環境科学会誌
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17 巻, 4 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 原 美永子, 中澤 克仁, 片山 恵一, 坂村 博康, 安井 至
    2004 年 17 巻 4 号 p. 263-274
    発行日: 2004/07/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     鉛はんだを含有する使用済み家庭用電気製品の廃棄に伴うエネルギー消費と鉛の環境中への放出について,家電リサイクル法の4品目に含まれない家庭用小型電気製品を仮定し,廃棄物分別と処理形態ごとに配分計算した。大気拡散シミュレーション手法により鉛はんだを含有する家庭用小型電気製品を廃棄したときに環境中に排出される鉛の環境影響の推算を試みた。大気中微粒子濃度としては,不法焼却地点の煙源付近における最大値で都市大気のバックグラウンド値の1/1,000から1/100程度,また人体影響としてはバックグラウンド値の1/100,000,000から1/1,000,000程度であると推算された。人体への影響は煙源付近においても充分無視できる程度に小さいと推測された。また鉛はんだ回収プロセスを仮定し,現状に組み込んだ場合について同様の推算を行った。
  • 稲冨 素子, 牛久 保明邦, 小泉 博, 岩城 英夫
    2004 年 17 巻 4 号 p. 275-285
    発行日: 2004/07/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     東京農業大学奥多摩演習林内のカラマツ林を対象に,樹幹流と林内雨中の全フェノール溶出濃度と溶出量を測定した。調査は1996年12月から1998年11月までの2年間にわたり毎月1回行われた。 樹幹流と林内雨を比較すると,全フェノール溶出濃度は樹幹流のほうが高いものの,流下する水量が林内雨よりはるかに少ないため,全フェノール溶出量は林内雨のほうが多かった。試験木から溶出したフェノール物質の量は林内雨,樹幹流とも降水量の多い時期に多かったが,降雨中のnss-SO42- やNO3- 沈着量の変動とは明瞭な関係を示さなかった。 全フェノール濃度を測定した試料の内1998年6月の試料中の14種類のフェノール物質についてそれらの濃度を調べたところ,6種類のフェノール性酸が検出された。試料中に含まれるフェノール性酸濃度は10-7Mと低いものの,既往の研究において野外で他感作用を引き起こす程度の濃度レンジであった。
  • 中地 重晴
    2004 年 17 巻 4 号 p. 295-303
    発行日: 2004/07/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     全国各地でダイオキシン類やPCBによる土壌汚染や有害廃棄物の不法投棄が問題になっている。汚染土壌等の処理をめぐっては,安全性等に関して住民の不信感が根強く,処理の実施は難航しているところが多い。その中で,公害調停で住民が合意し,オンサイトでの汚染土壌や廃棄物の無害化処理が行なわれ始めた香川県豊島,和歌山県橋本市,大阪府能勢町の事例について無害化処理の進行状況を比較し,住民参加型のオンサイト処理のために,必要な要件をまとめた。その結果,無害化処理の三原則と呼ばれる(1)安全性(二次公害を出さない),(2)確実性(安定した処理技術),(3)住民関与(住民参加,情報公開を原則にした処理の実施)の三原則が必要条件であることを見出した。特に,住民関与を保証するためには,関係者によるリスクコミュニケーションが不可欠であることが重要である。このリスクコミュニケーションが円滑に行われるためには,理系研究者の果たすべき役割として解説者としてだけでなく,解決策をまとめる提案者としての役割も期待されている。
  • 前田 恭伸
    2004 年 17 巻 4 号 p. 305-311
    発行日: 2004/07/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     環境リスクコミュニケーションにおける,企業・行政・市民グループへの信頼性の決定要因の因果的構造を分析した。環境リスク問題が発生したある地域の住民にアンケートを郵送し,これら組織の信頼性の認知について調査を行った。調査結果は共分散構造分析によって分析を行い,その結果から企業・行政・市民グループの信頼性の構造モデルを構築した。その結果,「公開性と誠実さ」,「関心と配慮」,「組織の能力」,「人々のリスクへの関心」,および「社会的な価値との整合性」が,信頼性に直接影響を及ぼす要因として見出された。特にこの信頼性モデルは「社会的な価値との整合性」を要因として含んでいるがこれはアメリカにおいてPetersらによって提案されたモデルには含まれていなかった要因である。
  • 織 朱實
    2004 年 17 巻 4 号 p. 313-321
    発行日: 2004/07/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     多種多様な化学物質によるリスクに対応するためには,従来の規制的手法だけでなく,自主的手法や経済的手法を組み合わせるポリシーミックス的視点が必要になる。また,様々な手法の組み合わせを検討する際には,個別のリスクの特性を考慮するとともに,手法適用のクライテリアを検討し,さらに関係者間のリスクコミュニケーションの促進等に配慮する必要がある。我が国の新しい化学物質管理手法検討を行う前提として,実際に様々な手法を活用している米国の化学物質管理施策の変遷,特にTRI(Toxic Release Inventory)施策の展開を検討することが有益でる。米国においても,化学物質管理施策は規制的手法が中心であったが,TRI等による化学物質情報公開をベースとした自主的取組促進へと変化するに伴い,市民参加やNGOとの協働のあり方も変化してきた。米国において新しい手法をより効果あらしめる,環境行政における市民参加制度の充実,リスクコミュニケーションを促進させる機能を担うNGOが存在している点が,特に興味深い。
  • 梶原 成元
    2004 年 17 巻 4 号 p. 323-327
    発行日: 2004/07/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     戦略的環境アセスメント(SEA)は,欧米諸国を中心に既に多くの国で制度化され,実施に移されている。特に,EUでは,加盟15力国と加盟予定10力国に2004年7月までに法的対応を求めるSEA指令が定められるなど,国際的にも大きな進展を示すことが予想される。また,我が国では,環境影響評価法制定後に,SEAの導入に向けた様々な検討が行われ,その実施の促進に向けた努力がなされているほか,東京都の条例改正や埼玉県での要綱の制定などの制度化の動きも進んできている。
  • 松本 悟
    2004 年 17 巻 4 号 p. 329-335
    発行日: 2004/07/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     発展途上国の開発を支援する援助機関が,21世紀に入って次々と戦略的環境アセスメント(SEA)を事前の計画・調査に導入し始めた。その先陣を切ったのがワシントンに本部がある多国間開発金融機関の世界銀行である。1990年代に整備したセクター環境アセスメントや地域環境アセスメントを発展させて,2001年に制定した環境戦略に援助機関として初めてSEAを盛り込んだ。しかし,実際には,SEAが方法として確立していないことや,スタッフの能力・意思が欠けていること,あるいは他の援助実施機関との調整や,援助を受ける発展途上国側の制度など,様々な困難を抱えている。一方,世界第2の援助国である日本の場合は,SEAを導入する計画段階と,プロジェクトの実施段階で担当する組織が分断されており,世界銀行とは別の課題を持っている。慎重な代替案の検討が求められSEAが最も必要とされる社会基盤整備に多額の円借款を供与している国際協力銀行(JBIC)の場合は,計画段階の調査に使える資金源は限られており,かつ,発展途上国の政府が事業実施を決定した案件でないと関与できないため,SEAの導入は事実上不可能である。そうした中で,2004年4月,JBICに比べて開発の上流(計画)部分を担う国際協力機構(JICA)が,日本の援助実施機関として初めてSEAの考え方を盛り込んだ環境社会配慮ガイドラインを施行した。本論文は,こうした開発援助へのSEA導入をめぐる動向を解説し,日本の援助機関のSEA導入に伴う課題を分析した。
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