環境科学会誌
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15 巻, 6 号
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  • 永淵 修, 井上 隆信, 海老瀬 潜一, 浮田 正夫
    2002 年 15 巻 6 号 p. 389-398
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    ダム湖における農薬モニタリングの問題点を検討するためにRダム湖流域で行った農薬調査の結果を解析した。水田に施用された農薬の河川流出特性およびダム湖内挙動を解析した結果,以下のことが明らかになった。農薬の水環境への流出濃度・負荷量は,散布後の経過日数,散布後の降雨のタイミングとその大きさ,農薬の水溶解度等に左右されていることが流出特性として明らかになった。さらに,水田かんがい期におけるRダム湖では,温度躍層を形成しており,農薬を含んだ流入河川水はダム湖に流入すると,この時期の等密度層(等水温層)である中層に進入する。すなわち,中層を水平方向に流下運動する中層密度流を形成する。したがって,ダム湖内での農薬濃度の鉛直分布は,中層に濃度ピークを持つパターンであった。ここに,湖沼,ダム湖における農薬の環境モニタリングの問題点が提起される。すなわち,湖心あるいはダムサイト部分の表層水のモニタリングだけでは農薬濃度が過小評価になる危険性がある。このように,成層を形成するダム湖に流入する農薬は中層に高濃度で存在するため,湖沼あるいはダム湖での農薬モニタリングは,時間的・空間的な調査が重要である。
  • 中島 常憲, 福山 秀人, 光永 弘幸, 高梨 啓和, 前田 滋, 大木 章
    2002 年 15 巻 6 号 p. 399-406
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     毒性が強く,環境中からの検出頻度も比較的高いアンチモンについて,まず,三酸化アンチモンと五酸化アンチモンの分別定量について検討した。その結果,前処理を必要としない測定溶液の場合においては,水素化物発生原子吸光法を適用することにより,85%以上の高回収率,変動係数10.5%以下の優れた再現性で酸化数別に定量することが可能であった。既往の研究では,水溶性が高く分析が簡易な酒石酸アンチモニルカリウム,三塩化アンチモン,ヘキサヒドロキソアンチモン酸カリウムを用いた検討が多く行われてきたが,これらの化合物は生産量が少なく,実際に環境中に放出されている量も少ないと考えられる。本研究により,実際に生産・使用されている化学形態のアンチモン化合物について,測定溶液の場合には,酸化数別に定量分析することが可能であることを確認した。しかし,生体試料中アンチモンの酸化数別定量についても試みたが,生体試料のように酸分解などの前処理が必要となる場合には,酸化数別定量を行うことはできなかった。 さらに,生体試料において,全アンチモン濃度の定量を行う際の前処理法について,アンチモンが比較的高濃度に存在する系において検討を行った。この際,環境試料中に多く見られる塩素が負の妨害を与えることが明らかになったので,生体試料に硝酸を添加してホットプレートによる加熱分解処理を行った後,酒石酸を添加しアンチモンを安定化することにより,96%以上の高回収率で生体試料中の全アンチモン濃度を定量分析できることを明らかにした。 以上の方法を用いて,アンチモンに曝露した3種の淡水産生物中の全アンチモン濃度を測定した結果,飼育培地中のアンチモン濃度の増加とともに各生体中の全アンチモン濃度の増加が認められた。
  • 山田 亜矢, 小野 芳朗, 貴田 晶子, 並木 健二
    2002 年 15 巻 6 号 p. 407-414
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     汚染土壌を直接摂取した場合のリスクを含有量の把握により評価することは,過大評価へとつながる可能性がある。そこで,胃腸管内に汚染土壌等が曝露された場合に,胃腸管内において有害物質がどの程度溶出して吸収されるかというbioavailabilityの概念が必要であると考えられる。この概念に基づき,in vitro試験を検討し,胃,及び小腸における道路塵埃中の有害重金属の溶出濃度を検討した。その結果,液固比を100とし,胃条件と小腸条件のpHはそれぞれ2.0と7.0とし,有機酸と酵素を添加して抽出液を再現することを決定した。この試験により胃条件において溶出した道路塵埃中の有害重金属は,小腸条件に至るとその溶出濃度が減少することが示された。
  • ―汚染物質含有量の地域差と樹脂種による相違―
    間藤 ゆき枝, 高田 秀重, ザカリア モハマドパウジ, 栗山 雄司, 兼広 春之
    2002 年 15 巻 6 号 p. 415-423
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     海岸漂着物中にレジンペレット(以下ペレットと略す)という直径0.5cm前後のプラスチック小粒が存在する。ペレットはプラスチック製品の中間原料であり,プラスチックは化学工場でレジンペレットとして粒状に重合製造され,成形工場に輸送されて製品に成形される。生産・輸送過程でペレットは環境中に漏出し世界中の海岸に漂着していることが報告されている。また,鳥類がこれを誤食して筋胃に蓄積することも報告されており,生物影響が懸念されている。著者らは前報で,ポリプロピレン(PP)製ペレットが海水からPCB及びDDEを吸着し海水の約百万倍の濃度に濃縮していること,プラスチック添加剤由来と考えられるノニルフェノール(NP)を高濃度に含有していることを明らかにし,ペレットが鳥類等の海洋生物への汚染物質輸送媒体になっていることを指摘した。本報ではPP製ペレットに加えてポリエチレン(PE)製ペレットの分析法を確立し,環境試料に適用した。日本の12海岸とマレーシアの7海岸で採取したペレットからは,PCB:1.2~890(ng/g),DDE:0.088~1600(ng/g),多環芳香族炭化水素類(PAH):0.047~8.8(μg/g),NP:0.018~17(μg/g),オクチルフェノール(OP):0~41(ng/g)が検出された。PCB,DDE,PAHは海水から吸着したものであり,濃度及び組成は両国の海洋汚染状況を反映していた。環境中から採取したペレットの分析結果と吸着実験の結果から,PEはPPに比べ疎水性汚染物質に対する吸着力が強く周辺海水から疎水性汚染物質をより多く吸着することが明らかとなった。一方PPは吸着力が弱いにも関わらず,NP,OPをPEより多く含有していた。これはPPにNP,OPの起源となるプラスチック添加剤がより多く添加されるためと考えられた。本研究の結果からペレットの生物への潜在的なリスクは,対象水域の汚染状況とペレットの種類により大きく異なることが明らかとなった。また,ペレットが周辺海水から疎水性汚染物質を吸着すること,その吸着量が水域の汚染状況を反映していることから,ペレットが海洋環境モニタリングの媒体として使える可能性が示唆された。
  • 清水 啓右, 富田 賢吾, 鶴 達郎, 酒井 康行, 迫田 章義
    2002 年 15 巻 6 号 p. 425-431
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     近年,大気中の浮遊粒子状物質(SPM)のヒト健康影響が懸念されている。環境汚染物質の人体影響を簡便に評価する手法として,培養細胞などを用いたバイオアッセイ手法が注目されているが,大気環境評価への適用を目指した研究はあまり進んでいない。そこで本研究では,浮遊粒子状物質の簡便かつ迅速なバイオアッセイ手法の確立を最終目的として,ヒト肺胞上皮由来細胞の気液界面培養に基づくバイオアッセイの可能性について検討を行った。この培養方法を用いると,粒子がヒト肺胞上皮に直接的に接するという実際の曝露形態を再現できる。ディーゼル排ガス中に含まれる化学物質の1-ニトロピレンを炭素粒子に吸着させたモデル浮遊粒子状物質を調製し,気液界面培養された細胞層に負荷,1週間後の生存率を測定した。その結果,異なる径の粒子について,負荷量と生存率の間の用量作用関係を得ることができたことから,本手法による浮遊粒子状物質の毒性評価が可能であることがわかった。また,溶出した1-ニトロピレンの1週間後の膜透過率は,初期負荷量の15~20%露形態を模倣可能であり,また体内への取り込み量をも評価可能であることから,SPMの優れた影響評価法に発展可能である。
  • ペッ ペンシャイ, 中島 典之, 古米 弘明
    2002 年 15 巻 6 号 p. 433-442
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     水環境への道路側溝堆積物の雨天時流出は,重要なPAHs汚染経路の一つであり,その流出を制御するためには,堆積物中のPAHsの起源解析や各起源の寄与率を知ることが重要となる。そこで,本研究では,自動車排出物(ディーゼル車およびガソリン車),タイヤおよび舗装材を,道路側溝堆積物中の主たるPAHs起源として取り上げ,入手した試料の分析値(22データ)と文献値(64データ)計86データを対象に,16成分のPAH組成比(プロファイル)をもとに,クラスター解析によって6グループに類型化した。タイヤ全8試料は,単一のグループ(S1)として明確に他の起源試料と区別され,平均値としてPyreneが43.5%, Benzo (ghi) peryleneが18.9%となり,両者を多く含有する点が特徴であった。舗装材は,2つのグループ(20%以上を占めるPAHs成分がないS2とPhenanthrene, Pyrene, Fluorantheneの合計が全体の75%以上に達するS3)に別れて類型化された。S2とS3のほとんどは,舗装材と粒子状のディーゼル車排出物試料により構成されていた。ガソリン車排出物はS4~S6の3つのグループに別れて類型化され,Naphthaleneを多く含む点において明確に他の3グループと異なっていた。 都内の側溝堆積物4試料のPAHプロファイルを対象に,重回帰分析によって類型化された各起源グループ(S1~S6)の寄与率を求めた。環七通りの2試料はともに起源グループS1の寄与が大きく,50%以上を占め,S2と合計すると80%を超えた。一方,桜田通りでは起源グループS2の寄与率が全体の75%以上を占めた。起源グループS1とS2に含まれる起源試料から判断して,環七通りではタイヤ,桜田通りでは舗装材またはディーゼル排出物に由来するPAHsが側溝に多く存在している可能性が示唆された。
  • 毛利 紫乃, 小野 芳朗, 宗宮 功
    2002 年 15 巻 6 号 p. 443-452
    発行日: 2002/11/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     環境試料の毒性モニタリングにおいては,簡便,迅速な前処理法の検討やトラブルシューティングを含め,普及を前提とした試験系の適正化・標準化が必要である。本研究では排水処理プロセスの遺伝子毒性モニタリング法としてumu試験の手法の検討を行い,実際の排水モニタリングに適用した。試験法の適正化では,標準物質を使用して,前培養後の菌体を濃縮し試料に投入するumu試験菌体濃縮法を検討し,試料添加量増大による高感度化,菌体量調整による精度ならびに操作性の向上を図った。従来,環境研究における試験管内での遺伝子毒性試験では,毒性物質群の検索研究や検出感度の問題の解決のために固相吸着による数百~数千倍の濃縮法が汎用されている。それに対し,本研究では化学物質分析を補完する第一次スクリーニング法としてumu試験を捉え,環境試料の前処理法に関する検討を行った。その結果,これらの固相吸着試料ではumu試験の操作上,懸濁物質に由来する吸光度の増大による偽結果の問題が起こりうることを指摘し,吸光度測定による濁度補正が必要かつ有効であること,また,普及ならびにより多くの物質の評価が目的であるとして簡易,かつ選択性の低い毒性検出には数十倍を上限とした減圧濃縮がより適していることを示した。さらに減圧濃縮,マイクロプレートを使用したumu試験菌体濃縮法による生活系排水処理プロセスの遺伝子毒性モニタリング結果から,排水中に検出される毒性が一般的な生物処理によって低減していることを示し,改善法の有用性を確認した。
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