毒性が強く,環境中からの検出頻度も比較的高いアンチモンについて,まず,三酸化アンチモンと五酸化アンチモンの分別定量について検討した。その結果,前処理を必要としない測定溶液の場合においては,水素化物発生原子吸光法を適用することにより,85%以上の高回収率,変動係数10.5%以下の優れた再現性で酸化数別に定量することが可能であった。既往の研究では,水溶性が高く分析が簡易な酒石酸アンチモニルカリウム,三塩化アンチモン,ヘキサヒドロキソアンチモン酸カリウムを用いた検討が多く行われてきたが,これらの化合物は生産量が少なく,実際に環境中に放出されている量も少ないと考えられる。本研究により,実際に生産・使用されている化学形態のアンチモン化合物について,測定溶液の場合には,酸化数別に定量分析することが可能であることを確認した。しかし,生体試料中アンチモンの酸化数別定量についても試みたが,生体試料のように酸分解などの前処理が必要となる場合には,酸化数別定量を行うことはできなかった。 さらに,生体試料において,全アンチモン濃度の定量を行う際の前処理法について,アンチモンが比較的高濃度に存在する系において検討を行った。この際,環境試料中に多く見られる塩素が負の妨害を与えることが明らかになったので,生体試料に硝酸を添加してホットプレートによる加熱分解処理を行った後,酒石酸を添加しアンチモンを安定化することにより,96%以上の高回収率で生体試料中の全アンチモン濃度を定量分析できることを明らかにした。 以上の方法を用いて,アンチモンに曝露した3種の淡水産生物中の全アンチモン濃度を測定した結果,飼育培地中のアンチモン濃度の増加とともに各生体中の全アンチモン濃度の増加が認められた。
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