環境科学会誌
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21 巻, 3 号
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  • 亀山 康子, 蟹江 憲史
    2008 年 21 巻 3 号 p. 175-185
    発行日: 2008/05/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     気候変動対処を目的とした京都議定書には,先進国等の2008年から2012年までの温室効果ガス排出量に対して排出抑制目標が規定されているが,その後の対策(次期枠組み)に関しては今後の交渉に委ねられている。十分な気候変動緩和のためには次期枠組みにおける途上国の実質的参加が不可欠だが,途上国は現在交渉開始に消極的である。その理由として,対策が経済的発展を阻害すると認識されていることに加えて,前向きに交渉するために必要な政策立案能力が不足している点がアジア諸国に見受けられる。今後アジア諸国が政策立案能力を高め,気候変動対策の長所を最大限に生かせるような交渉ポジションを自律的に形成することを目指し,その第一歩としてアジア諸国の次期枠組みに関する国内制度設計や議論を調査した。 6力国での調査結果を比較し,結果として以下の3点が挙げられた。(1)国内の次期枠組みに関する議論は,国の経済水準が高い一部の国でのみ進展しており,その他の国では次期枠組みの議論はまったく始まっておらず現行枠組みの実施段階にあった。(2)現行枠組みの実施に関しては,1国を除くすべての国で省横断的な組織が設立されていた。また,複数の国ではその組織の参加者として政府関係者のみならず研究者や環境NGOも認められており,非政府組織が政策立案に影響を及ぼしうる場として機能していることが分かった。(3)次期枠組みに関する議論が各国内で始まった場合に予想される各国のポジションは多様であった。このような多様なニーズにきめ細かく対応するためには,気候変動枠組条約および京都議定書といった従来型の多国間条約のみならず,地域協力や二国間協力等を含めた幅広い枠組みに発展させていく必要があることが指摘できた。
  • 佐久間 正
    2008 年 21 巻 3 号 p. 187-196
    発行日: 2008/05/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本稿は,欧米等の研究者からその意義が指摘されているにもかかわらず,いまだ十分な進展を見ていない日本環境思想史研究の課題について提言するものであり,「1.環境思想史研究の展開」「2.日本環境思想史の研究課題と構想」から成る。1では,1960年代から始まる欧米の環境思想史研究の主要著述,及びそれらから学びつつ90年代から始まる日本環境思想史研究の著述を紹介するとともに,それらの研究史的意義について論述した。特に,欧米における本格的な環境思想史研究の開始を告げるものとして,Linn White Jr.のthe Historical Raot of Our Ecological Crisis(1967)を位置づけ,E. F SchumacherのSMALL IS BEAUTIFUL(1973)における「仏教経済学」の積極的評価が,現代の環境思想への仏教の寄与という論点の嚆矢であること等を指摘した。また,重厚な思想史的研究の口火を切ったCarolyn Merchant のTHE DEATH OF NATURE (1980)の有機的世界観の再評価を要請する機械論的な近代的世界観と家父長制の批判,及びHans Immler のNATUR IN ÖKONOMISCHE THEORIE(1985)の労働価値説批判の研究史的意義を明確にした。続いて,日本環境思想史研究については,宇井純編『谷中村から水俣・三里塚へ』(1991)と中野孝次『清貧の思想』(1992)を先駆として,源了圓「熊沢蕃山における生態学的思想」(1999)を本格的な思想史的研究の嚆矢として位置づけた。2では,日本環境思想史研究の通史的な課題を示すとともに,第1に列島における自然観一環境認識の発生から徳川期までのその展開,第2に徳川日本の環境思想,第3に明治以降20世紀半ばに至る環境思想を明らかにすることの必要性を提起した。そして具体的に,第2に関して五つの論点を示し,さらに第3に関して,田中正造と南方熊楠の環境思想が基軸的位置を占めることを指摘するとともに,その思想史的意義について指摘した。最後に,環境思想史研究の現代的意義にふれつつ,環境思想史研究と共時性の強い環境思想研究(環境哲学・環境倫理学)を架橋することの必要性を指摘した。
  • ―大学院レベルの環境教育の制度・組織・政策的側面―
    内山 弘美
    2008 年 21 巻 3 号 p. 207-213
    発行日: 2008/05/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本稿では,環境冠大学院の拡大に着目し,当該大学において2代目以降に設置され,かつ教育組織と研究組織が分離した環境冠大学院(研究科または研究部・教育部)を対象として,その設置動向を明らかにすることを目的とした。科学研究のライフサイクル論及び教育学(高等教育)研究のアプローチを用いて,環境冠大学院の設置動向を俯瞰した。その上で,2つ目に設置され,かつ教育組織と研究組織が分離した環境冠大学院について事例研究を行った。 その結果,教育組織と研究組織が分離した環境冠大学院も,環境に対する社会的関心の高揚と大学院政策との相乗効果により設置ラッシュが生じたことが判明した。さらに,これらの環境冠大学院の分野構成の相違は,設置経緯の相違にある程度規定されていることが明らかとなった。
  • 安仁屋 政武
    2008 年 21 巻 3 号 p. 215-221
    発行日: 2008/05/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     筑波大学大学院修士課程環境科学研究科は1977年に国立大学の環境科学関連の独立大学院として北海道大学と共に初めて設置された。当時としては非常にユニークな理念と教育目標を掲げ,60~102人の入学定員にも関わらず一専攻を貫いて,幅広い環境教育を行なってきた。この間,独自の博士課程の設置を熱望したが叶わなかった。筑波大学では1990年代後半の5年一貫制博士課程の大学院組織改編により,別に「生命環境科学研究科」が設置された。これにより独自の博士課程設置の望みは断たれたので,組織を博士前期課程と後期課程に再編し,生命環境科学研究科の一員となることで組織の充実を計る努力を行なった。その結果,2007年3月に博士前期課程「環境科学専攻」,博士後期課程「持続環境学専攻」に再編されて生命環境科学研究科に統合された。これに伴い修士課程「環境科学研究科」は2008年3月に31年間にわたるユニークな環境教育の歴史を閉じた。ここでは,ユニークな環境教育を支えた野外実習の一つである,自然環境野外実習についてやや詳しく紹介し,その教育効果等について論じた。
  • 新谷 恭明
    2008 年 21 巻 3 号 p. 223-230
    発行日: 2008/05/30
    公開日: 2012/02/09
    ジャーナル フリー
     九州大学人間環境学科は新キャンパスへの移転に伴う大学改革の構想の中から教育学部,工学部建築学科,文学部人間科学科及び健康科学センターの一部(協力講座)として1998年に設立された。文系と工学系から構成される文理横断型の大学院として全国に先駆ける存在であった。組織は人間環境学の基礎分野を担当する行動システム専攻(心理学,健康科学),発達・社会システム専攻(教育学,社会学),空間システム専攻(建築計画学,建築環境学,建築構造学)を周辺に置き,それらの学際領域として都市共生デザイン専攻(アーバンデザイン学,都市災害管理学),人間共生システム専攻(心理臨床学,共生社会システム学)の2学際専攻を置いた。2000年度から学府・研究院制度が採用されたために教育学部が人間環境学府となり,協力講座という存在もなくなったし,学府教育は時流に合わせた改革がしやすくなった。学際的大学院として独自の教育として共通講座「人間環境学」,人間環境学コロキウムがある。また,学際的研究を促進する学生支援事業として学府長賞の授与,学位取得に向けての研究支援,萌芽的学際研究支援などの事業がある。しかし,学際化がなかなか進まないという指摘もあり,これらの見直しをはかっているとともに,学際化に向けての組織的な改革を進めている。ひとつは言語文化研究院の教員を人間環境学府のスタッフとして迎え入れて新講座を設け,国際社会開発プログラムを新設する。また,21世紀COEの出口として持続都市建築システムプログラム(修士)・コース(博士)の開設も準備が整っているし,二つの学際専攻の再編も検討を進めている。
  • 南川 雅男
    2008 年 21 巻 3 号 p. 231-234
    発行日: 2008/05/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     3年前に改組で発足した北海道大学大学院環境科学院の歴史を振り返り,環境科学の教育機関としての特徴や問題点について報告する。環境科学院の中で地球環境問題に対応できる人材の育成を掲げる専攻として設置された環境起学専攻の教育システムの特徴について説明する。最後に,環境冠大学院として抱える問題特にフィールド調査をテーマとする研究者の養成や,その教育に生じている問題や困難について報告し,今後の環境科学の教育に必要な条件について触れる。
  • 馬奈木 俊介, 八木 迪幸
    2008 年 21 巻 3 号 p. 235-238
    発行日: 2008/05/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本研究では環境格付機構による企業の環境経営格付データと個別企業の財務データを用いて,計量分析を行った。対象年度は2002年度から2004年度である。被説明変数として企業の見通しを表すトービンのq(Tobin'sq),説明変数として環境経営格付の各項目データをそれぞれ用いた。 本研究の結果として,法令遵守や企業文化方針を実践する規定や組織に関する評価項目や物流における評価項目,循環型事業経営における評価項目などが,トービンのqと正に有意な相関があった。また苦情対応等に関する社内教育プログラムはトービンのqと負に有意な相関が見られた。これらの結果よりCSRマネジメントは企業業績の無形資産に有意に働くことが実証されたと考えられる。
  • 金子 慎治, 藤井 秀道
    2008 年 21 巻 3 号 p. 239-244
    発行日: 2008/05/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     対象とし,環境パフォーマンスと経済パフォーマンスの関係について,線形及び非線形な関数を用いて実証分析を行った。環境パフォーマンスは売上高/CO2排出量で定義される環境効率(Eco-efficiency)指標を用い,経済パフォーマンスは付加価値/資本で定義される総資本利益率(ROA)を用いた。分析対象期間は2001年度から2003年度とし,日本標準産業分類の製造業の分類方法に基づき,生活関連型産業,基礎素材型産業,加工組立方産業の3グループに分け,それぞれパネル分析を行った。その結果基礎素材型産業では正の線形的な関係が,加工組立型産業では上に凸な曲線の関係が得られた。これに対して,生活関連型産業では,環境パフォーマンス
  • 川原 博満
    2008 年 21 巻 3 号 p. 245-251
    発行日: 2008/05/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     本稿では,別稿に示す環境行動と経済および環境パフォーマンス評価に用いる指向性距離関数(Directional Distance Function,以下DDF)に入力する環境影響指標の一つとして,有害化学物質の影響を考慮するためのPRTRデータと幾つかの重み付け係数に基づく環境影響指標を提案する。この環境影響指標の基礎情報にはPRTR届出データを用い,毒性の異なる有害化学物質を指標として相対的に比較可能なものとする目的で神奈川県やEPAが作成した重み付け係数の活用を検討した。また,事業所の立地条件も考慮に入れるために,事業所周辺の人口を算出し,第2の重み付け係数として使用し比較を行った。 その結果この指標を用いた環境パフォーマンス評価結果から,有害化学物質による人の健康への影響や生態系への影響を考慮した環境影響指標としては有効であるが,前者に対しては人口分布や事業所の立地状況などの地域特性も大きく影響することが分かった。また,神奈川県を対象地域として業種ごとに環境影響指標を比較した評価では,化学工業や輸送用機械器具製造業において,換算排出量および周辺人口が比較的高く,優先的な取り組みが期待される業種であることが示唆された。
  • 金原 達夫, 藤井 秀道
    2008 年 21 巻 3 号 p. 253-259
    発行日: 2008/05/30
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     環境と経済を両立させるためには,経済の主要な主体である企業はいかなる行動を展開するべきか明らかにすること,とりわけ,環境と経済の関係に関する環境行動の組織メカニズムを解明することが不可欠である。本稿では,日本企業の環境行動と組織マネジメントシステムに着目して環境パフォーマンスと経済パフオーマンスの間の因果的関係を解明し,環境パフォーマンス向上のメカニズムを明らかにする。 分析結果より,一連の因果関係プロセスとして,環境規制や市場要請等の外部要因が環境戦略に作用し,その結果,環境行動を強めて環境パフォーマンスの向上が達成され,最終的には経済パフォーマンスを改善させるということが明らかとなり,環境と経済を両立させるメカニズムの一部を明らかにすることができた。 本研究から得られる政策提言としては,持続可能な社会の形成に向けて企業の環境への取り組みを強めるために,企業の環境意識を高め,社会的責任や環境理念を含む環境戦略を形成し,組織の行動全体にその意識が具現化するよう働き掛けることが重要であるということである。そのためには,環境意識の高い市場の形成や社会性の高い取引関係を促進することが必要であり,さらに,市場および社会の意識が強まり,企業の方針にこうした外部の要因に対する反応が組み込まれていくことが重要である。そして,企業がそうした行動を取りやすくするインフラ整備には政府に大きな役割が求められる。
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