環境科学会誌
Online ISSN : 1884-5029
Print ISSN : 0915-0048
ISSN-L : 0915-0048
31 巻, 6 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
一般論文
  • 菊澤 育代, 近藤 加代子
    2018 年 31 巻 6 号 p. 241-251
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2018/11/30
    ジャーナル フリー

    これまで,ごみ問題に関する環境配慮行動の研究は,主に3R(reduce, reuse, recycle)行動を促進する規定因の特定を目的に行われてきた。しかし,ごみ減量行動の成熟化が見られる地域においては特に,ごみの減量行動などに注力するだけではなく,再生資源などの賢い利活用とまちづくり全体との関係を明らかにすることが求められる。

    本研究は,循環のまちづくりを掲げ,ごみの減量に成果を上げてきた先進地である福岡県大木町における社会調査を基に,環境に対する価値観,ごみの減量行動と資源の利活用からなる資源循環行動,まちづくりの3変数が円環的に作用しあう環境行動モデルを検証する。既存研究において,環境に対する態度あるいは価値観が環境認知に規定され,環境行動が行動評価に規定されるという従来のモデルが存在するが,これに加え,資源循環行動(環境行動)から地域関与欲求,地域関与欲求から価値観(本稿においては,循環のまちづくり規範意識)への連鎖という一連の行動の円環構造を措定し,共分散構造分析を行った。

    結果,仮説モデルに措定した環境認知ならびに行動評価を含めた形での円環モデルは妥当性が認められず,価値観–資源循環行動–地域関与欲求の3変数による円環的な資源循環行動モデルが最適解として析出された。

    また,環境認知および行動評価が資源循環行動に与える影響も無視できるものではないと考え,別途,重回帰分析を行ったところ,対処有効性認知(自分の行動が目的に対して有効であると認知すること)が循環のまちづくりに対する規範意識に,実行可能性評価(分別排出を促す仕組みの整備など)が,ごみの減量行動に影響を与えることが認められた。

    ただし,モデル全体を見ると,そうした環境認知や行動評価以上に,価値観,資源循環行動,社会との交わり(地域関与欲求)の三つの変数群の円環的なモデルの妥当性が高く評価されたといえる。このことは,資源循環を軸にごみ減量行動に一定の成果を上げてきた地域において,資源循環行動にとどまらず,循環のまちづくりに対する価値観やまちづくり自体との関連性を高めていくことが,資源循環行動に高い効果をもたらす可能性が提示された。

  • 庄司 良, 岩田 孝樹, 鈴木 大輔
    2018 年 31 巻 6 号 p. 252-260
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2018/11/30
    ジャーナル フリー

    クロロフェノール類は水生生物に対して毒性を有することが報告されている。フミン酸は構造不定形の有機化合物で重金属イオンや有機物の吸着能を有し,環境汚染物質の濃度を低下させることが知られている。そこで本研究では,フミン酸へのクロロフェノール類の吸着に関する研究を行った。本研究で用いたクロロフェノール類はpKaが6から10の間に収まっている。したがって異なるpHで吸着実験を行うことでフミン酸に対するクロロフェノール類の吸着特性を調べることができる。フミン酸の構造のpH依存性を知るためにフミン酸の吸着サイトを測定した結果,フミン酸は低pHの場合と中性の場合においてカルボキシル基とフェノール基がプロトンを解離することが明らかとなった。フミン酸へのクロロフェノール類の吸着の研究では,2,4,6-TCP(トリクロロフェノール)はpHの上昇によって吸着量が大きく減少した。2,4-DCP(ジクロロフェノール)はpH 5, 6において吸着量の変化が見られず,pH 7において吸着量が減少した。p-CP(パラクロロフェノール)における吸着量のpH依存性は見られなかった。本研究で得られた結果から2,4,6-TCPがプロトン解離し,イオン化するとフミン酸にはほとんど吸着しないことが明らかとなった。また疎水性の尺度を示す分配係数logP値は大きい方が吸着平衡定数が上昇した。

  • 尾花 恭介, 前田 洋枝, 藤井 聡
    2018 年 31 巻 6 号 p. 261-271
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2018/11/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,公益に関する事業計画における人々の受容評価の意見表明過程について理解を深めることを目的とした。社会的影響の先行研究を参考としつつ,受容評価の形成後から意見を表明するまでの過程を整理した後,そのうち表向きの受容評価の要否や意見の形成の過程に影響を及ぼしている要因について検討した。同過程に影響を及ぼす要因として,実験1では計画の帰結に対する動機の強さ,及び計画の帰結に対する統制可能性の認知,実験2では意見表明に伴う他者から受ける自身に対する評価,及び生活への支障をそれぞれ取り上げ,質問紙実験により影響を確認した。実験1の結果,計画の帰結に対する動機が弱い場合にそうでない場合に比べて他者の意見に近づけた意見を表明することが示されたが,帰結の統制可能性の認知については影響が見られなかった。実験2の結果,自身の有する意見をそのまま表明すると他者からの評価が低くなると評価した場合や生活に支障が出ると評価した場合に,そうでない場合に比べて,他者の意見に近づけた受容評価を表明することが示された。これらの結果を踏まえ,人々が本音を表明しやすい環境を整備するために,どのような取り組みが必要となるのかについて考察した。

論説
  • 多田 満
    2018 年 31 巻 6 号 p. 272-279
    発行日: 2018/11/30
    公開日: 2018/11/30
    ジャーナル フリー

    環境科学研究は,科学者間の学際的研究による科学知だけでなく,ステークホルダー(関係主体)の一つである市民の具体的な経験によって得られた知識(科学的な知も含む),生活知をも統合する多様な形態の協働研究が望まれる。協働研究における「対話と協働」による関係主体間の交流の中で,とりわけ環境科学分野では,社会の中で研究に対する市民の理解と共感を得る必要がある。

    一方,科学の発展段階は,技術との相互作用(科学技術)による成長期からそれら関係主体間の「対話と協働」により「成熟期」に移行するものと考えられる。その発展段階における科学と「対話と協働」のつながりは,科学文明下の環境問題はじめ社会の課題解決に結びつけていくための新たな価値観や生き方の創造につながるものである。すなわち,さまざまな環境問題を現実に解決しうるのは,専門的な科学知に裏打ちされた具体的な科学技術であるが,個別問題の技術的解決はあくまで対症療法に過ぎず,そのような問題を生み出す原因となったわれわれ自身の価値観や生き方を「対話と協働」により変えていかなければならない。

feedback
Top