1999年の5月から10月に日光国立公園尾瀬の周辺,群馬県沼田市から利根郡鳩待峠までの国道および県道より道路粉塵を採取し,V,Cr,Ni,Cu,Zn,Cd,Pt,Pb濃度を測定した。その結果,Ptを除く元素で,山岳部である鳩待峠から近隣の都市部と位置付けた沼田市にかけて濃度が上昇する傾向が認められ,交通量との関係が推察された。山岳部においても,渋滞が頻発する分岐点津奈木付近は,都市部と同レベルの元素濃度が認められ,Pb,Cd,Znで顕著であった。また,ほとんどの元素は,夏山シーズンである9月および7月に最高濃度を示し,入山者が使用する自動車の影響が窺われた。 調査地全域の道路粉塵でPb,Zn,Cu,Cd,Ni,Cr,V濃度間に有意な相関が認められた。このことは,これら元素が類似した起源から放出された可能性を示唆している。また,都市部と山岳部では元素間関係が異なる地域差も認められ,さらに,夏期の尾瀬周辺には,特定の元素組成をもつ比較的大きな汚染源の存在を示唆する季節変動も確認された。 これら重金属類の地理的分布や季節変動は,本地域の交通量および入山者数の変動と類似しており,自動車走行に起因した汚染である可能性が推察された。さらに,山岳部においても観光地は,時期や地点によって都市部と匹敵する重金属レベルを示すことが明らかとなり,本調査地で問題となっている観光客のオーバーユース(過剰利用)がもたらした現象とも捉えるごとが出来る。本調査を実施した1999年は,片品村戸倉から鳩待峠においてマイカー規制の強化が行われ,入山者数が減少した特殊な年である。その後,2000年は規制の緩和が実施され入山者数は回復の兆しをみせた。つまり,本研究は自動車による影響が最も軽度であった年でさえ,調査地の沿道環境に重金属汚染が存在したことを明らかにしており,観光地の自動車利用を再考する必要性を示していよう。
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