環境科学会誌
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16 巻, 4 号
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  • 碓井 健寛
    2003 年 16 巻 4 号 p. 271-280
    発行日: 2003/07/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本研究は,従量制有料化にともなうごみ減量効果を,従来行われていなかった町村部も含めた全国3,230市町村のデータを用いて検討した。平成8年度に従量制有料化を導入している国内の全自治体を対象に指定袋価格の聞き取り調査を行った。その指定袋価格の水準がごみ排出に与える影響を推計した結果,価格が1%上昇するのに伴い,ごみが0.119%減少することがわかった。ごみ排出量に対する価格弾力性の決定要因を検討した結果,所得が低く,収集頻度が少なく,資源ごみ分別数が多いほど有料化政策は成功すると予想される。弾力性推計式を用いて,有料化が導入されていない自治体も含めた有料化導入効果を全国3,230自治体について予測した。
  • 桑垣 玲子, 清水 綾子, 浦野 紘平
    2003 年 16 巻 4 号 p. 281-292
    発行日: 2003/07/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     環境汚染物質排出・移動登録(PRTR)の実施を契機として情報公開とリスクコミュニケーションの重要性が高まっているが,主体間の認識の違いが十分に理解されておらず,相互の誤解と不信感が生じる可能性がある。そこで,認識の違いが想定される市民,行政担当者,企業担当者,化学者に対して,化学物質の環境リスク管理と化学物質情報の入手に関する認識・要望のアンケート調査を行った。その結果,情報公開・提供に関する項目については,いずれの主体も情報公開・提供の充実の必要性を強く認識しており,行政と企業が有害性情報をわかりやすく情報公開・提供することが望まれていた。また,市民はマスコミからの情報入手が多く,書籍やインターネット等を活用している他主体との差がみられた。このため,受け手に応じた情報提供方法が必要であると考えられた。規制に関する項目については,いずれの主体もリスク低減対策の必要性を認めていたが,とくに市民からの要望が高かった。市民は行政に不満を持ちつつも行政による有害化学物質の規制措置を望んでおり,一方,企業は規制に消極的で自主管理を望んでおり,規制・対策方式について市民と企業との認識の差が大きいことなどが明らかとなった。
  • 亀山 康子, 久保田 泉
    2003 年 16 巻 4 号 p. 293-304
    発行日: 2003/07/31
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     欧州は,気候変動問題の重要性が指摘され始めた1980年代以来今日に至るまで,同問題への国際的取組みにおいて指導的役割を果たしてきた。しかし,欧州以外の先進国がより慎重な対策を主張した中で,欧州だけがそのような態度を10数年間にわたって構築し続けて来られた理由について,十分な研究はなされていない。本研究では,欧州諸国の中でとりわけ主要な地位を占めるオランダ,ドイツ,イギリス,そして欧州連合(EU)に関し,過去10数年間の気候変動問題に対する政策決定を政治制度の点に注目して説明した。 その結果,各国の決定の背景にある政治制度として,(1)オランダでは,環境大臣をはじめとする政治家の個人的アピールを必要とする選挙制度や,産業界や環境保護団体を含めたコンセンサス形成を重視した政策決定が挙げられた。(2)ドイツでは,世論の関心の増減を忠実に反映する比例代表制の政治制度や,州に政策立案の権限を与えている連邦制度が挙げられた。(3)イギリスでは,環境問題で自己アピールするインセンティブを生みづらい小選挙区制の選挙制度や,議会よりも関連省庁が実質的な気候変動対策を決定する政策決定手続きが挙げられた。(4)EUでは,徐々に強まる欧州統合に向けた動きとそれによる欧州委員会の政策決定能力の向上が挙げられた。 今後,欧州統合に向けた諸手続きの変化や加盟国からEUレベルへの決定権の移行がさらに顕著になると予想されるが,その時,今までの国際交渉で見られたような欧州各国の強硬な積極性は薄れ,代わりに,欧州委員会を主体としたより現実的な決定が主体となるシナリオが,本研究の結果から導き出せた。
  • 井山 慶信, 張 允鍾, 鄭 桓祷, 金 載分, 早瀬 光司
    2003 年 16 巻 4 号 p. 305-316
    発行日: 2003/07/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     環境負荷の削減は,あらゆる組織で取り組むことによって全体として大きな効果をもたらせるため,一部の大企業だけでなく小規模な組織でも容易に行える環境マネジメントシステムが必要とされている。 そのため本研究では,ISO14001の認証取得が困難な小規模オフィスにおいて,可能な限りISO14001の規格に沿った環境マネジメントシステムで低負担なものを立ち上げ,問題点や利点を解明し,その対応策を提示し,継続的かつ実質的に機能させることを目的とした。また,LCAや環境負荷削減取り組みのシミュレーションを実施し,「取り組み達成率」という他の組織と比較可能な指標による環境パフオーマンス評価を行い,継続的改善による効果を考察することも目的とした。 広島県の企業11社において,ISO14001の規格に沿った環境マネジメントシステムを立ち上げた。環境側面を紙に限定し,導入部・系内・送出部の重要な要素について一週間運用を行った。運用終了後,経営層による見直しとして,環境パフォーマンス評価などの結果報告を行った。従業員の少ない企業ほど環境負荷削減の取り組み達成率が高いという傾向があった。 継続的改善を行うため,11社に対し環境マネジメントシステムの再構築を依頼し,4社で実施することができた。目的・目標として,可能な範囲でコピー用紙使用量を減らしたり分別資源化を積極的に行うなどの取り組みの改善を求めた。また,前回不適合が生じる原因であった,責任の所在に関する部分をさらに明確にした。その結果,4社ともコピー用紙の使用量は減少し,ごみに関しても排出量の減少や資源化の促進など,環境負荷の削減という目的・目標は達成され,環境マネジメントシステムの継続的改善の有効性を実証することができた。 ISO14001の規格に沿いながら,低負担な環境マネジメントシステムの有効性や課題についても洗い出すことにより,企業や家庭などの様々な組織で運用可能な低負担の環境マネジメントシステムについて提案することができた。
  • 渡邉 泉, 寳來 佐和子, 新井 雄介, 久野 勝治, 林 光武, 谷地森 秀二, 國頭 恭, 田辺 信介
    2003 年 16 巻 4 号 p. 317-328
    発行日: 2003/07/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     2000年7月に栃木県で大量死したムクドリ18検体の肝臓と筋肉の多量および微量元素分析(Li,Na,Mg,K,V,Cr,Mn,Fe,Co,Cu,Zn,Se,Rb,Sr,Ag,Cd,Cs,Ba,Tl,Pb,BiおよびU)を行い,異常死と強毒性元素との関係,さらに大量死した個体群が,その元素蓄積において特徴的なパターンを有するか検討を試みた。供試個体の体重は,1997年に長野県松本市で大量死した同種に較べ,明らかに軽く,死亡前の衰弱がうかがえた。大量死したムクドリは,これまで報告された魚食性の海鳥類やPb中毒が疑われた猛禽類に較べ,V,Cr,Mn,Cu,Zn,Se,Sr,Ag,CdおよびPb濃度が低かった。一方で,比較のため分析された7種の健常なスズメ目に較べV,Ag,Cs,TlおよびPbの高レベル蓄積が,筋肉および肝臓ともに認められた。 大量死したムクドリは元素濃度間の関係において,健常な他のスズメ目の鳥種に較べ,Cd-ZnやCs-Tlなど,明らかに異なる幾つかの相関を示した。これらの特徴的なパターンは,上述の高値が確認された元素に加え,生物蓄積性が高い強毒性元素やアルカリ・アルカリ土類金属を含む15元素間で認められ,本試料の特徴と考えられた。 本報において分析された生体微量元素の中に大量死の直接的な原因が疑われる物質を特定する結果は得られなかった。しかし,TlやAgといった強い毒性を有する金属の高レベル蓄積や,健常なスズメ目の鳥種と異なる元素間関係を示したことは,今後,生態系で進行する異常の検知に生体微量元素の解析が利用できる可能性を示唆していると考えられた。
  • ―70年代の紙パルプ産業を事例として―
    中野 牧子
    2003 年 16 巻 4 号 p. 329-338
    発行日: 2003/07/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     技術進歩は環境政策によって発生する費用を軽減するための鍵の一つとなる可能性がある。そこで本研究では,技術進歩を実現するための基礎となる研究開発活動に着目し,日本の環境政策が研究開発活動を誘発するタイプのものであったかどうかを分析した。日本ではデータの制約のために実証研究は少なく,特に企業別データを用いての分析は,まだ行われていない。本研究では,有価証券報告書を詳細に調べることでデータ制約への対応を試みた。環境規制強度の代理変数として,公害防止投資支出を採用し,日本の環境政策の土台が形成された1970年代の紙パルプ産業に焦点をあて,企業別データを利用した分析を行った。その結果,1970年代の紙パルプ産業においては,環境規制強化によって,研究開発活動が誘発されたことが明らかとなった。
  • 大塚 直
    2003 年 16 巻 4 号 p. 347-351
    発行日: 2003/07/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     遺伝子組換え生物のバイオセイフティに関するカルタヘナ議定書は生態系に関する不確実ないし未知のリスクを問題とし、予防的アプローチを採用している点に特色がある。「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律案」では、封じ込め使用(第2種使用者)とそれ以外(第1種使用者)に分けつつ基本的には主務大臣の承認を必要とすること、学識経験者の意見を聴き主務大臣が影響のおそれを判断すること、国民の意見を聴取すること、承認にあたってリスク便益分析は採用されなかったことなどの特色がある。なお、遺伝子組換え生物による環境損害の未然防止をいかにして担保するかは今後の課題として残されたと思われる。
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