酸性霧による植物影響を調べるため,人工的に酸性霧水液を調製し,暴露チャンバー内でポット植えした3年生スギ苗の地上部に暴露した。葉内の成分分析から次のような結果を得た。
1. 霧水液のNH
4+,NO
3-の濃度に比例して葉内のNH
4+-N,NO
3--Nの濃度も増大した。一方,葉内のMg,Ca濃度は霧水液中の窒素(NH
4++NO
3-)濃度が3meq/1までは増加するが,それより高い濃度域では低下した。葉のNH
4+,NO
3-の吸収,Mg,Caの溶脱はpH3.0>4.5であった。
2. 葉の栄養状態を示す指標とみなせるN/Mg,N/Caをみると,対照木では各々0.072~0.101,0.024~0.026に対し,窒素の高濃度暴露域で各々0.247,0.087とその比は2~3倍大きくなった。このとき同時に葉が黄褐色化を呈することを観察した。
3. 各地の山地から採取した樹葉の成分分析の結果,樹木衰退が観察されている関東地方赤城山から採取したスギ葉のN/Mgは0.114~0.273,N/Caは0.025~0.043となり,いずれも衰退の見られない芦生に比してその比が2~3倍高かった。これは,NH
4+の取り込みに伴う栄養状態の不均衡が既に生じていることを示していると考える。
以上のことから,酸性霧による植物への影響は強酸性度によりもたらされる影響(葉面からのMg・Caの溶脱)と,高濃度の窒素の供給によりもたらされる影響(NH
4+,NO
3-成分の過剰吸収)の2つの側面を持つことを明らかにし,これらの両反応が植物体内における窒素(NH
4+-N+NO
3--N)とMg,Caの比で示される栄養状態の不均衡を引き起こすことにより,生理的な機能障害がもたらされるものと考えた。
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