環境科学会誌
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28 巻, 6 号
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一般論文
  • 矢野 ひとみ, 中井 智司, 奥田 哲士, 西嶋 渉
    2015 年 28 巻 6 号 p. 405-414
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/09/17
    ジャーナル フリー
    脱炭スラグなどの製鋼スラグは,近年,干潟や藻場の新たな造成材として着目されているが,製鋼スラグはアルカリの溶出に伴うpH上昇や固化を引き起こすことがある。また,底生生物生態系の発達に重要なシルト分や有機物も不足している。そこで本研究では,CO2ガスを用いて脱炭スラグを炭酸化処理すると共に浚渫土を加えることで,そのアルカリ溶出や土壌硬度の上昇の緩和を試みた。さらに,潮間帯を模した干潟シミュレータに炭酸化処理した脱炭スラグと浚渫土との混合材を用いて人工干潟を造成し,形成されるマクロベントス相を評価した。CO2を用いた炭酸化処理と浚渫土の添加により,pHの上昇と固化は軽減された。このスラグ混合材を用いて造成した人工干潟の深さ1cmの間隙水のpHは約9.5,土壌硬度は7 ~15 mm前後であった。また,スラグ混合材を用いて造成した人工干潟にマクロベントスを植種した結果,総個体数は維持された。これより,このスラグ混合材はマクロベントスの生息基盤として機能しうることが示された。
研究資料
  • ~誘導体化-LC/MS/MS法および誘導体化-固相抽出-LC/MS/MS法~
    木下 輝昭, 菱木 麻佑, 小杉 有希, 鈴木 俊也, 保坂 三継, 中江 大
    2015 年 28 巻 6 号 p. 415-425
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/09/17
    ジャーナル フリー
    アミノ酸系除草剤であるグルホシネートは,平成25年3月に水道水の管理目標設定項目の対象農薬リストに追加されたものの標準検査法が設定されていない。そこで,本研究ではグルホシネート(目標値:0.02mg/L)と同系統の除草剤であるグリホサートおよびその代謝物であるAMPA(目標値:合計して2mg/L)について,クロロギ酸9-フルオレニルメチル(FMOC)による誘導体化-LC/MS/MSによる一斉分析法およびFMOCで誘導体化後,逆相系固相カラムで抽出し,LC/MS/MSによる一斉分析法の検討を行った。
    グルホシネート(濃度:0.2~10μg/L),グリホサートおよびAMPA(各濃度:1~50μg/L)の検量線は,決定係数(r2)が0.9999~1.0000と高い値を示し,直線性は良好であった。また,装置の定量下限値は,それぞれ0.2μg/L,1μg/Lおよび1μg/Lで,対象農薬の目標値の1/100以下の測定が可能であった。誘導体化-LC/MS/MS法について,アスコルビン酸ナトリムで脱塩素処理した水道水を用いて対象農薬の目標値の1/100および1/10の添加濃度における添加回収試験を行ったところ,回収率および変動係数は目標値の1/100で94~116%および1.2~10.9%,目標値の1/10で92~106%および1.5~5.6%であった。
    誘導体化-固相抽出-LC/MS/MS法における固相抽出の最適な条件として,負荷量は20mL,溶出液はアセトニトリル-5mM酢酸アンモニウム水溶液(40:60,v/v)1.5mLであった。誘導体化-LC/MS/MS法と同様の添加回収試験を行ったところ,回収率および変動係数は,目標値の1/100で99~116%および3.6~4.0%,目標値の1/10で111~118%および0.9~3.0%であった。
    今回検討した2つの方法は,目標値の1/100および1/10において水道水質妥当性評価ガイドラインの評価目標を満たしており,水道水の検査に十分適用が可能であった。
2014シンポジウム論文
  • 小熊 宏之, 井手 玲子
    2015 年 28 巻 6 号 p. 426-431
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/09/17
    ジャーナル フリー
    サトウキビ耕作地からの赤土流出プロセスの解明や流出対策を検討する上で,筆単位での刈取り日を正確に把握することが求められている。筆単位を観測できる高解像度の人工衛星観測では撮影頻度に限界があり,日々の耕作状況のモニタリングには適さないことから,自動撮影デジタルカメラによる観測を行い,刈取り日を自動的に推定する手法を開発した。1日3回の頻度でサトウキビ耕作地を撮影した画像から赤緑青(RGB)のデジタルカウントを抽出し,統計的に解析することにより,悪天候時に取得された画像を自動的に除去し,撮影範囲内のサトウキビの収穫日を面的に把握することを可能とした。このようなデジタルカメラによる高空間・時間分解能画像の観測は安価かつ多点展開が可能であり,自然生態系の変動把握や農地モニタリングなど様々な分野への応用が期待できる。
  • 岡川 梓, 堀江 哲也, 須賀 伸介, 日引 聡
    2015 年 28 巻 6 号 p. 432-437
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/09/17
    ジャーナル フリー
    沖縄において,赤土等流出問題により,河川や海中の生物多様性に大きな影響が出ていることが知られている。赤土等流出の流出源の1つが農地であり,農家の作物選択や,基幹作物であるサトウキビの作型(春植え・夏植え・株出し)により赤土等流出量が変化すると考えられており,サトウキビが赤土流出問題の大きな要因となっていると考えられている。
    本研究では,2014年6月に久米島内の花卉農家・サトウキビ農家を対象として実施したアンケート調査の結果から,作物・サトウキビ作型選択や赤土流出対策を実施する農家のインセンティブに与える要因を明らかにし,農業経営に適した赤土等流出対策のあり方を検討する。調査の結果から,高齢農家ほど,赤土流出対策を実施していない傾向があることがわかった。また,費用や労働力不足が対策実施の阻害要因となっているという意見が聞かれた。さらに,サトウキビ作型については,高齢農家ほど夏植えを選択する傾向があること,栽培作物ごとの農家の特徴としては,サトウキビ農家は花卉農家に対して高齢化が進んでいること等が明らかとなった。また,株出しの連続実施年数は土壌の質に影響されていることが地域ごとのヒアリングから明らかとなった。
  • -夏植え栽培農地への緑肥導入による赤土流出抑制効果について-
    林 誠二, 山野 博哉
    2015 年 28 巻 6 号 p. 438-447
    発行日: 2015/10/30
    公開日: 2016/09/17
    ジャーナル フリー
    亜熱帯諸島における赤土等の流出量は,1995年の赤土等流出防止条例の施行以降,工事現場等では対策の実施により顕著な削減が図られている。一方で,農地では積極的な営農対策が行われていない場合も多く,必ずしも減少傾向にない。沖縄諸島の一つである久米島は正にその状況下にあり,降雨時のサトウキビを主とする農地からの大量の赤土等の流出は,サンゴ礁に留まらず,河川や沿岸域の水棲生物の生息環境を著しく悪化させている。本研究では,久米島の赤土等流出実態の把握と土砂流出モデルによる流出特性の再現化,さらに営農対策による流出削減効果の算定を目的として,サトウキビを主とする農地小流域(0.28km2)を対象に,赤土等流出連続観測,土砂流出モデルの適用,さらには流出削減シナリオの検討を行った。
    2010年度と2011年度を対象とした観測から算定された一雨降雨毎の赤土等流出量は,降雨係数の増加に対して大きくばらつき,先行降雨やサトウキビの作型分布等の影響が示唆された。土砂流出モデルによる日平均赤土等流出フラックス計算値の再現性は,サトウキビ作型分布を反映させることで著しく向上した。作型別の赤土等流出量算定結果は,2010年度と2011年度のいずれも,流域面積に占める割合が5%未満にもかかわらず,夏植え1年目農地からの流出量が最も多く,全流出量に対して2010年度で69%,2011年度で43%を占めた。これを踏まえ,赤土等流出削減シナリオとして,夏植え1年目農地植付けまでの緑肥の適用効果を検討した結果,赤土等流出がより顕著であった2010年度に関して,緑肥適用期間において流域全体の流出量が45%削減されることが確認された。また,費用対効果分析の結果,赤土等流出量1トン削減に要する費用は1,238円と見積もられた。一方,緑肥適用に係る費用は,平年値ベースでサトウキビ収益の13%に相当することが分かった。
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