環境科学会誌
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22 巻, 3 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
一般論文
  • 仲川 泰則, 柴田 英昭, 佐藤 冬樹, 笹 賀一郎
    原稿種別: 一般論文
    2009 年 22 巻 3 号 p. 173-186
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    著者らは,北海道の2つの集水域について,渓流水のpHの時空間変動と,その変動を引き起こす要因について評価した。1つの集水域は,渓流の流路沿いに湿地が広がり,もう1つは狭い渓畔域を持つ。著者らは,渓畔湿地が渓流水のpHに及ぼす影響についても評価した。本研究では,渓流水のpHはほぼ中性で,主に二酸化炭素分圧(以下,pCO2)によりコントロールされていた。つまり,渓流水・渓畔帯からのCO2の脱気により,高いpCO2と低いpHを示す湧水から低いpCO2と高いpHを示す下流の水に徐々に変化していった。流路周辺の地下水は,渓流水よりも高いpCO2と低いpHを示した。地下水の流入により渓流水量が増加するが,渓流水のpHには明瞭な影響を示さなかった。このことは,土壌と渓流の境界面で比較的速やかなCO2の脱気が起こることを示唆する。広い渓畔湿地を持つ集水域は,高いpCO2と低いpHを示す小さな支流を有し,この支流が直接的に渓流水を酸性化した。融雪期にこの支流の流量が高くなったとき,高いpCO2を持つ支流が多量に流入するために,流下に伴う渓流水のpH上昇傾向が一時的に逆転した。
短報
  • 白木 洋平, 樋口 篤志, 近藤 昭彦
    原稿種別: 短報
    2009 年 22 巻 3 号 p. 187-195
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    人間社会の活動に特化した空間として発展した都市は無秩序な拡大をしてきたために様々な問題を生み出しており,その問題の一つとして都市部ではヒートアイランド現象(Urban Heat Island Phenomenon)が深刻化している。このヒートアイランド現象は真夏日・熱帯夜の日数を増加させるだけではなく,集中豪雨の日数増加に間接的な影響を与えることも示唆されている。
    そこで,本研究では東京都および埼玉県南部の計51市区町村を研究対象地域とし,レーダー・アメダス解析雨量を用いることにより都市の熱環境と都市構造が近年増加傾向にある都市の対流性降雨に与える影響の評価を行った。ここで,使用した都市構造パラメータは熱的特性値,人工排熱,緑被率,海からの平均距離,平均標高,建物構造パラメータ,水域面積の割合である。
    結果,昼間において30mm/h以上の降雨回数と各都市構造パラメータとの間には熱的特性値,建物高度,粗度,人工排熱,緑被率,海からの平均距離において相関関係が見られた。また,夜間においては降雨回数と各都市構造パラメータの明確な関係を確認することは出来なかったが,レーダー・アメダス(30mm/h以上の降雨回数)の空間分布により,西方の降雨回数が東に移動し研究対象地域に降雨をもたらしている様子が見て取れた。
シンポジウム論文
  • 生態学的・実践的視点からの指摘
    岩崎 雄一, 及川 敬貴
    原稿種別: シンポジウム論文
    2009 年 22 巻 3 号 p. 196-203
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    2003年に日本で初めて,水生生物の保全に係る水質環境基準が全亜鉛について設定された。この環境基準の維持・達成を図るため,2006年に亜鉛の一律排水基準が強化された。本稿では,野外底生動物調査や聞き取り調査に基づき,亜鉛の水質環境基準及び排水基準の問題点を紹介した。エルモンヒラタカゲロウ等の生物への無影響濃度に基づく環境基準は,その策定過程から,本来の目的である生物個体群の保全を反映した基準とはいえない。また,野外調査結果によれば,この環境基準値を超えた地点でも実際の底生動物群集について顕著な悪影響が見られるとはいえない。一方,強化された亜鉛の一律排水基準は,社会的,経済的,技術的観点等に配慮されて設定されたと解釈できるが,この策定過程において複数の問題群も存在する。亜鉛はタイヤなど非点源排出源からの負荷が存在し,事業所の排水基準の規制を強化するだけでは,環境基準の達成は困難な場合があることが予測されている。休廃止鉱山が上流に位置する河川では環境基準値を大幅に超えた汚染地域が存在し,生物群集に顕著な影響が見られる。しかしながら,それら地点における重金属負荷のいくらかは自然起源によると考えられ,そのような場所での対策については議論が必要である。さらに,休廃止鉱山周辺の河川では生態毒性の強い亜鉛以外の重金属濃度が高濃度で存在していること,及び都市河川のような下流域においては亜鉛濃度が基準値を超えている地点の多くで生物化学的酸素要求量が高いことから,それら地点で亜鉛濃度だけを下げても,本来の目的である生態系の保全をはかることは期待できないことが予想される。これらの問題群を踏まえ,今後の基準策定のあり方について,水質環境基準と排水基準の関係,米国の水質浄化法における排水基準の個別的適用修正,及び順応的管理を取りあげて議論した。
  • 林 岳彦
    原稿種別: シンポジウム論文
    2009 年 22 巻 3 号 p. 204-211
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    本稿では,種の期待影響割合のベイズ統計を用いた算出手法を示した。本手法では,ベイズ法に基づく統計モデルを用いマルコフ連鎖モンテカルロ法により環境中濃度分布と種の感受性分布のパラメータ推定を行い,それらのパラメータの事後分布からモンテカルロシミュレーションにより種の期待影響割合の中央値および信頼区間の算出を行った。また,本手法では生物分類群間での化学物質に対する感受性の違いを考慮したモデルを用い,生態毒性データに含まれる分類群ごとの種数の偏りを補正した種の感受性分布の推定手法を示した。本手法は従来の種の期待影響割合の算出法に存在した主要な問題点を解決するものであり,異なる化学物質の定量的生態リスク比較やリスクトレードオフ解析における今後の研究に大きく寄与するものである。
  • 頭士 泰之, 益永 茂樹
    原稿種別: シンポジウム論文
    2009 年 22 巻 3 号 p. 212-218
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    グローバルスケールの問題をはらむペルフルオロ化合物(PFCs)汚染は,これまでにその汚染拡大防止に向けて先進国や国際機関において,製造禁止や使用規制といった観点から取り組みがなされてきている。一方でアジアの国々では発展途上の国も多く,PFCs汚染に取り組む体制の整備が遅れており,汚染の実態把握に役立つデータも限られている。この中で日本はPFCsに関する問題に対し情報・状況把握や調査体制が進んでおり,この問題解決に向けて途上国をリードして行くことが求められる。そこでこれまでの調査で得られた情報・知見に関して汚染状況や汚染源情報を中心にまとめ,アジア諸国における汚染拡大防止に向けて考察を行った。これらの国々では今後の経済発展に伴い汚染が悪化し,ヒト健康・生態リスク等が顕在化する地域も出てくると推察されるが,環境汚染にも配慮した発展が望まれる。そのために日本の役立てる部分は多く,効果的なPFCsリスクマネジメントに向けて今後もさらに情報・知見を集積していく必要がある。
  • 順応的管理による新たな管理手法の提案
    加茂 将史, 対馬 孝治, 内藤 航
    原稿種別: シンポジウム論文
    2009 年 22 巻 3 号 p. 219-225
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    化学物質はわれわれの日常生活に大きな便益をもたらしてくれる一方で,ヒト健康や生態系への負の影響をもたらす。近年,環境保護にも大きな関心が払われ,ヒト健康のみならず生態系の保護も目的にして,化学物質の利用に一定の規制をかけることは,社会的に受け入れられ始めている。しかしながら,化学物質の生態影響評価は歴史が浅いこともあり,何をどのように評価し,どのように保護すれば良いのかに対しては定見が無く,現実に管理を遂行するには解決しなくてはならない問題が多くある。本稿では,まず重金属,主に亜鉛を事例にして,リスク評価結果の紹介を行う。次いで,既存の問題点や生態リスク評価,リスク管理の考え方の紹介を行い,最後に,近年生態系管理の様々な分野で用いられている順応的管理を援用した化学物質の管理法の提案を行う。
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