環境科学会誌
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20 巻, 5 号
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  • 時松 宏治, 小杉 隆信, 黒沢 厚志, 伊坪 徳宏, 八木田 浩史, 坂上 雅治
    2007 年 20 巻 5 号 p. 327-345
    発行日: 2007/09/28
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本論文は「持続可能な発展(SustainableDevelopment;SD)」指標の将来値の推計方法と,将来が「持続可能かどうか」の提示を試みようとする論文である。推計する指標は,世鉦が発行するWorldDevelopmentIndicator(WDI)で提示されているGenuineSaving(Sg,)とWealth(W)である。前者はフローの概念,後者はストックの概念に基づいている。こ¢指標の開発者であるD.W.Pearce,G.Atkinson,K.Hamiltonらロンドン大と世銀のグループらによると,これら2つの指標がともに正であることが「持続可能な発展」の必要条件である。理論的な定式化は最適経済成長理論に基づく世銀のHamiltonらの考え方を利用した。その上で,これら2つの指標の将来値の推計に必要なデータを,統合評価モデルから休生的に得られるシミュレーションデータに求めた。そのシミュレーションデータは,殿存の統合評価モデル(GRAPE)に日本版被害算定型ライフサイクル影響評価手法(LIME)を組み込んだGRAPE/LIMEモデルによる最適経済成長のシミュレーション結果を用いた、LIMEを用いた理由の1つは,LIMEは環境影響の経済評価にコンジョイント分析による支払い意思額を用いていることにある。Hamiltonらによる持続可能な発展指標の推計には支払い意思額と環境影響物質の排出量が必要となるが,GRAPE/LIMEモデルを開発することによりこれらがモデルで内生的に整合的に得ることが可能となる。また,環境影響被害を防ぐ支払い意思額は一種の外部コストと解釈可能であり,外部コストの内部イヒをGRAPE/LIMEモデルで行うことで,最適経済成長のシミュレーションを行うことが可能となった。 以上の方法により,2!00年までの世界10地域におけるsgおよびWの推計が可能となった。結果について議論をするのは今後の課題であるが,今回の推計方法によると,世界といわゆる先進国では21世紀にわたって「持続可能な発展」の必要条件を満たすが,いわゆる発展途上国においては21世紀後半になるまで,「持続可能な発展」の必要条件を満たさないことになった。 本研究の手法により,次の点で,従来の「持続可能な発展」指標の推計方法を,学術的にアドバンスすることが可能となった。1つ目は,従来では過去あるいは現在における推計だったものを,最適経済成長理論に基づいて,将来時点の推計を可能にしたことである。2つ目は,従来では推計に必要な各種データを整合的に収集して実証すること自体に難しさがあったが,本研究の方法では統合評価モデルにより内生的に得られるデータを利用して推計するため,整合性が高まったことである。3つ目は,異なる複数の指標から何らかの形で統合化する場合には,推計者の主観的判断により指標間のウェイトを決定せねばならないケースが多かったが,本研究ではその統合化に環境経済学の方法によるコンジョイント分析を用いたことである。 本研究は「弱い持続可能性」の立場に立って「持続可能な発展」指標の将来を推計する方法と結果を提示することには成功したものの,将来の「持続可能性」を評価し議論するという点では,今後多くの課題に取り組む必要がある。「持続可能な発展」の将来,Genuine Saving,Wealth,統合評価モデル,最適経済成長シミュレーション
  • 白木 洋平, 近藤 昭彦, 一ノ瀬 俊明
    2007 年 20 巻 5 号 p. 347-358
    発行日: 2007/09/28
    公開日: 2011/03/01
    ジャーナル フリー
     本稿は,都市化が生み出す様々な問題の一つであるヒートアイランド現象(Urban Heat Island Phenomenon)について,GIS・リモートセンシングデータを用い重回帰分析によって東京都および埼玉県南部の地表面構造が温度形成に与える影響の評価を試みた。使用した説明変数は,地表面構成物質の熱的特性値,人工排熱,緑被率,海からの平均距離,平均標高,建物構造パラメータである。目的変数としてLandsatTM(Thematic MapPer)/band6の輝度温度を用いた。また,建物構造パラメータを広域で算出することは困難であるため,本稿ではShuttle Radar Topography Mission(DTM)から数値地図50mメッシュ標高を差し引くことにより建物高度の推定を,細密数値情報(10mメッシュ土地利用)から建物用地の割合を,Japanese Earth Resources Satellite-1(Synthetic Aperture Radar)の後方散乱係数より建物粗度の推定を行った。 その結果,昼間の主要な輝度温度の形成要因として,建物高度緑被率,平均標高が,夜間の輝度温度の形成要因として,建物高度,緑被率,海からの平均距離,平均標高が挙げられた。
  • 矢木 修身
    2007 年 20 巻 5 号 p. 359-369
    発行日: 2007/09/28
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     現在,市街地や工場跡地において,トリクロロエチレン,テトラクロロエチレン,ダイオキシン類油,及び水銀などによる土壌汚染が顕在化し大きな問題となっている。汚染土壌・地下水の浄化法として,主に,物理化学的手法が用いられているが,コストが高く,無害化処理技術でないことから,生物を活用するバイオレメディエーションが注目されている。バイオレメディエーションは,微生物,植物および動物等の生物を活用する環境修復技術である。ここでは,実用化が開始されている微生物を活用する技術を紹介した。特に土壌・地下水汚染で問題となっているクロロエチレン類およびダイオキシン類に焦点を絞り,これらを分解する微生物の種類および諸性質について記述した。さらに最近告示されたバイオレメディエーションのガイドライについて紹介すると共に今後の研究課題について言及した。
  • 野田 尚宏, 中村 和憲
    2007 年 20 巻 5 号 p. 371-380
    発行日: 2007/09/28
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     平成16年に発効した「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)においては,組換え微生物等の特定微生物を産業利用しようとする際に,その安全性および生物多様性への影響を科学的に評価することが求められている。すなわち,バイオレメディエーションにおいても,組換え微生物を含む特定微生物や特定微生物の賦活化資材の導入による周辺の生態系への影響などを評価して安全性を確かめる必要がある。このような社会的背景を踏まえ,本研究では組換え微生物のバイオレメディエーション等の開放系利用における安全性評価に資するため,利用しようとする特定微生物をマーカー遺伝子により標識する技術,および標識微生物が導入された環境の微生物相変化を定量的に解析する技術の開発を目的とした。マーカー遺伝子として蛍光顕微鏡下で目視観察が可能となる蛍光タンパク質遺伝子2種を選択し,環境汚染物質分解などの目的で利用しようとする微生物に導入した。このとき,染色体DNAにgfp,プラスミドDNAにdsredと異なる蛍光を使い分けることで,宿主とプラスミドDNAの両者を個別に検出することができる組換え微生物の構築に成功した。さらに特定機能遺伝子に対して,アミノ酸配列を変えずに自然界には存在しない配列のマーカー遺伝子を導入する技術も確立した。本技術により野生株の存在下でも特定の組換え微生物を定量的PCR等により検出することが可能であった。また,構築した組換え微生物をモデル複合微生物生態系としての活性汚泥に導入し,その消長を追跡した。その結果,定量的PCR法,PCR.DGGE法を用いることにより,導入した組換え微生物および微生物相を30日間にわたってモニタリングすることができた。本研究で開発した技術は組換え微生物の環境に及ぼす影響を評価する手法として有用であることが示された。
  • 石川 洋二
    2007 年 20 巻 5 号 p. 381-388
    発行日: 2007/09/28
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     油汚染土が問題となるのは,土壌汚染対策法の規制の対象となるベンゼンによる健康リスクと,油臭,油膜などの生活環境上支障となるリスクとがある。油分もガソリン,灯油,軽油,重油,タールとさまざまな種類があり,その対策も種々の方法がとられる。油は自然由来のものであるため,土壌に一般的に生息する微生物群によって生分解することができる。このため,これらの微生物群を活性化することにより浄化をはかるバイオレメディエーションが低コストで効率のよい方法となる。バイオレメディエーションを日本で適用するためには,市街地での建物の下の浄化や,粘性土の汚染の浄化,微生物の活性が下がる冬季や寒冷地でのバイオ処理が必要となる。これらの課題に対処する新しいバイオ処理として,バイオスパージング工法,高圧空気注入法,特殊な資材を利用した温度管理型バイオパイル工法がある。
  • 新庄 尚史, 下村 達夫, 大矢 俊次
    2007 年 20 巻 5 号 p. 389-397
    発行日: 2007/09/28
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     揮発性有機塩素化合物で汚染された土壌・地下水環境の浄化技術開発を目的として,バイオレメディエーションの研究開発を行った。好気的酸化分解法としてメタン資化性菌であるMethylocystis strain M(M株)を用いたバイオオーグメンテーションの検討,及び嫌気脱塩素法としてバイオスティミュレーション及びバイオオーグメンテーションについて検討した。 M株を用いたバイオオーグメンテーション法では,不飽和土壌を対象としてM株の培養菌体を直接混練する浄化方法を考案し,同浄化手法は汚染濃度が低い土壌に対して実用可能な技術であることを確認した。 嫌気脱塩素法では,浄化微生物を活性化するための栄養剤と強い還元雰囲気を形成するための還元剤を汚染土壌に添加することを特徴とする浄化手法(土壌還元法)を考案し,実用化に成功した。土壌還元法の摘要によって形成される強い還元雰囲気下では,テトラクロロエチレン(PCE)やトリクロロエチレン(TCE)等の汚染物質はシスジクロロレチレン(c-DCE)やビニルクロライド(VC)等の中間代謝産物を蓄積することも無く,2~3ヶ月間で環境基準を達成することができた。また,土壌還元法による処理が困難なPCE実汚染土壌に対し,Dehalococcoides sp.の集積培養体を添加するバイオオーグメンテーションの実用性について検討した結果,土壌還元法の施工条件下では浄化微生物を僅か5.0×103cells/9-soil程度の濃度で添加することにより,十分な効果が得られることを確認した。 実汚染現場に土壌還元法の摘要が可能であるか判断するための迅速評価手法として,Dehalococcozdes sp.を検出対象とした遺伝子診断法及びDehalococcoides sp.の集積培養体を用いたバイオアッセイ法を開発した。両評価手法を併用することで,信頼性の高い適用性評価を1週間以内に実施することが可能となった。
  • 近藤 敏仁, 北島 信行
    2007 年 20 巻 5 号 p. 399-407
    発行日: 2007/09/28
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     土壌汚染対策法の施行(平成15年2月)をきっかけとして土壌汚染の調査事例件数が大きく増加し,これに伴って環境基準超過事例の件数も年々増えてきている。多様化する汚染サイトの諸条件にあわせて,浄化手法の選択肢も多岐にわたることが望ましい。我々は,低コスト・低環境負荷型の土壌汚染浄化の1手法として,ファイトレメディエーションに注目し,技術開発と実汚染サイトへの適用に取り組んでいる。重金属による汚染土壌には,汚染物質を植物に吸収,蓄積させて,蓄積させた後の植物体を収穫することにより土壌を浄化するファイトエクストラクションが有効である。 平成18年11月に発表された環境省の調査結果によると,ヒ素はわが国において基準超過件数が鉛についで多い元素である(累積)。また自然由来の汚染事例が多く報告されており,ファイトレメディエーションの適用が期待される汚染物質である。 2001年にイノモトソウ科のシダ植物であるモエジマシダについて,ヒ素を吸収・蓄積する能力があることが報告された。筆者らは,室内試験実サイトでの栽培試験により,モエジマシダがヒ素浄化用の植物として有望であるものと判断した。 モエジマシダの持つヒ素汚染除去能力は極めて高いものであるが,実汚染サイトにおける浄化効率は土壌条件,とりわけ汚染土壌に含まれるヒ素の化学形態に大きく左右されると考えられることから,トリータビリティ試験の検討も進めている。 本報告では,モエジマシダを用いたヒ素汚染土壌のファイトレメディエーションに対する筆者らの取り組みを紹介し,今後の展望を述べる。
  • ―農学部改組と環境冠学科の拡大メカニズム―
    内山 弘美
    2007 年 20 巻 5 号 p. 415-420
    発行日: 2007/09/28
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本稿では,国立大学農学系学部を対象として,環境科学の制度化の指標の一つである環境冠学科の設置動向を明らかにすることを目的とした。 科学研究のライフサイクル論及び大学政策の枠組みを用いて,農学系学部の環境冠学科の設置動向を俯瞰した上で,既に研究がなされている工学系学部の環境冠学科の設置動向と比較した。 その結果,農学系学部においては、第一次環境ブームと第二次環境ブームにおいて、環境に対する社会的関心の高揚と大学政策との相乗効果により設置ラッシュが生じたことが判明した。併せて,第一次環境ブームと第二次環境ブームでは,農学系学部の環境冠学科の学科系統に相違が見られること,後者においては工学系学部の環境冠学科の学科系統に類似していることが明らかとなった。
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