環境科学会誌
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19 巻, 2 号
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  • 石 世昆, 近藤 明, 加賀 昭和, 井上 義雄, 大西 潤治
    2006 年 19 巻 2 号 p. 81-88
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    ベンゼンは1997年に環境基準が設定されたが,一部地域では未だその基準を達成できていない。自動車からの排気ガスがベンゼンの主要発生源と考えられているが,実際に走行している自動車からの排出係数については正確に評価されていない。そこで,窒素酸化物濃度とベンゼン濃度が通年にわたって測定されている国設四条畷自動車排出ガス測定局データを用いて,道路近傍ではこれらの汚染物質の排出量比が,その排出量に起因する濃度比と等しくなると仮定し,現実的な走行条件の自動車からのベンゼン排出係数を推定した。その結果,ガソリン車とディーゼル車のベンゼン排出係数として,それぞれ12.3mg/km/台と13.0mg/km/台の値を得た。また,道路沿道の建物形状を、道路沿道両側の平均建物高さと道路沿道に隣接しない平均建物高さ,および建物隙間長さで近似し,熱・流体解析ソフトウェアSTREAMを用いて四条畷自動車排出ガス測定局周辺のベンゼン濃度を推定した。その結果,比較的良好に道路近傍のベンゼン濃度を再現できることが示された。同様の手法で,道路上に阪神高速道路の高架がある打出自動車排出ガス測定局周辺のベンゼン濃度も推定した。この結果も観測値を概ね再現しており,ここで提案した簡易建物形状モデルを用いる拡散計算で道路近傍のベンゼン濃度を推定できることが示唆された。
  • 松本 健一, 福田 豊生
    2006 年 19 巻 2 号 p. 89-98
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     京都議定書の発効やポスト京都の議論などにより,先進国のみならず途上国でのCO2排出削減が地球温暖化抑制に向けて今後の重要な課題となる。CO2を削減する方法として,全世界で税率が一律の炭素税(一律炭素税)の導入が費用効果的であるが,一律炭素税は途上国に対して大きな経済的負担を課す。このような政策は途上国の反対にあうのは必至で,またUNFCCCの「共通だが差異のある責任」にも反するため,実現可能性は低い。 このような一律炭素税の問題点を踏まえ,本論文では各国で税率に差異のある炭素税の導入効果を環境的側面と経済的側面を考慮した政策的観点から議論する。差異のある炭素税は帰属価格の概念(帰属炭素税)により実現し,多部門・多地域応用一般均衡分析を用いたシミュレーションにより,一律炭素税導入によるCO2排出削減量やGDPへの影響と比較した。本研究では,世界経済を15産業部門・14地域に分割し,全ての産業部門を炭素税の賦課対象とした。 分析の結果,帰属炭素税はCO2削減効果ではわずかに劣るものの,一律炭素税とは異なり途上国のGDPにプラスの効果をもたらした。世界全体でのCO2排出削減政策の実施と途上国に対する過度な経済的負担の回避の重要性を考慮すると,帰属炭素税の方が一律炭素税よりも先進国・途上国間で経済的な公平性があり,政策的実効性が高いと言える。ただし,帰属炭素税では一部途上国で炭素リーケージが見られるため,その解決策の模索が今後の課題となる。
  • 魏 永芬, 小原 裕三, 西森 基貴
    2006 年 19 巻 2 号 p. 99-112
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     農薬などの有機化学物質を対象とした地球規模の多媒体モデルを開発するに際して,森林や草地などの人為的な撹乱を受けていない土壌(非農耕地土壌)の土壌深の設定が計算に大きな影響を及ぼすため,最適な土壌深の設定が重要である。そこで,農薬を想定してLogKOW(オクタノール・水分配係数)が1~6までの異なる物性値をもつ化学物質に対し,4つの放出シナリオを想定して,評価対象とする土壌深を20cmから1cmの間(20,15,10,5,4,3,2,1cm)で変化させた場合に,有機化学物質の環境残留性や土・水・大気等の各媒体に分配される質量分率への影響を評価した。さらに,LogK。wの大きな有機化学物質を対象として非農耕地土壌深をどの程度まで考慮すべきか,既存の多媒体モデルEQc(EQulibrium criterion)を用いて検討した。その結果放出シナリオと,土壌深の設定に応じて,対象有機化学物質の環境残留性や各媒体に分配される質量分率は大きく変化した・特に,実際の農薬の環境への放出実態に近い土壌にのみ放出された場合と,大気,水,土壌の3つの媒体に均等に放出された場合において,土壌深の環境残留性への影響が最も顕著であった。また,LogKOWの大きな有機化学物質(LogKOW=4~6)が,非農耕地土壌に放出された場合に,その大部分は土壌表層から5cm以内の範囲に留まることが推測された。これは,OECDガイドラインと既存文献値に基づいて化学物質の土壌中での分布を検討した結果と一致した。LogKOWの大きな有機化学物質を対象に地球規模の多媒体モデルを用いて環境残留性と長距離移動性などの評価を行う際には,従来用いられている5~20cmの森林土壌深では,非農耕地土壌の寄与を過大評価することとなり,このことは長距離移動性を過小評価することになるため,土壌深を5cm以内に設定することが望ましいとの知見が得られた。
  • 仲村 親憲, 安田 郁子, 東 千秋
    2006 年 19 巻 2 号 p. 113-122
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     富山県の農業用水は,pHについて農業用水基準を満たしていない地点が多く,その基準超過地点の全てがpH7.5を超えるアルカリ性を示す調査結果が得られている。この原因を解明するため,本研究では農業用水の水環境調査および検証実験を行い水質特性の把握を試みた。その結果農業用水が流下するのに伴ってpHが上昇しアルカリ性を示す現象と,付着藻類の光合成との関係を明らかにすることができた。その主な内容は次のとおりである。 農業用水路における昼夜測定において,流下に伴ってpHが上昇し,また日中にpHが大きく上昇していた。その農業用水を静置水槽で放置させると,pHは経時的に中性付近にまで低下した。経時的なpHの上昇に際してEC(電気伝導率)の上昇が見られなかった。これらのことから,農業用水が流下に伴い高いpHを示すのは,アルカリ廃水の流入ではなく,水中におけるCO2の減少によることが明らかとなった。 このpHの日変動は,昼間の正午付近に上昇のピークが見られ,夜間では低下してRpHよりも低くなった。このことから,昼間のpHの上昇は光強度に律速される付着藻類の光合成によるCO2の減少,夜間のpHの低下は付着藻類などが行う呼吸によるCO2の増加によって引き起こされると考えられた。 水路側壁の付着藻類量は7月よりも梅雨後の8月では著しい増殖が認められており,この付着藻類量に応じてpHとDO(溶存酸素量)の日変動の大きさに違いが認められた。このことは,日変動が付着藻類の光合成と呼吸によって起こり,その変動の大きさは付着藻類量に関係することを示している。 以上のことから,富山県の農業用水の流下に伴うpH上昇の原因は,人為的なものではなく付着藻類の光合成によるCO2の消費であることが検証された。したがって,この原因によって農業用水基準を超える高いpHが示されても,水稲の生育に影響を及ぼすことはないと考えられた。
  • 池田 三郎
    2006 年 19 巻 2 号 p. 139-148
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本論文では,社会的なリスク対応が特に遅れている分野:1)食品安全リスク,2)電磁波の健康リスク,3)外来生物リスク,を取り上げて,学際的なリスク分析学の立場から,リスクの多元的な性格に注目したガバナンスの構造について考察し,次のようなことを明らかにした:(1)不確実性を前提とするリスク事象の科学的知見は利害関係者によって異なって認知・評価され,それぞれのシステムの中で増幅・減衰されて,相互の適切な対応を欠くことにより,規制や管理主体への信頼性の崩壊につながりやすいこと,(2)多様な利害関係者の参加によるガバナンスを適切に行うためには,「多元的なリスク情報」に,各々の利害関係者が主体的に対応し,リスクを選択できる能力(リスク・リテラシ)の習得と普及が重要であること,そのためには,(3)信頼できる情報共有社会基盤(早期警戒と事前対応支援の統合的プラットフォーム等)の整備が必要である。
  • 功刀 由紀子, 山田 友紀子
    2006 年 19 巻 2 号 p. 149-156
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     ここ数年来,GMO,BSE,O157:H7等々の食品に由来する健康リスク問題が相次いで顕在化し,その社会的対応の不適切さが問題視されている。そのため,日本を含めた多数の国において,食品安全システムの再構築とガバナンスのみ直しが実施されることになった。食品安全ガバナンスの基本理念は,食品由来の健康リスクを科学的知見に基づいて明らかにし,それらを社会・経済的,消費者のリスク認知の視点も含めて多元的にマネジメントすることであるが,それらのプロセスのすべてにおいて,消費者・市民を含む多様な利害関係者とのコミュニケーション,さらには政策決定への参加を重要視している。この基本理念は,食品自由貿易の円滑な推進と国際的な食品規格の設定提案機関として設置された政府間機関であるコーデックス委員会が掲げたものであり,コーデックス委員会加盟国はこの基本理念にもとついて,「食品リスク問題のガバナンスにかかわる,独自の実施組織と実施方法を模索・試行しなければならない」とされている。 本報告では,まず現在各国で実施されている食品リスク問題のガバナンスにかかわる機能的制度的実態調査の国際比較を行うとともに,それら現行のガバナンスに対する総合的な評価枠組みの設計について検討する。適切性,有効性,および信頼性の高さを的確に評価する枠組み設計に必要な,評価項目,評価指標について考察する。さらに,設計された評価枠組みを用いて,日本において新規に設置された食品安全委員会の実績を評価するとともに,そこから析出される食品リスク問題のガバナンスにおける課題を検討した。
  • 前田 恭伸
    2006 年 19 巻 2 号 p. 157-166
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     食品安全リスクに関する早期警告支援システムを試行的に開発した。このシステムは,人々がWWWの文書の山の中から新たなリスク事象発生のシナリオを発見することを支援するように設計されている。システムはふたつの部分から構成される。クリアリングハウスとリスクパスファインダーである。前者は,WWWからGoogleWebAPIsを用いて収集された,食品安全リスクに関する文書のデータベースである。後者は,文書間の相互関係を視覚的に表示し,利用者にリスク事象の原因から結果までの経路への気付きを与えることを意図している。この機能のために,汎用連想検索エンジンGETAとテキスト検索のためのユーザインタフェースDualNAVIを用いる。
  • 青柳 みどり, 兜 真徳
    2006 年 19 巻 2 号 p. 167-175
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     本論文では,一般の人々の電磁波問題に関するリスク認識認知や態度形成について,社会的なガバナンスの観点から議論を行う。電磁波問題は,新しく出現したリスクの典型である。それは,熱による影響以外の,特に超低周波(Extremely Low Frequency:ELF)の健康影響については,専門家の間での科学的評価が未だ合意に至っていない問題であるためである。暴露の周波数によって異なる健康影響がもたらされるのであるが,それがどの周波数の場合はどのような影響なのか,不確定なのである。このような状況下で,我々は,「予防的方策・予防原則」が社会的なガバナンスを考える上で重要な原則となると考えた。そして,この予防的方策・予防原則についての支持をみるために,インターネット調査を全国5000人の一般の人々を対象として実施した。この予防的方策・予防原則の支持についての要因をロジット回帰分析によって抽出したところ,予防的方策・予防原則を支持する有意な要因として,携帯電話への依存指数(常に携帯電話を使っているなど携帯電話への依存度を表す指数),携帯電話不安指数(携帯電話がないと不安,等不安度を表す指数)があがったが,送電線への不安は有意な変数としてはあがらなかった。これは,携帯電話については個人の使用状態を制御することでリスクの制御が可能であるが,送電線については個人ではまったく制御不可能であるためであると考えられた。
  • 水野 敏明
    2006 年 19 巻 2 号 p. 177-183
    発行日: 2006/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     近年,グローバル化の進展とともに,国際的に生きたまま生物を移動させることが多くなり,各国で外来生物リスクが問題となっている。日本では,特定外来生物被害防止法が施行され外来生物リスクのガバナンスが検討されはじめた段階である。しかし,外来生物リスクの概念は新規であるために,リスク情報源の違い等によるリスク認知やリスクへの対応力であるリスクリテラシ(RiskLiteracy)が,関係者や市民で異なる可能性がある。こうした背景のもと,外来生物リスクにおける社会的ガバナンスの条件を,リスク情報源とリスクリテラシの視点から明らかにすることを目的として研究を行った。最初に,外来生物リスク問題の社会的なガバナンスの先進的な事例として,ニュージーランドの外来生物リスク問題を取り上げて,そのガバナンスの特徴について調査を行い,ガバナンスの課題を整理した。次に,社会的ガバナンスの中核となる外来生物リスクの情報源やリスクへの対応力であるリスクリテラシに関する社会調査を行った。その結果,新聞やインターネットの情報源の利用の仕方が世代間で異なりf外来生物リスクに関する情報格差(デジタルディバイド)の問題が生じていることが明らかになった。また,世代間の外来生物リスクの情報源の違いが,リスクへの対応力であるリテラシの水準に格差をもたらす可能性を示し,リスク情報源やリテラシの視点からの外来生物リスクの社会的ガバナンスの条件について考察した。
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