環境科学会誌
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19 巻, 4 号
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  • 長谷川 良二
    2006 年 19 巻 4 号 p. 277-289
    発行日: 2006/07/31
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
    1997年の地球温暖化防止京都会議で採択された京都議定書において,日本はCO2排出量を1990年基準で6%削減することが義務づけられた。そして2005年2月16日に京都議定書が発行され,いよいよ本格的に温暖化対策に取り組まなければならない時期に突入した・このような状況の中,多くの自治体で温室効果ガス削減シナリオを樹立し,さまざまな温暖化抑制策を模索する動きがつづいている。このような背景に注目して,本稿では1995年における日本の全都道府県のエネルギー消費量とCO2排出量を比較することにより環境負荷発生の地域的構造を把握した。さらに地域産業連関表を用いて1人当りCO2排出量を都道府県間で要因分析を行った。分析の結果,(1)都道府県レベルのエネルギー消費量やCO2排出量は単に経済規模にのみ依存するのではなくさまざまな地域特性に影響を受けていること,および(2)1人当りCO2排出量の地域差を生じさせる主要な要因は排出原単位,移輸出総額,および移輸出構成比であること,が判明した。これらの結果を踏まえて都道府県レベルでのCO2排出削減の潜在的な可能性を考察した。
  • 山口 治子, 恒見 清孝, 東海 明宏
    2006 年 19 巻 4 号 p. 291-307
    発行日: 2006/07/31
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     デカブロモジフェニルエーテル(DecaBDE)の発生源解析,排出量推定を目的として,生産から廃棄までの動的サブスタンスフロー分析を用いた排出量推定方法を構築するとともに,日本全国を対象としたDecaBDEの大気,水域,土壌への環境排出量を推定した。さらに網羅的な文献調査から選択された排出係数と排出速度係数を用いて,経時的な環境排出量を推定した。結果として,1990年から2000年まで日本全体の環境排出量は約1.0t/yearであり,2001年後,徐々に減少していくと推定された。媒体毎にみると,大気ヘの環境排出量は,1991年に約0.1t/yearで最大となり,その後徐々に減少していくと推定された。最終製品使用過程以降の下流過程の寄与が経時的に大きくなり,2005年では焼却過程からの寄与が最も大きくなると示唆された。水域への環境排出量は,1990年から2000年までは約0.4t/yearであり,その後徐々に減少し,製造過程,繊維工場での使用過程下水処理過程からの排出量は全体の約90%を占めることが示唆された。また,感度解析の結果から,2005年以降は電気電子機器類の耐用期間と焼却過程における大気排出係数が大気排出量に対して感度が高く,樹脂の用途比率と製造過程の水域排出係数が水域排出量に対して感度が高いことが示された。今後,これらの値を精査することによって推定値の精度が向上されることが示唆された。
  • 山下 祐介, 澤田 信一, 田中 重好, 工藤 明
    2006 年 19 巻 4 号 p. 309-318
    発行日: 2006/07/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本稿では,河川環境改善に向けて流域社会が連携・協力していく可能性について,青森県岩木川流域を事例に論じている。全国の他の河川と同様に,岩木川流域でも1960年代に大きく河川環境の悪化が進んだ。1950年代前後の流域の状況から,1960年代の転換期を経て,現在の河川環境がどのように生じてきたのか,その過程を治水・農業・生活の3領域にわけて分析した(本流域の状況から,工業系は考慮していない)。第1期は苦闘の時代であり,かつまた豊かな河川環境の時代でもあり,1960年頃までとした。1960年代を転換の時期(第2期)とし,治水の完成,農業の近代化,生活の近代化で特徴づけた。こうした多様な局面で生じた集中的な変化の上に,1970年代以降,環境問題が顕在化している(第3期)。現在はさらに,環境問題はもちろん,新たな形で治水・利水の課題が現出し始めており,その解決が求められている。地元ではその解決を新たなダム建設等に求めているが,分析の結果,様々な要因が複雑に絡まり合って河川環境悪化につながっていることが示され,問題解決のためには流域社会の協力体制を作り上げることが必要であることを論じた。当面まずは,現在策定が進められている河川整備計画の充実が課題であり,こうした計画を流域社会行動計画のような形で策定し得るための道筋として,共通理解と合意形成をあげた。
  • 山本 高士, 内田 福太郎, 小瀬 知洋, 小野 芳朗
    2006 年 19 巻 4 号 p. 319-328
    発行日: 2006/07/31
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     自動車排気ガスの構成成分中には発癌性の疑いがある多環芳香族炭化水素類(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons:以下PAHs)が含まれる。そのため,自動車交通による大気汚染の実態を解明し,その安全性を確認するためには,簡便で多点同時観測を可能とする大気のモニタリング法が必要である。そこで,本研究では持ち運びと設置が容易で曝露期間を任意に設定できる,栽培したシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を沿道大気モニタリングの対象生物試料として利用し,大気汚染を評価する方法の確立を目的とした。シロイヌナズナの経路毎のPAHsの取り込み量を推算するために,経路毎の生物分配係数を導出した結果,今回の曝露条件は分配平衡には不十分であるものの成分毎に安定した値を示すことが確認された。したがって,シロイヌナズナ中のPAHs濃度は大気汚染モニタリング指標として適用する上で必要な一定の安定性を有することが示された。さらに,シロイヌナズナにおける経路毎のPAHsの取り込みの寄与率を推算した結果,大気経由による取り込みの寄与率はBenzophenoneが97.2%,Fluorantheneが89.1%,Pyreneが86 .5%であり,取り込みの大部分は大気経由であると推察された。また,大気中のPAHs濃度とシロイヌナズナ中のPAHs濃度には相関があると考えられた。したがって,シロイヌナズナの苗を現場で育成し,14日間の曝露を経て,シロイヌナズナ中のPAHs濃度を測定するという簡易な手法により,その現場におけるおおよその大気PAHs汚染濃度を安定して推算できると考えられた。また,シロイヌナズナにおける大気中PAHsの取り込み媒体として蒸気態の寄与が大きい物質はPhenanthrene ,Anthracene,粒子態の寄与が大きい物質はBenzophenone,Fluoranthene,Pyreneであると推察された。さらに,シロイヌナズナにおける大気中PAHsの取り込み媒体の寄与の差が物質固有の普遍的な定数であるヘンリー定数によって説明できたことから,本論文で推算した取り込み媒体の寄与が地域限定及び一過性のものではなく,一般性を持つものであると考えられた。
  • 田畑 智博, 井村 秀文
    2006 年 19 巻 4 号 p. 329-343
    発行日: 2006/07/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     循環型社会形成に向けた政策は国レベルで決定されているが,実現に向けた具体的な施策が展開されるのは地域レベルである。このような施策の作成を資源循環構造や地域特性を反映可能な形で支援する手段として,マテリアルフロー分析がある。しかし分析の実施に際しては,資源循環に関わる原材料や製品,廃棄物といった,様々な物質の物量データが必要であり,且つこれらのデータから体系的にマテリアルフローの推計及び分析を実施するための枠組みが必要である。そこで本研究では,これら物量データを会計形式で計上することで,マテリアルフローの体系的な記述及びその分析を可能とするマテリアルバランス表の枠組みを開発した。マテリアルバランス表の枠組みは,SNA産業連関表の会計様式を参考にして作成しており,地域の各部門における物質の投入と産出に関する物量データを本表に計上するとともに,これら計上したデータを用いてマテリアルフローを推計可能である。また,施設実施効果の資源循環構造への波及度合いを分析するための手法として,物質投入産出分析を提示した。また,地域資源循環の特性を考慮した循環型社会形成度合いの評価指標を提案した。次に,ケ-ススタディとして本表を愛知県に適用し,本表の作成方法を論じるとともに,本県の循環型社会の形成度合いについて分析を試みた。
  • 今堀 洋子
    2006 年 19 巻 4 号 p. 347-353
    発行日: 2006/07/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     持続可能なビジネススタイルの実現に向けて,限りある資源を最大限効率良く活用するために,製品を売るというビジネススタイルから,製品の機能を提供するビジネススタイルヘの変革が求められている。グリーン・サービサイジングとは「同じ機能を満たすのに製品とサービスが別々に存在するより,製品とサービスをセットにしたより環境負荷の少ない」ビジネススタイルである。ここでは,家電を対象にとりあげ,家電のグリーン・サービサイジングに関して,あるべき姿に向かって,現在の製品提供ビジネススタイルから,所有権の移管,次に,製品から機能設計へという二段階を経る必要があることを示した。その上で,第一段階である,所有権の移管に関して,家電リースの社会実験を実施し,参加したモニター(利用者)の反応から,利用者の受容性を分析した。更には,家電リースを事業化する際の課題を洗い出し,事業実施主体別に利用者が負担するトータルコストを算出・比較することにより,リースという形態を普及するためにコストをどの程度下げる必要があるかを明らかにした。
  • 中谷 隼, 志摩 学, 荒巻 俊也, 花木 啓祐
    2006 年 19 巻 4 号 p. 355-364
    発行日: 2006/07/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     近年,水道水の需要側では,飲料水は安全であるだけでなく,「おいしい」ことが求められるようになってきた。その一方で,水道水の供給側では,エネルギー消費量などに代表される地球環境への影響を考慮に入れた意思決定が求められている。本研究では,現状の水道水の質があまり良くないとされる東京都北区と,水道水の質が比較的良いとされる東京都武蔵野市を対象としてアンケート調査を実施し,選択型コンジョイント分析を用いて,水道水の供給によるエネルギー消費量と飲料水の質(味および臭い)に対する受容性を,WTP(支払意志額)として貨幣単位で評価した。同時に,高度処理をした飲料水を生活用水と分けて供給する二元給水システムに対する消費者の評価を調べた。 解析結果から,北区および武蔵野市の住民は,エネルギー消費量の減少や,飲料水の味および臭いの改善に対して一定の価値を感じていることが分かった。飲料水の味や臭いの改善に対する評価は,両地区で差があるとは言い切れなかった。現状の水道水の質に対する満足度の差(武蔵野市の住民は,北区の住民と比べて満足度が高い)は,北区の住民については二元給水という新しいシステムに対する期待感があり,武蔵野市の住民については現状維持を望む傾向が強いという形で評価結果に表れた。また,エネルギー消費量の減少に対する評価は,北区の住民よりも武蔵野市の住民の方が高いことが示された。ただし,現状の水道水の質に対する満足度が高い回答者ほどエネルギー消費量の減少に対する評価が高いという傾向は,北区についても武蔵野市についても見られなかった。本研究の結果は,水道水の質に対する満足度が高くなることは,消費者が省エネルギー型の飲料水の利用形態を受容するための必要条件ではないことを示唆している。
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