環境科学会誌
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19 巻, 3 号
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  • 藤見 俊夫, 渡邉 正英, 浅野 耕太
    2006 年 19 巻 3 号 p. 195-207
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     優れた景観は,自然との長い共生の歴史を持つ日本において誠に多様である。そのうちでも棚田景観は多くの国民が一つの典型としてあげるところであろう。本稿では,この棚田景観の劣化要因である耕作放棄の影響を,非市場評価法のひとつである属性帰属法(attribute-based method,ABM)で定量的に評価した。調査対象として,「日本の棚田百選」に認定されている長野県千曲市の姨捨棚田と岐阜県恵那市の坂折棚田の2箇所を選んだ。棚田景観劣化の経済損失を測定するには,何をもって棚田景観の劣化とするかを明確にしなければならない。本稿では,荒廃の程度が異なる耕作放棄後の状態を5つ,整備内容の異なる圃場整備後の状態を5つ,合わせて10種類の状態変化をイラストで示すことにより,棚田景観劣化の経済損失をそれぞれ推定した。 得られた知見は次の3つである。まず,一一般的理解とは異なり,耕作放棄が進めば進むほど景観劣化の損失額が大きくなるわけではないという点である。特に,棚田景観は,現状から変化したかどうかという質的側面が重要であることが明らかになった。次に,調査対象者が現地,近隣都市,大都市のいずれの住民であっても,人々の棚田景観に対する選好構造が類似しているという点である。また,姨捨棚田と坂折棚田の間でも,選好構造,評価額に違いはあまり見られなかった。最後に,棚田に関する知識の有無が,評価額に影響を及ぼしているという点である。このことから棚田景観の評価において,情報やその提供手段があわせて重要であることが示された。
  • 石井 秀司, 松本 諭, 松井 康人, 寺田 靖子, 田邊 晃生, 内山 巌雄, 河合 潤
    2006 年 19 巻 3 号 p. 209-216
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     TiO2光触媒粒子の精密なリスク評価のために,走査型電子顕微鏡一電子線励起x線分析とシンクロトロン放射光励起の粒別XAFS分析を複合した個別粒子の形状・結晶構造分析手法を開発した。市販の光触媒商品,光触媒スプレーおよび液状の光触媒配合化粧品の粒子に対して,粒子のTiK端XFASスペクトルを測定し,それぞれルチル型TiO2粒子,アナターゼ型TiO2粒子から構城されていることを明らかにし,リスク評価に必要なデータを取得することが可能になった。
  • 大浦 典子, 鈴木 啓助, 奈良 麻衣子, 村本 美智子, 麓 多門, 新藤 純子, 戸田 任重
    2006 年 19 巻 3 号 p. 217-231
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     人間活動に伴い大気中に放出されたアンモニアや窒素酸化物,その他の化学物質は大気の移流や拡散により広範囲にわたり周辺地域への負荷となっている。これらの負荷物質が生態系の物質循環に与える影響を明らかにするために,乗鞍岳前川流域の森林において物質循環調査を実施した。乗鞍岳は長野県松本市の西南西約40kmに位置し,調査地付近の窒素負荷量は約31mmol/m2/yrと日本の平均負荷推定値の約6割と小さい。また亜高山帯に位置する本地域では,低温や積雪などの気候条件が植物等の生育を制限する重要な要因となっている。貧栄養多雪地帯における窒素循環を明らかにし,窒素負荷の影響を推察するために,針葉樹林および落葉広葉樹林において,林内降水,A0層浸透水,土壌水による養分フラックスの測定およびリターフォール調査を実施した。窒素負荷量の小さい乗鞍調査地では植物一土壌間における窒素の内部循環量は213-272mmol/m2/yrと日本の平均的な森林と同程度であるが,土壌層からの窒素流出量が非常に小さいことが分かった。年間を通して土壌水中のアンモニウムイオンおよび硝酸イオンの濃度は非常に低く,植物による吸収また土壌微生物による同化などにより,窒素が速やかに利用されていることが示唆された。しかし,一時的にアンモニウムイオン沈着量が増加した時期や融雪期などに,A0層や鉱質土壌層から窒素の流出が見られたことから,沈着あるいは内部循環に由来するA0層における窒素フラックスの急激な増加に伴い,系外へ窒素が流出する可能性があることが示された。
  • 江澤 誠
    2006 年 19 巻 3 号 p. 233-237
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)がその報告書Ouy CommonFutureのなかで提唱した「Sustainable Development(SD)」という概念は,地球環境問題解決策のキーコンセプトとして,国際的な政策立案の場から市民生活の場に至るまで,様々な場で様々な影響を与えている。 そのことは,SDが1992年に開催された「環境と開発に関する国連会議(地球サミット)」において,国境を越える環境問題の解決策として取り上げられ,さらに具体的な行動計画としてアジェンダ21のなかに取り入れられたことに端的に表れている。それは,ローカルアジェンダとなって市民生活にも影響を与えている。 従って,SD概念を提唱したブルントラント委員会がどのような背景のもと,どのような経緯で設置されたのかについて知ることは,SD概念の理解にとって,さらには今日の環境政策の大要を理解するうえでも有益である。環境と開発に関する世界委員会は,1982年にナイロビで開催されたUNEP管理理事会特別会合(ナイロビ会議)で日本が提唱し,最終的には1983年の第38回国連総会においてその設置が採択された(決議番号38/161)ということで,日本の環境外交の成果として語られる傾向にある。そのため,同委員会の設置の背景,経緯について考察することは,我が国の環境政策を考察することにもなり,我々にとってなおさら有益であると考えられる。 考察にあたっては,書籍等の資料の調査及び当時の内外の関係者へのインタビューなどをもとに,同委員会が南北対立のなかで,どのような経緯で発足したのか,具体的にはどこの国が立案したのかについて検証した。 その結果地球環境問題に関する独立委員会の設置とブルントラント委員会の活動を主導したのは日本ではなく,スウェーデンを中核とする北欧諸国であったことが明らかになった。
  • 平岡 喜代典, 杉本 憲司, 三浦 仁志, 寺脇 利信, 岡田 光正
    2006 年 19 巻 3 号 p. 241-248
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本研究では,14編のアマモ場の再生資料と岩国市地先での実証試験に基づき,自律的に回復する可能性のあるアマモ場の再生についての検討を行った。これらの資料から,移植や播種の技術だけでは,アマモ場を形成するには限界があるが,防波堤や地盤の嵩上げなどによる環境の改善によってアマモ場再生の可能性が示された。また,岩国市地先での実証試験では,アマモは,移植や播種を行わなくても実生が出現しただけでなく,アオサ類の異常発生や台風の襲来などによって一時的に消失しても回復を繰り返した。これらのことから,自律的に回復する可能性のあるアマモ場を再生するには,生育基盤整備などの環境改善とともに,周辺天然アマモ場からの種子供給を考慮した再生が重要と考えられた。
  • ~干潟造成の事例と課題を踏まえて~
    山本 裕規, 羽原 浩史, 篠崎 孝, 高橋 俊之, 川上 佐知
    2006 年 19 巻 3 号 p. 249-255
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     近年瀬戸内海等の閉鎖性水域では,海域環境を修復する施策の一環として人工干潟の整備が進められているが,人工干潟は原則として自然干潟が存在しない場所,すなわち外力条件が厳しい,または土砂供給が少ない等,自然に干潟が形成されにくい場所を中心に立地選定されるため,自然干潟と同等の機能を有する干潟の造成が困難である。 また,過去に実施された事業例をみると,あらかじめ事業効果を把握し,事業の成否を判断するための定量的な目標設定や事後評価についてもほとんど実施されていないのが現状である。 本研究では,過去の人工干潟の造成事例(広島港五日市地区人工干潟及び尾道糸崎港海老地区人工干潟)とその課題を最近の知見からレビューした。その結果等に基づき,今後より効率的で効果の高い干潟造成を行うために,最初から自然干潟の姿をそのまま模倣するのではなく,計画地周辺に存在する自然干潟の中の良好な条件(機能)をクローズアップし,第一ステップとしてその機能を発揮するための基盤条件を工学的に設計することを提案した。すなわち,最初にクローズアップした機能を発揮する基盤造成を行うことができれば,干潟の機能を自律的に高めていく(ステップアップ)ことが可能であり,最初から高いコストをかけて干潟を造成するよりも,時間はかかるものの低コストで自然干潟と同等の機能を持つ干潟造成が可能になると考えられる。 次に,著者らがこれまでに実施している生態工学的な視点や環境経済学的視点からの人工干潟の評価手法の研究成果を踏まえ,クローズアップした干潟の機能に着目した環境改善効果の定量的評価手法及びコンジョイント分析手法を応用した経済的評価手法について提案した。
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