環境科学会誌
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25 巻, 5 号
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一般論文
  • -日本との比較検討を通して-
    劉 晨, 王 勤学, 李 全鵬, 石村 貞夫
    2012 年 25 巻 5 号 p. 333-346
    発行日: 2012/09/28
    公開日: 2013/10/04
    ジャーナル フリー
    中国では経済が著しく発展する一方で,その水環境は悪化している。この事態の転換のために様々な対策が考案されている中で,住民としての個人の役割も提起されている。しかし,中国では水環境に対する一般住民の意識がどのようなものであるかという調査研究はこれまでほとんどなされていない。このため,2008 年3 ~5 月に,中国の漢江流域にある丹江口市,襄樊市,鐘詳市,仙桃市,武漢市の5 地域の都市部及び農村部における一般住民の水環境に対する意識を調査した。その調査結果を基に,水環境の現状に対する意識,日常生活と水環境に対する意識,水環境の施策に対する意識,水環境への住民自らの取り組み,及び水環境政策に対する要望,という5 つの項目で日本との比較検討を行った。その結果,中国漢江流域でも日本でも水環境に対する関心度は高く,水環境の現状や施策に対する意識について多くの共通点が見られた。その一方,河川の水質汚染の原因については,中国漢江流域では第一に工場排水であると認識しており,日本では生活排水であると認識しているなど,両地域の相違が明らかとなった。また,中国漢江流域では水環境に対する関心度が高く,水環境の保全と回復が期待されていることがわかった。しかし,中国漢江流域では公害型の水環境問題は注目されているものの,同時に混在している都市型・生活型の水環境問題についてはまだ十分に認識されていない。さらに,実生活の環境負荷の削減策はそれほど浸透しておらず,そのノウハウや工夫も不十分ということが明らかになった。このような調査と比較研究は,今後の中国の水環境施策や日本のアジア環境政策の策定に参考となるであろう。
  • -南太平洋島嶼国の比較-
    森田 香菜子
    2012 年 25 巻 5 号 p. 347-366
    発行日: 2012/09/28
    公開日: 2013/10/04
    ジャーナル フリー
    開発途上国における気候変動の悪影響は今後深刻化することが予測されている。しかし,途上国には気候変動への適応策を実施するための十分な資金や技術がない。途上国への適応策支援の問題は,適応策に関する制度設計の議論の中で主要な争点の一つとなっている。本研究は,気候変動に対して脆弱な途上国の適応策を推進する,効果的でパフォーマンスの高い資金供与制度を探究する。(1)国際政治学と開発金融学の理論を基に構築した,適応策支援を目的とした既存の資金供与制度の効果やパフォーマンスを評価する新しい分析枠組及び分析軸,(2)気候変動に対する脆弱性の度合いが異なるサモアとツバルの事例研究,の二つの研究アプローチを用いた。研究の結果,適応のニーズ,国内事情,ドナーとレシピエントの関係の違いにより,適応策推進に効果的なドナーとレシピエントの組み合わせは,サモア及びツバルで異なることが明らかになった。本研究は,適応策の資金供与制度の構築において,途上国の適応のニーズや国内事情,資金供与制度の特徴を考慮する必要性を示した。
  • 田畑 智博, 文 多美
    2012 年 25 巻 5 号 p. 367-377
    発行日: 2012/09/28
    公開日: 2013/10/04
    ジャーナル フリー
    本稿では,ライフサイクルアセスメント,ライフサイクルコストの各手法を用いて各種光源商品の比較を行うとともに,住宅の光源商品をLED光源に切り替えた場合の環境的・経済的評価を行った。
    対象とする照明光源商品は,白熱電球,電球形蛍光ランプ,電球形LEDランプ,環形蛍光ランプ,直管蛍光ランプ形LEDランプである。本来であれば,環形蛍光ランプからの切り替えは環形のLEDランプを用いるが,2011年12月時点において該当する商品数が少なかったため,直管蛍光ランプ形LEDランプのデータを代用した。先ず,光源商品の販売データを用いて,光源商品別のライフサイクルCO2を算出した。このとき,商品機能として各光源商品の定格寿命および全光束を統一した。
    その結果,電球形LEDランプは,白熱電球に比べて約78%のCO2削減効果がみられた。一方,直管蛍光ランプ形LEDランプについても同様に評価を実施したが,環形蛍光ランプからの切り替えによる効果は殆どみられなかった。次に,名古屋市を対象として光源商品の使用実態を調査するとともに,これを踏まえた,LED光源への切り替えによるCO2削減効果とコスト低減効果を試算した。その結果,CO2排出量は一戸あたり年間41~73kg,コストは年間2,160~3,800円の削減が可能であった。また,居住室の使用時間の短縮による CO2排出量の変化量を評価した結果,環形蛍光ランプは,LED光源に切り替えるよりも使用時間を短縮した方が,CO2削減効果が高いことがわかった。
    以上より,光源商品の種類によって,光源の切り替え,使用時間の短縮等の対策の実施方法が異なってくることが明らかになった。
  • 小林 憲弘, 久保田 領志, 田原 麻衣子, 清水 久美子, 杉本 直樹, 西村 哲治
    2012 年 25 巻 5 号 p. 378-390
    発行日: 2012/09/28
    公開日: 2013/10/04
    ジャーナル フリー
    水道水質管理目標設定項目の候補とされている農薬135物質のうち60物質のGC/MS一斉分析法を検討した。農薬混合標準液を用いた分析結果では,いずれの農薬についても,検量線の直線性および繰り返し分析の再現性は概ね良好であった。また,一日許容摂取量(ADI)に基づいて目標値を推定可能な59物質全ての定量下限値は各目標値よりも低い濃度となり,そのうち56物質については目標値の1/100よりも低い濃度まで定量可能であった。さらに,精製水および水道水を用いて添加回収試験を行ったところ,LogPowあるいは水溶解度によって,固相抽出カラムによって濃縮できるかどうかを判断することが概ね可能であり,43物質については,回収率の平均値が70~120%の範囲の良好な結果を得ることができた。なお,本研究において開発したGC/MS一斉分析法は,最終的には水道水質検査法の新しい標準検査法に発展させることを目的としているが,そのためには,複数機関による分析法バリデーションを行い,本法の分析精度を検証する必要がある。今後は,本法の妥当性評価を早急に実施したい。
シンポジウム論文
  • 杉山 範子, 渡邉 聡, 竹内 恒夫
    2012 年 25 巻 5 号 p. 391-396
    発行日: 2012/09/28
    公開日: 2013/10/04
    ジャーナル フリー
    本報告は,CO2削減策を全国ベースのものと地域ベースのものに分類し,どちらを重点的に実施することが地域経済・雇用創出に効果をもたらすかを検証し考察したものである。
    わが国において展開されているCO2削減策および実現可能性のあるCO2削減策について,全国ベースのもの,すなわち国の政策等により全国一律の措置があるものと地域に根差した削減策に分け,これらを組み合わせて,愛知県を対象に2030年における1990年比マイナス40%の2つのロードマップ(RM-1(全国ベースのCO2削減策中心),RM-2(地域ベースのCO2削減策中心))を作成した。さらに,RM-1とRM-2について,それぞれの削減策の導入量ごとの投資額等を求め,「地域気候政策・経済分析モデル」(平成22年度環境経済の政策研究「自立的地域経済・雇用創出のためのCO2大幅削減方策とその評価手法に関する研究」で開発したモデル)を用いて経済効果を予測した。この結果,地域ベースの削減策を中心にしたRM-2が,全国ベースの削減策中心のRM-1よりも,2030年の県内総生産では約7兆円大きく,2030年の雇用者数では約6~9万人多くなり,地域に根差したCO2削減策が地域経済や雇用創出に効果的であることが明らかになった。RM-1は消費支出が中心であるのに対し,RM-2は設備投資が中心であることから,直接的に愛知県内の生産・企業活動の喚起に結びつくと考えられる。したがって,「地域の設備投資型CO2削減策」の導入は,地域のCO2排出削減に寄与するだけでなく,県内総生産の拡大・雇用創出をもたらし,地域の環境と社会・経済に貢献しうると考察した。
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