環境科学会誌
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28 巻, 4 号
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一般論文
  • 三宅 祐一, 孫 琿玢, 雨谷 敬史
    2015 年 28 巻 4 号 p. 283-290
    発行日: 2015/07/31
    公開日: 2016/06/28
    ジャーナル フリー
    近年,ムク木材などの天然材料を多用した住宅内において,スギやヒノキから放散されるテルペン類のα-ピネン,β-ピネンが高濃度で検出されることが報告されている。本研究では,市販のパッシブサンプラーを用いて,静岡県の30家庭を対象に,主要なテルペン類であるα-ピネンとβ-ピネンの個人曝露濃度と室内外濃度の調査を行った。その結果,個人曝露濃度は,濃度範囲が<0.2 ~260μg/m3,平均値が18μg/m3,および中央値が2.3μg/m3 であった。α-ピネンの個人曝露濃度と室内外濃度には強い正の相関関係があり,特に滞在時間が長い居間のα-ピネン濃度との相関係数(r=0.998)が大きな値となった。また,今回得られたα-ピネンの個人曝露濃度から曝露マージンを算出したところ,一般的な不確実係数積100(種差10 ×個人差10)より十分に大きな値となっており,数少ない既存の有害性情報を基にした場合,ヒト健康への懸念は低いことが示唆された。
  • -2つの系統安定化策がもたらす効果の産業連関分析-
    中野 諭, 鷲津 明由
    2015 年 28 巻 4 号 p. 291-303
    発行日: 2015/07/31
    公開日: 2016/06/28
    ジャーナル フリー
    再生可能エネルギー電源の導入とその効率的利用を可能にするための工夫が,以前に増して必要とされるようになってきている。電力は絶えず消費との同時同量性が保たれるように生産が制御されなければならない。しかし,9つに細分化された日本の電力系統は,変動したり,小規模分散的であったりする再生可能エネルギー電源が大量導入された場合には,そうした制御に対応しきれないことが以前から予測されていた。その問題を解決するために,スマートグリッドを利用した新たな電力システムを構築することが電気工学分野の大きな研究課題となっている。
    本研究では,再生可能エネルギーの大量導入に伴う電力マネジメントシステムの改変に関する2つの先行文献に基づいて,各選択肢がシステムの構築時および運転時にそれぞれどのような生産誘発,雇用誘発,エネルギー誘発,及びCO2誘発効果をもたらすのかを,拡張された産業連関分析の手法を用いて定量的に試算した。一つ目の資源エネルギー庁報告書(2010)は,太陽光発電の大量導入に対して,蓄電池の大量導入で対応するか,出力抑制で対応するかを検討していた。また二つ目の山本・坂東・杉山による電力中央研究所報告書(2013)は,太陽光の他に風力発電も大量導入することに対して,火力発電の非効率運転と出力抑制で対応することを考察していた。産業連関分析に基づく考察結果によれば,再生可能エネルギーのバラエティを増やすと同時に,同時同量性の制約に対して蓄電池という単一の方法で対応するよりもシステム全体で対応するという後者の考え方に,優位性があると判断された。またどちらの文献に基づく試算においても,電力システムの同時同量性の制約を緩和するようにスマートグリッドを構築することの有用性が確認された。
2014年シンポジウム
  • -福井県小浜市における地下水資源の利活用をめぐる潜在的論点の抽出からの示唆-
    馬場 健司, 松浦 正浩, 谷口 真人
    2015 年 28 巻 4 号 p. 304-315
    発行日: 2015/07/31
    公開日: 2016/06/28
    ジャーナル フリー
    本研究では,主要水源として地下水に依存している福井県小浜市における持続可能な地下水の利活用について検討するため,ステークホルダー(SH)分析を用いて,地下水に対してどのような人々がどのような関心や期待,あるいは懸念を抱いているのかについて分析し,潜在的論点を抽出した。そしてその分析を通して,科学と社会の共創に向けたSH分析の可能性と課題について検討した。2013年5~8月に計38件(48名)へ実施した聴き取り調査により,各SHの利害関心を整理し,得られた主な結果は次のとおりである。第1に,地下水に係る前提知識や使用水量などの客観的な情報・知識について各SH間でギャップがある。これから小浜市によって実施される科学的調査による客観的情報が適切に共有されれば,このギャップを埋められる可能性が高まる。第2に,地区間の関心度や地下水に見出している価値に違いが見られるなど,SHの関心は非常に多様であり,画一的に取り扱うことのできない様々な事情が存在する。地下水管理の検討にはこれらに配慮した適切な課題設定が必要となる。第3に,行政とSHとの間や,SH間で連携が不足している状況がいくつか見受けられるため,良好な協働関係の構築により,地下水管理を可能とする体制を整備する必要がある。
    以上の事例研究の結果を踏まえて,また2014年3月に成立した水循環基本法施行下における順応的ガバナンスを見据えて,SH分析がいかなる役割を果たし得るかについては,十分である面とそうではない面の両方がある。前者については,必ずしも十分に認識されていなかった課題を発見し,それらのフレーミングギャップを埋める必要性を指摘し得るものの,後者については,例えば資源間のトレードオフというフレーミングをいかにSHに与えるか,という点では必ずしも十分ではない。専門家が科学的エビデンスをもって警鐘を鳴らす(新しいフレーミングへの気づきを与える)ことがSH分析の過程で必要になる可能性がある。
  • -大分県別府市の事例-
    馬場 健司, 高津 宏明, 鬼頭 未沙子, 河合 裕子, 則武 透子, 増原 直樹, 木村 道徳, 田中 充
    2015 年 28 巻 4 号 p. 316-329
    発行日: 2015/07/31
    公開日: 2016/06/28
    ジャーナル フリー
    本研究では,大分県別府市において小規模地熱発電を題材として,地熱資源の発電と温泉利用の共生について検討するため,ステークホルダー(SH)分析手法を用い,当該問題のSHを抽出したうえで,その利害関心を分析し,どのようなコンフリクトが起こり得るのか,それを未然に回避するにはどのような方策があり得るのかについて明らかにした。2014年7~8月に合計36団体(53名)から聴き取り調査を実施して得られた主な結論は以下のとおりである。第1に,SHのほとんどが小規模地熱発電へ非常に高い関心を示すものの,必ずしも十分な知識に裏付けられていない,或いは科学的知見にも不確実性が多く含まれるという意味において,「脆弱な関心」といえる。第2に,地熱資源を観光・経営資源として利用することが多くのSHから支持されている。その上で,単に経済的価値だけでなく非経済価値も認め,地域コミュニティ全体での共有資源であるとの認識を持つSHも少なくない。第3に,小規模地熱発電を巡っては一定の見解の相違はみられるものの,顕著なコンフリクトはみられない。小規模地熱発電は新規掘削を伴わないなど,環境への影響が少ないとされるが,冷却に地下水が用いられることや,発電に十分なエネルギーを得るために多量の温泉水を必要とすることも指摘されている。地熱資源の枯渇には大きな懸念が存在しており,何らかの影響が出た時には反対の立場を表明すると考えられるSHもみられ,将来的にコンフリクトが顕在化する可能性はある。したがって第4に,多くのSHに通底する温泉資源の枯渇やコミュニティの崩壊といったリスク認知の共有により,専門知と現場知の統合,現場知同士の統合を図る必要がある。例えば多くのSHが新規掘削の際に懸念を持っている温泉資源のモニタリングを行い,科学的知見の事実を共同で確認していく方法が考えられる。加えて,SHが認識していない「気候変動期における地球科学的にみて重要な自然としての地熱資源」などといったブランディング価値を共同で確認するリフレーミングも重要となる。
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