環境科学会誌
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27 巻, 4 号
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一般論文
  • -漂着を促す気象と海象の分析-
    岡野 多門, 向井 一将, 櫻井 詳子
    2014 年 27 巻 4 号 p. 199-206
    発行日: 2014/07/31
    公開日: 2015/08/08
    ジャーナル フリー
    海洋浮遊ごみの各国からの排出量を推測するための基礎研究として,気象および海象と24時間に漂着したごみ数の関係を2年間に275回調べた。潮汐変化が大きい海岸では,干潮時に漂着したごみが満潮時に浮き上がり,その多くが流出するため漂着量を測ることはできない。このため調査は潮汐変化が小さく,気象や海象のデータが得られる鳥取空港近くの砂浜で行った。気象と海象の漂着数への応答性は朝鮮半島と中国・台湾由来ごみで似ているが,日本由来ごみとは違いがあった。それは,春から初夏には調査海岸の近くの河川の増水による日本ごみが多いことに原因していた。秋から初冬では韓国とほぼ等距離に位置する九州などの遠方からの日本ごみが多くなるが,それでも気象と海象に対する応答性は外国由来ごみと異なっていた。それは低比重ごみが日本ごみに多く,外国ごみには高比重物が多いことに原因していた。漂着を促す主要な要素は岸向きの風と波で,低比重ごみの漂着数は風との相関が高く,高比重ごみの漂着数は波高との相関が高かった。この理由は風が浮遊ごみの水面上部に働き,波は水面下部に作用することで説明できる。この風と波による漂着促進作用の相対的な強さは北風と最大波高を説明変数とした重回帰分析によって求めることができた。この解析法は調査地近海における各国由来の浮遊ごみの密度を漂着数から推測するために有効である。
短報
  • -飯田市における地域間での比較研究-
    並木 光行, 白井 信雄, 樋口 一清
    2014 年 27 巻 4 号 p. 207-217
    発行日: 2014/07/31
    公開日: 2015/08/08
    ジャーナル フリー
    長野県飯田市は,環境モデル都市に選定される等,環境先進地として知られている。本稿では,同市で実施したアンケート調査をもとに,住民の環境情報の入手度と社会関係資本への接続度,環境配慮行動の実施度の相互関係が,飯田市の市街と山間地とでどのように異なるかを分析した。
    住民の環境配慮行動の実施度に係る規定構造モデルを設定すると,市街では,結合型及び橋渡し型の両社会関係資本への接続度が,環境情報の入手度を経由した環境配慮行動の実施度への経路を規定したが,山間地では,橋渡し型社会関係資本への接続度のみが環境情報の入手度を経由した環境配慮行動の実施度への経路を規定していた。また,環境配慮行動の実施度への経路を直接に規定していたのは,市街での結合型社会関係資本への接続度のみであった。市街と山間地との地理的・社会的な違いを考慮すると,山間地の住民は,橋渡し型社会関係資本に接続し,環境情報の入手度を高めることで,環境配慮行動の実施度を高めていると考えられる。一方,市街では,橋渡し型社会関係資本への接続の他に,飯田市行政による取り組みのため,結合型社会関係資本への接続が環境配慮行動の形成に果たす役割が大きくなっていると考えられる。
  • 工藤 洋晃, 外山 佳裕, 河合 成直
    2014 年 27 巻 4 号 p. 218-223
    発行日: 2014/07/31
    公開日: 2015/08/08
    ジャーナル フリー
    有機質肥料を活用した栽培試験の設計のため,日本国内で流通している家禽由来の有機質資材(羽毛粉および鶏糞)を取り寄せ,湿式灰化の後にICP発光法により元素分析を行なった。分析の結果,供試した羽毛粉(輸入品)1 製品から,20,000ppm(w/w)以上の高いレベルのクロム汚染を発見した。有害元素に汚染された有機質資材が肥料用として国内で流通している事実は注目されるべきである。有機質肥料の公定規格において,羽毛粉(蒸製毛粉)について定められている保証成分は窒素含量のみであり,有害成分に関する規定はないため,当該製品の流通は現行法では差し支えないだろう。しかし,有害重金属に高度に汚染された資材の農業利用は,農作物や農地周辺の環境汚染にもつながるおそれがあり望ましくない。ゆえに,有害元素汚染を受けた資材の流通を未然に防ぐために,有機質肥料の公定規格は有害元素の含有許容量を考慮するよう見直されるべきである。
シンポジウム論文
  • -数理モデルの活用を中心に-
    玉造 晃弘
    2014 年 27 巻 4 号 p. 224-237
    発行日: 2014/07/31
    公開日: 2015/08/08
    ジャーナル フリー
    本稿は,化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)において,優先評価化学物質のリスク評価に用いられる数理モデルを解説したものである。ここでの数理モデルは, 環境中濃度や人や生物への暴露量を推計すること(暴露評価)に利用するものを指す。最初に化審法におけるリスク評価スキームの全体像を概観し,段階的に詳細な評価が実施される仕組みであること等を述べた。次に数理モデルを用いて環境中濃度等を推計するためには化学物質の環境中への排出量が必要となるが,化審法の届出情報を利用して排出量を推計する方法を解説した。続いて筆者の所属する組織が検討し構築してきた数理モデルを特に詳しく紹介し,この数理モデルの構築にあたっての考え方や設定されている仮定,実測値との比較による検証等について解説した。また,化審法のリスク評価で用いられる他の数理モデルについても利用する場面と共に紹介した。最後に,化審法のリスク評価において数理モデルを用いた評価を進めていくうえでの今後の課題を挙げた。
  • 長谷 恵美子
    2014 年 27 巻 4 号 p. 238-247
    発行日: 2014/07/31
    公開日: 2015/08/08
    ジャーナル フリー
    2020 年のSAICM達成期限まで残り6年となった。リスクベースの化学品管理が,行政規制上も,自主管理の中でも,ますます求められつつある。我が国における化学品管理においても,欧米のリスク評価の先進性と課題を参考にして,持続可能な化学品管理を進めていくことが急務である。欧米に追随するのではなく日本にとって適当な方法を創造し「アジアの中の日本」としてリスクベースの化学品管理を推進していくことが求められる。そこで本報では,欧米の化学物質審査規制法-欧州REACHおよび米国TSCA-におけるリスク評価の位置づけとモデルの活用事例を解説する。全ての化学物質について事業者がリスク評価の実施義務を負う欧州では,簡易な曝露評価ツールが開発・更新され広く用いられている。米国では物質の有害性と申請者から提出された曝露条件をもとにTier1から3まで段階的にかつ合理的に米国環局保護庁(EPA)がリスク評価を実施するが,TSCA法改正の動きに伴い,事業者による申請前リスク評価の実施を支援するモデル開発も進んでいる。欧州では現場の事業者による評価と管理が,米国ではEPAの専門家による詳細な評価と管理命令が行われており,ともに目的は行政規制上の化学品管理であるが,それぞれのとり得る手段や体制は異なる。両地域の現場で活用されているリスク評価と管理措置の改善のための曝露モデルについてその事例と課題を挙げ,日本においてリスクベースの化学品管理を進めていくためにモデルの開発と利用の促進を提案する。
  • 稲生 圭哉, 永井 孝志, 岩崎 亘典
    2014 年 27 巻 4 号 p. 248-260
    発行日: 2014/07/31
    公開日: 2015/08/08
    ジャーナル フリー
    農耕地等で使用される農薬成分の一部が水系などへ移行し,飲料水源の汚染や生態系へ悪影響を及ぼしているのではないかという懸念が強まっている。このような農薬による影響を評価するためには,「農薬の毒性」と「人や生態系を構成する生物が曝露する農薬濃度」の両者を把握する必要がある。本稿では,わが国の主要な農耕地である水田で使用する農薬を対象とし,筆者らが開発した水田一筆および河川流域における動態予測モデル(PADDYおよPADDY-Large)について報告する。農業の現場において農薬の適切なリスク管理を行うためには,現状の農薬使用に伴う生態リスクを定量的に評価し,各種の管理対策(農薬の使用回数を減らす,農地からの農薬流出防止の措置をとる,など)によるリスク低減効果を把握することにより,各地域の条件に適した効果的な管理対策を選択していくことが望ましい。しかし,現状ではこのような選択を可能とする評価手法は確立されていない。本稿では,河川生態系の様々な生物種に対する農薬の感受性を統計学的に解析し(種の感受性分布),農薬の生物多様性に対する影響を評価する手法について,筆者らの研究事例を報告する。最後に,リスク低減効果の高い管理対策の選択を支援するツールの構築に向けて,PADDY-Largeモデルと種の感受性分布を用いた影響評価手法とを組み合わせた,農薬の定量的生態リスク評価法開発の取り組み状況について述べる。
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