環境科学会誌
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20 巻, 1 号
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  • 大床 太郎, 國部 克彦, 竹内 憲司
    2007 年 20 巻 1 号 p. 7-20
    発行日: 2007/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     表明選好アプローチによる環境評価手法のひとつである選択型コンジョイント分析を用いて,NOx・PM対策に関する市民の選好を調べ,その社会的効果を貨幣評価した。評価にあたっては,分譲マンションの購入という状況を設定した。住宅は日常的に市場で取引されている財であり,回答者はこれを過去に購入した経験を持っている人を対象としているので,アンケートで仮想的に想定されている状況を理解しやすいというメリットがある。 神戸及び横浜の周辺地域において,訪問面接形式のアンケート調査を行い,収集データを条件付ロジットモデルで分析した。その結果NO2・SPM汚染を1ランク改善するための限界支払意思額は,住民の個人属性を反映させないシンプルモデルで191万円から215万円(年価値化すると6万6,000円から7万4,000円)となった。また,個人属性を反映させたフルモデルを用い,限界支払意思額を調整した上で便益関数移転を行うと,シンプルモデルによる便益移転よりもパーセント誤差が少なくなる傾向が確認された。 さらに,分析で得られた便益移転関数を用いて環境会計への応用を試み,企業によるNO2削減取り組みの効果を費用と比較した。東京都全体での2002年の便益は6億1978万円であり,取り組みに要した費用を大きく上回っていた。
  • 石川 精一, 上田 直子, 江口 芳夫, 伊藤 聖恵, 梨田 実, 谷崎 定二
    2007 年 20 巻 1 号 p. 21-27
    発行日: 2007/01/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     廃タイヤから製造した活性炭の水および有機溶剤による化学物質溶出試験を行い,市販の試薬活性炭や原料の廃タイヤと比較した。アセトン溶出では,アルカン類(0.076~7.6mg/kg),アルケン類ベンゼン類(0.047~6 .1mg/kg)およびフタル酸エステル類(0 .037~3.2mg/kg)等が検出されたが,水溶出では,ほとんどGC/MSのピークは見られなかった。一方,原料の廃タイヤからは,アルカン類(0.29~10μg/1),アルケン類フタル酸エステル類(0.91~1.2μg/1),スチレン,フェノール類,ビスフェノール類,ケトン類,アミン類,アミド類,カプロラクタム,イソシアネート類,ピリジン類,キノリン類,ピリミジン類,イミダゾール類,トリアジン類,イミド類,イソインドール類,イソチオシアネート類ベンゾチアゾロン,ベンゾチアゾール類有機リン酸類およびケイ素化合物等の物質が高濃度
  • 保高 徹生, 松田 裕之, 中島 誠, 武 暁峰
    2007 年 20 巻 1 号 p. 29-45
    発行日: 2007/01/31
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     近年,工場跡地等において鉛による土壌汚染が顕在化しており,その対策費用が土地所有者にとって大きな負担となっている。現在,土壌汚染が顕在化しているのは主に地価が高い首都圏であり,土地売却益から対策費用を捻出できる事例が多い。しかしながら,土壌汚染の顕在化が今後想定される地方都市では,地価が安いため対策費用を捻出できずブラウンフィールドとなることが懸念されている。ブラウンフィールドとは,有害物質の存在(もしくはその存在の可能性)によって,拡張・再開発・再利用が困難になっている土地のことである。1980年代からブラウンフィールド問題に取組んでいる欧米では,サイト毎のリスク評価の実施や土地利用に応じた管理目標値の適用といった柔軟な汚染土壌管理の手法を取り入れている。一方,日本では汚染土壌の直接摂取によるヒトの健康リスクは,一律の基準値である土壌含有量基準(鉛は150mg/kg以下)により判断されている。しかし土壌含有量基準の設定においては,小児は感受性が高いことを考慮していない点,および一般環境からの鉛の摂取量をTDI(一日耐容摂取量)の90%としている点において,日本の鉛汚染土壌に起因するヒの健康リスクを十分に評価できていない。本研究では,現行の鉛の土壌含有量基準の設定におけるリスク評価の問題への解決策として,汚染土壌以外の経路からの鉛摂取量を算出し,年齢群別,土地利用別にリスク評価を実施し,汚染土壌の直接摂取に係る管理目標値を算定した。また,管理目標値を鉛汚染土壌が確認された10サイトに適用し,対策費用削減効果を検討した。その結果,汚染土壌の直接摂取に係る土地利用別の管理目標値は,工・商用地で最大値の5,100mg/kgとなり,土壌含有量基準よりも大きな値となった。また,対策費用減少率は,最も削減効果が大きい工・商用地で96%であり,土地利用の種類により対策費用が大幅に削減可能であることが確認された。これらの結果は,土地利用を考慮したヒトの健康リスク評価に基づく汚染土壌の直接摂取に係る管理目標値の導入が,日本においてより柔軟な汚染土壌管理を可能にすることを示唆している。なお,本リスク評価では,土壌溶出量基準により規制されている土壌から地下水への溶出に起因する地下水飲用等の暴露経路は考慮していない。土壌含有量が管理目標値に適合した場合においても,土壌溶出量基準を超過する溶出量が確認された場合は,別途対応が必要である。
  • 丸本 幸治, 坂田 昌弘
    2007 年 20 巻 1 号 p. 47-60
    発行日: 2007/01/31
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     日本海側に位置する島根県松江市において大気中のガス状水銀(ガス状Hg)及び粒子状水銀(Hg(p))濃度並びにHgの湿性沈着量を1998年12月から2001年11月まで観測した。また,大気中水銀の発生源,輸送並びに沈着過程に関する知見を得るため,土壌,海塩,人為発生源の指標となる化学成分(Al,Ca,Cd,Fe,K,Mg ,Mn,Na,Pb,Zn,CL-,NO3-,542,NH4+)に加えて,大陸由来物質の長距離輸送の指標となるPb/Zn濃度比とPb同位体比も同時に観測した・松江市の大気中Hg(P)濃度及びHgの湿性沈着量は冬季から春季にかけて高く,夏季に低かった。春季にはこの時期に頻繁に起こる黄砂現象の影響を受けて主に土壌由来であるAl,Fe,nss-Ca,Mnの大気中濃度が高くなり,これらの湿性沈着量も増大した。黄砂時には大気中のHg(p)濃度も高かった。冬季及び春季の黄砂時にはPb/Zn濃度比とPb同位体比が1990年頃から現在までに日本国内で観測された値よりも高く,大陸において観測される値に近づいた。さらに,これらの季節には大気中のHg(P)濃度と大陸由来物質の影響を強く受けるPb及びnss-SO42-の各濃度との間に有意な正の相関がみられた。松江市の大気中Hg(p)及び降水中Hgの地殻の平均組成に基づく濃縮係数及び大気-降水間における洗浄比による解析を行なった結果,冬季に湿性沈着するHgのほとんどは大気中Hg(P)の取り込みによることが明らかとなった。以上のことから,日本海側に位置する松江市では,冬季及び春季の黄砂時に大気中のHg(p)が大陸からの長距離輸送によって供給され,降水に取り込まれて沈着すると考えられる。一方,夏季には大気中Hg(P)濃度は低く,降水へのHgの取り込みはガス状Hgを主体するものである。
  • 溝渕 健一
    2007 年 20 巻 1 号 p. 61-70
    発行日: 2007/01/31
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     エネルギー効率の改善は,エネルギー使用量の抑制や二酸化炭素排出削減の有用な手段の一つであると考えられる。しかしながら,このような技術改善は,同時にエネルギーサービス費用の低下をもたらし,それによってエネルギーサービス需要を増加させてしまう結果となるかもしれない。それゆえ,本来エネルギー効率改善によって期待された削減量の一部が,この現象によって相殺されてしまう可能性がある。この相殺効果は,"リバウンド効果"と呼ばれている。本稿では,日本の家計を対象に,外生的なエネルギー効率改善を仮定して,シミュレーションによって,リバウンド効果の大きさを推定する。実証分析の結果,リバウンド効果の大きさは,省エネ製品の導入費用が大きくなると低下するという傾向が見られた。しかしながら,最も高い導入費用を仮定したケースでも,約37%のリバウンド効果が発生するという結果を得た(つまり,実際の省エネ効果は20%のうちの12.6%しか達成されない)。よって,政府はエネルギー効率改善政策と共に,リバウンド効果を低める,あるいはそういった効率阻害要因を発生させないような何らかの政策をとる必要があると考えられる。
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