環境科学会誌
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28 巻, 1 号
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一般論文
  • 尾崎 宏和, 一瀬 寛, 福士 謙介, 渡邉 泉
    2015 年 28 巻 1 号 p. 3-15
    発行日: 2015/01/30
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
    足尾銅山による環境汚染を通史的に検討するため,渡良瀬遊水地に隣接する沼で底泥表層から深度25cm までのコア試料を2本採取して,重金属濃度の鉛直分布を検討した。汚染レベルは,試料の最深層のすぐ上部から増加し始め,中層部と表層付近でピークを示した。コア1では,とくに深度12~14cmと2cm以浅でMn,Cu,Zn,Ag,Cd,Sb,Pb,Biに増加傾向がみられた。このうち第13層ではCu濃度は最大値51.6mg/kgを示した。コア2では,Cu濃度は深度4~10cmと深度15~19cmで高く,後者ではMn,Zn,Ag,Pb濃度も上昇した。こうした変化を足尾銅山の銅生産履歴と比べると,江戸時代末期から明治初期の近代的操業の開始とともに汚染は明瞭となり,日露戦争後の急速な軍備拡張政策や第一次世界大戦後の好景気,戦後の高度経済成長期の増産でさらに進行したと考えられた。一方,第二次世界大戦末期から終戦直後は汚染の軽減が認められ,当時の生産低迷を反映していると推測された。コア1 最表層部では,とくにAgとSb,次いでCu,Zn,Pbの濃度が明瞭に増加した。高度成長期の増産を支えた外国産鉱石は,足尾産鉱石と比較してAgやSbはCuに対して高い濃度を有している。底泥内での元素の鉛直移動を考慮しても,輸入鉱石はとくにAg,次いでCu,Zn,Pb,Sbの表層分布に影響したと考えられた。以上から,本研究は汚染の履歴は当時の国内外の社会,政治,経済状況と強く関連することを明らかとした。
  • -個人費用便益認知と社会費用便益認知の比較を中心に-
    村上 一真
    2015 年 28 巻 1 号 p. 16-26
    発行日: 2015/01/30
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
    家庭の節電に係る社会費用便益認知と個人費用便益認知を考慮した節電意図・行動・効果プロセスを,市民への質問票調査結果を用いた共分散構造分析により明らかにするとともに,多母集団同時分析により地域(東京都,大阪府)と2010年夏季の節電経験(経験群,未経験群)の違いが,個人の節電意図・行動・効果プロセスに与える影響の差異を検証した。結果,社会費用便益認知と個人の経済性認知は節電行動を喚起させ節電効果に寄与すること,節電意図により個人の利便性認知は高まる(不便という意識は低減する)が節電行動には寄与しないこと,社会費用便益認知要因は経済性認知要因よりも節電行動を高めることを明らかにした。加えて,地域別・前年節電経験別の違いとして,経済性認知により節電行動を高めるのは東京のみであること,前年節電未経験群は相対的に社会費用便益認知を強く評価することで節電行動を高めることなどを明らかにした。
論説
  • -インタラクティブ・アプローチの検証とワークショップの実践-
    市橋 新, 馬場 健司
    2015 年 28 巻 1 号 p. 27-36
    発行日: 2015/01/30
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
    将来の気候変動による被害の最小化には,適応策が不可欠であり,行政においては適応策を早急に施策化していく必要がある。しかし,その過程には,気候変動予測の特性による関係者の議論の停滞,関係者の当事者意識醸成の困難,適応策施策化における具体的手順の欠如などの課題が存在する。これらの課題を克服する方法論として,行政において適応策推進に携わった経験を活かしてインタラクティブ・アプローチを具体的に提案した。
    インタラクティブ・アプローチは,国内で今まで提案されてきた気候変動予測を基本とした包括的なアプローチと既存施策の検証から入る個別のアプローチの併用により,適応策のよりスムーズな施策への導入を目指すものである。
    本アプローチについて,海外の先進的自治体の気候変動適応担当者にヒアリングを行い,妥当性を検証した。さらに本アプローチの一部を日本の自治体でケーススタディとして実施,国内での実効性の検証を行った。
    その結果,適応策を既に進めている多くの海外自治体担当者に賛同の意見を得ることができ,さらにケーススタディの結果,施策立案の方法としての可能性が示めされ,本アプローチの妥当性,実効性に一定の自信を持つことができた。
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