環境科学会誌
Online ISSN : 1884-5029
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29 巻, 5 号
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一般論文
  • 高梨 啓和, 浜 知広, 中島 常憲, 大木 章, 上田 岳彦, 松下 拓, 近藤 貴志, 亀屋 隆志
    2016 年 29 巻 5 号 p. 229-237
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/01/17
    ジャーナル フリー

    農薬は,施用された後に水環境中で様々な環境変化体(Pesticide Transformation Products in Water environments: PTPWs)に変化し,浄水場における塩素消毒工程において農薬とともに塩素処理され,さらなる変化体を生成する可能性がある。著者らは,すでに,一部の農薬やそのPTPWsの塩素処理実験を行い,変異原性物質生成能(Mutagen Formation Potential: MFP)を測定して報告した。本研究では,すでに報告した物質に加えて,新たに21種類の農薬および27種類のPTPWsの変異原性強度,21種類の農薬および35種類のPTPWsのMFP値を測定し,すでに報告した結果とあわせて再度解析することより,農薬およびPTPWsの変異原性強度が塩素処理によってどのように変化するかを検討した。その結果,多くの農薬やPTPWsの変異原性は陰性であり,問題がないことが確認された。一方,塩素処理前に陰性であった農薬の57%,PTPWsの56%が塩素処理により変異原性が陰性から陽性に転じた。このことから,浄水処理における塩素処理の前に,活性炭吸着処理などで農薬・PTPWsを除去することの重要性が示された。また,農薬からPTPWsへの変化がMFPの削減に繋がるか否かを検討した結果,試験した物質の70%の農薬は,PTPWsに変化することによりMFPが削減されたが,11%の物質のMFP値は10倍以上に上昇した。農薬やPTPWsの部分構造とMFP値の関係を検討した結果,アニリン構造を有する農薬・PTPWsは,塩素処理により変異原性物質を生成しやすいことが示唆された。

  • -公設農業試験研究機関の状況と課題-
    白井 信雄, 田中 充
    2016 年 29 巻 5 号 p. 238-249
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/01/17
    ジャーナル フリー

    農業分野の公設試験研究機関に対するインタビュー調査により,気候変動適応に関する研究の推進メカニズムを明らかにした。促進要因と阻害要因の分析の結果,参照要因(垂直,水平)と属性要因(イノベーション属性と採用者属性)をあてはめて整理することができた。

    気候変動適応研究の推進における特徴的な課題として,(1)公設農業試験研究機関の適応研究では地域間の連携が研究の促進要因となっているが,地域間の連携を阻む側面もあり,その解消が課題となっている,(2)公設農業試験研究機関では現場で既に発生している課題解決のための研究開発が中心となり,長期的な気候変動適応に関する地域の研究課題の方向性が十分に検討されていない,(3)農業経営における気候変動への感受性の改善に踏み込んだ適応研究開発が期待されるが,社会経済面に踏み込む必要性が十分に認知されていない,等が明らかになった。

    上記の課題を解決するため,国においては,地域単独予算の研究の地域間のコーディネイトや,各地域の適応研究の成果を発表・共有する場を設けるような支援の方法もさらに検討の余地がある。また,公設農業試験研究機関における長期的な視点での適応研究や社会経済面に踏み込んだ研究を正当化する仕組みや工夫が必要である。

  • 高 安荣, 中野 牧子
    2016 年 29 巻 5 号 p. 250-261
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/01/17
    ジャーナル フリー

    環境負荷低減につながるイノベーションが環境マネジメントシステムの導入によって促進されることを示す研究が多数存在する。しかし,中小企業は大企業と比べ,環境マネジメントシステムの導入が困難であることが多い。中小企業が環境イノベーションを促進するにはどうすればよいのか。こうした背景を踏まえ,本研究では中小企業を対象に,自ら排出する汚染物質の把握(環境負荷の把握)という側面に焦点をあて,環境負荷の把握が環境イノベーションに影響を与えるかどうかを調べる。さらに,環境マネジメントシステムを導入していない場合における環境負荷把握の効果を調べるために,環境マネジメントシステムを導入している中小企業を除いたサンプルを用いた分析もあわせて実施する。分析に必要なデータは愛知県内の製造業に属する中小企業を対象に筆者が実施したアンケート調査を用いた。分析の結果,環境負荷を把握している中小企業は,そうでない中小企業と比べて環境負荷の小さい製品及び生産方法の開発を行っていることが明らかとなった。これは環境マネジメントシステムを導入している中小企業を除いた分析においても同様であった。本研究は,たとえISO14001をはじめとした環境マネジメントシステムを導入していない場合であっても,少なくとも自らの環境負荷を把握し「見える化」を行うことが,環境イノベーションにつながる可能性を示唆するものである。

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