-38
    発行日: 2001/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本研究では,多数,多様な化学物質の中から優先的に環境安全管理を進めるべき物質を選定する場合およびリスクコミュニケーションを行う場合の参考とするため,人に対する定量的な長期毒性情報から毒性のランクを決定する方法を検討した。まず,ランク分けに利用する情報源の選定とその優先順位の考え方を示し,長期毒性の情報収集を行った。 人に対する曝露は経口曝露と吸入曝露が主であるため,経口長期毒性の定量的情報と吸入長期毒性の定量的情報からランクを決定することとした。まず,情報量が多い米国EPAの参考曝露量RfDの1桁ごとの頻度分布を求め,毒性強度が極端に異なる物質が同一ランクにならないこと,および各ランクに分類される物質数が極端に多すぎたり少なすぎたりしないことが重要と考え,著しく毒性が強い物質を特Aランク,毒性が弱い物質をEランクとする6区分とすることとした。さらに,RfDと他の経口長期毒性情報との関係,およびRfDと吸入長期毒性情報との関係を検討し,吸入と経口のいずれの情報を用いてもほぼ同等の毒性強度で同一ランクとなるようにランク区分を設定する方法を提案した。さらに,収集した経口長期毒性と吸入長期毒性の定量的情報を用いて,のべ1199物質のランク分けを行い,各ランクの物質数からランク分け方法が妥当であることを確認した。
  • 田中 恒夫, 黒田 正和
    2001 年 14 巻 1 号 p. 39-48
    発行日: 2001/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     農用地における硝酸性窒素による土壌・地下水汚染の防止対策は今日の緊急を要する課題である。本研究では,不飽和土壌に対応した電解水素を利用する原位置脱窒法を提案し,汚染土壌・地下水の浄化に対する可能性について検討を行った。実験は,ガラスビーズと生物活性炭を層状に充填した不飽和カラムを用いて行った。電解ユニットはカラムの下端に取り付け,不飽和生物活性炭層に電流0.1Aで水素を供給した。電解によりカラム下端から水素を供給することにより,生物活性炭層において脱窒速度は増大した。これは,電解による水素供給により浸透水の溶存水素濃度が増大し,活性炭付着脱窒細菌の活性が増加したためと考えられた。また,不飽和生物活性炭層における物質移動と脱窒反応(CODと水素の並発反応)を考慮した数理モデルを用いて理論的検討を行ったが,実験結果と同様な結果が得られ,本研究で提案したモデルの妥当性が示された。数理モデルによる理論的検討より,原位置脱窒法において生物活性炭層厚と層内の水素分圧は重要な因子であること,層内の水素分圧が0.1atm以下で浄化効率の変化が著しいこと等がわかった。電解ユニットが設置されている範囲において,電解水素を利用する原位置脱窒法による不飽和土壌浸透水からの硝酸性窒素除去の可能性が示された。
  • 劉 芳, 横田 勇, 仁田 義孝
    2001 年 14 巻 1 号 p. 49-59
    発行日: 2001/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     中国では,1997年から「空気レベルの週間報告」の形で大気汚染の状況を一般向けに公表した際,空気汚染指数(API指数)という環境指標を採用した。この指数は中国の大気環境基準及び人の健康に及ぼす影響によって,汚染物質の濃度から換算される。北部都市ではTSP(総浮遊粒子状物質)汚染が目立ち,西南地域と華北地域東部ではSO2による汚染がひどい。一方,北京,上海と広州のような大都市では,自動車排出ガスによるNOx汚染が大気環境悪化の主要原因物質であることが判明した。API指数を用いて解析した結果から,北京市における主要汚染物はTSP,NOxであり,暖房使用期の汚染は非暖房使用期より著しいこともわかった。いままで,汚染データの情報開示を行わなかった中国にとっては,API指数の公表により,大気汚染の現状がより市民にわかりやすくなった。このことにより,大気汚染の抑制に対する社会的な関心が高まり,政府の大気環境管理の効力がさらに増すことになろう。
  • 中丸 麻由子, 巌佐 庸, 中西 準子
    2001 年 14 巻 1 号 p. 61-72
    発行日: 2001/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     化学物質の毒性が生態系におよぼす影響は,バイオマス,生産速度や物質,特定の生物種の個体数など,さまざまな量に着目して評価されてきた。本論文では,化学物質暴露がもたらす野生生物集団の絶滅リスク上昇を評価する新しい方法を提案する。具体例として,ニューヨーク州ロングアイランドで報告された水域でのΣDDT濃度(DDT派生物質の総濃度)がセグロカモメ(Larus argentatus)集団に対しておよぼす影響を試算した。 セグロカモメは食物網の頂点にいるため生物濃縮の効果が大きい。また絶滅リスクについては,確率微分方程式モデル(カノニカルモデル)にもとついた期待存続時間の理論式を使用するが,そこに含まれる3つのパラメータ,内的自然増殖率(個体群全体の増殖率),環境収容力(生息地にいる個体数),環境変動の強さ,を知り,さらにDDT暴露がもたらす世代当たりの生存率低下をΣDDT濃度の関数として推定する必要がある。 内的自然増加率は,ニューイングランドの新しい生息地に侵入したセグロカモメ集団の倍加時間から計算した。環境変動の強さは個体数変動の幅から推定した。DDT暴露がもたらす世代当たり生存率低下は,環境中の生物濃縮係数,別種の鳥を用いた卵中ΣDDT濃度とヒナの生存率低下の関係などの情報を,齢構成のある個体群動態モデルを用いて統合し,マルサス係数の低下量として推定した。これらにもとついて環境中ΣDDT濃度と期待存続時間の減少分の関係式を求めた。 ある化学物質による暴露量について,それと同じだけの期待存続時間の減少をもたらす生息地の減少率を「リスク当量」とする。たとえば合衆国のロングアイランドで1960年代にDDTが500羽のセグロカモメ集団にもたらしたリスクは,生息地を36%縮小するものに等しい。リスク当量として表現すると,化学物質への暴露がもたらすリスクの大きさを直観的に把握する上で分かりやすい。リスク当量は生態リスク評価や化学毒性管理においてきわめて有用である。
  • 山内 俊彦, 亀井 康孝, 伊藤 伸一, 古川 行夫, 峰原 英介
    2001 年 14 巻 1 号 p. 73-76
    発行日: 2001/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     約100種類の同族体・異性体を含むPCB試料にCO2レーザーを照射した。レーザー出力5W及びパルス幅80μsのレーザーを30分間照射,質量分析型ガスクロマトグラフィ(GC/MS)の測定からPCBの分解効率は88.7%であった。
  • 游 松財, 高橋 潔
    2001 年 14 巻 1 号 p. 77-90
    発行日: 2001/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     気候変動により引き起こされる影響を軽減するために適応策が有効であることはこれまでにも度々言われてきたが,その性質や具体的なプロセスに関する理解はいまだ乏しく,農業影響の評価に際して適応の効果はかなり簡略化された形で取り扱われるのみである。不確実性の高い将来の気候変動に対する最適な適応策の決定は困難であるが,次善の方法として,現状気候下での気候の変動性に対する適応能力を高め,突発的な異常気象に対する脆弱性を減少させることができる適応策をまず選択することが考えられる。 農業影響への適応策の選択肢は挙げられてきているが,それらの適応手段のうちどれがいつとられていくべきかという評価は多くは行なわれていない。そのような評価には,適応手段の費用便益分析が重要であるが,システマティックに行なわれた例はいまだない。
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