環境科学会誌
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18 巻, 2 号
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  • 高梨 ルミ, 亀屋 隆志, 小林 剛, 糸山 景子, 浦野 紘平
    2005 年 18 巻 2 号 p. 71-83
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     環境基準値等が定められていない多くの化学物質について自主管理を進めるために,生涯曝露されても人の健康に対して悪影響を与えないと推定される大気及び水環境中の濃度を「大気管理参考濃度」および「水域管理参考濃度」と定義し,これらを算出するための長期毒性情報の収集・整理および各毒性情報からの管理参考濃度の算出方法の検討を行った。管理参考濃度の設定には,できるだけ信頼性の高い情報を用いることが重要であるため,国際機関や日米の政府機関,または信頼できる専門家機関等による情報のみを用いることとし,情報源の信頼性などに基づいて,利用する情報の優先順位を定めた。次に,収集した様々な毒性値および物性値から管理参考濃度を算出するための計算式や必要な値を検討して決定した。また,一部の物質については,水経由の摂取割合を設定する必要があったので,物質固有の定数から簡易に水経由摂取割合を設定する方法を提案した。以上により,環境中の濃度が人の健康に悪影響を与えるレベルか否かの判断を行ったり,事業者や地方自治体等が自主的に管理の目標値を定めたりする際に有用な,大気および水域の管理参考濃度が容易に算出できるようになった。 さらに,本方法をPRTR対象物質に適用し,大気管理参考濃度および水域管理参考濃度を算出してその分布等を考察した。この値と排出量情報を合わせて利用することで,各地域や各事業所での排出量の削減の優先度の判定が可能になる。
  • 田熊 保彦, 加藤 茂, 小島 紀徳
    2005 年 18 巻 2 号 p. 85-92
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     1970年頃まで使用されていた強力な毒性を有する有機リン系農薬は使用を禁止されたが,一部の農家などで未使用のまま保持され続けている。本研究ではパラチオン等の有機リン系農薬5種類をアルカリにより分解した。2種については室温でも十分速い分解速度が得られた。他の3種類については反応速度論的検討を行った結果,有機リン系農薬とアルカリとの反応は,それぞれに対して一次の二次反応であることがわかった。二次反応速度定数を決定し,さらにその温度依存性を定式化した。これにより,おのおのの農薬を十分分解するための条件を定量的に与えることができた。また,分子構造の違いが反応性に大きな影響を与えていることが確認できた。さらに,分解により生成した物質についてGC-MSを用いて定性分析を行ったところ,いずれも毒性が認められない分解生成物であった。以上のことから,アルカリによる分解は有機リン系農薬の無害化に有効な手段の一つであるといえる。
  • 時松 宏治, 黒沢 厚志, 小杉 隆信, 八木田 浩史
    2005 年 18 巻 2 号 p. 93-102
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本研究では数理計画法による鉱物資源モデルを作成し,別途作成した4つのIPCC・SRESシナリオをベースとした銅需要シナリオに対して,21世紀の銅需給シミュレーションを行った。作成したモデルは,世界10地域分割,時点は2000年~2100年の1期10年,2100年までの需要を満たす鉱物資源供給コストの割引後総和の動学的最小化問題とした。考慮したプロセスは鉱物資源の採掘・選鉱,輸送(輸出入),精錬・精製,リサイクル,ストックである。これを用いて21世紀の銅資源の需給ギャップをリサイクルで満たすために,リサイクル推進の目標値はどの程度とすべきかを算出した。結果は,10年間で2倍のバージン銅の増産が可能,リサイクル銅の供給限界を需要の90%まで可能,リサイクル率の改善が10年間で2.5倍まで可能,などの設定により,全ての銅需要シナリオ下で求解可能となり,21世紀後半には制約上限の90%のリサイクル率を維持することで需要を満たす結果が得られた。今後増大が予想される銅需給乖離をリサイクルだけで満たそうとすると,相当なリサイクルの推進が必要とされることが示唆された。
  • 福島 康裕, 山下 真由子, 平尾 雅彦
    2005 年 18 巻 2 号 p. 103-113
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     環境問題や持続可能性に関しては膨大な量の研究や資料が発表されている。しかし,多様な特徴を持つ消費者が,これらの成果の中から自らの消費行動と関連した情報を入手することは困難であるため,家庭での消費活動を実際に管理し改善するために十分に利用されていない。そこで,消費者の行動の改善に役立つ適切な情報の入手,日常の消費活動の管理,そして各家庭における消費パターンの問題点の発見支援のための環境管理システムの開発が必要である。本研究では,環境家計簿を応用した消費行動改善のための環境管理システムの枠組みを提案する。そのためにまず,環境家計簿を用いた環境管理の利点に着目し日本各地で発行され配布されている環境家計簿の調査を実施した。その結果,消費者の特徴や持続可能性の地域特性に適応して個別化された情報提供が有効であるという仮定をたてることができた。そこで次に,環境家計簿を応用してそのような機能を実現するような環境管理システムの枠組みを設計した。ここでは,目指すシステムにおけるアクティビティと情報の流れが詳細に検討された。より具体的には,環境家計簿の個別化の手順を含む運用方法を機能モデル化手法であるIDEF0によって表現し,システムに必要な機能や蓄積すべき情報の種類とそれらの間の関係を明確に定義した。また,作成した機能モデルに基づいて環境家計簿項目データベースを開発し,提案するIDEF0機能モデルによる枠組みにしたがって,実際に環境家計簿の個別化とその取り組み結果の調査を実施した。ただし,本研究では個人に個別化するのではなく具体的な消費者のグループを想定し,CO2排出量低減という持続可能性要件を選択した。その際に個別化に必要となった情報や消費者から回収された取り組み結果を機能モデルと対応させて,IDEF0機能モデルを検証した。
  • 板野 泰之, 浅山 淳, 斎藤 良幸, 坂東 博, 竹中 規訓, 森 義明
    2005 年 18 巻 2 号 p. 115-122
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     中性ヨウ化カリウム法(KI法)に基づく光化学オキシダント測定値に対する窒素酸化物(NOx:NO+NO2)の干渉を再評価した。NOもNO2と同程度に干渉し,NO/NO比によらずNOx濃度に対して一次の干渉を示すことが確認された。そのNOxの干渉率は,NOx濃度に対する光化学オキシダント測定値の散布図から推定できることがわかった。実際に過去の光化学オキシダント濃度の常時監視データについてNOxの影響を見積もった結果,平均で3.7%の干渉率であった。NOxが高濃度で存在する大阪市のある測定局では,通勤時間帯にNOxの干渉が光化学オキシダント測定値の30%にも達することがあることがわかった。また昼間(5-20時)の光化学オキシダントの年平均値はNOxの干渉により3ppb程度過大評価されていた事も示された。NOx濃度が高い都市域での光化学オキシダントの測定値に対しては,NOxの干渉は非常に重大な影響を及ぼしている可能性が示唆された。
  • 角埜 彰
    2005 年 18 巻 2 号 p. 131-136
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     近年,漁網防汚剤,船底塗料等に含まれる殺生物剤あるいは油流出事故等の海洋汚染問題を契機に,海洋生態系に対する環境汚染物質の影響評価の重要性が高まっている。各種化学物質の生態系に対する影響評価には,種々の生物を用いた毒性データが必要とされる。しかしながら,海洋生態系の中でも重要な地位を占める海産魚を用いた毒性試験はあまり普及していない。魚類を用いた毒性試験の中でも簡便な急性毒性試験には,種苗生産の対象魚種,例えばマダイ,クロダイ等が試験魚として利用でき,淡水魚を用いた従来の急性毒性試験法を若干修正することにより試験の実施が可能である。一方,慢性毒性試験に適した日本産の海産魚は見当たらないため,これに代わる試験魚としてアメリカ原産のマミチョグの使用を検討した。その結果,マミチョグの受精卵から稚魚期までを試験期間とする初期生活段階毒性試験によって無影響濃度(No observed effect concentration :NOEC)を求めることが可能であることが明らかとなった。さらに,マミチョグの急性毒性値を,マミチョグのNOECで除した値である急性慢性毒性比(Acute-to-chronic toxicity ratio:ACR)を用いることにより,急性毒性値のみしか得られない日本産の海産魚についてもNOECを推定することが可能となった。
  • 川合 真一郎
    2005 年 18 巻 2 号 p. 137-144
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     港湾域や河口域のプランクトンおよび日本近海の黒潮縁辺部を回遊するスジイルカを用いて水域の汚染レベルを評価した。対象とした汚染物質は,水銀,カドミウム,鉛,銅などの重金属と,PCBs,DDTsおよびHCHsなどの有機塩素化合物である。淀川の河口域や大阪港周辺海域で採集したネットプランクトン(植物および動物プランクトン,微細浮遊物などネットで採集したものすべてを含む)中の重金属濃度の序列はHg<Cd<Ni,Cr,Pb<Cu,Mn<Zn<Feであった。NiとMnを除いて,ネットプランクトン中の重金属のレベルは海水中の濃度に対応しており,濃縮係数は1~5×104であったが,NiやMnでは0.4~0.5×104であった。PCBsやHCHsはネットプランクトン中でそれぞれ1~5μg/g・dryおよび0.1~0.2μg/g・dryの範囲内で検出された。これらの値はプランクトンの採集地点における海水中の濃度に依存しており,濃縮係数を求めるとそれぞれ11×104および0.4×104であった。これらの結果から,重金属や有機塩素化合物による水域の汚染レベルをおおよそ評価する際に,ネットプランクトンを用いることが有効であるといえる。 和歌山県沖で漁獲された,年令(0~40才)および性状態(未成熟個体,成熟オス,授乳中の個体など)が異なるスジイルカ(Stenella coeyuleoalba)について体内の各器官・組織ごとのPCBs,DDTsおよびHCHsを測定したところ,性成熟に達する12才ごろからメスの脂皮(blubber)中の有機塩素化合物濃度は急激に低下した.一方,成熟オスにおいては有機塩素化合物濃度は高いレベルを維持していた.成熟メスの体内に蓄積された有機塩素化合物の70%以上が出産後の授乳を通じて新生仔に移行していることがわかった。また,PCBsやDDTsは脂質含量の高い組織に蓄積しているが,とくに,組織中の中性脂肪(Triglycerides)含量とPCBsやDDTsなどの有機塩素化合物濃度との問には密接な関係があることがわかった。
  • 柏田 祥策, 持田 和男
    2005 年 18 巻 2 号 p. 144-154
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     有機リン殺虫剤fenitrothionに長期間曝露された海産動物プランクトンByachionus plicatilis(シオミズツボワムシ)のfenitrothionを含む同種殺虫剤(salithion, phenthoate,dichlofenthion, cyanophos, diazinonおよびmalathion)に対する耐性および消失能への影響について検討した。その結果,曝露によりphenthoateおよびmalathion以外の上記化合物に対するLC50値が上昇し,化合物耐性が増大していることが明らかになった。また化合物消失速度定数(kz値),生物濃縮係数(BCF値)および化合物代謝率を測定した結果,fenitrothionに対するkZ値およびBCF値は,曝露によりそれぞれ約2倍および約1/2倍に変化していた。また体内に取り込まれたfenitrothionの代謝率は78.0%から99.9%に増加していた。このことから曝露により曝露化合物に対する取込・排出速度および代謝速度が増大し,耐性が高まることが明らかとなった。これらの結果は14C-fenitrothionを用いた代謝実験:からも明らかとなった。同様に他の有機リン殺虫剤についても検討した結果,代謝率はほぼ100%に達していた。本研究により,B.plicatilisに対するfenitrothion曝露は有機リン殺虫剤に対する取込速度,排出速度および代謝速度のバランスを変化させ,殺虫剤耐性を変化させることが明らかとなった。
  • 小林 直正
    2005 年 18 巻 2 号 p. 155-167
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     汚染海水の有害性をウニを用いた生物検定で調べた。試水はウニの生活環で以下の感度の川頁一生殖細胞形成,精子+卵,精子,卵,変態,プルテウス,嚢胚,受精,細胞分裂,胞胚,成体一で阻害した。 一般的には,精子と卵を試水中で合わせると受精,発生が行われる。多糖(多極分裂),永久胞胚,発生遅滞,骨無嚢胚,アポロ宇宙船様嚢胚,外腸胚,放射状胚等の異常が亜鉛,ニッケル等の存在する水で現れた。34年間の和歌山県田辺湾付近の海水の生物検定で,強汚染海水を1970~1976年と1982~1987年に見出した。1970~1976年は一般的な汚染でその後正常な状態へと移行した。しかし,1982~1987年はTBT(養殖筏や漁船に塗られた防汚塗料に含まれる)による影響と思われた。また鉱山廃坑からの廃水も生物検定と化学分析を行った。各種発生異常が認められ,亜鉛等に因るものと思われた。
  • 楠井 隆史
    2005 年 18 巻 2 号 p. 169-177
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     化学物質の生物影響を評価するバイオアッセイが海洋環境管理において果たす5つの役割についてその事例と問題点について論じた;1)化学物質の毒性評価と基準設定,2)海洋へ排出する点排出源の有害性評価と規制,3)海上輸送物質の毒性評価,4)浚渫物・底質,海洋投棄物の毒性評価,5)海洋環境モニタリング。近年,わが国では化学物質審査規制法への生態毒性試験の導入や水生生物保護のための水質環境基準が作成され,有害化学物質の海洋への流入が規制されることが期待されるが,不足している海産生物に対する毒性データを整備することが早急に求められている。一方,海外で実績のあるバイオアッセイによる排水規制や底質毒性評価に関してはわが国の実情に応じた適用が期待される。わが国では淡水種に比し,海産種を用いたバイオアッセイの標準法が少なかったが近年,充実が図られている。化学物質が拡散・希釈されている海洋環境のモニタリングには,感受性の高い生物種またはバイオマーカーなどを用いた試験法が求められているが,わが国でも取り組まれた先駆的な事例と現状の問題点を論じた。一方,地中海などでは環境モニタリングのためにバイオアッセイが適用され,さらに沿岸域の包括的な生態リスクアセスメントに発展させる動きがある。最後に,水産資源が重要なわが国においてバイオアッセイを日常的な海洋モニタリングとして定着させる重要性を指摘し,現状の問題点と課題について論じた。
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