環境科学会誌
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18 巻, 5 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • ―外観によるスクリーニング及び表面と内部の濃度分布―
    渡辺 洋一, 倉田 泰人, 小野 雄策, 細見 正明
    2005 年 18 巻 5 号 p. 469-480
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     建設廃木材の大部分を占める解体廃木材には,木材の防腐処理に使用されたCCA (Chrome-Copper-Arsenate)等の薬剤や一部の塗料顔料に含まれる有害金属,および使用中あるいは解体時に付着する金属等が含まれる。建設廃木材破砕チップ化施設に搬入された解体廃木材を70試料採取し,その外観および金属分布を調べたところ,解体廃木材の色相と金属含有量には密接な関係が認められた。すなわち,緑色,黄色,黒色等の木材内部と著しく異なる色相の解体廃木材の表面には高濃度の金属が含まれること,高濃度の砒素及び銅は防腐処理剤,クロムは防腐処理剤と塗料,鉛は塗料に由来することなどが明らかになった。 また,解体廃木材の表面から芯部にわたる金属分布を測定したところ,金属類は廃木材表面に多く分布しており。表面から芯部に向かって10mmの部分では未使用の木材とほぼ同等の濃度であることが分かった。ただし加圧注入処理木材に含まれる銅,クロム,砒素は表面から芯部に向かって15mm以上の部分で低濃度であった。
  • ―心理実験的手法による騒音に対するWTP構造の検証―
    松井 孝典, 青野 正二, 桑野 園子
    2005 年 18 巻 5 号 p. 481-491
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本研究では居住環境内における騒音改善に対する人々の支払意思額(WTP : Willingnes to Pay)モデルの構築を目的として,実験:室内で様々な騒音環境下の仮想住環境を構築してその騒音変化に対するWTPをCVMによって計測した。その際に音源として道路交通騒音,鉄道騒音,新幹線騒音,航空機騒音を用いることで交通騒音種間での評価値の差異を検証した。また様々な騒音レベルの変化量に対するWTPを計測することで,騒音改善区間及び改善量の差によるMWTP (Marginal WTP:限界支払意思額)の差異を検証した。その結果,(1)騒音改善量とWTPには正の相関があること,(2)評価額は騒音の種類に依存すること,(3)MWTPは改善区間に関らず一定の値に近似できる可能性があることを明らかにした。評価値に関して,調査Aでは騒音改善量とWTPの関係をモデル化し,道路交通騒音,鉄道騒音,航空機騒音,新幹線騒音でそれぞれ2,159,1,700,2,219,2,184[\/dB/人/年],調査Bでは騒音改善区間とWTPの関係をモデル化し,道路交通騒音鉄道騒音,航空機騒音についてそれぞれ3 ,468,2,880,3,564[\/dB/人/年]を得た。最後にこれまで行われてきた騒音に対する研究事例をまとめ,今後の騒音の経済評価の課題に触れた。
  • 青柳 みどり
    2005 年 18 巻 5 号 p. 493-506
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     本論文では,1997年,2001年に実施された国際比較調査をもとに,ロジスティック回帰を用いて気候変動対策に対する支持に関する一般市民の態度の背景にある要因について分析した。要因としては,世代間の公平性,南北問題や地球環境問題についての将来リスク,環境と経済,自国政府の環境政策評価,環境問題と自分の健康などである。1997年の分析には「今すぐ対策を取るべきか否か」,2001年には「気候変動対策の早急な規制合意」か「十分な話し合い」かについての支持を被説明変数とした。その結果,以下のような結果が得られた。 1997年時点では,問題解決の基準に将来世代をおくものほど,また現在の環境問題の責任を先進国であるとするものほど,気候変動対策に肯定的である。EUは将来世代の脅威を経済的貧困とするが,アメリカでは資源の枯渇を脅威とする傾向にあることが分かった。また,2001年時点のデータ分析によれば,1)将来世代の脅威は環境問題天然資源の枯渇であると考え,2)環境汚染の影響は地球全体と地域・国内が同等であるとし,3)自国政府の環境政策を不十分と評価しているものほど,現在の気候変動対策を「十分でない。もっと積極的に」としている。 この2時点では,EUにおいて最も態度変化が大きく,将来世代の脅威として天然資源の枯渇にシフトし,自分の健康への環境影響を大きいとするものほど現在の気候変動対策に否定的になっていることがわかった。
  • 神子 尚子, 小山田 花子, 吉田 喜久雄
    2005 年 18 巻 5 号 p. 507-517
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     軟質塩ビ樹脂の可塑剤として大量に製造・使用されているフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)は,全国的なモニタリング調査において,様'々な環境媒体や食品から検出されている。わが国および諸外国においてDEHPの有害性評価やリスク評価が実施されており,DEHPは軟質塩ビ製品の製造段階とそれらの製品の使用段階において大量に大気中に排出されることや,DEHPの主要な暴露経路は食事経由の経口摂取であること等が明らかにされている。しかしながら,大気中に排出されたDEHPがヒトに至る過程については定量的に解析されておらず,DEHPのヒト健康リスクを適切に評価し,管理する上で,ヒトに至る主要な暴露経路を明確にすることが必要となる。 そこで,大気,土壌および植物等のコンパートメントモデルを用いて,大気中に排出されたDEHPのヒトに至る主要な暴露経路について検討した。その結果大気中に排出されたDEHPは,乾性および湿性の沈着により植物の地上部(葉,茎および実)に移行し,さらに一部のDEHPは,牧草を介して家畜にも移行することが明らかとなった。一方,大気からの沈着により,土壌中にもDEHPが移行,蓄積し,植物の根にも吸着されるが,根から吸収されて植物の地上部に移行することはほとんどないと示唆された。 以上のことから,大気へのDEHP排出量を削減することが,DEHPの摂取量およびヒト健康リスクを低減する上で有効な対策の1つと考えられた。
  • 松本 克彦, 二渡 了
    2005 年 18 巻 5 号 p. 519-533
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     環境マネジメントシステムは,組織の環境への取組について「継続的な改善」を図ることを目的にしている。ISO14001は大手事業者を中心に広く普及しているが,中小事業者には,維持コストが安く,簡易な仕組みが望まれている。ISO14001とエコアクション21のガイドライン(試行版)を廃棄物処理事業者に適用し,システム構築,運用面からシステムの特性を検討した。また,環境へのプラスの活動を特定するための評価方法を提案した。さらに,第三者による審査段階での評価を試みた。 ISO14001は,環境リスク管理や有益な環境側面の特定,継続的な改善の仕組みの面で優位性が認められるが,システムの構築が複雑であり審査コストが相対的に高い。一方,エコアクション21では,システム構築及び維持が容易であり,環境経営に活用できることが評価できた。
  • 相崎 守弘, 隅田 茜
    2005 年 18 巻 5 号 p. 535-540
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     木枠と遮水シートを組み合わせて作った水槽を使い,薄層緑化に対応する湿地型屋上緑化を施工した。1つの水槽面積は4.5m2とし4つの水槽を使って水位変化と水温変化を測定した。水位変化から蒸発速度と蒸発散速度を求めた。2つの水槽は植物を入れずに雨水だけとし,1つには水生植物を他の1つには陸生植物をゼオライト水耕法で植栽した。2003年夏期における平均蒸発速度は4 .5mmd-1で,水生植物を入れた水槽では7.2mmd-1,陸生植物を入れた水槽では6.Ommd-1であった。日最高水温は植物を入れない水槽ではしばしば40。C を超え60。Cに達する日も見られた。そのような日でも水生植物を入れた水槽では30。Cをわずかに上回る程度までしか水温は上昇せず,顕著な温度制御効果がみられた。陸生植物を植栽した水槽では水生植物ほどの顕著な水温制御効果はみられなかったが無植栽水槽に比べ水温変化は少なかった。1日の最高水温と最低水温の差も,水生植物を入れた水槽では5~10。C と植物を入れない水槽の15~20。C の変化に比べて著しく小さかった。
  • 池田 元美
    2005 年 18 巻 5 号 p. 547-550
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本学では教員組織を研究院とし,そこから教員が教育組織(学院)に参画する仕組みを導入することに決めた。より柔軟に組織改革が進むと判断したからである。その第一陣として「環境科学院」を17年度に開設する。従前の地球環境科学研究科に加え,水産科学研究科,さらに農学研究科に協力してきた北方生物圏フィールド科学センターの教員が参画する。本研究科はこれまで地球温暖化や生態系保全という地球環境問題の解決を目指し,地球科学と生態学を統合する試みを実践してきたが,そこに生物生産と環境の相互作用を連携させる段階に入っているのである。歴史的に見ると,環境科学研究科を12年前に改組して,地球規模の環境変化を中心に据えた体制を構築した。今後はこれを発展させて,地球環境と第一次産業との相互作用に関する教育も担当していく。また持続可能な社会システムの構築をめざす領域まで教育体制を広げる。以下に本学院の概要を説明する。
  • ―筑波大学および北海道大学における経験から―
    渡辺 悌二
    2005 年 18 巻 5 号 p. 551-557
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     日本の環境冠大学院における教育の現状について,自らの経験にもとついて述べ,今後の環境冠大学院における教育の役割について議論を行った。修士課程では,環境科学を志す学生の多くが幅広く学ぶことを期待して入学するが,学生にはむしろ核になる専門性を深めてゆくことの重要性を認識してもらい,教員はそれを実現させる教育を行う必要がある。また,国際的にリーダーシップをとれる人材を育成する必要がある。このためには,博士課程におけるトレーニングが重要となり,博士課程では研究者養成のみを目指すのではなく,環境問題解決に貢献できる人材を育成するための教育プログラムの開発が期待される。
  • ―筑波大学大学院環境科学研究科の社会実験―
    内山 弘美
    2005 年 18 巻 5 号 p. 559-566
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本研究では,伝統的な環境冠大学院の1つである筑波大学大学院環境科学研究科を事例として,大学院レベルの環境教育の取組みの斬新性を明らかにすることを目的とした。科学技術論及び大学・大学院政策の枠組みを用い,第一次環境ブームから第二次環境ブームまでの国立大学の環境冠大学院の設置動向を俯瞰した上で,筑波大学大学院環境科学研究科の事例研究を行った。 その結果,筑波大学大学院環境科学研究科は,モード1型の時代である第一次環境ブームに,既にモード2型の大学院レベルの環境教育及び環境冠大学院の制度に関する多様な社会実験:を行ったこと,及びそれらが第二次環境ブームに多くの国立大学に伝播し,環境冠大学院のトレンドとなっていることが判明した。 既に制度化された環境科学という学問分野の体系化を行うために,環境冠大学院関係者・卒業生による更なる議論が必要であり,多様な「環境○○ 学」を束ねて「環境科学」と総称することが,課題となっている。
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