環境科学会誌
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21 巻, 2 号
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  • 有村 俊秀, 岩田 和之
    2008 年 21 巻 2 号 p. 103-114
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本研究は,いわゆるNOx・PM法の車種規制について,定量的な政策評価を経済学的な視点から行ったものである。車種規制は東京圏,名古屋圏,大阪圏などの特定地域における車齢の高い車両の使用・登録を禁止する法律である。したがって,車種規制による自動車余命短縮の費用を,規制のもたらす費用として試算を行った。費用積算に際しては,分析の頑健性を確保するため,自動車登録データを用いて規制対象車両を全て特定した上で,一台ごとに費用を求め,その合計を求めた。全規制対象車両の費用を2004年から2024年まで合計すると,車種規制がもたらす費用は割引現在価値で約8,781億円となった。 一方,車種規制の主要な便益としては,排出削減によってもたらされる健康被害の減少等が挙げられる。車種規制によって新型車種に買い換えられることにより,排出原単位が低減する。それによって排出量が削減し,健康被害が減少するのである。この健康被害減少の便益を求めるために,自動車登録データを用いて一台当たりの削減量をNOx及びPMそれぞれについて算出した。次に,2004年から2024年までの各年について,その削減量を全規制対象車両について合計した。最後に,このNOx及びPMの排出削減量を,先行研究の外部費用推定値を用いて貨幣換算し,2004年から2024年までの便益の割引現在価値を求めた。その結果,規制によってもたらされる便益は,約13,948億円と試算された。 便益から費用を引いた規制の純便益は,約5,166億円と試算された。したがって,社会的純便益は充分に大きく,車種規制は経済学的にみても支持される政策だと考えられる。今後はこのような政策評価が事前に行われることが望ましい。。
  • Lyudmyla BESPYATKO, 井村 秀文
    2008 年 21 巻 2 号 p. 115-132
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     天然資源がもたらす環境サービスの価値が認識されるにつれ,サービスの源泉である森林等の生態系保全の費用を受益者が負担すべきとの「環境サービスに対する支払い(PES)」の考え方が登場した。2000年代に入って日本の多くの県で導入された森林環境税は,地方独自の環境税として創設されたものであり,自治体によって名称,目的,対象,根拠には少しずつ違いが見られるものの,PESの考え方に基づく環境保全の仕組みのひとつとして理解することができる。森林環境税制度の設計にあたっては,人工林,とりわけ私有林の管理にこうした支払いを求めることは適切か,受益の及ぶ地理的境界を特定の行政区域内に限定することは妥当か,税導入によって目に見える環境保全効果が得られるかどうかなどが問われている。こうした疑問に答えるためには,制度の総合的な評価が必要である。なかでも,多くの利害関係者の負担と受益をめぐっての論点が注目される。そこで,本論文では,森林環境税に着目し,制度設計・導入に対して県民から提出された意見を参考にしつつ,PESとしてのその特徴を分析した。このため,まず,23県の森林環境税について,PESの基本要素である費用負担,補償及び事業の内容を比較した。次に,森林環境税の制度化にあたってどのような議論が展開され,制度設計に反映されたかについて,各県で行われたタウンミーティングなどで得られた住民意見を体系的に整理し考察した。最後に,典型的なPESモデルとして具備すべき要件に照らして,PESとしての森林環境税の特徴を考察し,環境サービスの維持・強化を目的とすること,受益者負担の制度であることについては森林環境税はPESとしての要件を満たしているが,環境サービスの供給者に対する直接的補償が行われていない点では,途上国で一般的なPESのモデルとは異なることを指摘した。
  • 天野 耕二, 垣守 雅善, 加用 千裕
    2008 年 21 巻 2 号 p. 133-142
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2011/10/21
    ジャーナル フリー
     地球規模の気候変動や砂漠化が深刻化する中,先進国を中心にバイオマス資源の活用が注目されているが,発展途上地域ではバイオマス資源である燃料材(薪炭材)の過剰伐採が森林減少の要因のひとつとなっており,将来の化石燃料需要の増加も懸念されている。本研究では,発展途上地域における森林減少を伴う燃料材へのエネルギー依存を低減し二酸化炭素排出量を増加させないカーボンニュートラル(炭素中立)型経済発展の方向性を考察する視点で,資源作物として1年程度の周期で収穫可能な草本系バイオマスの導入を検討し,その燃料材代替による二酸化炭素排出削減ポテンシャルを評価した。森林火災以外の森林面積減少を伴う木質系燃料材(非カーボンニュートラル系燃料材)の2000年および2030年における消費量を推計した上で,それらのエネルギー需要を資源作物に代替するシナリオを検討した。1990年代に森林火災以外の要因で森林面積が減少している51の発展途上地域を対象として,永続農耕地で一年生イネ科植物の輪作を行い,農耕可能地の一部で多年生イネ科植物を栽培することにより,非カーボンニュートラル系燃料材需要の代替に必要な資源作物が栽培可能であることが確認できた。さらに,非カーボンニュートラル系燃料材代替を果たした上で余剰となる草本系バイオマスのエネルギー利用で化石燃料需要の一部を代替することにより,2030年に予想される発展途上地域からの化石燃料由来二酸化炭素排出を最大18%程度削減できる可能性を示した。
  • 濱口 航, 岡本 勝男, 新藤 純子, 川島 博之
    2008 年 21 巻 2 号 p. 143-152
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     中国雲南省〓池の窒素汚染から,アジア型経済発展が環境に与える影響を分析した。アジア型経済発展の特徴として,(1)短期間での動物性タンパク摂取量増加,(2)都市への人口集中を挙げることができる。本研究では〓池における1950年から2000年にかけての窒素濃度上昇要因を分析し,その結果から今後の窒素濃度を予測した。「人口」,「食物消費量」,「窒素肥料使用量」,「家畜頭数」などから〓池に流入する窒素負荷を算出し,その負荷より〓池の窒素濃度を算出した。〓池の水質汚染は農耕地への化学肥料投入,畜産からの負荷の増大,周辺への人口集中により生じた。対策として1980年代後半より工場排水への規制,1990年初頭から下水整備が行われたが,流入負荷量の増大は削減対策を上回った。〓池周辺では食料の摂取より生じる一人当たりの負荷が横ばいになった後も人口集中が続いており,現状のままではさらなる水質悪化が予測される。下水道普及と窒素肥料の使用効率向上のみでは〓池の水質を大幅に改善させることは難しい。〓池の水質を回復させるためには,技術的対策に加え周辺への人口流入を抑制することが重要である。
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