環境科学会誌
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26 巻, 1 号
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一般論文
  • 本橋 章, 小曽戸 貴典
    2013 年 26 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2013/01/31
    公開日: 2014/02/08
    ジャーナル フリー
    ほぼ同じ位置から撮影された北八ヶ岳,縞枯山に見られる縞枯れの写真を1931 年から2010 年までの80 年間について集め,それらの比較を行った。縞枯現象の大局的な動きは,枯死木帯が稜線に向かい進む速度と,森林帯が枯死木帯の上方に向かって進む速度のバランスにより決定されることがわかった。これらの速度はおよそ50 年の周期で上下動する年平均気温に深く関わることがわかった。つまり,年平均気温の低温期に起こった樹木の枯死が,10 ~20 年のタイムラグで白骨化することで年平均気温の上昇期に枯死木帯が大きく進行する。更に,年平均気温の高温期付近では樹木の生長も著しく,森林帯が枯死木帯の下部から上部に向かって進行するが,年平均気温の下降期には森林帯および枯死木帯の双方とも進行が停止する。
  • 島崎 洋一
    2013 年 26 巻 1 号 p. 11-21
    発行日: 2013/01/31
    公開日: 2014/02/08
    ジャーナル フリー
    環境教育の目的は,持続可能な社会づくりに貢献する人材の育成である。持続可能な社会の具体例として,共生社会,自然調和型社会,資源循環型社会,低炭素社会があげられる。近年,低炭素社会を対象にした環境学習プログラムの開発は増加傾向にある。低炭素社会の実現を考えるうえで,地域特性を踏まえて,太陽光,風力,中小水力,地熱,バイオマスなど,再生可能エネルギーの導入を考えることが望ましい。本研究では,地域の再生可能エネルギーを題材にした環境学習プログラムを開発した。研究対象は2050 年に県内の二酸化炭素の排出量と吸収量の差をゼロにする目標を宣言した山梨県である。本論文では,小学校高学年を対象とした「二酸化炭素ゼロやまなし」のテーマを取り上げる。地球温暖化対策実行計画,再生可能エネルギーの導入計画,都道府県別エネルギー消費統計など,地域の資料に基づき,教材開発を行うことを試みた。
    2010 年11 月,筆者が作成した学習指導案やワークシートなどを通じて,協力校の担当教員が試行授業を実践した。小学校5 年生30 名,小学校6 年生28 名が計3 授業時間をそれぞれ受講し,授業前後にアンケート調査を実施することにより,プログラムの内容を検証した。その結果,授業前後のアンケート調査の比較から,地域に密着した環境学習の有効性や環境問題に対する当事者意識の向上が定量的に明らかになった。アンケート調査の自由記述からも環境保全を意識した身近な行動に結びつける内容がみられた。担当教員からは,世界規模から身近な問題へ変わっていく構成面において高い評価を受けた。試行授業の検証を踏まえて,やまなし環境プログラムの冊子版48 ページおよび概要版を作成し,2011 年3 月に山梨県内のすべての小・中学校に配布した。また,学習指導案,ワークシート,スライド資料などの電子データが山梨県のホームページに公開された。
  • 小田 秀充, 岡島 敬一, 内山 洋司
    2013 年 26 巻 1 号 p. 22-31
    発行日: 2013/01/31
    公開日: 2014/02/08
    ジャーナル フリー
    この研究の目的は,キュポラと誘導炉によって鋳鉄を製造するプロセスを対象に,経済性と環境性の分析を行うことにある。環境性ではCO2排出量を対象とした。方法論としてはインベントリ分析におけるハイブリッドLCA 法を用い,間接影響まで含んだ負荷を分析したほか,鋳鍛造品の中間財としての負荷を推計した。
    経済性では,初期投資で同規模のキュポラと誘導炉で差があるが,耐用年数の12 年間で見ると初期投資の占める割合は少なく,コストの大半を占めるのは運転費であった。キュポラの場合,コークス費とコークス比によって影響を受けている。
    CO2負荷では,誘導炉の明確な優位性が得られた。運転に由来する差が大きく,設備による差は小さい。また中間財としての鋳鍛造品の負荷を推計した結果,最終財としてのそれに比べて極めて小さいことが示された。
シンポジウム論文
  • 大隈 修
    2013 年 26 巻 1 号 p. 32-41
    発行日: 2013/01/31
    公開日: 2014/02/08
    ジャーナル フリー
    バイオマスは再生可能エネルギーとして期待されているが,その利活用は一般的に事業性(経済性)に欠けるためになかなか広がらず,一方で現有の事業にはその実効性に疑問が提示されている。そこで,代表的バイオマスとして,生ごみ,家畜排せつ物,木質バイオマスの3 種を選び,利活用の現状と課題を整理し,事業性(経済性)と実効性の評価式を提示し,評価の考え方を述べた。さらに,湿潤バイオマスにはメタン発酵を,乾燥バイオマスについては直接燃焼・ガス化,固体燃料化を利活用(転換)技術として選び,その事業化にあたっての技術的課題を整理し,自治体と民間企業それぞれについて事業性(経済性)の評価を行った。現状で,バイオマスの利活用に取り組み,継続的事業として成功している事例は,自治体の生ごみや,ビール工場や食品工場の廃棄物系湿潤バイオマスを対象としたメタン発酵であり,木質バイオマスでは製材工場の廃材や建設廃材等を利用した直接燃焼による熱利用,発電である。これらは,いずれも廃棄物系バイオマスの利活用であり,現在の廃棄物処理システムの中に位置づけられるため,従来の処理費用に比べて経済性があり,加えて環境改善,CO2 削減等の間接的効果を評価できるとして,継続的事業として成功している。また,未利用のバイオマスの利活用の推進には,政策誘導等により,間接的効果の価値を付加した経済システムの構築が必要である。一方,バイオマス利活用の取り組みには,成功事例とともに失敗事例があることから,成功と失敗の要因を抽出し整理した結果,失敗事例には技術の選択のミスと過剰設備の問題があり,バイオマスの発生量と性状に適したできるだけシンプルな技術を選定することが重要であることを示した。
  • 伊佐 亜希子, 美濃輪 智朗, 柳下 立夫
    2013 年 26 巻 1 号 p. 42-48
    発行日: 2013/01/31
    公開日: 2014/02/08
    ジャーナル フリー
    バイオマスタウン事業の波及効果を定量的に把握することを目的として,バイオマス会計表を用いて,岡山県真庭市のバイオマスタウン事業を本体事業と波及事業に分けて集計した。真庭市の木質系廃材・未利用木材利活用事業における10 の本体事業と7 の波及事業をバウンダリーとし,ヒアリング調査によって得られた情報をバイオマス会計表に入力,自動分析させ,事業収支,CO2 収支,事業への参加者数の集計結果(1 年間)を示した。真庭市全体の事業収支,GHG 収支はともに良好であったが,波及事業の経済的・環境的効果は,本体事業と比較して小さかった。バイオマス会計表を用いると,本体事業と波及事業の経済的・環境的・社会的効果を定量的に把握し,表示することが可能であった。波及事業の中には,環境的効果は低いが経済的効果が高かった真庭市の木片コンクリート製品製造販売事業があり,これらの結果を示すことで,将来,波及事業への新規参入が増える可能性がある。バイオマスタウン事業では,事業主体が事業情報を正確に把握し,その成果を地域住民や関連企業等の利害関係者に提示することが求められることから,バイオマス会計表は,事業主体の説明責任に資するツールになり得るといえる。
  • -岡山県真庭市・福岡県筑後川流域における事業所・市民アンケートから-
    近藤 加代子, 曾 月萌
    2013 年 26 巻 1 号 p. 49-62
    発行日: 2013/01/31
    公開日: 2014/02/08
    ジャーナル フリー
    木質バイオマス利活用事業の事業経済性のために必要な協力行動に対する影響要因を明らかにするために,木質バイオマス事業の先進地岡山県真庭市と取組を開始したばかりの福岡県朝倉市・周辺地区において,事業者(企業)・市民に対するアンケート調査を実施した。両地域において,事業者・市民の一般的な行動特性に大きな違いはなく,地域で取り組んでいるバイオマス利活用事業に関する認識に大きな違いがあった。真庭市の高い協力度は,地域特有性によるものではなく,バイオマス利活用事業を取り組むこと自体によってもたらされていると考えられ,朝倉地域は取組次第で協力行動を高めることができる可能性を持つ。
    またバイオマス利活用事業がもたらす地域社会に対する効果の認識が企業・市民共に大きく影響する。さらに事業者の場合は経営上の顧慮,市民の場合は価格や使いやすさなどが重要となる。
    地域の協力行動の促進にはバイオマス利活用事業の地域効果を明確にすることが重要である。直接的な需要にならない場合でも,市民を巻き込んだまちづくりビジョンと企業のイメージアップによって二次的な市民の需要行動を促進でき,それによって企業行動の促進が期待される。導入期,発展期で,企業・市民行動への影響要因が異なるために,発展プロセスに即したビジョンを持つことが望ましい。
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