環境科学会誌
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28 巻, 2 号
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一般論文
  • 小林 憲弘, 久保田 領志, 佐々木 俊哉, 五十嵐 良明
    2015 年 28 巻 2 号 p. 117-125
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2016/04/23
    ジャーナル フリー
    パラコートは,水道水質検査の対象農薬に選定されているが標準検査法が設定されていない。また,同様に検査対象とされているイミノクタジンおよびジクワットは,現在の標準検査法では農薬類の検査で原則達成すべき定量下限値(目標値の1/100の濃度)が得られない。
    そこで本研究では,これら3農薬に共通する強塩基性に着目し,弱陽イオン交換基と逆相の二つの保持能を併せ持つミックスモード固相カラムを用いた新たな前処理法と,HILICモードの分離カラムを用いたLC/MS/MSによる一斉分析法を開発した。さらに,開発した分析法の妥当性を厚生労働省のガイドラインにしたがって評価した。
    標準液を用いた検討により最適化したLC/MS/MS分析条件では,3農薬全てについて,良好なピーク分離とピーク形状を得ることができた。また,検量線の直線性および再現性は良好であり,前処理において20倍以上濃縮すれば,目標値の1/100以下の濃度までLC/MS/MSによる分析が可能であることが示された。
    脱塩素処理した水道水に,0.5μg/L(各農薬の目標値の1/10以下の濃度)および0.05μg/L(各農薬の目標値の1/100以下の濃度)となるように混合標準液を添加した試料を用いて前処理方法の検討を行った。確立した最適条件では,各試験の回収率の平均値および相対標準偏差(RSD)がそれぞれ74~91%,RSDが3~7%の範囲にあり,いずれの添加濃度の試験結果も厚生労働省が定めた妥当性評価ガイドラインの真度および併行精度の目標を満たした。
    以上のことから,本研究で開発した分析法は,イミノクタジン,ジクワットおよびパラコートについて,いずれも目標値の1/100以下の濃度まで高い精度で分析可能であることが示された。
  • 伊達 貴彦, 栗栖 聖, 花木 啓祐
    2015 年 28 巻 2 号 p. 126-142
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2016/04/23
    ジャーナル フリー
    国内外で数々のスマートシティプロジェクトが進行している。しかし,経済的支援無しでは持続困難な事例が散見され,低炭素化を行う環境面と事業を黒字化する経済面の両立が大きな課題となっている。加えて,国内のスマートシティプロジェクトは単一用途地域を対象としたものが多く,用途地域特性に着目した取り組みは見られない。そこで本研究では,用途の異なる複合街区に対し,スマートグリッドを導入した場合の,環境面および経済面への影響を評価することを目的とした。住宅街区および商業街区を組み合わせたモデル街区を作成し,電力需要を予測すると共に,二酸化炭素削減効果およびコストについて評価した。その結果,住宅街区は太陽光発電導入に伴う二酸化炭素削減効果が大きい一方,スマートグリッドの投資費用を回収することは出来ず,一方で,商業街区は二酸化炭素削減効果は小さいが費用回収が可能であり,これら両街区を組み合わせ運用することで,環境面および経済面の両者で効果が得られることが確認された。尚,対象のモデル街区の雑居ビルは屋上利用が困難であること,また2020年以降の地域街区の一括受電を前提とした。
  • 久保田 領志, 小林 憲弘, 五十嵐 良明
    2015 年 28 巻 2 号 p. 143-152
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2016/04/23
    ジャーナル フリー
    含窒素消毒副生成物のハロアセトアミド類を対象に,固相抽出-液体クロマトグラフ-質量分析計(LC/MS)による分析法の検討を行った。LC/MS条件については,移動相は5mmol/L酢酸アンモニウム水溶液:5mmol/L酢酸アンモニウムメタノール溶液(95:5,v/v)とし,アイソクラティック法で流速0.25mL/minで送液することで,ハロアセトアミド類を高感度,かつ,水道水中の夾雑成分による分析時の影響を軽減できることがわかった。固相抽出は,3種のC18固相カラム及び1種の活性炭固相カラムで検討した結果,C18では一旦保持されるが保持は弱く,固相カラムの溶出時まで保持されなかったが,活性炭では固相カラムへの保持や,固相カラムからの溶出ともに良好であった。確立した分析法について,精製水及び水道水を用いた添加回収試験を実施し,厚生労働省健康局水道課発出の妥当性評価ガイドラインに従い,分析法の妥当性を評価した。その結果,真度及び併行精度について目標を満たし,分析精度が良好であることが示された。本分析法を用いて国内の複数の浄水場の浄水及び給水栓水を冬季(2月)に採水して存在実態調査を行った結果,全て定量下限値未満であった。
  • 杉本 賢二, 黒岩 史, 奥岡 桂次郎, 谷川 寛樹
    2015 年 28 巻 2 号 p. 153-161
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2016/04/23
    ジャーナル フリー
    大量の物質フローに特徴付けられた社会経済と自然環境との関わりを分析する上では,物質投入量の大半を占める土石系資源の動態を把握することが重要である。しかし,統計データにおける物質投入量には「隠れたフロー」が付随しているが,物質フローの算定サイクルから外れているために定量的把握が十分に行われていない。さらに,地形の人為的撹拌は大規模な範囲で加速的に引き起こされることが多く,土石資源の損失だけでなく景観や環境保全,地盤災害などの観点からもその動態を把握することが重要である。そこで,本研究では,土砂の移動に伴って標高が変化することに着目し,標高データの経年変化から地理的条件や隠れたフローを考慮した,人為的な土砂移動量を推計することを目的とする。そのために,土砂採取に関する情報が公表されている大阪府泉南郡岬町の多奈川地区を対象としてケーススタディとした。地表面の状態を表すラスタサーフェスを,地形図と空中写真,および人工衛星による採取前後の標高データを用いて作成し,その体積差分により土砂移動量の推計を行った。その結果,標高の変化に基づく土砂移動量は4,595~4,950万m3となり,地山土量からほぐした採掘土量への土量変換係数を考慮すると7,581~8,168万m3と推計された。これは土砂採取量として公表されている値と比較して8~17%の過大推計となったが,その誤差要因として,標高データの高さ精度に起因するものと,複数の地層による岩石種類のほぐし土量変化率などによる影響が考えられる。また,人工衛星によるDEMを用いた場合に,高さ精度に起因する誤差範囲が大きいものの,航空レーザ測量を用いた場合と推計値に大差がないことから,データが整備されていない地域における土砂移動量の把握に有用であることが示唆される。
  • 楠 賢司, 坂田 昌弘
    2015 年 28 巻 2 号 p. 162-175
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2016/04/23
    ジャーナル フリー
    本研究では,日本海に面する中海(島根県・鳥取県)における過去約100年間の重金属汚染の変遷とその要因を明らかにするため,湖心で採取された柱状堆積物中の重金属濃度(Cd,Co,Cr,Cu,Mo,Ni,Pb,Sb,V,Znの計10元素)とPb同位体比(207Pb/206Pb,208Pb/206Pb)を測定した。堆積物の年代は,湖心においてPb-210法で測定された既存の堆積速度の値を利用して推定された。重金属濃度の鉛直分布から,Cu,Pb,Zn汚染は1890-1900年代,Co,Cr,Mo,Ni,V汚染は1950年代からそれぞれ始まり,それらの汚染には中海周辺における人間活動(鉱業や金属工業)が関与していることがわかった。次にPb濃度とPb同位体比を基に2成分エンドメンバーモデルを適用して,1900年代以降に人為的に付加されたPbの同位体比(207Pb/206Pb,208Pb/206Pb)を推定することにより,Pbの主要発生源を評価した。その結果,1900-1930年代は日本産鉛鉱石(宝満山鉱山)を起源とする鉱山排水,1940-1980年代は外国産鉛鉱石(鉛製錬)と有鉛ガソリン(自動車)を起源とする大気エアロゾル,1990-2000年代はアジア大陸の人為発生源から輸送された大気エアロゾルがそれぞれ寄与している可能性が高い。さらに,2000年における堆積物中のPb濃度の増加分は全てアジア大陸起源と仮定し,1999-2001年に島根県松江市で得られた既存の降水データを用いてCd,Sb,Znの濃度増加に対するアジア大陸の寄与を評価した。その結果,Cd,SbはPbと同様にアジア大陸の寄与が大きく,Znは小さいことが示唆された。
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