農薬などの有機化学物質を対象とした地球規模の多媒体モデルを開発するに際して,森林や草地などの人為的な撹乱を受けていない土壌(非農耕地土壌)の土壌深の設定が計算に大きな影響を及ぼすため,最適な土壌深の設定が重要である。そこで,農薬を想定してLogK
OW(オクタノール・水分配係数)が1~6までの異なる物性値をもつ化学物質に対し,4つの放出シナリオを想定して,評価対象とする土壌深を20cmから1cmの間(20,15,10,5,4,3,2,1cm)で変化させた場合に,有機化学物質の環境残留性や土・水・大気等の各媒体に分配される質量分率への影響を評価した。さらに,LogK。wの大きな有機化学物質を対象として非農耕地土壌深をどの程度まで考慮すべきか,既存の多媒体モデルEQc(EQulibrium criterion)を用いて検討した。その結果放出シナリオと,土壌深の設定に応じて,対象有機化学物質の環境残留性や各媒体に分配される質量分率は大きく変化した・特に,実際の農薬の環境への放出実態に近い土壌にのみ放出された場合と,大気,水,土壌の3つの媒体に均等に放出された場合において,土壌深の環境残留性への影響が最も顕著であった。また,LogK
OWの大きな有機化学物質(LogK
OW=4~6)が,非農耕地土壌に放出された場合に,その大部分は土壌表層から5cm以内の範囲に留まることが推測された。これは,OECDガイドラインと既存文献値に基づいて化学物質の土壌中での分布を検討した結果と一致した。LogK
OWの大きな有機化学物質を対象に地球規模の多媒体モデルを用いて環境残留性と長距離移動性などの評価を行う際には,従来用いられている5~20cmの森林土壌深では,非農耕地土壌の寄与を過大評価することとなり,このことは長距離移動性を過小評価することになるため,土壌深を5cm以内に設定することが望ましいとの知見が得られた。
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