環境科学会誌
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29 巻, 6 号
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一般論文
  • -富士山体における観測-
    木下 弾, 永淵 修, 中澤 暦, 横田 久里子
    2016 年 29 巻 6 号 p. 275-282
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

    大気中水銀(Hg)の長距離越境輸送の実態を明らかにするため,その現象が最も現れやすい自由対流圏においてtotal gaseous mercury(TGM) の観測を行った。観測は富士山体を利用し,山頂(3776 m)から5合目(2230 m)の間に6か所の観測点を設け,2009年8月から9月に5回(#1,#2,#3,#4,#5)行った。TGMの測定はパッシブサンプラーを主体にアクティブサンプラーを補完的に併用して行った。観測期間中のTGM濃度の範囲は,1.00~5.00 ng/m3に分布した。5回の観測の内,TGM濃度が鉛直方向に変化がないイベントが3回(#1,#4,#5),一方,高標高でTGM濃度が高くなる鉛直分布を示すイベントが2回(#2,#3)であった。前者のTGM濃度は全標高で北半球のバックグラウンド値(1.50 ~1.70 ng/m3)程度であった。一方,後者では,高標高において2.00~5.00 ng/m3の範囲に分布し,低標高において1.00 ~1.50ng/m3に分布した。TGMの鉛直分布と気塊の輸送経路の関係を検討した結果,前者の場合は各標高での輸送経路はほぼ同じであり,後者の場合は,各標高での輸送経路が異なっていた。TGMの鉛直分布を示す典型的な例として#3(8月28日~8月30日)の後方流跡線解析の結果は,東アジアから気塊の進入する割合(C. Ratio)が標高の高い方から低い方へ減少し,それに関連するようにTGM濃度も減少した。この時の輸送経路から,富士山体の高標高に到達する気塊は,中国を通過中には人為活動の影響が大きい低標高を通過し,汚染大気の流入寄与が大きいことが明らかになった。

  • 牧 誠也, 中谷 隼, 栗栖 聖, 花木 啓祐
    2016 年 29 巻 6 号 p. 283-295
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

    水利用システムには多面的な評価軸が存在し,それらの間にトレードオフが生じる場合,多様な価値観を持つ利害関係者それぞれの選好に対応する代替案は異なると考えられる。本研究では,多目的最適化による解に基づいた,多様な利害関係者間の合意形成支援法の提案を目的とした。

    まず,多目的最適解にパレート改善を適用し,71個の代替案を導出した。さらに,得られた解の特性を把握するため,目的関数間及び目的関数と設計変数間の相関分析を行った。その結果,再生水余剰量を多くする解や上水代替に再生水を多く使用して対象地域への影響を小さくする解,流域外への環境影響を小さくする解など,様々な特徴を持つ代替案が含まれていることが確認された。

    次に,多目的最適化によって得られた解を合意形成に使用するために2段階の合意形成を提案し,各段階の合意形成において提示する代替案のプロファイルを作成した。第1段階の合意形成では,目的関数上の特徴から利害関係者にとって好ましい代替案のグループを選択する。そのために,多目的最適解にクラスター分析を適用して,特徴の異なる8つのグループに分類し,レーダーチャートによって各クラスターの特徴を提示した。第2段階では,第1段階で選択されたクラスターに含まれる各解について設計変数を確認し,一つの好ましい代替案を選んでもらう。そのために,施設数や再生水の用途のグラフ,施設立地や給水範囲等の地図を提示した。

    本研究の方法では,代替案作成者の恣意性を排除して網羅的に生成されたパレート解をもとに,各段階で比較するクラスターや代替案を比較的少数に限定できる。そのため,多様な価値観に対応しつつ合意形成を支援できる方法であると考えられる。

  • 菅沼 祐一
    2016 年 29 巻 6 号 p. 296-304
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

    電力広域的運営推進機関および電力会社各社では,電力消費の実績をホームページに公表してきている。省エネや節電に向けて,これら公表データを用いた各種分析やそこより得られる知見の蓄積が期待されている。本研究では,東日本地域を対象とし,この公表データを用いて,ピーク時の電力消費である1時間単位でみた1日の中での最大値(日最大電力)の減少率(節電率)を2011(平成23)年以降について年別に算出した。電力需要は気温変動に大きく影響されるため,算出にあたっては気温変動による影響を考慮する手法を用いた。具体的には,比較対象とした2010(平成22)年の同月同週同曜日との日平均気温の差分を横軸とし,比較日との日最大電力の差分の比率を縦軸とする散布図から一次回帰式を導出し,その回帰式のY切片を減少率とした。このY切片は,気温差がなかったとした場合の日最大電力の減少分となる。減少率の算出結果をみると,東北地方,関東地方ともに近年は横ばいもしくは微減の状況にあり,減少率は頭打ちの状況にある。直近の2015(平成27)年夏期について2010(平成22)年比でみると,東北地方,関東地方ともに減少率は11%減であった。震災直後の2011(平成23)年夏期における東北地方での18%減,関東地方での17%減と比べるといずれも減少となっている。これら減少率の動向を踏まえると,引き続きピーク時における電力需要の削減(節電)を進めていくには,新たな取り組みが必要とされる段階となっている。なお本研究で算出した減少率は,震災および経済活動による影響等も含んだ数値であり,需要家による節電対策や節電行動のみを対象とした数値ではない点に留意する必要がある。

研究資料
  • -持続可能な調達の基準設定ならびに持続可能性の概念の具体化に向けて-
    田崎 智宏, 亀山 康子, 大島 正子, 本木 啓生
    2016 年 29 巻 6 号 p. 305-314
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

    持続可能な発展(SD)に向けた取組の実践・進展が期待されるなか,持続可能な調達に係る基準設定の作業が民間ベースで進められ,近年ではISOでの国際標準化も進められている。しかしながら,持続可能性についての具体的な基準についてはISO基準ではまだ検討されておらず,どのような基準を設定すべきかの知見の集積が求められる。本報では,25の持続可能性に係る認証制度や取組・活動における基準を調査し,その整理を行った。その結果,持続可能性に関する基準は,環境面の持続可能性の確保に関する基準群,社会・経済面の発展ニーズの充足に関する基準群,制度面の確立に関する基準群の3つに大別することができた。環境面の基準群では,DalyのSDの三原則に合致する基準よりも,自然環境・生態系の保全に関する基準と効率的な資源利用あるいは環境負荷の低減に関する基準が数多く設定されていた。第二の社会・経済面の基準群では,基本的ニーズの充足に関する基準とより高度なニーズの充足に関する基準が設定されていたが,後者については関係者との協議や情報公開に関する基準が中心であった。第三の制度面の基準群では,コントローラビリティを高める基準として計画策定,取組状況のモニタリング・評価,担当部署の設置やシステム構築,全般的な管理能力・意識の向上に関した基準が設定されるとともに,予防・未然防止の視点を含む基準や法令遵守に関する基準が比較的多く設定されていた。これらは,持続可能な調達やSDに向けた取組においても考慮されるべきものであり,日本において看過されている基準についてはその導入検討が期待される。

2015 シンポジウム論文
  • -福井県小浜市とカリフォルニア州パハロバレーの地域間比較を中心に-
    増原 直樹, 馬場 健司
    2016 年 29 巻 6 号 p. 315-324
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,地下水問題をかかえる地域を対象として,これまで主流であった行政関係者や研究者の問題設定だけでなく住民意識も反映した問題設定に基づく解決手法を実現することを最終的な目的としている。本稿では,その手がかりとして,まず地域の行政関係者と他の住民の意識との間で差異があるか,あるとすれば,そうした差異が生じている要因から学べることは何かを検討する。

    具体的な研究方法としては,2014年10月から11月にかけて,福井県小浜市とアメリカ合衆国カリフォルニア州パハロバレーの2地域において,一部の設問を共通化したアンケート調査を実施し,回答結果を単純集計及び簡易なテキストマイニング手法を用いて分析した。

    両地域共通の設問に対する調査結果から,2地域の間では地下水問題に対する回答者の緊急度認知及び地下水資源関連活動への参加頻度について大きな差がある可能性が示唆された。地下水問題がそれほど顕在化していない小浜市においては,行政関係者の緊急度認知を向上させることが課題として示唆された。

    パハロバレーでは公務員とそれ以外の回答者との回答傾向に差異が観察されなかった。この要因として,パハロバレーにおける地下水問題に関する協議体制であるCommunity Water Dialogue(コミュニティ水対話,CWD)への参加回数が複数回の参加経験をもつ回答者が約8割に達していることが影響している可能性が考えられる。

    今後の主な研究課題としては,(1)サンプル数を大きくして,今回得られた分析結果を補強すること,(2)緊急度認知と地下水関連活動への参加頻度の関係について,因果関係やその関係の強さを明確に把握するための追加的な調査,(3)現時点では小浜のみの調査にとどまっている地下水問題の詳細な項目ごとの関心度についてパハロバレーでも調査すること,(4)CWDの経緯と活動内容についてさらに調査を進めることがあげられる。

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