2000年7月に栃木県で大量死したムクドリ18検体の肝臓と筋肉の多量および微量元素分析(Li,Na,Mg,K,V,Cr,Mn,Fe,Co,Cu,Zn,Se,Rb,Sr,Ag,Cd,Cs,Ba,Tl,Pb,BiおよびU)を行い,異常死と強毒性元素との関係,さらに大量死した個体群が,その元素蓄積において特徴的なパターンを有するか検討を試みた。供試個体の体重は,1997年に長野県松本市で大量死した同種に較べ,明らかに軽く,死亡前の衰弱がうかがえた。大量死したムクドリは,これまで報告された魚食性の海鳥類やPb中毒が疑われた猛禽類に較べ,V,Cr,Mn,Cu,Zn,Se,Sr,Ag,CdおよびPb濃度が低かった。一方で,比較のため分析された7種の健常なスズメ目に較べV,Ag,Cs,TlおよびPbの高レベル蓄積が,筋肉および肝臓ともに認められた。 大量死したムクドリは元素濃度間の関係において,健常な他のスズメ目の鳥種に較べ,Cd-ZnやCs-Tlなど,明らかに異なる幾つかの相関を示した。これらの特徴的なパターンは,上述の高値が確認された元素に加え,生物蓄積性が高い強毒性元素やアルカリ・アルカリ土類金属を含む15元素間で認められ,本試料の特徴と考えられた。 本報において分析された生体微量元素の中に大量死の直接的な原因が疑われる物質を特定する結果は得られなかった。しかし,TlやAgといった強い毒性を有する金属の高レベル蓄積や,健常なスズメ目の鳥種と異なる元素間関係を示したことは,今後,生態系で進行する異常の検知に生体微量元素の解析が利用できる可能性を示唆していると考えられた。
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