環境科学会誌
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26 巻, 3 号
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一般論文
  • 中澤 克仁, 胡 勝治
    2013 年 26 巻 3 号 p. 217-225
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    現在のインターネット社会に代表されるように,ICTの発展は著しく,その製品・サービスは様々な分野で活用されている。一方で,ICT機器には,その機能性を向上させるために,貴金属・希少金属を含有した材料・部品が多種多様に使用されており,近年のアジア諸国の急激な経済発展に伴う金属資源の需要拡大,これに起因した価格高騰等により,日本国内における金属資源の安定供給が懸念されている。そこで本研究では,まずICT機器の金属資源の含有状況を把握するために,デスクトップ型パーソナルコンピュータに搭載されているLSIパッケージを対象として,ここに含有されている金属資源濃度を分析した上で,これらの結果から資源経済価値およびTMRを算定することで,今後の金属資源リサイクルの可能性を検討した。
    その結果,各種LSI パッケージにおける金属資源の含有濃度分析から,LSIパッケージの年代や形状によって,金属資源の含有濃度は大きく異なることが確認された。さらに,近年のLSIパッケージにおけるAuの含有濃度は低下傾向にあり,逆にCuの含有濃度は増大傾向にあるものの,LSIパッケージのリサイクルにおいては,Auの回収が経済的な効果として大きいことが資源経済価値の結果から示された。希少金属におけるTMRとしては,端子材のNiやCo,内部配線材料のMoとWに加え,放熱材料として使用されているInの影響が極めて大きく,今後の需要増大によるリサイクルの必要性が示唆された。また,LSIパッケージにおけるAuは,資源経済価値やTMRの結果において支配的であった一方で,含有濃度の大きいCuによる影響は相対的に小さいことが認められた。
  • -生産活動の観点から-
    松橋 啓介, 村山 麻衣, 増井 利彦, 原澤 英夫
    2013 年 26 巻 3 号 p. 226-235
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    低炭素社会や循環型社会を実現するため,その将来像と到達経路をシナリオとして提示し,実現施策の検討に用いる研究が行われている。施策検討に定量的なモデルを用いる際に,将来の社会経済活動がトレンドや成長目標に沿って与えられ,持続可能な社会へ向かって社会経済活動が転換するシナリオを十分に考慮できない場合があった。そこで本研究は,わが国の持続可能社会への転換シナリオづくりの第一段階として,持続可能社会に適した社会経済活動の将来像を特に生産活動の観点から記述する叙述シナリオの構築を試みた。次の段階で定量的なモデル化を行う際に,トレンドや成長目標によらない設定を行う考え方の根拠を提供することを目的とする。
    まず,シナリオ分析の手法および事例のレビューを踏まえて,社会経済活動のシナリオを左右する要因として,社会が目指す目標を定義することとした。シナリオ分析の手法では,影響が大きくかつ不確実性が大きい要因からシナリオを左右する要因を選択することが多いが,その選択に自由度が高く,汎用性や妥当性に疑問が生じやすいと考えた。そこで,持続可能性指標等を参考に,包括的なシナリオとするため,個人,社会,経済,環境の4分野の目標の組み合わせを要因とし,それぞれについて叙述シナリオを作成することとした。
    次に,シナリオ分析の事例を踏まえて,経済,特にGDP成長を重視するシナリオと先の4分野における目標のバランスを重視するシナリオの二つを枠組みとして,生産活動に関する叙述シナリオの構築を試行した。横断型学会連携組織のメンバーを対象としたグループインタビューを踏まえて,中長期的には,製品の提供からインフラ等のシステムの提供,さらにはソフト的な価値を提供する産業に移行すること,持続可能社会に向けては,特に生活ニーズや地域ニーズに応える医療や農業に関連する産業が重要になることを指摘した。
    持続可能社会への転換のためには,環境面の重視,あるいは環境と経済の両立だけでなく,社会や個人の健全性も重視した魅力的な社会経済シナリオが重要である。今後,定量的な裏付けを伴ったシナリオを提示したい。
  • -チヘア灌漑地区における水資源および稲わらバイオマスポテンシャル-
    乃田 啓吾, 沖 一雄, 安瀬地 一作, 吉田 貢士, 白川 博章, SIGIT Gunardi
    2013 年 26 巻 3 号 p. 236-243
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    近年,チタルム川中流域に位置する貯水池では,堆砂・富栄養化問題が深刻化している。その一因として,農民の貧困問題を背景とする森林の開墾および開発された農地における土壌侵食および栄養塩流出が挙げられる。そこで本研究では,農民貧困緩和策の提案を目的とし,アンケート調査による農民の現状把握および未利用資源の活用による経済効果の試算を行った。
    アンケート調査の結果,農民の意識および経済状況として,現状の生産システムでは,自家消費分を差し引いた余剰米の販売では十分な収入が得られず,またそれを補う雇用機会も十分に得られていないこと,さらに,他の場所への移動は望まないことが明らかとなり,現状の水稲生産システムを活用した対策の必要性が確認された。また,水資源の開発による3期作の実現,稲わらのバイオエタノール原料利用により,土地利用の改編等を伴わずに農民の年間収益を現状の約1.7倍に増加させることが可能であることが分かった。
シンポジウム論文
  • -水道用水需要量に着目して-
    岡川 梓, 肱岡 靖明, 金森 有子
    2013 年 26 巻 3 号 p. 244-256
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    世界全体の需要別水利用量において,生活用水は,全体へ占める割合は小さいものの,人間が生きるための基本的要件であり,社会システムを維持するために必要不可欠である。しかしながら,人口増加,都市化,生活スタイルの変化により生活用水需要量が急激に増加し,水不足が深刻な問題となることが懸念されている。
    本研究では,統計的手法(パネルデータ分析)を用いて全球の国別生活用水需要量推計を目的としたモデルの開発を試みた。所得と水需要の関係に加えて,既存研究では考慮されてこなかった政治的・社会的情勢,固有の文化的背景を含む生活様式といった所得以外の要因を考慮し,両者の効果を分離した独自のモデルの開発に取り組んだ。その結果,(1)水道へのアクセスの有無,(2)国別に異なる水道用水需要量,さらに(3)水道施設維持の大きな問題点である漏水量の定式化に成功した。
  • 大瀧 雅寛, 花崎 直太, 藤田 夏海, 荒巻 俊也
    2013 年 26 巻 3 号 p. 257-265
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    グローバルな水需要予測においては,途上国での急激な都市化や経済発展による工業用水需要の延びに注目する必要がある。これまで工業用水使用量の将来予測については,複数のモデルが提案されてきたが,本研究では変数が少ないモデルとして,国内総生産(GDP)変化と水利用効率の改善率によって将来予測を行うモデルを対象とし,水利用効率改善率ηの決定方法について検証した。これまでこのパラメータは世界を10地域に区分し,区分毎にある一定値を適用して用いられていたが,その決定方法や,一定の値として良いのかについての議論は行われてこなかった。本研究では水利用効率改善率ηを検証するために,できるだけ多くの国において,工業用水使用量およびGDPの過去データ を収集し,そのデータから国毎にη値を算出し,それらη値と関連すると思われる因子,例えば水資源量や経済状態,主要工業種といった指標との関係を調べ,水利用効率改善率ηはどの様に決定されるのかを考察した。その結果,産油国であるか否か,一人当たりGDP,一人当たり水資源賦存量によって,η値の平均値および値のばらつきが決定されることがわかった。このことから各国における人口変化やGDP変化,および主要業種などによって,η値を変化させる必要があることが示唆された。さらに今回算定したη値を用い,数カ国において1980年データを予測開始年数とする2005年までの使用量推移予測を行った結果,従来モデルに比べて,工業用水の実使用量の推移傾向を適切に示すことができており,近い将来に対する予測精度の向上が確認された。しかし,長いスパンの将来予測のためには,各国の経済状態や主要業種の変更に伴うη値の変化予測をどの様に行うかが今後の課題と考えられた。
  • 金森 有子, 肱岡 靖明
    2013 年 26 巻 3 号 p. 266-277
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    人間として健全な生活を営むためには,水の利用が必須であるが,地域によってその使用量には大きな違いがある。その理由として,降水量や水資源量の違い,上水道や井戸などの整備状況の違い,生活様式や経済レベルの違いが挙げられる。多くのアジア諸国では,今後の人口増加や経済成長に伴い,インフラの整備や水洗トイレ等水使用機器の普及が進むことが予想される。これらの成長に伴い,今後の水使用量が急激に増加することが予想される。人口増加や都市域への人口集中などと相まって,生活の基盤を維持するための安全な水を確保できない場合,持続可能な発展に大きな障壁になることが懸念されている。持続可能な発展のための計画を立てるためにも,現状や将来の水使用量の構造を把握することが非常に重要になる。
    本論文では,日本,韓国,中国,インド,ベトナムのアジア5カ国に対して,人口や機器普及率と使途別水使用量の関係を定義して,基準年(2005年)の使途別水使用量を推計した。次に,人口や機器普及率の変化を考慮した2050年までの使途別水使用量の推計を行った。その結果,2005年の使途別水使用量については,他調査結果と比較しておおむね良好な推計結果を得て,日本,中国,インド,ベトナム,韓国の1人1日あたり水使用量がそれぞれ228,98,59,89,179Lであることが分かった。また,都市化の進展と世帯人員数の変化,水使用機器普及率の変化を考慮した2050年までの水使用量推計の結果,途上国では1人1日あたり水使用量が2005年と比較して30%から50%程度の増加が予想された。また,人口増加による影響も考慮するとインドでは2005年と比較して約130%もの水使用量の増加が予想された。一方,先進国である日本や韓国では節水機器の導入も進み,1人あたり水使用量は減少することが予想された。特に日本では人口減少も進むため,国全体として2005年と比較して70%程度の水使用となることが予想された。
  • -小麦,米,トウモロコシのケーススタディ-
    日引 聡, 鶴見 哲也, 馬奈木 俊介, 花崎 直太
    2013 年 26 巻 3 号 p. 278-286
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    本稿では,主要な農作物である小麦,米,トウモロコシを対象に,重力モデルを二国間の相対貿易に適用し,二国間相対輸出モデルを構築し,パネルデータを用いてパラメータ推計をし,実質GDPや気候条件がこれらの相対貿易に与える影響を分析した。得られた主要な結論は,(1)輸出国及び輸入国の実質GDPの増加は,輸出量を増加させる。特に,米に比べて,小麦とトウモロコシの輸出に対する影響が大きい。(2)輸出国の気温上昇は,小麦の輸出を減少させるが,米とトウモロコシの輸出を増加させる。(3)輸入国の気温上昇は,小麦,米,トウモロコシの輸出(輸入国にとっての輸入)を減らす。(4)(2)と(3)の結果,世界全体で気温が3℃上昇した場合,小麦では,8.91%輸出が減少し,米では,1.13%輸出が増加し,トウモロコシでは,0.15%輸出が減少する。(5)輸出国の降水量増加は,小麦とトウモロコシの輸出を減少させるが,米の輸出を増加させる。輸入国の降水量の増加は,小麦の輸出(輸入国にとっての輸入)を減少させるが,米とトウモロコシの輸出を増加させる。(6)この結果,世界全体で10%の降水量増加(97mm/年)による輸出への影響は,小麦の場合,2.25%輸出減,米の場合,0.84%輸出増,トウモロコシの場合,3.15%の輸出増となる。
  • 萩原 健介, 石田 裕之, 花崎 直太, 鼎 信次郎
    2013 年 26 巻 3 号 p. 287-296
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    再生可能エネルギーや温室効果ガス排出削減等の関心から,バイオ燃料が注目される一方で,食料との競合等の懸念もあり,早急にバイオ燃料の潜在性について評価される必要があるが,その研究が十分ではない。これまでの筆者らの研究では,世界のバイオ燃料のポテンシャルの上限値は約1120EJであると推定されていたが,この推定値を求める際には高地やサバンナなどに代表される,バイオ燃料の栽培には適さないと考えられる土地の利用も想定されていた。そこで本研究では,バイオ燃料作物の栽培地としてより現実的である放棄地および休耕地を対象として,世界のバイオ燃料ポテンシャルの推定を行った。その結果,放棄地および休耕地におけるバイオ燃料ポテンシャルを237EJと推定し,これは世界の一次消費エネルギーの約47%に相当する。加えて,先行研究の結果との差である約880EJのうち,ほとんどが栽培地の違いに由来し,果たして人類が実際にどれだけバイオエネルギーを享受できるかは,これまで作物の栽培が行われてこなかった土地を,どの程度利用するかに大きく依存することが明らかとなった。また,放棄地の劣化土壌の影響を考慮した場合,放棄地のバイオ燃料ポテンシャルが128EJから24%減少した97EJになるという結果から,実際の放棄地のバイオ燃料ポテンシャルは97-128EJの間に位置していると結論づけた。
  • -2009年カリフォルニア渇水銀行を中心に-
    遠藤 崇浩
    2013 年 26 巻 3 号 p. 297-305
    発行日: 2013/05/31
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    カリフォルニア渇水銀行(California drought water bank,以下,渇水銀行)は,米国カリフォルニア州で展開されている渇水対応策である。1987年から1992年にかけて同州を襲った記録的な渇水において初めて実験的に導入されて以来,同州の渇水対策として定着した。渇水銀行の特徴は,渇水時における水の配分問題を,利水者同士の自発的な水取引を促すことで解決を試みる点にある。つまり渇水銀行とは市場メカニズムの要素を取り入れた水の再配分政策といえる。
    これまでの先行研究によって,制度の概要,長所および問題点などが明らかにされてきたが,直近の2009年の取り組みについては,詳細な研究がなされていない。さらに研究動向全体を通じて渇水銀行における政府の役割,とりわけ水利権の許認可行政の詳細が明らかにされていない。そこで本稿では,2009年の取り組みに注目しつつ,渇水銀行における水利権の許認可行政の仕組みを明らかにし,市場方式の要素を取り入れた水の再配分政策であっても一定の政府活動の余地を残す必要があることを示す。
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