環境科学会誌
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30 巻, 5 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
一般論文
  • 海老瀬 潜一, 川村 裕紀
    2017 年 30 巻 5 号 p. 282-295
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    水田施用農薬の流出調査は一筆水田や,水田群排水を受ける小規模流域農地河川で灌漑期間限定調査として行われることが多い。淀川のような大規模流域河川や湖沼・ダム湖では灌漑期間外も含む長期調査として実施されることはほとんどない。温暖化の進行で渇水や洪水の水文条件の頻発化が懸念される状況下で,近畿圏1,400万人の水道原水供給源の淀川において,精度の高い農薬流出負荷量を算定するため,2013年4月22日~11月21日の長期間に3日ごとの高頻度定時調査を行った。平年並み年降水量の2013年の淀川は,水稲移植後の長期渇水,6月下旬2連続豪雨出水,9月16日の1318台風による60年ぶりのスーパー出水,10月中下旬3連続出水と,長期低流量と大規模な連続出水の極めて稀な水文条件であった。ただ,3日ごとの高頻度調査でも,9月3~15日の2番目の出水規模の流量ピーク付近は捉えられなかった。7ヶ月間調査での農薬の調査期間全負荷量と流出率などを算定したほか,これら4つの水文条件期間の農薬の流出特性と,流出負荷量の調査期間全負荷量に対する位置づけを明らかにした。このように,農薬流出の高精度の年間負荷量や流出率の算定には,大規模流域河川の淀川でも3日ごと程度の高頻度調査で,大規模な出水の詳細調査や,収穫後の残留農薬の豪雨流出への調査延長など,柔軟に対応できる弾力的な調査体制の構築が必要なことを明らかにした。

  • 大谷 聡子, 領家 美奈, 山田 秀
    2017 年 30 巻 5 号 p. 296-306
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    環境報告書は企業にとって重要なステークホルダーとのコミュニケーション・ツールである。報告書作成ガイドラインは多数あるものの,開示の情報量・内容とともに各企業の自由裁量に任されており,企業の環境担当者にとって使いやすい指針とはなっていない。本研究では,日米欧自動車会社8社の英文環境報告書の温暖化対策関連部分に着目し,企業を取り巻く環境の変化をふまえた環境報告書のあり方について,テキストマイニングを用いて使用語の発現場所の経年変化を分析することで,一指針を提示する。本研究では,日米欧の自動車メーカー8社により2010年と2013年に発行された英文環境報告書を分析対象とする。全体としては,2010年には本業の戦略とCO2排出削減活動がないまぜに記載される傾向が見られたが,2013年では,より具体的なCO2排出削減活動に関する語が分離される傾向が見られた。また語の発現場所の変化が最も大きかったHondaに関し分析したところ,経営の積極的関与を示す場所であるVisionの章において,より具体的な環境取組に関する語を多く取り入れたこと,またCO2排出削減活動の章で,より具体的な製品群毎のCO2排出削減活動について十分な情報を示したことがわかった。背景として,Climate Disclosure Standard Board(CDSB)による財務・環境統合情報開示フレームワークの発表や,Google FinanceへのCarbon Disclosure Project(CDP)開示スコアの掲載の開始等,企業を取り巻くビジネス環境変化があったが,こうした変化をふまえることも,開示効果を高めるために必要であることが考察された。本研究を通し,環境報告書の中のどの場所に,どういった語を用いて社会が求める情報を開示するかを検討することが,開示効果を高めるために必要であるという一指針が導かれた。

  • 栗栖 聖, 齊藤 修, 荒巻 俊也, 花木 啓祐
    2017 年 30 巻 5 号 p. 307-324
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    東京都八丈島を対象に,島への訪問意図を規定する因子の構造をモデル化を通して検討した。特に自然および旅行への態度が,自然環境や地熱発電所といった島の各地域資源への訪問意図を通じて,どのように島への訪問意図に影響を与えているかを明らかにすることを研究目的とした。東京都民を対象にオンラインアンケートを実施し,29,616名のサンプルを得た。八丈島を訪問したいと思うかを尋ねた「八丈島訪問目標意図」では,全体として「やや思う」を少し超えた値となった。同意図は男性の方が女性より有意に高く,50代以上になると年齢とともに有意に意図が上がっていた。同意図へ影響を与える意図としては,自然環境探索意図と温泉訪問意図が高く,また島全般への訪問意図も大きく影響していた。自然への態度としては,「脅威をもたらす存在」「癒しを得る存在」「人により支配される存在」という自然観の3因子が抽出された。また,旅行への態度としては,「健康回復欲求」「文化見聞欲求」「自己拡大欲求」「意外性欲求」の4つの因子が抽出された。これらの因子得点は,性別および年代によって大きく異なっていた。これらの中で,八丈島への訪問意図へ影響を与えるものとしては,自然への態度の中では,「脅威をもたらす存在」および「癒しを得る存在」としての自然観がモデル内に組み込まれたが,その影響は大きくはなかった。一方,旅行に対する態度の中では,「健康回復欲求」と「文化見聞欲求」がモデルに組み込まれ,特に後者が訪問意図に与える影響が大きかった。

2016年シンポジウム
  • 木村 道徳, 増原 直樹, 馬場 健司
    2017 年 30 巻 5 号 p. 325-335
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    持続可能な地域資源の利用に向けては,ステークホルダーの対話を基盤とする合意形成が求められる。地域資源に関する新たな利用方法の導入および普及は,ステークホルダーの拡張とそれまでの関係性に変化をもたらすと考えられる。そこで本研究は,地熱資源の新たな利用方法として小規模地熱発電の導入を進めている大分県別府市を対象に,ステークホルダー間の潜在的な関係性を構造的に把握することを目的とする。本研究においては,小規模地熱発電ステークホルダーが関心を持つ論点を特定したマトリックスを用い,論点の共通認識に着目した2部ネットワークグラフを作成し,ステークホルダー間および論点間のネットワーク構造の分析を行った。結果,ほとんどのステークホルダー間で何らかの共通認識を持っており,全体としては密度の高い社会ネットワークを形成していた。ネットワークの構造同値性に着目したブロックモデルを作成した結果,小規模地熱発電の開発に携わる主体がネットワークの中心に位置し,導入検討を行う旅館経営者や泉源所有者,温泉資源にかかわる大分県や別府市の部署が周辺を取り巻く構造であることがわかった。1部論点ネットワークブロックモデルでは,「基本的な関心」や「地域住民の意識への配慮」,「地熱発電と温泉との因果関係」など,小規模地熱発電の概要や導入影響に関する基礎的な論点を中心に,「発電利用・経済的価値」や「関連知識獲得への関心」など,導入の具体的な検討に関する論点と,「観光地としての衰退」や「温泉文化の衰退」など,従来の温泉利用に関する論点が周辺を取り巻く構造であった。これらのネットワーク構造の分析結果より,別府市の小規模地熱発電導入においては,小規模地熱発電導入主体が従来の温泉資源ステークホルダーと関心を共有することで,顕著なコンフリクトの発生を回避していることが示唆された。

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