東京都の水瓶である多摩川流域では,気象・水文観測が長期間計測されていることもあり,気象学的手法あるいは水収支法により蒸発散量が推定されてきた。しかし,森林の生育状況や立地環境,気象条件を流域内で区分して蒸発散量を求めた例はない。一方で,水循環基本法(2015年制定)などの法整備により,将来にわたる水資源の定量化が求められている。そこで,本研究は東京都水道局が観測した多摩川水道水源林の99年間(1914~2012年)にわたる水文・気象資料と旧版地形図と衛星画像により作成した6時期の土地被覆図を用いて,土地被覆の履歴から多摩川源流域内の広域蒸発散量を推定した。その結果,土地被覆分類では1910年に88.2%であった森林面積が2009年には96.0%と1.1倍の微増を示した。一方で,荒地面積は10.9%から0.6%と18分の1に減少した。流域の年蒸発散量は年平均(1914~2012年)635 mmとなり,日本の森林の標準的な年蒸発散量600~900 mm(1986~1989年平均)の範囲内の値となった。また,1957年以降は年平均(1957~1989年平均)気温の上昇や年平均相対湿度の低下,森林面積の増加により年蒸発散量が増加する傾向がみられた。年降水量から年蒸発散量を差し引いた値を年流出量とし,実際の年流出量と比較するとほぼ同じ変動を示したが,全体的に実測値よりも低い値となった。これは,伐採面積や新植面積の影響を加味しなかったことが原因と考えられた。また,過去100年間にわたる月平均蒸発散量の年間変動の結果から,今後さらに常緑針葉樹の面積割合が増加した場合,蒸発散量の季節変動は小さくなりつつ,年蒸発散量は増加していくことが示唆された。
メチルシクロヘキサン(MCH)は,水素を燃料電池車(FCV)に供給するオンサイト型水素ステーションに水素を効率よく輸送し,貯蔵する水素キャリア候補の1つである。MCHを水素キャリアとして使用した場合,貯蔵・輸送が常温・常圧で可能であり,ガソリンで蓄積された社会インフラが利用できるメリットがある。一方で,ガソリンと同様にMCHとその脱水素後に生じるトルエン(TOL)が,地下タンクへの受入時に大気環境に排出され,水素ステーション周辺住民が吸入曝露することにより,健康影響を引き起こす可能性がある。
本稿では,1日60台のFCVに水素を供給する水素ステーションを想定し,MCHとTOLの年間大気排出量を推定し,大気拡散モデルにより周辺住民の両物質の吸入曝露を評価した。そして,MCHとTOLに同時に曝露されるため,周辺住民の慢性吸入曝露による健康リスクを,複数物質への曝露に対するハザード・インデックス(HI)と個別物質への曝露に対するハザード比(HQ)を併用して判定した。HIを算出するエンドポイントとして神経,血液および腎臓への影響を選択するとともに,両物質で生じる各影響のヒト無毒性濃度を設定した。また,既存情報が少ないMCHでは生理学的薬物動力学モデルを用いた経口経路から吸入経路への動物試験結果の経路間外挿も行った。算出された神経,血液および腎臓への影響に対するHI, さらにその他の影響に対するHQはいずれも0.1未満と小さく,水素ステーションから排出されるMCHとTOLによる周辺住民への慢性健康影響のリスクは懸念されないレベルであると判定された。
昨今の日本では多くの小売が店頭で使用済みのペットボトルなどを回収している。この店頭回収については,小売の負担,小売と行政の協力のあり方など,様々な課題が指摘されている。一方,スウェーデンでは,日本の店頭回収で見られるペットボトルの自動回収機と同様の機械で,デポジット制度を店頭で実施し,使用済みの飲料容器を回収している。そこで,本稿では,日本とスウェーデンいずれにおいても店頭回収が行われているペットボトルをもとに,日本において展開されている店頭回収の特性を,仕組みと経緯の観点で,スウェーデンの飲料容器へのデポジット制度との比較から明らかにし,今後の日本における店頭回収についての議論の視座を提起する。
日本のペットボトルの店頭回収における課題に対して,本稿では,次の方策の可能性を提起している。第一に,小売が担う店頭回収の運営の多くについて,回収手数料の支給や,消費者からのデポジットの徴収の義務付けなど,小売への支援のスキームを整備することの検討である。第二に,民間で行いうる回収は店頭回収などに任せ,店頭回収では持ち込みが困難な世帯やエリアなどについて,店頭回収への持込を行政が行うことの検討である。第三に,様々な立場の合意のもと,達成目標を設定し,店頭回収を社会全体で効率的に活用するというスタンスを関係者で共有することである。