環境科学会誌
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22 巻, 6 号
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一般論文
  • 奥村 忠誠, 清水 庸, 大政 謙次
    原稿種別: 一般論文
    2009 年 22 巻 6 号 p. 379-390
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/11/20
    ジャーナル フリー
    近年,全国でニホンジカの分布拡大が確認され,それに伴い農林業被害地域も拡大し,大きな社会問題となっている。本研究では,分布拡大に影響する要因を把握することで,被害拡大防止の一助になると考えた。さらに,分布拡大の要因が個体群を安定的に維持できる生息地からの距離に影響されることを仮定し,異なる解析対象範囲を用いて解析することで分布拡大の要因把握を試みた。
    分布データは環境省の自然環境保全基礎調査の第2回(1978年)と第6 回(2003年)を用い,両時期に分布していたメッシュを安定メッシュ,第6回のみに分布していたメッシュを拡大メッシュと定義し,解析は拡大メッシュを対象に行った。説明変数には,標高,積雪,植生,土地利用,人口,道路に関する変数を用いた。解析では誤差分布を二項分布,リンク関数をロジットとした一般化線形モデルを用いた。解析対象範囲は本州,四国,九州とし,全域を対象にした解析では安定メッシュからの距離を説明変数に含むモデルと含まないモデルの二つのモデルを作成した。また,分布拡大距離の統計量をもとに60km,20km,10km に解析対象範囲を絞ったモデルを作成した。
    その結果,全域モデルで説明変数に距離を含まないモデルでは,積雪や人口などの広域で変動する要因の影響が考えられ,既存の研究では指摘されてこなかった人為的要因の影響が示唆された。また,説明変数に距離を含むモデルの結果では,安定メッシュからの距離の影響が強いことがわかった。解析対象範囲を絞ったモデルでは,耕作放棄地,針葉樹林,道路などの比較的小スケールで変化する要因が影響を及ぼしていることがわかった。しかし,範囲を絞ったモデルの精度はあまり高くなく,その原因としてニホンジカの密度などの内部要因の影響が考えられた。
  • 松本 健一, 増井 利彦
    原稿種別: 一般論文
    2009 年 22 巻 6 号 p. 391-400
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/11/20
    ジャーナル フリー
    国際炭素税はCO2排出削減を効率的に達成するための一手段である。しかし,各国で共通の税率を導入すると貧困国の経済的負担は大きくなる。炭素の帰属価格に基づく炭素税(ICT)は,各国の経済レベルに応じた差異のある税率を賦課する国際炭素税である。これまでの研究ではICTの効果を短期的観点から分析してきたが,本税の性質や将来の気候変動政策の構築が急務であることを踏まえると,より長期的な効果を分析することが非常に重要となる。本研究の目的は,ICTが環境と経済に与える中期的な(2050年までの)影響を分析することである。本分析には動学的応用一般均衡モデルを用い,ICTによる影響を国際共通炭素税(CCT)による影響と比較する。各地域のICTの税率は公式に従って決定され,毎期更新される。一方,CCTの税率はICTケースと世界のGDP変化(BAU比)が同率となるように決定される。
    分析の結果,世界全体のCO2排出削減量はICTケースの方がCCTケースよりも小さいことが示された。この点では,CCTがより適切な炭素税であると言える。しかし,経済的側面も同時に考慮すると,両者で地域的なGDP変化のパターンが大きく異なるためにCCTの優位性は低下する。ICTケースではGDPのマイナス影響が途上国で先進国よりも小さいが,CCTケースではその逆に途上国でマイナス影響が大きくなる。さらに,ICTケースの方が世界全体のGDPに占める途上国の割合が高くなり,地域間の一人あたりGDPの格差が縮小する。この結果は,両者の経済的公平性が進展することを意味する。そのため,ICTとCCTには経済的公平性とCO2削減効果にトレードオフが見られる。世界全体でCO2排出削減政策を導入することと途上国に対する過度な経済的負担を回避することの重要性を踏まえると,中期的に見てICTの方がより政策的実効性の高い炭素税政策と言える。
  • -他の亜高山地域との比較から-
    谷川 東子, 高橋 正通, 野口 享太郎, 重永 英年, 長倉 淳子, 酒井 寿夫, 石塚 和裕, 赤間 亮夫
    原稿種別: 一般論文
    2009 年 22 巻 6 号 p. 401-414
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/11/20
    ジャーナル フリー
    森林衰退が報告されている奥日光地域で樹木と土壌の養分状態を調査した。その結果,奥日光地域の衰退樹種であるコメツガ生葉のマグネシウム(Mg)含量は平均±標準偏差が0.60±0.13 mg g-1と国内の他の亜高山地域の0.88±0.12 mg g-1に比べ低く,Mg/Ca比(モル比,Caはカルシウム)も奥日光では0.39±0.10と他の亜高山地域の0.72±0.19に比べ低いことが明らかになった。また奥日光の土壌の交換性Mg含量,および交換性Mg/Ca比は,他の亜高山地域の既報値と比較して低かった。この比は表層から下層まで一様に低いため地質に由来する特性であると考えられ,コメツガ葉のMg/Ca比が低い現象は,土壌の低Mg/Ca比を反映していると推察された。また奥日光の表層土壌は,既報の林野土壌調査による亜高山地域の表層土壌群と比較して,とくに酸性化が進んでいるとはいえなかった。従って,奥日光における森林衰退を大気汚染物質の流入にともなう土壌の酸性化が原因とは考え難かった。しかし,土壌条件によるコメツガ生葉のMg不足は,各種環境ストレスへの耐性低下につながる可能性が考えられた。
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